11月3日のwowowは「三谷幸喜の日」でした。
映画論や舞台のミニ講座を間に挟み、朝から三谷作品の連続放送だったのです。もちろん全作品と言うわけではありませんが見ていない作品もあったので、朝から観ていました。
この記事の前の感想を書いた「ベッチ・パードン」はその中のひとつです。
観てなかった作品に「笑の大学」と言う映画がありました。これ、前から見たかったのですよね。この作品の前にも三谷氏のミニ講座がありました。映画と演劇の違い。
演劇は、お客さんの反応を即受け取ることが出来て、その反応が良いと演じる側もボルテージが上がり思いがけない結果がでると言っていました。凄く分かります、それ。舞台は観客と共に作っていくものなんですよね。
横道に逸れますが、三谷氏の作品ではありませんが、一昨年「黙阿弥オペラ」は東京と山形の二箇所で観ることが出来ました。東京でもみんな笑いましたが、山形と比べると大人しめ。しんみりするシーンではより一層シミジミし涙がこぼれました。ところが山形では爆笑度二倍。いい意味でですが俳優さんたちもリラックスした軽さを見せ、コメディ色が強くなったように感じました。同じ作品なのに違う顔を見せる不思議さが、舞台にはあるのですね。
話を元に戻しますが、映画に先駆けて、舞台の「笑の大学」の一部が流されました。この日のお客さんの反応が頗る良くて、練習の時には思いもよらなかった予想外の良い演技を二人がしたと、三谷さんは言ったのです。この二人と言うのは、西村雅彦さんと近藤芳正さんの事で、12月にやる「90ミニッツ」は「笑の大学」から実に15年ぶりの二人芝居になるというわけなのです。しかも今回は笑いを封印しての緊迫したセリフの応酬劇だそうです。
出来たら、これもいつかwowowでやってもらいたいなあと言うのが本音です。
元に戻した話も、まだ横道に逸れていました。
演劇と映画の違い。
映画は、観る観客の反応を先に予想しながら作るもの。
ここできっと観客が沸くなと、実際には見ていない反応を想像しながら、役者は演じ作り手は作っていくのが映画だと言うもの。
そして同じ作品の映画版の同じシーンが流れました。
西村さんは、観客の沸く声を聞きながらテンションを上げ、観客は西村さんが役の上で想像してみているものを同じように想像して見る。だけど役所さんには観客の声は聞こえない。観客の声を想像しながら演じている。観客は時下には声を届ける事は出来ないが、役所さんが役の上で想像しているものを想像するまでもなく映像で見る事が出来る。
誰が何を想像するのかと言う違いがあるのだなと、二つの映像を見比べて、私はそう感じました。
そして見た「笑の大学」。
期待通りの良い作品でした。でもこの映画の前の一瞬だけ見たお芝居の「笑の大学」の西村雅彦さんと近藤芳正さんのシーンが、頭の中にこびりついて剥がれません。
映画にしても結構評価の高い三谷作品だと思いますが、私は映画より舞台の方が作品との相性が良いのかしらとふと思ってしまいました。彼の作品はセリフの応酬に限りのない魅力があると思うのですね。拾いきれないほど、一つ一つのセリフが生きていて、舞台などを見ていると良いなと感じます。どうも映画の演出も舞台チックな感じがしてしまうのですが、どうなのでしょうか。まあ、一概には言えないかもしれません。シナリオだけの映画など好きな作品が結構ありますから(「マルタイの女」や「竜馬と妻とその夫と愛人」とか)
次に見たのは、やはり未見だった「みんなのいえ」。普通に面白かったです。
だけど、この物語で映画を作ってしまうのかと不思議に感じました。1800円を払ってみた人はどんな感想を持ったんだろうかとちょっとだけ思ってしまいました。
ドラマに関しては、論じられるほどの作品を見ていないように思います。
もちろん大好きな作品は多数です。
「我が家の歴史」なんて大好きです。何回見ても飽きないのです。「新撰組!」の沖田総司最後のシーンは、神がかりな回だったと思います(アレも舞台っぽいよね♪)
もちろん「古畑任三郎」を忘れたわけではありませんが、私が三谷氏の名前を意識したのは「王様のレストラン」だったと思います。
なんて面白い作品を書く人なんだろう。もうこの人が大好き。何だ「古畑」を書いた人だったのか。どうりで面白いと思ったわ。と言う感じです。
でもこの作品を書いているときに、三谷氏は、ある日凄いスランプになり、もう一行も書けない、もうペンを折ろうと言う気持ちになってしまったと言うエピソードを、NHKのトーク番組でも、このWOWOWのミニ講座でも語りました。だけど書けないまま朝が来て、その時テレビで早朝に遣っていたのがNHKの海外ドラマで「ミスター・ビーン」。余りの面白さに声を出して笑ってしまったという三谷氏。
こんな時にも笑ってしまうんだなと、笑いの力を感じたと言うもの。
あのドラマの裏側では、もうひとつのドラマも展開していたのかと思うと感慨の深いものがあります。
そしてwowowで放送された「Short cut」は凄いチャレンジであったと思います。
一度もカメラを止めない「完全ワンシーン・ワンカット」。
まるで移動する舞台じゃないですか。
何と言うチャレンジャー。
しかも舞台のように反応は返ってこない・・・
そこの部分は映画と一緒。
作り手の緊張感はハンパではなかったと思います。終わった後、中井貴一氏は、格闘技を終えたような気持ちと言っていましたから。
その気持ち、凄くわかります。物語と解説は、いつまでもその文があるのか分かりませんので、下の方にWOWOWのHPに載っていたものを再掲させていただきました。
物語も面白かったです。
ここまで夫婦として破綻していなくても、ちょっと中弛みの中年夫婦には痛いセリフが多数です。
「あなたは私に興味がないものね。」
「そんな事ないよ。」
興味がないわけではないけれど、都合の良い所しか見ていない。そんな事ありますよね。
森に入っていく前に、夫に分からないようにそっと指輪を外すと言う演出などさりげない気持ちの表現も良かったです。
ヘラヘラしている中井貴一。
人の話を聞かない、ちょっと野生児、鈴木京香。
それから出演者はもう一人、梶原善のみ。
特に中井貴一、鈴木京香、よくやるなあと感心してしまいました。なんたって美男美女なのに・・・・
「ジャンボリ~。じゃんぼり、じゃんぼり~♪あははははははは♪」
もう耳に残ってしまいました。
「こっちの方が近道なのよ。」
入り込んだ森の道は、国道までは結局は近道にはならなかったかもしれませんが、離れてしまった夫婦の距離を縮める事になったと言うお話だったのでしょうか。
時には横道にそれると言う事も大切ですよと言うメッセージもあったかもですね。
と言うわけで、「三谷幸喜」の日を堪能させていただきましたが、私は彼の書いた物を読んだ事がないので、今度はそう言う分野も楽しみにしたいかなと思います。新作「清須」もしくは「KIYOSU」はいつ出るのでしょうね。
- 「一度もカメラを止めない「完全ワンシーン・ワンカット」で制作される三谷幸喜脚本・監督の長編ドラマ。山道に迷い込んだ夫婦が、口げんかをする中で互いを理解していく。
生誕50周年の「大感謝祭」として意欲的な創作を続ける三谷幸喜の、自身初となるテレビドラマ監督作が登場!なんといっても注目は、その撮影手法だ。長編 ドラマとして前代未聞の「完全ワンシーン・ワンカット」。ドラマの始まりから終わりまで、一度もカメラを止めずに撮影するという画期的な手法に挑む。撮影 場所は険しい山道。そんな過酷な環境で、NGの許されないワンシーン・ワンカットにのぞむのは、実力派俳優の中井貴一、鈴木京香、梶原善の三人。中井と鈴 木が演じる夫婦の会話を通し、笑いとほんのちょっとの涙の中に「夫婦とは何か」「人生とは何か」を問う。
<ストーリー>
男はエリートサラリーマン。女はその妻で広告会社勤務のキャリアウーマン。二人は結婚して10年。お互い仕事が忙しく、すでに夫婦関係は完全に冷め切って いる。妻の祖父の葬儀の帰り、山道に迷い込んだ二人。周囲に誰もいない山奥で、気兼ねなくののしり合う喪服姿の夫婦。果てしない口げんかの末、徐々に二人 の関係に変化が訪れる。」