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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(洛陽)255

2013-07-28 08:10:20 | Weblog
 宋典が口にした名前に帝は驚いた。
「徐州の赤劉家」
 後漢王朝成立に多大の功績があり、為に、後漢の祖、光武帝に徐州の領邑と、
赤劉家という異名、そして洛陽に宏大な屋敷を与えられた一族だ。
勿論、後漢の劉家とは遠縁ながらも同族。
ただ、代々の当主を女が継いでいたことから光武帝に、
「赤劉家」という異名が与えられた。
そして建国の際、光武帝に報奨を聞かれると、
「『長江の神樹』が見える地を」と徐州の一角に領邑のみを求め、
身分としては、「政治には関わりたくない」と無位無冠を選んだ。
そんな事から今日まで季節の折々に、
宮殿に献上品を持って、ご機嫌伺いに罷り出るだけで、
宮廷そのものからは一歩も二歩も身を引いていた。
何代にも渡ってその姿勢を貫いている点は信用が置けるが、何か物足りないのも事実。
そういうことから帝は、これまで挨拶を受けても、親しく話した事はなかった。
 洛陽に与えられた屋敷には、慣習として、当主の血縁の者が居住し、
王朝の者達と宮殿外で親しく交わっているとか。
「現在もそれは守られているはず」と宋典。
ゆえに、
「その者を後宮に密かに呼び寄せ、于吉の一件の調べを命じたらどうか」
と提案した。
 帝は当然の疑問を口にした。
「確かに赤劉家なら信用が置ける。
命を受けてもくれよう。
だが、太平道の内部事情を調べられる人材を抱えているのか。
そもそも、その手の事に慣れているのか。
甚だ心配だ」
 宋典がニコリとした。
「赤劉家は代々が方術師の家柄です。
当主になるには女であることと、方術師である事が必要なのだそうです。
その方術ですが、
当主一人で全ての技を修める事は出来ないので、血縁の者達にも修行を求め、
方術のあらゆる技が欠落せぬように、様々な努力、工夫を講じているそうです。
ここ洛陽にいる者も、血縁であれば方術の修行は怠ってはいないでしょう。
もし、その者が力量不足であれば、
それ相応の者を徐州から呼び寄せるように、お命じになれば良いのです」
 方術師であれ、呪術師であれ、道士であれ、帝にしたら似たようなモノ。
「方術師であるのなら、道士だった張角が起ち上げた太平道を調べるに際し、
何らかの手蔓があるのでは」と勝手に理解した。
そこで宋典に、
「最優先でその者と密会出来るように手筈を整えてくれ」と命じた。
 二日後には宋典から意外な事を聞かされた。
宋典が密かに赤劉家の洛陽屋敷を訪れると、会ってくれたのは当主の娘夫婦だった。
彼女の長男が年頃なので、その婿入り先を選定をする為、
夫婦で洛陽に滞在しているのだそうだ。
ついでに年の離れた次男も連れて来ているとか。
長男の婿入り先探しには、悲しいが頷けた。
家を継ぐ女子がいれば、確かに男の兄弟は不要。
それは十分に分かるのだが、同じ男として・・・。
 肝心の帝との密会の話しは、一も二もなく受けてくれた。
ただ、密会ではなく、都合良く赤劉家が于吉とは親しいので、
公式の見舞いの形を取ることになった。
その見舞いは赤劉家から申し出たそうだ。
「それなら」と帝は、「息子二人も同道させよ」と命じた。
「長男、次男の人となりを見て、婿入り先を探してやろう」という気になった。
 帝への謁見であれば許可されるまでに時間がかかるし、宮廷の者達の興味をそそり、
有ること無いことを噂される。
しかし、見舞いが理由であったので、宋典の裏からの手回しもあり、直ぐに許可された。
もっとも、後宮に宦官以外の男子が足を踏み入れるのは許されない。
于吉の場合は帝の我が儘ということで許されていた。
今回の赤劉家の場合も、帝の耳に入れ、目こぼしで、宋典が押し切った。
 次の日には赤劉家の四人が王宮を訪れ、後宮の于吉の部屋に案内された。
それを知らされた帝は公務を中断し、後宮に足を運んだ。
誰が見ても、見舞いの鉢合わせという形にした。
 于吉の部屋に入るや、宋典が、于吉の世話をしていた女官達や、
帝に付き従っていた宦官達を退出させた。
部屋に残ったのは于吉に帝、宋典。そして赤劉家の四人。
 帝は、跪いて顔を伏せている赤劉家の四人に声をかけた。
「他には誰もいない。さあ、立ちなさい」
 四人は思わぬ言葉に家族で顔を見合わせた。
明らかに宮廷の作法からは外れているので戸惑っていた。
 宋典が助け船を出した。
「帝は忙しいのです。言われた通りに従いなさい」
 しぶしぶの体で四人が身を起こし、立ち上がった。
 宋典が四人を帝に引き合わせた。
 華奢な身体の美しい婦人が次期当主の劉芽衣。
とても三人の子持ちには見えない。
 隣が夫の韓秀。
洛陽では知られた武門、韓家から望まれて婿養子入りしていた。
 二人の後ろに控えているのが、息子達。
いずれも跡取りではないので、立場を忘れぬように夫の名前を継いでいた。
背の高いのが長男の韓寿。
幼顔をしているのが韓厳。
両親の躾の賜物か、二人とも背筋がしっかりと伸び、明るい顔をしていた。
これならどこでも婿入りを歓迎するだろう。
 二人の兄弟の間に麗華という娘がいて、次の次の当主となるべく、
徐州の赤劉邑で方術修行に努めているのだそうだ。
 帝はさっそく本題に入った。
「要件を手短に言おう。
この于吉を襲った連中の正体を知りたい。
于吉の話しでは、太平道の張角の弟二人が怪しいらしい。
その辺をしっかり調べてくれ」
 劉芽衣が視線を于吉に移した。
「確かなのですか、于吉殿。
先ほどまでは、そんな話しは」
「女官達には聞かせられないから黙ってた」
「そうでしたか」と劉芽衣、
視線を帝に戻し、「調べは何時までに」と問う。
「出来るだけ早く。出来るか」
 劉芽衣が拱手して、頭を深く下げた。
「あらゆる手を講じます。
それで結果報告は如何します。
公式に謁見しての報告は拙いのでしょう」
 帝は苦笑い。
「それまでは于吉にここに留まってもらおう。
次の見舞いで報告してくれ」
 劉芽衣の表情は安請け合いで無い事を物語っていた。
彼女だけではない。
他の家族もそうだ。
幼顔までが頼もしく見えた。




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白銀の翼(洛陽)254

2013-07-25 21:41:04 | Weblog
 帝は問うた。
「何故、太平道に狙われる。
道士の嫉妬だけが理由ではないだろう。
いまや教祖の張角は道士ではなく、大賢良師と称し、
道士とは別のモノになってしまった」
「別のモノとは」
「早い話が化け物だ。
地方の役人、豪族では手に負えない存在に成り上がってしまった」
 于吉が帝の話に感心した。
「なるほど化け物か。言い得て妙だな。
・・・。
ワシを狙ってるのは張角ではなく、その弟達ではないか、と思う」
「確かなのか」
 深く頷く于吉。
「張角には二人の弟がいて、その二人は常に兄の邪魔になる者を排除してきたそうだ。
兄には事前の相談も、事後の報告もないとか。
今回もそうではないかと思う」
 帝も太平道の噂は聞き知っていた。
良い噂もあれば、悪い噂もあった。
しかし真実は分からない。
分かっているのは彼等が様々な祈祷を行い、貧民の病を癒し、
流民となった農民、奴隷を受け入れて信徒としている事実のみ。
今のところ問題を起こしていないので、公式の報告はないが、
皆が皆、非公式に危惧を表明していた。
 もっとも、危惧を表明している地方の豪族、役人等も信用が置けない。
彼等は彼等で、地方の利権を漁るのみで、疲弊する民には知らぬ顔。
違うのはそれぞれの寄って立つ足場である。
豪族、役人達は後漢の王朝を拠り所としていた。
対して太平道は自らの足場を築き、独立独歩。
 帝は于吉に念を押した。
「確かに弟二人の仕業なのか」
 于吉は少々考えてから口を開いた。
「ワシは今、一人で流離っているが、昔は弟子達を大勢育てた時期もある。
それらの幾人かが太平道の盛んな地方にいる。
その弟子達が懸念を伝えてくれた。
張角の弟二人の動きがおかしい。
師匠の身の上を調べ回っている。
もしかすると、師匠の命を狙っているのかも知れない、と」
「それで崇山に隠れ籠もった分けか」
「ワシは争いは好まん。
・・・。
ワシの方が張角より道士としては先達で、しかもワシを仙人視する者達も多い。
太平道の盛んな地方でも、ワシの名声もなかなかのもの。
そのあたりが二人の弟の気に障っているのかも知れないな」
「他にも道士は一杯いるだろう。仙人と呼ばれる者達も。
なのに狙われるのは、そなた一人か」
「今のところは、そのようだ」
 帝は于吉の話しから太平道が怪しいと睨んだ。
なんの確証もないが、十分に怪しい。
そこで于吉の見舞いを終えると、部屋の外に待機していた宦官の宋典一人を連れ、
後宮内の庭に出た。
幸い、辺りに人影はない。
「宋典、お前は太平道に知り合いはいるか」
 宋典は話しの先が見えぬのが不安らしい。
「それが何か」
「じつはな、于吉の話しでは、襲って来たのは太平道の手の者らしいのだ」
 宋典の顔色が強張る。
「・・・事実なら厄介な事に」
「そう、厄介だ。実に厄介だ。
だから、お前に知り合いがいるのなら、
その筋から辿って調べられないのか、と考えたのだ」
「でしたら私も含め、我ら宦官は動かすべきではありません。
宮廷内にも太平道の信者がいる筈です。
我らの一挙手一投足を見張っているかも知れません」
「では何もするなと言うのか」
 宋典が拱手をし、深々と頭を垂れた。
「いいえ、ここは一つ、慎重に動きましょう」
「では、どうしろと」
「信用の置ける者が一人。
かの者なら太平道に縁はないでしょう。
その者を密かに呼び出し、手を借りるべきです」




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白銀の翼(洛陽)253

2013-07-21 08:04:44 | Weblog
 会話が出来るようになったと聞いて、帝は于吉を見舞いに訪れた。
すると部屋の外に女官達の笑い声が漏れていた。
于吉らしい男の声も聞こえて来た。
女官達をここまで明るく笑わせるとは、とても病み上がりとは思えない。
 帝は付き従っている宦官六人を部屋の外で待機させ、
十常侍の一人、宋典のみを従えて部屋を訪れた。
室内では白髪頭の老人が寝台に上半身を起こし、数人の女官を笑わせていた。
元気なことだ。
 帝の入室に気付いた女官達が顔色を変え、一斉に跪いた。
肝心の于吉の顔色に変化はない。
入室したのが帝と直ぐに理解したらしい。
軽く目礼しただけ。
身分差が大きいにも関わらず、堂々としていた。
「お世話になっております」と。
 その態度を注意しようとした宋典を帝は止めた。
「構わない。相手は病み上がりだ」
 苦い顔で宋典が女官達に指示した。
「お前達、暫く外で待て」
 女官達が、「助かった」とばかりの顔で退出して行く。
 帝は于吉の傍に寄った。
「顔色が良くなったみたいだな」
「それもこれも貴方様のお陰」
「感謝してるなら聞かせて欲しい。崇山では何があったのだ」
「それがワシにも分からない。
不審な連中が山に入って来たな、とは思ったのだが、
それが私を襲うだなんて思いもしなかった。
ああ大勢が相手では、手加減も出来ない。
で,連中はどうなったね」
「斬り殺された者と、虫の息の者ばかりだったそうだ。
たいした手並みだな。
仙人の武芸が並大抵ではないのが、よく分かった」
「ワシは仙人ではないよ。ただの道士だ。
そこらの道士達より、ちょっと出来るだけで、仙人の足下には遙かに及ばない」
 于吉は頑固に仙人を否定した。
「仙人、道士の話しは後で。
それで連中の顔に見覚えはないのか」
「全くない。ただ、鍛えられてはいた。もしかして兵士上がりかな。
ただ、ワシを斃すには百年早い」
 腕を誇っている分けでないのが分かった。
正直に語っているだけ。
たいした自信だ。
そこで帝は于吉の鼻をへし折ってやりたくなった。
「もう少し人数が多かったら危なかったのではないか」
 于吉は斬り合いの後、小屋に戻ったものの、疲労困憊で意識を失っていた。
ここ何日も目を覚まさない程の疲れ具合。
年齢的な事もあるのだろう。
指摘に于吉は言葉に詰まった。
「・・・」
 帝は続けた。
「連中に伏兵を配する頭があったら、どうなってたものか」
 于吉の顔色が変わった。
悔しそうな色。
が、直ぐに別の色に変わった。
そして、「はっはっは」と弾けるような笑い。
老人の腹から発せられる笑いだが、それには勢いがあった。
心から笑っているらしい。
 帝も于吉の心情が理解出来た。
思わず、つられて笑う。
宋典が呆れ顔で双方を見比べていたが、構わない。
 于吉の笑いが収まるのを待って、帝が問う。
「直接襲った連中に覚えがなければ、襲わせる者に心当たりはないのか、どうだ」
 于吉の目が一瞬、宋典に走るのを見逃さない。
何かあるのだろう。
帝は宋典に外で待つように命じた。
 宋典は不満顔であるが、帝の命令には逆らえない。
「何かありましたら、大声で」と于吉を牽制して、退出した。
 そう仕向けた于吉が、宋典の退出を見届けて笑う。
「はっはっは、申し訳ない」
「二人だけになった。それで良いな」
「はい。
しかし貴方様もお人が悪いですな」
 帝は于吉を真正面より見詰めた。
「ここで暮らすと自然、誰もがそうなる」
「ワシでもかな」
「それは・・・。浮き世を捨てた者はどうかな」
「買い被られたものよ。
浮世が恋しいから、こうして邪魔にならぬように流離っている。
人の邪魔にはならぬが、人の役には立ちたい、そう思って道士になった。
人に関わりなく生きたいのなら、山に籠もって降りては来ない」
「そうなのか。人は聞かねば分からぬものだ」
 于吉が帝を正視した。
「ワシを襲った者共には、心当たりが多すぎる。
あちこちで恨みを買っとるからな。
仙人ではない、道士だと言ってるものを、期待し過ぎなんじゃよ。
道士には出来る事と出来ない事がある。
それを勝手に期待して、出来ないと分かると罵詈雑言。
なかには恨む奴も出て来る」
 思い当たる節があった。
于吉は先々帝や先帝に招聘されたものの、
不思議な事に、追われるように王宮を去っていた。
帝は、その辺の事情に詳しい者の後日談を覚えていた。
「勝手に仙人と祭り上げておいて、出来ないと分かると罵詈雑言の山。
あれじゃ、逃げ出したくもなりますよ」と言うものだった。
 于吉は続けた。
「これに加えて同じ道士の者達にも恨まれとる。
ワシの存在が目障りなんじゃろう。
嫉妬かも知れん。
同じ道士としては見苦しい限りじゃ。
・・・。
なかでも太平道の連中がワシを目の仇にしておるそうな。
理由は知らんが、血眼でワシを探している、と聞いた。
それで身の危険を避ける為に崇山に、一時身を隠した。
・・・。
襲ったのが太平道の連中という証拠はないが、怪し過ぎる。
どう考えれば・・・」
 意外な教団の名が出てきた。
太平道とは。
教祖の張角は于吉と同じ道士だった者だ。




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白銀の翼(洛陽)252

2013-07-18 21:29:31 | Weblog
 洛陽の王宮は、「仙人を捕らえた」の報に大騒ぎになった。
前漢時代にも、秦時代にも無かったことだ。
もしかすると初めてかも知れない。
その為、宮殿内は賞賛する者と疑う者に二分された。
「それは是非とも見てみたい」
「捕らえたのは仙人ではなく、山に捨てられた老人ではないのか」
 噂は、その日のうちに洛陽中に知れ渡った。
すると都の庶民達は素直に賞賛した。
政治には責任のない者達なので、疑う事はしない。
それはもう、まるでお祭り騒ぎのよう。
「仙人様に触ってみたい」
「仙人様に病を治してもらいたい」
 嵩山の宋典からの詳細な報告が帝の元に届いたのは二日目であった。
 宋典は、嵩山に棲みついた怪しい者達を捕らえようと行動している最中、
傷付き倒れている者達を発見した。
その者達の風体は麓の村の言う、「怪しい者達」そのものであった。
彼等は嵩山の中腹のあちこちに倒れていた。
何れもが斬り倒されていた。
死傷者十二人。
軽傷者は一人もいない。
息をせぬ者か、虫の息の者ばかり。
 彼等が寝泊まりしていた天幕も見つけた。
大きいの、小さいの、合わせて六張り。
無人であった。
残っていた物品からは、彼等が何者であるのか分からなかった。
ただ、彼等の体付き、所持していた武器から、武の鍛錬を受けた者達である事は確か。
 問題は彼等を倒したのは何者なのか。
解明する為に捜索範囲を広げた。
すると、風通しの良い林の中に粗末な小屋を見つけた。
踏み込むと、その中に小柄な老人が倒れていた。
傍に血塗られた太刀が転がっていたが、老人は傷一つ負っていない。
おそらく多人数を相手にして疲労困憊したのであろう。
しかし、こんな小柄な老人一人で多人数を相手に出来るものだろうか。
加勢はどこに。
付近を探させたが、他には誰もいない。
気配も、痕跡もない。
疑問に思っていたが、老人の顔を見て、それが誰なのか思い出した。
 于吉であった。
徐州の人で、姓は于、名は吉。
先々帝、先帝にも宮殿に招聘された程の高名な仙人なのだが、
本人は、「道士」と言って譲らなかったとか。
 宋典は、于吉の衰弱が激しいので、とりあえず洛陽に運んで養生させ、
起き上がれるまでに回復してから、詳しく事情を聴取するそうだ。
一方、怪しい者達のうち七人が生き残っていたが、何れも虫の息。
手当をしても助かる見込みが全く無いそうなので、現場に放って置くそうだ。
 五日目に宋典が部隊を率いて戻ってきた。
当然、于吉を同道してのこと。
昏睡したままなので、馬車に寝かせていた。
物見高い庶民達の歓迎の出迎えで、王宮への大路が一時大混乱した。
一目でも仙人様を見ようと、押し合い圧し合いであった。
その中を宋典の部隊がヘロヘロになりながらも無事帰還した。
 于吉の身柄は、宋典の手から後宮の女官達に移された。
「危険な人物では無い」との判断と同時に、帝の意向でもあった。
帝が個人的に興味を覚えたのだ。
崇山で何があったのか。
于吉は仙人なのか、本人が言うように道士なのか。
そして、その人となりは。
 七日目にして、ようやく于吉が昏睡から目覚めた。
普通の食事が出来るようになり、喋れるまでに回復するのには、
もう少し時間がかかった。




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白銀の翼(洛陽)251

2013-07-14 08:27:59 | Weblog
 色白の男が目覚めた。
彼が上半身を起こすと、広い部屋の片隅に控えていた三人の若い宦官が、
摺り足で足音も立てずに傍近くに身を寄せ、手早く身支度を手伝う。
彼の背丈は高からず、低からず、
肉付きはいいが、ブヨブヨでもない。
その体躯は武人というよりは文人に近い。
 彼は先帝の子ではなかった。
先帝に継ぐべき男子がなかったので、彼が帝に擁立されたのだ。
彼は帝になってより、直接名前を呼ばれたことがない。
常に、「帝」とのみ呼ばれた。
 部屋の外には別の宦官六人が待機していて、
彼が出て来ると守るようにして人垣で取り囲む。
帝の傍近くに仕える者達は身に寸鉄を帯びぬのが決まり。
よって、宦官の中で徒手空拳の技に優れた者達ばかりが近習に選ばれた。
宏大な宮殿の、さらに奥深い後宮に敵の手が及ぶ筈はない。
手筈を整えた者達が心配していたのは、他の派閥の者が帝と内密に接触する事だ。
 一行が向かう先は、晴れているので、この後宮の中庭に設えられた離れ。
屋根付きの渡り廊下の先に、派手な色使いの離れが建てられていた。
二人が先行し、四方の窓を開け放つ。
 離れの中央には小綺麗な食卓があり、椅子は一つだけ。
ここは帝が建てさせたもの。
天気のいい日の食事はここで摂ることにしていた。
 帝が椅子に腰を下ろした。
朝日が食卓の上に差し込んでいた。
心地好い風が窓から入って来た。
餌で飼い慣らした栗鼠が窓辺から顔を出した。
同じく飼い慣らした小鳥も近くで囀っていた。
 帝なので待たされた。
暫くすると毒味を終えた物だけが、運ばれて来た。
冷えた飲み物に、冷えた食い物。
温かい物が欲しいのだが、先々帝が毒殺されていたので贅沢は言えない。
そんな彼を栗鼠や小鳥が慰める。
 かつては曹節という宦官が彼の傍に侍り、政治の実権を握っていた。
帝擁立に力があった者なので粗略には扱えなかった。
それに彼の側の事情もあった。
帝王学を学ぶ暇もなく帝に擁立された彼には、外戚や一族の有力者達よりは、
宮殿の力学に詳しい曹節の方が頼りになったのだ。
 その曹節はもういない。
嫉妬する者達に追い落とされることなく、美事に天寿を全うした。
 それでも、曹節亡き今も宦官達が政治の実権を握り続けている事に変わりはない。
張譲、趙忠の二人が率いる、「十常侍」と呼ばれる者達が権勢を振るっていた。
 その十常侍の一人、高望が転げるような急ぎ足でやって来た。
食卓の前で両膝ついて拱手をした。
朝早くから忙しいことだ。
「喜ばしい報せです」
 朝食の邪魔をするからには、相当の事なんだろう。
帝は手を止めた。
「何事だ」
 まるで我がことのように高望が報告した。
「嵩山に送り込んだ宋典が仙人を捕らえたそうです」
 宋典も十常侍の一人。
洛陽に近い嵩山に、
「このところ怪しい者達が棲みついた」との麓の村からの苦情で、
宋典が兵の一団を率いて向かったのだ。
「仙人を捕らえろとは申してないぞ」
「そうなのですが、本物なのかどうかを調べるために連行してくるそうです」
 宋典は宦官であるが、武人としても鍛えられていた。
馬にも乗れば、騎乗のまま弓も射る。
しかし、そんなに簡単に仙人が捕らえられるものだろうか。
「肝心の怪しい者達は」
「そちらの報告は届いておりません」




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白銀の翼(劉家の人々)250

2013-07-11 20:58:07 | Weblog
 途中の小川を渡り、幾つかの交差する道を東に走ったものの、
ついに関羽を見つけられなかった。
体調が回復して馬足を速めたのか、それとも別の道を選んだのか。
 迷っていると姫達に追いつかれてしまった。
麗華に問われた。
「遅かったみたいね。どうするの」
「どうしようか」
「しようがないわね、帰りましょう。
何時の日か、どこかで会えるわ」
 麗華の言葉に従うことにした。
引き返すマリリンを姫達が守るように取り囲んだ。
 舘へ戻る道すがら、麗華が話しかけてきた。
「虞姫の話だけど、当時の西楚の王都は数箇所あるのよ。
虞姫が戻った西楚の王都がどこなのか分かるかしら」
 マリリンはヒイラギに確かめてから麗華に答えた。
「知ってるわ。
この直ぐ北にある彭城が最後の王都だけど、あそこは王都というよりは、
中華全体を睨む要所よね。
兵を集めるにしても、出陣するにしても便利だわ。
西だと寿春が有名だけど、あそこは古い王都。
当時は寂れてたので、あまり使われてなかったわ。
陳は一時的な、通りすがりのような王都。
項羽は重要視してなかったみたい。
当の虞姫は長江を渡り、長沙に向かったのよ。
長沙の外れの丘陵に新しい宮殿を建てていたから。そうでしょう」
 麗華が笑顔を見せた。
「その通りよ。
虞姫が長沙に戻ったのは確かよ。
前漢の文書にも残っていたわ。
宮殿に貯えていた宝物を全て、家臣達に分け与えたそうよ」
 麗華はマリリンを試したらしい。
だからと言って怒る気にはなれない。
「その先は」
「それからが問題なのよ。はっきりしないの」
 林杏が言う。
「神樹の丘近くにあった石碑に言霊を植え付けたのは、虞姫以外には考えられない。
こんなに長い期間、言霊を生かして置けるなんて、只者じゃないからね。
だから長沙の後で、ここに来たことだけは確かよ」
 マリリンは思いついた事を口にした。
「だとすると手掛かりは子供になるわね。
どこで産んで、どこで育てたのか。
前漢の目を憚るけど、人が住める場所でないとね。
育てやすい場所で、前漢の目を気にしなくてよい場所となると・・・」
 林杏が応じた。
「中華の外に出るか、前漢の中に居場所を見つけたか」
 麗華が言う。
「誇り高い虞姫が中華の外に出るかしら。
たとえ子供の為とはいえ、それでは完全な負けでしょう」
 マリリンが問う。
「虞姫の実家はどうなの」
「合肥近郊の豪農で、方術師の家柄だったそうだけど、虞姫が姿を消したのに合わせて、
実家も姿を消したそうよ。
人をやって調べた方がいいのなら、誰か信頼できる者を送るけど。どうする」
 合肥は揚州にあり、近くを流れる淮河の恵みを受けた豊穣な土地でもある。
「昔のことだから、今さら人を送り込んでも、たいした収穫はないでしょう。
それより方術つながりで、何かないの」
「虞姫は占術も得意にしていたようだけど、それは目立つから隠していたでしょうね」
 マリリンは、「八方塞がりね」と口にし、別の可能性に気付いた。
「項羽の忠実な家臣団はどうなの。
最後を共にした者達もいたけど、虞姫に付けられた者達も大勢いたはずよ」




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白銀の翼(劉家の人々)249

2013-07-07 07:06:34 | Weblog
 マリリンを乗せた剛は、いつものように小川へ向かおうとした。
「今日も川遊び」と勘違いしているようだ。
慌てて鬣を掴む。
剛の耳元に、「東」と命じた。
言葉が通じる分けではない。
力業で手綱を引き絞り、東へ向かう道に誘導した。
それで剛も理解した。
素直に従う。
 事前に聞いた関羽の話しでは、東へ向かい、海岸沿いに北上するとか。
「ついでだから海というものを見てみたい」と関羽は言っていた。
内陸部育ちなので一度も海を見た事がないそうだ。
当然ながら内陸部には、海を知らずに死んで行く人間も大勢いた。
 しばらく走ると前方に砂煙が上がった。
騎馬の集団がこちらに向かって駆けて来た。
二十数騎。
遠目にも領邑の姫と守り役、騎兵の隊列と分かった。
関羽を見送っての帰りに違いない。
先方もマリリンと分かったのだろう。
隊列を止めて、中央をマリリンが通り抜けられるように開けた。
 マリリンが最接近すると姫達だけが隊列を離脱した。
マリリンを包み込むようにして、東へ引き返した。
守り役の女武者達や騎兵達は呆れ顔で黙ってそれを見送るだけ。
姫達が事前に何らかの強引を命令を下したのだろう。
想像はつく。
 マリリンは隣に馬首を並べた麗華に問う。
「いいのか、みんなを置き去りにして」
「あとでマリリンに内緒話があるから、それを聞かれたくないのよ」
 やはり。
例の一件に違いない。
なら仕方ない。
置き去りにされた者達が不審に思うだろうが、構ってはいられない。
 紅花が先頭に立った。
「急がないと関羽殿に会えないわよ」
 と言うことは、急げば会える距離。
予想通りに関羽は飲み過ぎで体調を落とし、ユルユルと進んでいるのだろう。 
 集落を二つ過ぎると、関羽の後ろ姿を見つけた。
彼は桂英に贈られた馬に乗っていた。
丈夫さを第一に選び、領邑で何かにつけて乗っていた馬だ。
 体調が悪くともマリリン達の接近に気付いたのだろう。
関羽が馬を止めて上半身だけで振り返った。
マリリンを認めると破顔した。
 関羽はマリリンが馬首を並べるのを待っていた。
「酔いはどうだ」
「キツイ」
「ああまでして飲んだのは初めてらしいな」
「これまで飲酒の習慣がなかったからね」
「まったく、どんな育ちなのか、想像がつかん。
大事に育てられたのは分かるが・・・。
早く記憶が戻ると良いな」
「ありがとう、心配してくれて」
 関羽が心配げな顔で問う。
「ところで、約束を覚えているか」
 なに・・・。
「約束・・・」
 何を、どこで、どんな約束をしたのだろう。
 関羽が残念そうな表情をした。
「これだから酔っぱらいは困る」
 聞いていた姫達が一斉に笑った。
桂華が含み笑いで関羽に言う。
「私達が後で思い出させます」
 関羽が姫達に、滑稽な顔で拱手をした。
「困った奴です。約束を忘れるとは。
姫様方、何とか思い出させてやって下さい。お願い致します」
 そしてマリリンを慈愛に溢れた目で見遣った。
「とりあえず、ここでお別れだ。
約束を何とかして思い出せ。
約束を承知なら、きっと、また会える」
 関羽は返事も聞かず、馬に鞭をくれた。
 追おうとしたマリリンを姫達が馬を並べて遮った。
「まだ話が」と抗議するも、姫達は一歩も退かない。
いつもはニコニコ顔の水晶までが真剣な表情を浮かべていた。
 麗華が冷たい声で脅す。
「関羽殿の背中が見えるうちに約束を思い出すのね」
 マリリンには彼女達の怒りが理解出来ない。
何を約束したというのだろう。
 見かねた林杏が、
「左の手首を見なさい。答えがあるわ」と、これまた冷たい口調。
 慌てて左手を手綱から離した。
手首の裏表を繁々と見た。
中ほどに真新しい傷が一つあった。
傷口から刃物傷と分かった。
いつのだろう。
覚えていない。
昨日・・・。
関羽の送別の宴前にはなかった。
と言うことは・・・。
宴席で怪我するほどに暴れたのか。
酒癖が悪いのか、ワタシは。
必死で宴席の記憶を辿る。
 思い出せないのでヒイラギを頼ることにした。
年中無休で自分の中に居候していて全てを見ている。
見落としは皆無の筈。
ねえ、ヒイラギ、
私、何か拙いことをしでかしたの、と。
 ところがヒイラギも冷たい。
「酔っていたとはいえ、大事な約束に変わりない。
自分で思い出すのが筋だろう」 
 意地悪しなくてもいいでしょう。
私達は一蓮托生、でしょう。
 脳内の色から、ヒイラギが苦り切っているのが分かった。
「しようがない奴だな。
大盃が赤く染まったのは覚えていないか」
 そう言われると・・・。
あれは・・・。
微かな記憶があった。
何杯目かの大盃が赤く染まった。
・・・関羽だった。
行き成りだった。
関羽が短剣で手首を軽く切った。
そして滴る血を大盃の白い濁り酒に垂らした。
 ようやくの事で関羽の言葉も思い出した。
「マリリン殿。義兄弟の契りを結びたい」
 酔っていた私は・・・。
酔っていた勢いで、いとも簡単に承知した。
隣席の麗華の短剣を借りて左の手首に浅く傷をつけ、垂れる血を大盃に落とした。
白い濁り酒が関羽と自分の血で赤く染まった。
それを二人して交互に飲み干した。
義兄弟の契り。
「我ら二人、マリリンと関羽は生まれし国、生まれし家、生まれし時は違えど、
ここに心を一つ同じくする」
 関羽が付け加えた。
「たとえどんな遠方にいようと、兄弟の危機と聞けば、万難を排して駆けつける」
 酔っぱらいの戯言では済まない。
関羽の性格からして、たとえ地球の裏側にいても、「マリリンの危機」と知れば、
万難を排して駆けつけて来るだろう。
 これでは劉備、張飛との、「桃園の誓い」が・・・。
 ヒイラギが気の毒そうに言う。
「お前の気持ちは分かる。
歴史に介入したくないのだろう。
しかし、サイは投げられた」
 犀なんて重いものを、この細腕で投げられる分けないでしょう。
ここはアフリカじゃないし、投げようにも肝心の犀がいないわ。
 姫達もマリリンの表情の移り変わりから、そうと察し、道を開けてくれた。
「早く行って」と麗華。
 すでに関羽の姿は視界からは消えていた。
それでもマリリンは諦めない。
嬉しさと罪悪感の入り混じった気持ちのまま、関羽を追う。
剛の首筋に軽く平手打ち。
「頼むわよ、追いついて」
 ヒイラギの言うように、「賽は投げられた」のかも知れない。




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白銀の翼(劉家の人々)248

2013-07-04 20:25:45 | Weblog
 マリリンは気怠い気分で目覚めた。
頭が痛い。
瞼が重い。
口内が酒臭い。
室内そのものからして酒臭い。
 ・・・。
思い出した。
宴席。
 関羽が領邑に別れを告げることが決まった。
北上しながら地方の状況を具に見てから、洛陽に戻るそうだ。
本人は直ぐさま旅立つつもりでいたらしいが、それを周囲が許さなかった。
 関羽の為に、三日前に市場で送別の宴が催された。
関羽と顔馴染みになった町の者達が宴席を用意したのだ。
驚いた事に、喧嘩したばかりの許褚一党も参加し、酒席を盛り上げた。
 二日前には兵舎で宴が催された。
兵士達にも慕われていた関羽の為に牛一頭が解体され、大勢が参集し飲み騒いだ。
 そして昨日は桂英が舘で宴を開いた。
三日目ともなると、酒豪の関羽も流石に酒浸りで弱っていた。
代わりに酒を浴びせられたのがマリリンであった。
これまでも醇包の勧めで夕食の席では飲んでいたが、それはほんの一、二杯。
付き合い程度であった。
しかし今回は姫達が悪乗りした。
「関羽殿の助っ人をしなさいよ」と。
秘密を共有している事情もあり、執拗な勧めをキッパリと断れなかった。
躊躇っていると関羽が最後の一押し。
「俺の代わりに」と大盃を差し出された。
 マリリンの逃げ道は閉ざされた。
場の空気を壊さぬ為に大盃を受け取るしかなかった。
その大盃に姫達が入れ替わり立ち替わり酒を注いだ。
玩具にされているのが分かった。
一口目は旨く感じたのだが・・・。
 そこまでは、しっかり覚えていた。
しかし、その後の事は不確かなうろ覚え。
何か拙い事をしでかしたような・・・気もした。
 マリリンが上半身を起こすと、陶涼の声がした。
「マリリン様、起きましたね」
 陶涼は目が見えない。
マリリンの動く気配を感じ取ったのだろう。
窓際の椅子から立ち上がり、慣れた足運びで傍に寄って来た。
 マリリンは窓を見た。
閉ざされているが、隙間から外が明るいのが分かった。
「身体が重い。寝過ぎたみたいね」
「ちょっと遅いですけど、まだ朝のうちです」
「私、酒臭くないかしら」
「大丈夫です。マリリン様は男なんですから、そのくらいは当たり前です」
 女児に言われてしまった。
喜んでいいのか、悲しんでいいのか。
 マリリンは関羽を思い出した。
「そうだ、関羽殿はどうしたの。もう発ったのかしら」
「はい、旅に出られました。
出られる前に、この部屋にいらっしゃってマリリン様を見舞われました」
「ここに・・・。
無様な姿を見られたわね。笑ってたでしょう」
「はい。次に会う時までに酒の修行を積むように、とのことです」
「次に・・・。会えればいいけど」と苦笑いしながらマリリンは床に足を着け、
「今から追いつけるかな」と問う。
「関羽殿は疲れている気配でした。
もしかすると、ユルユルと進まれているかも知れません」
「分かった、追うわ。見送らないとね」
 陶涼が嬉しそうに応じた。
「そうなるだろうと思い、兄が剛を玄関前に回して待っています」
 マリリンの愛馬、剛は気むずかしい性格で、知らぬ人間は寄せ付けない。
簡単に子供の陶洪に従うとは思えなかった。
身支度を手早く終えると、陶涼の手を引いて玄関に向かった。
 玄関の庭先に陶洪と剛を見つけた。
陶洪は草地に大の字になっていた。
衣服の乱れ具合から剛に手を焼かされたのが分かった。
それでも剛を連れて来たのだから立派なもの。
当の剛は素知らぬ顔をしていたが、マリリンに気付くと、嬉しそうに歩み寄って来た。
陶洪も剛の動きを見て、素早く起き上がった。
疲れている筈なのに、マリリンに笑顔を向けた。
「関羽殿を追いかけるのですね」
「そうよ、ありがとう。
剛は扱いにくかったでしょう」
「ちょっと手こずりました」
「馬の扱いは初めてなのよね」
「はい、見様見真似で遣ってみました」
「立派よ。
その気があるなら、次から剛の世話を頼もうかしら」
 陶洪が大いに喜ぶ。
「ほんとうですか」
「任せても良いわね」
「はい、喜んで」
 マリリンは陶涼を陶洪に預け、剛に騎乗した。
待ちかねていたのか、剛が嘶き、駆けだした。
勝手に舘を飛び出して行く。




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