金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(足利国の国都)50

2018-04-29 08:33:10 | Weblog
 年が明けて俺は十才になった。
冒険者ギルドに登録できる年齢にもなった、と言うことで、
さっそくカールに連れられてギルドに向かった。
「イライザから行列が出来るって聞いたけど、本当なの」
「昔からだ。
困った事に国都は住民が多いから、何かある度に行列が出来る。
店の特売日とか、演劇の初日とか。
そのうちに慣れるさ」
「どっちのギルドに行くの」
 国都には四つの冒険者ギルドがあった。
利便性を考慮して東西南北の各門近くに置かれていた。
呼称も誰にも分かるように東門近くにあるのが東門ギルド。
西門近くにあるのは西門ギルド、と言った様に付けられていた。
 真夜中だと言うのに街中の灯りは消えそうにない。
店も民家も灯りは点けたままで、飲み歩く者も散見された。
「この夜だけだ」とカール。
 俺達は最寄りの東門ギルドに向かった。
国都に入った初日に馬を売ったギルドだ。
 イライザが言うようにギルド前には行列が出来ていた。
暗い寒空の下、十数組が並んでいて、始業を今か今かと待っていた。
「子供は成人同伴でなければ登録させて貰えないんだよ」とカール。
 俺達は揃いのフード付きローブ姿の二人の後ろに並んだ。
この二人は寒風を避けるようにフードを深々と被っているので、
親同伴なのか、兄姉同伴なのか、その関係性が分からない。
まぁ、どうでもいいことなんだが・・・。
俺はカールに愚痴った。
「寒いよ、寒いよ」
「我慢、我慢。冒険者は我慢が基本だ」
「知ってるよ。でも寒いのは我慢できない。
・・・。
早くから並んでも結局はFランクスタートだから、
成人するまでは薬草採取とかの易しい仕事だけなんだよね」
 子供には討伐等の荒っぽい仕事は認められていなかった。  
「不満か」
「ちょっと不満。いや、かなり不満かな」
 FランクからランクアップしてEに昇格するには、
十五才から一年の経験と実績ポイントを必要とした。
実質十六才にならないと昇格できない仕組みになっていた。
「そこも我慢だな」とカールが笑う。
「カールの顔を立てて我慢するよ。
でもこれから六年間か、Eランクまで長いな」
 カールが俺の顔を覗き込む。
「どうだか、・・・。
薬草採取してたら魔物に遭遇した、だから討伐した、
って言い訳しそうな顔してる。違うか」図星だった。
「まさか、・・・僕は決まり事は守るよ。ねっ、知ってるでしょう」
「へっ、僕ですか。
いつもは俺様でしょう。俺様、俺様」
「ねえ、カール。僕を信じてよ。
神に誓って、無謀なことはしないよ」
 カールが腕組みした。
「その神は裏山の神様かい。
それとも、何時も抜け出して走り回っていた山の神様かい。
・・・。
もし居たとしてもだ、
ここでは遠すぎて神様の目も届かないから好き勝手できる。違うか」
「ねぇカール、今日はちょっと厳しくない」
「アンソニー様に厳しくするように言われている。
グレース様、ニコライ様、エマ様、みんなも心配してる。
あの子は人の言葉には耳を貸さないって」
「みんなに・・・。全く信用がないな」
「信用ってのは日々の積み重ねだ。
ダン、君は積み重ねた覚えがあるのかい」
「・・・、困ったな、・・・、ないな」
「分かればよろしい」
 すると笑い声が。
すぐ前に並ぶ二人が肩を振るわせて笑っていた。
声から二人は女と分かった。
ひとしきり笑ったあと、親らしき方が振り返った。
フードを外して若い娘が微笑む。姉なんだろうか。
「ごめんなさいね」長身を折り曲げて謝った。
「いいえ、いいえ、こちらこそ」カールが慌てて頭を軽く下げた。
「聞こえる話があまりに可笑しかったものですから」
「聞き苦しい話しで、こちらこそ申し訳ない」
 小さな方も振り返り、俺達を見比べた。
どう判断したかは分からないが、フードを外し、俺を見上げて尋ねた。
「貴男、本当に十才なのかしら」なんとも愛くるしい。まるでリス。
 俺は彼女を見下ろした。
「たぶんだけど、十才。君もそう」
 リスが微笑む。
「私もたぶんだけど、十才。
私と貴男を合わせて二つに割れば、ピッタリかもね」
 十才にしては俺は大きすぎるし、彼女は小さすぎる。
「かもね。
でも割ったら痛そう。だから止めよう」
 受けを狙ったら、リスには受けた。
口を大きく開けてケラケラと笑ってくれた。
「俺はダンタルニャン。
冒険者になりたくて、はるばる尾張より上ってきました」
 途端、リスが表情を改めた。
「まあ、尾張なの。ちょっと遠いわね。
私はキャロル、国都の産よ。よろしくね」
 姉らしき方が名乗った。
「私はシンシア。
キャロル様の家庭教師です」
「私はカール。
ダンタルニャン様の家庭教師のようなものです。
ダンタルニャン様が悪させぬように尾張から付いて参りました」




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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)49

2018-04-22 06:52:17 | Weblog
 子供達は鎌と鍬の扱いに慣れていた。
年長組みが鎌で枯れ草を切り払い、
鍬で土地をサクサクと掘り返して行く。
たまに蛇が顔を出すが、慌てずに鎌で首を切り落とす。
あるいは鍬で頭を潰す。
その蛇を掴み上げ、「蒲焼きだ」と逞しく笑った。
 この世界の蛇は冬眠はしない。
冬眠するとモグラ系の魔物に捕食されるので、冬眠しない。
それは蛙も熊も事情は同じ。
土中を住み処にして、昼日中はテリトリーで活動している。
 掘り返された所に年少組みが入り、ジャガイモを収穫して行く。
根っ子についた土を叩き落とし、小さな竹の籠に入れて運び、
荷馬車の大きな竹の籠に移し替えて行く。
農家も顔負けの立ち働く姿。
田舎者の俺だが逆立ちしても敵わない。
 再びイライザに背中を叩かれた。
「何を感心しているの。さっさと働いてよ」
 すると年少組の一人がイライザに言う。
「お兄さんを苛めないで。
弓で一仕事して疲れているのよ。休ませてあげたら」
 味方がいた。
俺は年下の子に感謝の笑み。
 結局、その日は大収穫だった。
ジャガイモだけでなく、魔物まで獲れた。
ついでに蛇も。

 その日の夜、大晦日の夜だからか、
いつまで経っても街から灯りが消えない。
月明かりと街の灯りで夕方が延長しているかの様。
馬車の音。走り回る子供達。繁華街の方からは喧騒。
イライザが、「大晦日は誰も寝ないわ」と教えてくれた。
 俺はカールに言われて屋根に上がった。
「いいものが見られるぞ」と詳しくは話してくれなかった。
 下の裏庭ではカールに、マルコムとオルガの夫婦、それにサム、
その四人でテーブルを囲み、酒を酌み交わしていた。
何が楽しいのか、テーブルを叩いて笑うオルガ。
それを横目に、サムは手酌酒。
 イライザが串焼きを皿に盛って、屋根に上がって来た。
「下では出来上がっているわ。酔っぱらいって嫌いよ」
「酔っぱらいのカールの嫁さんになる予定じゃなかったの」
「カール兄貴は酔っぱらわないわ。
でも家の親は嫌い。酔っぱらうと口煩いのよ」
 俺は礼を言って、串焼きに手を伸ばした。
「この肉は昼間の・・・」
「子供達がダン兄さんに食べて欲しいって」
「すると蛇か」
「嫌いなの」
「いや、鰻の次に好きだよ」
 俺は蛇を頬張りながらイライザに尋ねた。
「屋根に上がって何か見えるの」
「我慢しなさい、もうじきよ」
 皿の串焼きが消えた頃合いだった。
国都の中心から強烈な気配がした。
明らかに魔力。
突出した力が噴出した、としか言い様がない。
俺はその方向に視線を転じた。
 同時に、王宮に近い鐘楼から魔法が発せられた。
頭上高く、魔法が一本、二本と打ち上げられた。
一つは火の魔法のファイアボール。
もう一つは光の魔法のライトボール。
どちらも最初に習得させられる魔法。
けれど傍目にも分かる威力の違い。
上級の魔法使いでも射程距離は100メートルには届かない。
なのに今、目にしているのは200メートルに届きそうな勢い。
おそらく魔導師だろう。
 頂点に達したのかファイアボールが破裂した。
響き渡る轟音。
花火のように大きくて丸い輪を描きながら、消えて行く。
ライトボールも遅れて破裂。
 イライザが説明してくれた。
「大晦日の夜は魔法使いの夜よ」
 それが合図だった。
国都のあちこちから魔法が打ち上げられた。
いずれもファイアボールかライトボール。
それも100メートルに届かぬものばかり。
時折、50メートルに届かぬものも見受けられた。
「他の魔法は禁止されてるの。
無理に煽って事故でも起こされたら大変だもの」
 イライザによれば、これは町の腕自慢を集めた催しだそうだ。
実際、目の前で行われているので納得。
町の腕自慢が低レベルで競っていた。
深読みかも知れないが、目的は、もしかして、
低レベルの者達を競わせて、奮起させることにあるのかも知れない。
 町の腕自慢達の魔法が一段落した、と見るや、
魔導師達が魔法の打ち上げを再開した。
今度は無数に打ち上げられた。
それも色取り取りに。
これでは前世の花火大会ではないか。
 下からカールが俺を呼ぶ。
「ダン、ギルドに行って、冒険者の登録をするぞ」
 まだ夜が明けていない。
こんな時間から登録もないだろう、と思った。
「この打ち上げが終われば年が明けてダンも十才でしょう。
急いで行ってきたら」イライザに言われた。
「まだ朝じゃないけど」
「新年早々はギルドも忙しいから、
最近ではまだ暗いうちから仕事を始めるようになったの。
年明け初日だけの特例よ。
早く行かないと、行列に並ぶことになるわよ」
「行列・・・」
「縁起担ぎなのかは知らないけど、
年明け初日の日付を狙って冒険者になりたい子供達が並ぶのよ」




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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)48

2018-04-15 07:23:35 | Weblog
 俺は長くは悩まない。
まず試すことにした。
先頭に向けて矢を三連射。
狙いは過たない。
一本目は胸元。
予想通り、刺さらない。弾き飛ばされた。
二本目は顔。
腕の一振りで払い飛ばされた。
三本目は太腿。
これまた弾き飛ばされた。
 五頭のガゼラージュが足を止めた。
互いに顔を見合わせて、何やら呻り声・・・。
会話が成立しているように聞こえた。
 俺は次に打つべき手を考えた。
唯一の手掛かりがあった。
その蜘蛛の糸に縋り付いた。
放った矢がガゼミゼルのブレススノーストームに突き刺さった瞬間、
ブレスを無効にして破裂した。
あれはどう考えても念力付与効果だろう。
だとすれば、念力付与の数値を上げて鉄を凌ぐしかない。
これまで一射につきEPから数値2を付与していた。
常時稼働させている探知スキル君と鑑定スキル君には、
それぞれ数値5を割り振っていた。
それからすると次からの一射のEP数値は3ではないだろうか。
駄目なら上げればいい。
EPには余裕があるし、回復も早いので問題はない。
 二足歩行だったガゼラージュが四つ足に戻した。
俺を脅威ではない、と判断したのか、速攻に転じる感がありあり。
 俺は矢をつがえた。
と、空気が変わった。
ガゼラージュの動きに変化。挙動不審になった。
 探知スキル君で事情が分かった。
俺達の後方に新たな色の点滅。
緑色と茶色の点滅。
蹄の響き。一塊になって急接近して来る。
騎兵しか考えられない。
 俺は後方を振り返った。
国都郊外を巡廻中の騎兵の一隊だ。
それが二十数騎、押し寄せて来た。
 俺達を左右から追い越してガゼラージュに向かって行く。
五頭が一斉に立ち上がって、仁王立ちで咆えて威嚇するが、
兵も馬も全く怯まない。
速度を維持して突っ込んで行く。
初手は弓騎兵。八騎。
隊列から抜け出し、回り込むようにして矢を射た。
俺が持つ複合弓と同型だが、
明らかに弓騎兵が持つ方が高性能で高級品。
国軍の装備品に違いない。
しかも、それから魔力を感じ取った。
探知スキル君も魔力発動中を現す青色点滅を表示。
おそらく何らかの魔法の呪文が術式として、
複合弓に貼り付けてあるのだろう。
それから放たれた矢が次々にガゼラージュに突き刺さる。
 槍騎兵が入れ替わった。
七騎が五頭の背後に回り込み、太腿や脹ら脛を攻めて傷付けた。
正面よりは剣を振り翳した七騎が挑んで行く。
躊躇いがない。
鉄の武器を弾き返すガゼラージュと戦い慣れているようで、
外皮の厚くない部位を狙って槍で突き刺し、剣で切り刻む。
それを弓騎兵が遠間より援護する。
 ガゼラージュは怒りの咆哮を上げて反撃するが、
騎兵隊の連携の前に為す術がない。
矢を射込まれ、槍剣で少しずつ削られて行く。
 その頃になると、他の騎兵隊も加勢に現れた。
一声掛けて、攻撃に加わる。
 冒険者のパーティも三組現れるが、こちらは騎兵隊に遠慮して、
攻撃には加わらず他の魔物の出現に備えた。
 俺の仕事は終わった。
空になった矢筒をズタ袋に仕舞い、複合弓を弓筒に戻した。
荷車から下りてカールに歩み寄った。
「誰も怪我しなくて良かったね」
 カールは呆れたような表情で俺を振り返った。
「だなー。
とにかくご苦労さん」
「ねぇ、カール、俺は目立ちたくないんだけど」
「分かってる。
子供達の中に混じって静かにしていろ。
後は俺に任せておけ」
 多勢に無勢。
ガゼラージュ五頭は三人ほどに手傷を負わせただけで、
息の根を止められてしまった。

 カールが騎兵隊の方へ歩いて行くと、隊長の一人が笑って迎えた。
「久しぶりですね」元の部下であった。
「そちらも出世してなによりだ」
 互いの近況を伝え、簡単に話を纏めた。
ガゼラージュは騎兵隊が倒したので、騎兵隊に所有権がある、と。
「大尉は相変わらず欲がありませんね。
普通なら少しはゴネルのですが」
「助けてもらったのは事実だし、ゴネルのは面倒なんだよ」
「ガゼラージュの毛皮が高価で売れる、と言うこともありますけど、
荷馬車に積んで城郭内に運び込めば、
俺達がきちんと仕事しているのが丸分かりで、助かります」
「昇進に結びつけば良いんだけどな」
 その言葉にもう一人の隊長が大笑い。
さっそく駐屯地から荷馬車を呼んで来るそうだ。
 カールは冒険者パーティ三組を呼んだ。
彼等とも話しを纏めた。
残りのガゼローンとガゼミゼルの所有権はカール達にある。
けれど数が多いので解体と搬出に人手が足りない。
そこでパーティ三組に協力を依頼した。
全ての解体と搬出を受けてくれれば儲けは折半で、と。
ガゼローンとガゼミゼルはガゼラージュには劣るが、
売れる部位は多い。
彼等にとって濡れ手に粟。
「喜んで」即答し、
「直ぐにギルドから荷馬車を調達して組ます」と数人が走り出した。

 俺はイライザに背中を叩かれ、「さあ、仕事よ」と鍬を手渡された。
見ると、他の子供達はすでにジャガイモ掘りを再開していた。




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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)47

2018-04-14 08:01:22 | Weblog
 絶望に陥った者達にかける言葉を俺は知らない。
たとえ知っていたとしても、俺の言葉では説得力がない。
なにしろ俺は子供、言葉の重みに欠けていた。
 俺は林から歩み出た魔物達に視線を向けた。
ガゼミゼルなら弓で対抗できる。
遠間でも充分に射抜ける。
ブレスの距離まで接近されたら、開けた口に矢を叩き込めばいい。
でもガゼラージュは分からない。
鑑定スキル君によると難敵。
外皮が異常に厚くて頑健で、普通の槍や剣だと簡単に弾き飛ばす。
普通の槍とか剣は鉄製のことだろう。
手元の矢の鏃も鉄。簡単に弾かれるだろう。
 困った俺は自分のスキルを調べ直した。
光学迷彩☆☆、探知☆、鑑定☆、水の魔法☆弓士☆。
光学迷彩は逃走用。
探知と鑑定は戦闘を補助するもの。
水の魔法は・・・、ちょっとだけ使える。
弓士。
他には・・・、光の魔法は分析し終えたばかりで、手つかず。
すると過去ログに面白い物が・・・。
騎兵の注意を引こう、とファイアボールが打ち上げられた際に、
鑑定スキル君が、
「火の魔法の分析が終わりました。EPで再現可能です」
こっそりと仕事していた。
こちらも分析し終えたばかりで、手つかずだが・・・。
水に光・火。
二つか三つの組み合わせで・・・。
 声が聞こえた。
「ダン、ダンタルニャン、ねぇってば」イライザが俺に話し掛けていた。
「ああ、ごめん」
「顔色が悪いわよ」そう言うイライザも顔色が悪い。
「ちょっと考えごと」
 イライザが声を潜めた。
「勝ち目はあるの」
「ガゼミゼルならなんとかなる。
けどガゼラージュになると、きついな。
遠間からの矢は利かないようだから、
接近して来るのを待って顔を射るしかない」
 頼りは司祭・ニーナの光の魔法とカールの剣技。
そのカールの声が聞こえた。
怯える子供達をニーナと二人して宥めていた。
ひとり一人を抱き寄せて、耳元に何事か囁く。
その度に子供の表情が喜色に変わる。
それを見守っている若者達の空気が重い。
ニーナに同行しているカールへの嫉妬ではない。
先行きを危ぶんでいる、と丸分かり。
仲間同士の会話すらない。深く沈んでいる。
 バキバキと何かが折れる音。
そちらに目を向けた。
魔物達がいる林。
ガゼラージュの一頭が生木を、へし折った。
揚々として雄叫びを上げ、生木を前に放り投げた。
それが合図になった。
ガゼミゼル七頭が一斉に駆け出した。
ガゼラージュを見ると、動く気配がない。
一頭が高みの見物とばかりに腰を落とすと、それを残りも真似た。
 ガゼミゼルはカゼローンの上位種。
走法は同じ。
こちらを睨み据え、四つ足で全力疾走して来た。
下位種が全滅した理由を調べようともせずに力攻め。
 途中、真ん中ほどのところで、それぞれが足を止めた。
横一列になって後ろ足で立ち上がる。仁王立ち。
口を大きく開けた。ブレスの前段階。
 それを俺は待っていた。
口を開けた順に射て行く。
狙いは大きく開けられた口の奥。
それぞれに一本ずつ放った。
目標をズームアップ、加えて念力付与で狙いは外さない。
 最後の七頭目が間に合わなかった。
ブレスが口の前に出現していた。
ブレススノーストームの白い球体。
それに矢が突き刺さった。
瞬間、大きく破裂した。
ブレスの白と血飛沫が入り混じり、周辺に舞う。
七頭目が悲鳴を上げながら前足で顔を押さえ、その場に蹲る。
俺はそれを追い撃ち。
残った矢二本を撃ち込んだ。
 他の六頭も似たようになもの。
口の矢を抜こうと足掻いていた。
でも逆に激しい痛みに襲われ、余計ひどくなる有様。
 俺は残った矢を矢筒から抜き、矢筒を取り替えた。
ガゼラージュに視線を転じた。
五頭は余裕があるのか、馬鹿なのか、ゆっくり腰を上げた。
馬鹿ではないらしい。
五頭全てが俺を睨み付けた。
脅威として俺を認識したらしい。
 五頭が行動を開始した。
驚いたことに駆けない。
二足歩行でゆっくり前進して来る。
もしかして俺の弓への対処なのか。
矢を払い除けるつもりでいるのか。
魔物も獣の種。動体視力が優れていても不思議ではない。
疑問が尽きない。




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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)46

2018-04-08 07:22:09 | Weblog
 その群も途中で逸れるかと思いきや、違った。
こちらに真っ直ぐ下りて来る。
速度に緩急はあるが足は止めない。
迷いがない。
 下って来るに従って、その数が増して行く。
何故か、途中で出会った魔物が群に加わるのだ。
結局は大型五頭、中型七頭、小型十八匹。
とんでもない脅威に晒された。
が、逃げる選択肢はない。
孤児院の子供達を伴っているので逃げ切れない。
司祭目当ての若い者達が健脚でも無理だろう。
この距離からして逃げ切れるのは、おそらくは俺一人。
 俺はカールに簡単に告げた。
「魔物の群が現れた」
「こちらに向かって来てるんだな」カールが俺をジッと見た。
 俺は子供達に動揺を与えたくないので、目で伝えることにした。
これまでにない三白眼で睨み返した。
意を汲んでくれたらしい。
カールは肩を竦めて、みんなを見回した。
「荷馬車を中心にして防御陣を組むぞ」
 カールが手早く指示した。
荷馬車二両を横倒しにして、その左右に盾を並べて行く。
若い者達を盾役・槍役にそれぞれ割り振るが、
それでも槍役が足りない。
危急の際と言うことで、孤児院の子供達の中から、
腕力のありそうな者を選んで槍役に抜擢した。
子供達を真ん中にして、サムとイライザの兄妹を後方の守りに配置。
現有戦力を最大限に活用した、と言っても間違いないだろう。
 俺は横倒しされた荷馬車の上に立った。
微妙なバランスを必要としたが、軽いので問題はない。
冬風を額に受けながら、魔物の正体を知るためズームアップ。
残念なことに深い木々が邪魔して姿を確認できない。
 カールが火の魔法を使える若い者を呼び、
「巡廻している国軍の騎兵の注意を引きたい」として、
30メートルほどの高さにファイアボールが打ち上げさせ、
三発ほど派手に爆発させた。
効果のほどは知らないが、何もせぬより、ましだろう。
 山裾の林に魔物が一部が姿を現した。
「ガゼローン。Eクラスの魔物です」鑑定スキル君。
 狐の種から枝分かれした魔物だ。
四つ足で体長はせいぜい1メートル。
小型だが群れなすと侮れない。
軽量だが脚力と牙を武器に、
執拗なチームワークで相手を失血死に追い込む。
 木々の間から彼等が揃って前に出て来た。十八匹。
一斉に咆えると、それを合図に左右に広がった。
 林までの距離はおよそ100メートル。
間にあるのは枯れた草地のみ。
凹凸はあるが一面が枯れ草の海。
ガゼローンがそこに紛れ込んだ。
実に厄介。姿を隠したまま前進して来た。
 俺は複合弓を構えた。
複合弓も短弓の一種だが、張力が比べものにならない。
大人と子供。段違い。
俺には念力付与があるので、余裕で扱える。
有効射程は200メートル。
 カールに、
「目立たぬように、世渡りは、ほどほどに」と注意されていたが、
この急場を凌ぐには、手加減は一切許されない。
正面から来るものは盾役・槍役に任せ、
俺は左右に広がった奴等に専念することにした。
 探知スキル君をフル稼働。
先行しているのは左側。六匹。
枯れ草の海に紛れ込んでいても見逃さない。
ズームアップと茶色の点滅を連動させて、確実に胴体部分を狙った。
射た矢が光の速さで枯れ草を突き抜けた。
三連射。
悲鳴一つ上げず、三匹が動きを止めた。
続けて三連射。
 左の掃除を終えたので右を狙う。
こちらは五匹。
三連射、最後の一本。
矢筒を替える間に残った一匹が先行するか、と思いきや、違った。
怯えながら正面の仲間達に合流した。
残り八匹。
それがドッと駆け出した。
枯れ草を踏み倒し、集団になって向かって来た。
 カールの合図で司祭が掌を襲い来る群に向け、
光の魔法の呪文を唱えた。
立ち所に光の槍が次々に現れた。
八本。
それが、それぞれに向かって一斉に飛ぶ。
見えるのだが、Eクラス如きに躱せるものではない。
「光の魔法、ライトスピアです」鑑定スキル君。
 ライトスピアがガゼローンに突き刺さって爆発した。
八匹は肉片となって飛散した。
「光の魔法の分析が終わりました。EPで再現可能です」鑑定スキル君。
 思わず鑑定スキル君を褒めたくなった。
指示してないのに仕事をしてくれる、なんて素敵なスキル。 
俺はついでに司祭をも鑑定することにした。
「名前、ニーナ。
種別、人間。
年齢、二十二才。
性別、雌。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、アドトラ教の山城教会司祭。
ランク、C。
HP、90。
MP、110。
スキル、光の魔法☆☆、水の魔法☆」
 カールが俺に問う。
「ダン、どうなってる」
「ガゼローンは全滅です」
 俺の答えに子供達が喜ぶが、それも束の間、
林から中型七頭が姿を現し、みんなを絶望に変えた。
「ガゼミゼル。Dクラスの魔物です」鑑定スキル君。
 ガゼローンの上位に当たる魔物だ。
二足歩行すると2メートルを越える。
武器はブレススノーストーム。
吹雪で相手を吹き飛ばす。
 それだけではない。
大型まで姿を現した。五頭。
「ガゼラージュ。Cクラスの魔物です」鑑定スキル君。
 こちらは、さらにその最上位の魔物。
二足歩行すると優に3メートルを越える。
武器は長い手足、加えて尻尾。
外皮が異常に厚くて頑健で、普通の槍や剣だと簡単に弾き飛ばす。
そして長い手足を活かし、絞め殺す。
あるいは相手を押さえ込み、太い牙で仕留める。
尻尾を鞭として活用することもある。
 俺は探知スキル君で周辺を調べた。
他に茶色の点滅はあるが、こちらに向かって来そうな物はいない。
おそらくガゼラージュとかち合いたくないのだろう。




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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)45

2018-04-01 07:46:25 | Weblog
 朝日が顔を出し切った頃合いから、
八百屋・マルコムの店頭に人が集まり始めた。
野菜を収穫する為、郊外に出掛けようとする者達だ。
主力は教会の司祭に率いられた孤児院の子供達。
軽武装している若者もちらほら。
 イライザが俺に教えてくれた。
「子供達が、これが役に立つのよ。
土を掘るだけでなく、騒がしいから、それだけで魔物除けになるの」
 熊除けの鈴のような効果があるらしい。
呆れている俺にイライザが小声で耳打ちした。
「それにね、子供達を引率している教会の司祭様をご覧なさい。
若くて綺麗でしょう。
彼女が目当てで若い連中が集まってくるの。
俺が守るんだって。
フッフッフ・・・。
光の魔法で治癒してくれるだけじゃなく、
護衛も引き連れて来てくれるから大助かりよ」
 店内から荷車が二両、引き出された。
それに道具が積み込まれた。
鍬・鎌から竹で編まれた大小様々な籠。
空きスペースに若者達がそれぞれの盾や槍を乗せて行く。
 経験からカールが一行の指揮を執ることに誰も異論を唱えない。
そのカールが俺をみんなに紹介した。
「ダンタルニャンだ。
見掛けは子供だけど、獣人に負けぬ勘働きで、
尾張からここまでの道中、何度も魔物の襲撃を事前に察知している。
それに短弓の腕前は俺より上だ。
・・・。
今日はダンに偵察役を任せる」
 俺が一行の先頭に立った。
ただ、俺が地理に不案内なのでイライザが横に並んだ。
「私が道案内で、あんたは偵察役。しっかりね」
 大晦日にも関わらずか、大晦日だからか、
どっちかは知らないが出入りする者達で東門は溢れていた。
もしかすると、これが通常なのかも知れない。
とにかく、田舎者の俺には判断がつかない。
 門衛は見慣れているのか、
「とっとと収穫して、無事に戻ってくるんだ」
と俺達を優先的に通過させてくれた。
 俺の出で立ちは革鎧に脛当て、ヘッドギア、首にはマフラー。
袈裟掛けのズタ袋。左腰には短剣。右腰には矢筒と弓筒。
矢筒は細い仕様なので収納している矢は十本。
マジックバックのズタ袋に矢筒を五セットしているので、
計六十本の矢を持参している分けだが、
これだけ用意していれば充分だろう、たぶん。
 歩きながら、弓筒から弓を取り出して弦を張った。
大人仕様の張力なので、当然だが念力を付加した。
指先で張り具合を調整していると、イライザに尋ねられた。
「カール兄貴がああ言ってるから頼りにしているわ。
でも、ちょっと心配。
子供の腕力で、射程はどうなの」
 今持っている弓は村で使用していた短弓ではない。
国都までの道中でカールに買い与えられたM字型の複合弓、
村で作っていた物に比べると高性能、高級品。
30メートルがせいぜいだったのが、
今では弓本来の性能と弓士スキル、そして念力付加のせいで、
200メートル前後までは当てられるようになった。
本来、子供には引けない張力なのだが、カールは目を瞑ってくれた。
そのカールに、
「ダンの腕前というか、スキルは分かった。
でも、子供にしては目立ちすぎる。
世渡りには、ほどほどと言うことも覚えておいた方がいい」と忠告された。
確かにそうなのだ。
出る杭にも、出過ぎた杭にもなりたくなかった。
目立たず静かに、平凡に生きて行くのが一番。
それでイライザには、「50メートルかな」と答えた。
 街道を逸れて左へ。
北へ向かう脇海道を進んだ。
こちらも行き交う者が多い。
見廻りの騎兵の一団もいた。
 連動させていた探知スキル君と鑑定スキル君が、絶え間なく働き、
精密な地図作成を行っていた。
俺が歩いた道を寸分の狂いもない地図にし、地名を加えて行く。
歩いてない所は黒塗りのまま。
 思い出したようにダンジョンマスター君が物申す。
「付近の魔素濃度がレベルに達しています。
ダンジョンを創造しますか。承諾、却下」
 当然、却下。
「あそこから右」イライザが指差した。
 山裾へ向かう道が見えた。
探知スキル君を広範囲にした。
向かう山に幾つもの茶色い点滅。
大型か中型の魔物、あるいは獣でもいるのだろう。
幸い、裾までは下りて来ていない。
探知スキル君を高感度にして、
小型の魔物・獣にも感応するように設定した。
 サムが一行を山裾の途中で止めた。
「そこで止まってくれ」
 広い草地だが、全面が枯れ草に覆われていた。
孤児院の子供達が荷車に殺到した。
鍬や鎌を手に、枯れ草に挑む。
枯れ草を刈り払って鍬入れ。
 なにやら地中より掘り出す。
小さな塊が、まるで数珠繋ぎのようになって・・・。
じゃがいも・・・のような。
ジャガイモだった。
 俺は驚いた。
「誰も収穫に来ないのかい」
 サムがしごく当然のように言う。
「この一帯は魔物が出没するんだ。
掘る人間に、それを守る人間。
計算すると八百屋で買った方が安い」
 教会の司祭目当てに来ていた若者達は周辺を警戒していた。
慣れているようで穴がない。
当の司祭は、ノンビリ感が半端ない。
子供達を尻目に、カールと楽しそうに何やら喋っていた。
 俺はイライザに尋ねた。
「子供達はただ働きかい」
「まさか。折半よ」鼻で笑われた。
 探知スキル君が反応した。
茶色の点滅。
小型の何かだ。
十数匹がこちらに近付いて来たが、途中から逸れて行く。
他にも何組か、逸れて行く。
本当に子供達の騒ぐ声を嫌っているらしい。
安心した。
これなら楽な仕事になりそうだ。
 と、安心も束の間、山の中腹の茶色い点滅・・・、大型だ。
一つ、二つ、三つ。
これに小さな点滅が途中から加わった。
十二、十三、十四。
それがゆっくり、こちら目指して下って来る。




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