年が明けて俺は十才になった。
冒険者ギルドに登録できる年齢にもなった、と言うことで、
さっそくカールに連れられてギルドに向かった。
「イライザから行列が出来るって聞いたけど、本当なの」
「昔からだ。
困った事に国都は住民が多いから、何かある度に行列が出来る。
店の特売日とか、演劇の初日とか。
そのうちに慣れるさ」
「どっちのギルドに行くの」
国都には四つの冒険者ギルドがあった。
利便性を考慮して東西南北の各門近くに置かれていた。
呼称も誰にも分かるように東門近くにあるのが東門ギルド。
西門近くにあるのは西門ギルド、と言った様に付けられていた。
真夜中だと言うのに街中の灯りは消えそうにない。
店も民家も灯りは点けたままで、飲み歩く者も散見された。
「この夜だけだ」とカール。
俺達は最寄りの東門ギルドに向かった。
国都に入った初日に馬を売ったギルドだ。
イライザが言うようにギルド前には行列が出来ていた。
暗い寒空の下、十数組が並んでいて、始業を今か今かと待っていた。
「子供は成人同伴でなければ登録させて貰えないんだよ」とカール。
俺達は揃いのフード付きローブ姿の二人の後ろに並んだ。
この二人は寒風を避けるようにフードを深々と被っているので、
親同伴なのか、兄姉同伴なのか、その関係性が分からない。
まぁ、どうでもいいことなんだが・・・。
俺はカールに愚痴った。
「寒いよ、寒いよ」
「我慢、我慢。冒険者は我慢が基本だ」
「知ってるよ。でも寒いのは我慢できない。
・・・。
早くから並んでも結局はFランクスタートだから、
成人するまでは薬草採取とかの易しい仕事だけなんだよね」
子供には討伐等の荒っぽい仕事は認められていなかった。
「不満か」
「ちょっと不満。いや、かなり不満かな」
FランクからランクアップしてEに昇格するには、
十五才から一年の経験と実績ポイントを必要とした。
実質十六才にならないと昇格できない仕組みになっていた。
「そこも我慢だな」とカールが笑う。
「カールの顔を立てて我慢するよ。
でもこれから六年間か、Eランクまで長いな」
カールが俺の顔を覗き込む。
「どうだか、・・・。
薬草採取してたら魔物に遭遇した、だから討伐した、
って言い訳しそうな顔してる。違うか」図星だった。
「まさか、・・・僕は決まり事は守るよ。ねっ、知ってるでしょう」
「へっ、僕ですか。
いつもは俺様でしょう。俺様、俺様」
「ねえ、カール。僕を信じてよ。
神に誓って、無謀なことはしないよ」
カールが腕組みした。
「その神は裏山の神様かい。
それとも、何時も抜け出して走り回っていた山の神様かい。
・・・。
もし居たとしてもだ、
ここでは遠すぎて神様の目も届かないから好き勝手できる。違うか」
「ねぇカール、今日はちょっと厳しくない」
「アンソニー様に厳しくするように言われている。
グレース様、ニコライ様、エマ様、みんなも心配してる。
あの子は人の言葉には耳を貸さないって」
「みんなに・・・。全く信用がないな」
「信用ってのは日々の積み重ねだ。
ダン、君は積み重ねた覚えがあるのかい」
「・・・、困ったな、・・・、ないな」
「分かればよろしい」
すると笑い声が。
すぐ前に並ぶ二人が肩を振るわせて笑っていた。
声から二人は女と分かった。
ひとしきり笑ったあと、親らしき方が振り返った。
フードを外して若い娘が微笑む。姉なんだろうか。
「ごめんなさいね」長身を折り曲げて謝った。
「いいえ、いいえ、こちらこそ」カールが慌てて頭を軽く下げた。
「聞こえる話があまりに可笑しかったものですから」
「聞き苦しい話しで、こちらこそ申し訳ない」
小さな方も振り返り、俺達を見比べた。
どう判断したかは分からないが、フードを外し、俺を見上げて尋ねた。
「貴男、本当に十才なのかしら」なんとも愛くるしい。まるでリス。
俺は彼女を見下ろした。
「たぶんだけど、十才。君もそう」
リスが微笑む。
「私もたぶんだけど、十才。
私と貴男を合わせて二つに割れば、ピッタリかもね」
十才にしては俺は大きすぎるし、彼女は小さすぎる。
「かもね。
でも割ったら痛そう。だから止めよう」
受けを狙ったら、リスには受けた。
口を大きく開けてケラケラと笑ってくれた。
「俺はダンタルニャン。
冒険者になりたくて、はるばる尾張より上ってきました」
途端、リスが表情を改めた。
「まあ、尾張なの。ちょっと遠いわね。
私はキャロル、国都の産よ。よろしくね」
姉らしき方が名乗った。
「私はシンシア。
キャロル様の家庭教師です」
「私はカール。
ダンタルニャン様の家庭教師のようなものです。
ダンタルニャン様が悪させぬように尾張から付いて参りました」
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触れる必要はありません。
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冒険者ギルドに登録できる年齢にもなった、と言うことで、
さっそくカールに連れられてギルドに向かった。
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「昔からだ。
困った事に国都は住民が多いから、何かある度に行列が出来る。
店の特売日とか、演劇の初日とか。
そのうちに慣れるさ」
「どっちのギルドに行くの」
国都には四つの冒険者ギルドがあった。
利便性を考慮して東西南北の各門近くに置かれていた。
呼称も誰にも分かるように東門近くにあるのが東門ギルド。
西門近くにあるのは西門ギルド、と言った様に付けられていた。
真夜中だと言うのに街中の灯りは消えそうにない。
店も民家も灯りは点けたままで、飲み歩く者も散見された。
「この夜だけだ」とカール。
俺達は最寄りの東門ギルドに向かった。
国都に入った初日に馬を売ったギルドだ。
イライザが言うようにギルド前には行列が出来ていた。
暗い寒空の下、十数組が並んでいて、始業を今か今かと待っていた。
「子供は成人同伴でなければ登録させて貰えないんだよ」とカール。
俺達は揃いのフード付きローブ姿の二人の後ろに並んだ。
この二人は寒風を避けるようにフードを深々と被っているので、
親同伴なのか、兄姉同伴なのか、その関係性が分からない。
まぁ、どうでもいいことなんだが・・・。
俺はカールに愚痴った。
「寒いよ、寒いよ」
「我慢、我慢。冒険者は我慢が基本だ」
「知ってるよ。でも寒いのは我慢できない。
・・・。
早くから並んでも結局はFランクスタートだから、
成人するまでは薬草採取とかの易しい仕事だけなんだよね」
子供には討伐等の荒っぽい仕事は認められていなかった。
「不満か」
「ちょっと不満。いや、かなり不満かな」
FランクからランクアップしてEに昇格するには、
十五才から一年の経験と実績ポイントを必要とした。
実質十六才にならないと昇格できない仕組みになっていた。
「そこも我慢だな」とカールが笑う。
「カールの顔を立てて我慢するよ。
でもこれから六年間か、Eランクまで長いな」
カールが俺の顔を覗き込む。
「どうだか、・・・。
薬草採取してたら魔物に遭遇した、だから討伐した、
って言い訳しそうな顔してる。違うか」図星だった。
「まさか、・・・僕は決まり事は守るよ。ねっ、知ってるでしょう」
「へっ、僕ですか。
いつもは俺様でしょう。俺様、俺様」
「ねえ、カール。僕を信じてよ。
神に誓って、無謀なことはしないよ」
カールが腕組みした。
「その神は裏山の神様かい。
それとも、何時も抜け出して走り回っていた山の神様かい。
・・・。
もし居たとしてもだ、
ここでは遠すぎて神様の目も届かないから好き勝手できる。違うか」
「ねぇカール、今日はちょっと厳しくない」
「アンソニー様に厳しくするように言われている。
グレース様、ニコライ様、エマ様、みんなも心配してる。
あの子は人の言葉には耳を貸さないって」
「みんなに・・・。全く信用がないな」
「信用ってのは日々の積み重ねだ。
ダン、君は積み重ねた覚えがあるのかい」
「・・・、困ったな、・・・、ないな」
「分かればよろしい」
すると笑い声が。
すぐ前に並ぶ二人が肩を振るわせて笑っていた。
声から二人は女と分かった。
ひとしきり笑ったあと、親らしき方が振り返った。
フードを外して若い娘が微笑む。姉なんだろうか。
「ごめんなさいね」長身を折り曲げて謝った。
「いいえ、いいえ、こちらこそ」カールが慌てて頭を軽く下げた。
「聞こえる話があまりに可笑しかったものですから」
「聞き苦しい話しで、こちらこそ申し訳ない」
小さな方も振り返り、俺達を見比べた。
どう判断したかは分からないが、フードを外し、俺を見上げて尋ねた。
「貴男、本当に十才なのかしら」なんとも愛くるしい。まるでリス。
俺は彼女を見下ろした。
「たぶんだけど、十才。君もそう」
リスが微笑む。
「私もたぶんだけど、十才。
私と貴男を合わせて二つに割れば、ピッタリかもね」
十才にしては俺は大きすぎるし、彼女は小さすぎる。
「かもね。
でも割ったら痛そう。だから止めよう」
受けを狙ったら、リスには受けた。
口を大きく開けてケラケラと笑ってくれた。
「俺はダンタルニャン。
冒険者になりたくて、はるばる尾張より上ってきました」
途端、リスが表情を改めた。
「まあ、尾張なの。ちょっと遠いわね。
私はキャロル、国都の産よ。よろしくね」
姉らしき方が名乗った。
「私はシンシア。
キャロル様の家庭教師です」
「私はカール。
ダンタルニャン様の家庭教師のようなものです。
ダンタルニャン様が悪させぬように尾張から付いて参りました」
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