金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)21

2024-04-14 11:23:10 | Weblog
 ベティ王妃とカトリーヌ明石中佐は亡き国王陛下の執務室にいた。
当然、二人だけではない。
室内に並べられたデスクで、側仕えの者達が書類仕事に勤しんでいた。
今回の件と、留守してる間に溜まった書類が山積みなのだ。
それぞれが担当の書類を取り上げ、一人格闘していた。
二人は皆の忙しそうな様子を横目に、同時に溜息をついた。
肝心の疑問点が解消しないのだ。
 首謀者の管領とその取り巻きが行方不明。
管領と繋がっていたと思われる庭師達も行方不明。
そのせいで解明の糸口に辿り着けない。

 カトリーヌの副官が言う。
「噂では伯爵殿が魔法を駆使し、遠くへ吹き飛ばしたと」
 それはカトリーヌも耳にしていた。
「噂でしょう」
「ええ、噂です。
でも全員が行方不明になる前に相手してたのは伯爵殿です。
行方不明になる直前ですよ。
おかしいと思いませんか」
 ベティが口を挟んだ。
「おかしいわよね。
でもね、鑑定で伯爵のスキルは調べ済みなの。
近衛の魔導師に密かに調べ上げさせたの。
優秀な子だけど、そこまでのスキルはないわ」

名前、ダンタルニャン佐藤。
種別、人間。
年齢、十一才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村生まれ、国都在住、美濃地方寄親伯爵。
職業、伯爵、岐阜と木曽の領主、冒険者、幼年学校生徒。
ランク、C。
HP、115。
MP、75。
スキル、弓士☆☆、探知☆、鑑定☆、光魔法☆、身体強化☆」

 それはカトリーヌも承知のこと。
「私も近くにいた近衛兵に確認したわ。
あの時、伯爵が詠唱したかどうか。
誰も聞いてないそうよ。
素振りもなかったって」
 しかし副官は納得しない。
「あの方、『白銀のジョナサン』の直系ですよ」
「ああ、それね。
直系だけど、それだけで疑うのはね、・・・」
 
 埒が明かない。
ベティは近くにいた侍従に尋ねた。
「貴方はどう思うの」
 彼はペンを走らせながら、一方では遣り取りに耳を傾けていた。
困ったように顔を上げた。
渋々感を漂わせながら口を開いた。
「あの方は年齢の割に、優秀であると同時に決断の出来る方です。
疑いを捨て、お味方である事を喜ぶべきではないでしょうか」
「疑っている訳ではないのよ。
彼ではなく、管領達の行方不明が気になって仕方ないの」
 ベティは彼の同僚に視線を転じた。
その者が目を逸らそうとした。
ベティは逃さない。
「貴方は」
「行方不明の者達の事は忘れて次に進むべきではないか、
臣はそう申し上げる言葉しか持ち合わせおりません」 

 最高権力者は国王であるが、政は国王のみでは円滑に進められない。
決定事項でも、古よりの血縁地縁、忠誠心、利権、猜疑心等により、
複雑な歪みを生じ、時として長期の停滞を齎すからだ。
これを解決するのが侯爵家にて構成される評定衆。
彼等が所属する派閥の力学を通して物事を進めのが最も手早いのだ。
 ベティは国王亡き今、身分は元王妃、そして嫡子の保護者、所謂代人。
イヴが成人していないので、その代人として権力を掌握していた。
その権限で今回も、評定衆の月番の侯爵に面会を求めた。
国王ですら評定衆の会合には臨席がせいぜいで、発言権もなければ、
議決に参加する事も求められていない。
もっとも、その程度ではベティは臆しない。
わざと厚顔無恥を装い、何度も臨席し、無言の圧力を加えた。
人事権を握っているのが大きい。
加えて中間派閥を率いていた。
管領を失っても彼等の支持までは失っていない。

 今月の月番はバート斎藤侯爵。
元は美濃の寄親伯爵。
彼は木曽大樹海の魔物の大移動、
所謂スタンピードを阻止した功績で陞爵した。
嫡男に寄親伯爵位を譲り、彼は住まいを国都に移した。
その嫡男が失墜した。
ところが余波は彼には及ばなかった。
スタンピードを共に阻止したレオン織田を抱えている事が影響した。
彼の娘婿でゴーレム製造の第一人者。
レオンが実父より彼を慕っている事情から、
嫡男と共に断罪する声は上がらなかった。

 ベティはバートの屋敷を訪れた。
勿論非公式なので、無印の箱馬車だ。
ただ、近衛の女性騎士の多さでそれとなく分からせた。
大切なのは非公式でも、権力のありか明示すること。
その一点にベティは拘った。
ただ、襲撃が予想される場合は別だが。
 ベティはカトリーヌ明石中佐のエスコートでベティが下車した。
バート自らが出迎え、如才のない挨拶をした。
「ようこそお出で下さいました。
家人一同うち揃って歓迎いたします」
「ありがとう、お邪魔するわね」

 屋敷奥の応接室に案内された。
内密の会合に用いる部屋だ。
魔道具で遮断されているので、会話が外に漏れるおそれはない。
それでも念を入れて屋敷の各所に近衛が配された。
 バートがベティを上座に案内した。
自らは下座に腰を下ろした。
メイド達がワゴンを押して入室して来た。
主役二人の前にモンブランと珈琲が置かれた。
砂糖とミルクが添えられた。
 ベティの場合は毒見はいらない。
自身も鑑定スキル持ちだが、お付きの近衛も鑑定スキル持ち。
ダブルで鑑定。
互いに顔を見合わせ、頷いた。
無害。

 バートがモンブランを勧めた。
「ケーキもどうぞ」
 自信があるのだろう。
珈琲で口を潤したベティは応じた。
「この時期、モンブランは季節外れよね」
「瓶詰ですよ。
味は季節物と変わらぬ筈です」
「そう」
 モンブランを口にして驚いた。
「後宮の厨房で季節に出す物と変わらぬ味ね。
美味しいわ。
どこの瓶詰かしら」
 バートが嬉しそうに微笑む。
「美濃に伝手が残っておりますので、そこで作らせております」
 これにベティが驚いた。
「聞いてないわよ」
 後ろに控えているカトリーヌを振り返った。
すると彼女は首を横にした。
「私も初耳です」
 これにバートがますます喜ぶ。
「驚いて頂いて嬉しいですね。
全量買い取りです。
これは美濃のお代官様の耳には入れております。
ですから、何の問題も御座いません」

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