俺はサンチョには会えなかったが、代わりにクラークに仕事を命じた。
嫌な奴だが、加えてご老体だが、まだまだ働けると思う。
けど、全幅の信頼を寄せている訳ではない。
ちょっとだけ、持ち前の気質がねっ。
だから表の人間からも情報を得よう。
アルファ商会の保安警備全般を担っている連中を屋敷に呼んだ。
その系統は二つ。
一つは傭兵団『赤鬼』。
もう一つは冒険者クラン『ウォリアー』。
共に木曽領地にて常時雇用しているので、その主力は留守がち。
それでも、本部事務所が国都にあるので留守居を複数置いていた。
その者達にアルファ商会の保安警備全般を委ねていた。
留守居とはいうが、役に立たないという意味ではない。
多くは、古参と新人の二種。
留守中に、現場に出すには早い新人を古参が指導していた。
そこへ提案されたのが、今回のアルファ商会の保安警備。
渡りに船、彼等は飛びついた。
『赤鬼』からはカドラが来た。
見た目は、一見すると無害な中肉中背の中年女性。
だが、これで傭兵団の留守居を任されているのだ。
温い性格でない事だけは確か。
「伯爵様、今日も麗しいお服ですね」
「それは僕には似合わないという意味かな」
「とんでもございません。
とてもお似合いです。
私は大好きです」
俺の後ろには、服を選んだメイド長・ドリスの勝ち誇った笑顔があった。
反対に悔しそうなのは、服選びに負けたメイド・ジューン。
『ウォリアー』からはハンフリーが来た。
元々は会計士。
でも頑固な性格が災いし、職を失った。
そこを救ったのがクラン。
それからは裏方一筋。
性格も穏やかになったのか、何時も笑顔を絶やさない。
「ジューン殿、私に服を選んで貰えないだろうか」
ナンパも学んだようだ。
だが、世間は甘くない。
「そんな暇はありません」
ジューンの一言で玉砕した。
二人はテーブルの上に一件書類を置いた。
「双方で擦り合わせ済みです」
カドラが口にし、ハンフリーが同意した。
俺はそれを手にした。
アルファ商会に危機を齎す者達の名簿だ。
侯爵一人、伯爵一人、商会の商会長が二人、金貸しが一人。
ラファエル松永侯爵。
彼は、三好侯爵家の派閥に属し、評定衆にも連なっている人物。
派閥の重鎮にして、裏技が得意と評されていた。
実に厄介な相手だ。
ラファエルの狙いは一つだけ。
アルファ商会の生み出す利益。
その利益に預かろうと画策し、頻りに裏から手を伸ばして来た。
具体的な被害がなければ、無視するだけなのだが、遂に被害が出た。
事務員が拉致され、尋問されそうになった。
幸い、赤鬼・カドラ達の救出が間に合った。
ミゲル長井伯爵。
美作地方の寄親伯爵で、
悲運の死を遂げたハドリー長井伯爵の子孫でもある。
だからといって手加減は出来ない。
そのミゲルの狙いもラファエルと同じ。
アルファ商会の利益に預かろうとした。
こちらはシルビア達を付け狙った。
幸い、こちらも保安警備のお陰で未遂で済んだ。
ルベン・セサル商会長。
大手の商会・セサルの現会長だ。
本拠は難波、その難波の中小商会を買収して急拡大した。
先見の明があると評判で、庶民の受けが良い。
けれど、調べて裏が分かった。
低賃金と下請けからの搾取で、儲けているだけだった。
ルベンの狙いはアルファ商会の製品の奪取。
保管倉庫からの横流しを企んだ。
その為に倉庫作業員を買収した。
それを事前に保安警備が察知し、潰した。
ホセ・ラウル商会長。
こちらも大手、ラウル商会の会長だ。
それもバリバリの若手、五代目。
本拠は国都、老舗。
王宮の御用達、特に軍からの信用が厚かった。
納める軍需品が高品質なのだ。
そのホセの狙いが分かった。
金と暴力で、工房の職人を引き抜こうとした。
これも事前に潰した。
ペミョン・デサリ金融。
カジノと組む貸金業者、ペミョンがそこの商会長。
こちも本拠は国都。
その狙いは実に単純なもの。
アルファ商会の製品の模倣。
コピーした商品で大儲けを企んだ。
その為の工房を建て、職人を集めた。
しかし、如何せん、技術水準が伴っていなかった。
一目で見破られる物ばかりが出荷された。
売れる訳がない。
そこで狙いを変えた。
こちらの工房の職人を引き抜こうとした。
為に何度か保安警備と衝突して、潰された。
この五件は一時は潰されたにも関わらず、
今もって手を引こうとしない連中のリストだ。
それもこれも本体が大きい為に彼等は、
自分達にまでは手が届かないと侮っていた。
そんな彼等に制裁を加えるのは確定だが、注意事項が一つだけ。
アルファ商会絡みと思わせないこと。
アルファ商会の企業イメージは、「爽やか」その一点。
詰まらない噂で汚してはならない。
十日後の期限が来た。
クラークに会いに出かけた。
今回の悪党ファッションは、前回のとは色違い。
赤を基調とした。
そして仮面も。
お多福にした。
得も言われぬ可愛らしさ、だと思う。
【光学迷彩】【索敵】【転移】【転移】で目的地の上空に辿り着いた。
重力スキルで下の屋根にゆっくり着地。
そこで思いがけぬ光景を目の当たりにした。
クラークやサンチョが本拠にしてる建物が包囲されていた。
こっ、これは面白い。
何れの面々も武器を手に、暗がりに身を潜めていた。
建物から出て来るのを待ち構えている気配。
対して、建物から打って出る気配は皆無。
それはそうだろう。
これほどの人数ともなると、発生と同時に騒乱罪が適用されて、
奉行所から捕り手の群れが出動して来る。
だからクラークは、冷静に籠城を選択したとも言えた。
その奉行所の手先は・・・、探した。
いたいた。
少し後方で、のんびり見守っていた。
人数は一個分隊、十名。
暴力沙汰発生と同時に、数人が近隣の番屋に走り、出動を乞うのだろう。
もしかすると、本隊は既に待機済みか。
俺は透視スキルで建物内の防御態勢を点検した。
入り口は、裏も表も厳重な二重扉。
窓も、全て鉄板で補強されている
何れにしても、これらを破るにはかなり手間取る。
対して、防御側は人数をしっかり配し、予備の戦力もある。
一夜で落とすのは無理だ。
俺はクラークの部屋にお邪魔した。
俺は恥ずかしがり屋なので、当然、光学迷彩を施したままの転移だ。
室内では喧々諤々の議論が交わされていた。
サンチョとクラークが中心で、幹部クラスらしき連中が三名いた。
一番の若手が吼えた。
「舐められたらいかん。
打って出ようぜ、親分たち」
親分たち・・・。
サンチョとクラークが対等の親分たち、なのか。
そのサンチョが答えた。
「そうは言うがな、ここを戦場にすると奉行所の手入れを喰らう。
床下から天井裏まで調べられ、これまでの商売がばれる。
そこんところ、分かってるか」
嫌な奴だが、加えてご老体だが、まだまだ働けると思う。
けど、全幅の信頼を寄せている訳ではない。
ちょっとだけ、持ち前の気質がねっ。
だから表の人間からも情報を得よう。
アルファ商会の保安警備全般を担っている連中を屋敷に呼んだ。
その系統は二つ。
一つは傭兵団『赤鬼』。
もう一つは冒険者クラン『ウォリアー』。
共に木曽領地にて常時雇用しているので、その主力は留守がち。
それでも、本部事務所が国都にあるので留守居を複数置いていた。
その者達にアルファ商会の保安警備全般を委ねていた。
留守居とはいうが、役に立たないという意味ではない。
多くは、古参と新人の二種。
留守中に、現場に出すには早い新人を古参が指導していた。
そこへ提案されたのが、今回のアルファ商会の保安警備。
渡りに船、彼等は飛びついた。
『赤鬼』からはカドラが来た。
見た目は、一見すると無害な中肉中背の中年女性。
だが、これで傭兵団の留守居を任されているのだ。
温い性格でない事だけは確か。
「伯爵様、今日も麗しいお服ですね」
「それは僕には似合わないという意味かな」
「とんでもございません。
とてもお似合いです。
私は大好きです」
俺の後ろには、服を選んだメイド長・ドリスの勝ち誇った笑顔があった。
反対に悔しそうなのは、服選びに負けたメイド・ジューン。
『ウォリアー』からはハンフリーが来た。
元々は会計士。
でも頑固な性格が災いし、職を失った。
そこを救ったのがクラン。
それからは裏方一筋。
性格も穏やかになったのか、何時も笑顔を絶やさない。
「ジューン殿、私に服を選んで貰えないだろうか」
ナンパも学んだようだ。
だが、世間は甘くない。
「そんな暇はありません」
ジューンの一言で玉砕した。
二人はテーブルの上に一件書類を置いた。
「双方で擦り合わせ済みです」
カドラが口にし、ハンフリーが同意した。
俺はそれを手にした。
アルファ商会に危機を齎す者達の名簿だ。
侯爵一人、伯爵一人、商会の商会長が二人、金貸しが一人。
ラファエル松永侯爵。
彼は、三好侯爵家の派閥に属し、評定衆にも連なっている人物。
派閥の重鎮にして、裏技が得意と評されていた。
実に厄介な相手だ。
ラファエルの狙いは一つだけ。
アルファ商会の生み出す利益。
その利益に預かろうと画策し、頻りに裏から手を伸ばして来た。
具体的な被害がなければ、無視するだけなのだが、遂に被害が出た。
事務員が拉致され、尋問されそうになった。
幸い、赤鬼・カドラ達の救出が間に合った。
ミゲル長井伯爵。
美作地方の寄親伯爵で、
悲運の死を遂げたハドリー長井伯爵の子孫でもある。
だからといって手加減は出来ない。
そのミゲルの狙いもラファエルと同じ。
アルファ商会の利益に預かろうとした。
こちらはシルビア達を付け狙った。
幸い、こちらも保安警備のお陰で未遂で済んだ。
ルベン・セサル商会長。
大手の商会・セサルの現会長だ。
本拠は難波、その難波の中小商会を買収して急拡大した。
先見の明があると評判で、庶民の受けが良い。
けれど、調べて裏が分かった。
低賃金と下請けからの搾取で、儲けているだけだった。
ルベンの狙いはアルファ商会の製品の奪取。
保管倉庫からの横流しを企んだ。
その為に倉庫作業員を買収した。
それを事前に保安警備が察知し、潰した。
ホセ・ラウル商会長。
こちらも大手、ラウル商会の会長だ。
それもバリバリの若手、五代目。
本拠は国都、老舗。
王宮の御用達、特に軍からの信用が厚かった。
納める軍需品が高品質なのだ。
そのホセの狙いが分かった。
金と暴力で、工房の職人を引き抜こうとした。
これも事前に潰した。
ペミョン・デサリ金融。
カジノと組む貸金業者、ペミョンがそこの商会長。
こちも本拠は国都。
その狙いは実に単純なもの。
アルファ商会の製品の模倣。
コピーした商品で大儲けを企んだ。
その為の工房を建て、職人を集めた。
しかし、如何せん、技術水準が伴っていなかった。
一目で見破られる物ばかりが出荷された。
売れる訳がない。
そこで狙いを変えた。
こちらの工房の職人を引き抜こうとした。
為に何度か保安警備と衝突して、潰された。
この五件は一時は潰されたにも関わらず、
今もって手を引こうとしない連中のリストだ。
それもこれも本体が大きい為に彼等は、
自分達にまでは手が届かないと侮っていた。
そんな彼等に制裁を加えるのは確定だが、注意事項が一つだけ。
アルファ商会絡みと思わせないこと。
アルファ商会の企業イメージは、「爽やか」その一点。
詰まらない噂で汚してはならない。
十日後の期限が来た。
クラークに会いに出かけた。
今回の悪党ファッションは、前回のとは色違い。
赤を基調とした。
そして仮面も。
お多福にした。
得も言われぬ可愛らしさ、だと思う。
【光学迷彩】【索敵】【転移】【転移】で目的地の上空に辿り着いた。
重力スキルで下の屋根にゆっくり着地。
そこで思いがけぬ光景を目の当たりにした。
クラークやサンチョが本拠にしてる建物が包囲されていた。
こっ、これは面白い。
何れの面々も武器を手に、暗がりに身を潜めていた。
建物から出て来るのを待ち構えている気配。
対して、建物から打って出る気配は皆無。
それはそうだろう。
これほどの人数ともなると、発生と同時に騒乱罪が適用されて、
奉行所から捕り手の群れが出動して来る。
だからクラークは、冷静に籠城を選択したとも言えた。
その奉行所の手先は・・・、探した。
いたいた。
少し後方で、のんびり見守っていた。
人数は一個分隊、十名。
暴力沙汰発生と同時に、数人が近隣の番屋に走り、出動を乞うのだろう。
もしかすると、本隊は既に待機済みか。
俺は透視スキルで建物内の防御態勢を点検した。
入り口は、裏も表も厳重な二重扉。
窓も、全て鉄板で補強されている
何れにしても、これらを破るにはかなり手間取る。
対して、防御側は人数をしっかり配し、予備の戦力もある。
一夜で落とすのは無理だ。
俺はクラークの部屋にお邪魔した。
俺は恥ずかしがり屋なので、当然、光学迷彩を施したままの転移だ。
室内では喧々諤々の議論が交わされていた。
サンチョとクラークが中心で、幹部クラスらしき連中が三名いた。
一番の若手が吼えた。
「舐められたらいかん。
打って出ようぜ、親分たち」
親分たち・・・。
サンチョとクラークが対等の親分たち、なのか。
そのサンチョが答えた。
「そうは言うがな、ここを戦場にすると奉行所の手入れを喰らう。
床下から天井裏まで調べられ、これまでの商売がばれる。
そこんところ、分かってるか」