対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

2組のペアと2組のトリオ――もうひとつの内的類似性

2008-05-04 | 案内

 アインシュタインは「自伝ノート」(金子務編訳『未知への旅立ち』所収 小学館1991)のなかで、ファラデーとマックスウエルのペアとガリレオとニュートンのペアの内的な類似に注意を喚起している。この指摘はわたしの試みを勇気づけてくれるもののように思われる。

 大学生だった当時、私がもっとも魅了されていた対象は、マックスウェルの理論であった。この理論を革命的にみせたものは何かといえば、遠隔作用の力をやめて、場を基本的な量として導入した点であった。光学を電磁気学の理論に組み入れたこと、すなわち光速度を電磁気的な絶対単位系と関係づけ、および屈折率を誘電率に関係づけ、物体の反射率と金属の伝導率を定性的に関係づけたこと――これらは、まるで天の啓示のごときものであった。場の理論への移行、すなわち基本法則を微分方程式であらわすことを別にすれば、マックスウェルに必要だったのはただ一つの仮説的な措置――真空中と誘電体中の変位電流とそれの及ぼす磁気作用の導入――だけであった。これは、微分方程式の形式的特性からほぼ予測されていた改良である。これに関連して私は、ファラデーとマックスウェルのペアが、ガリレオとニュートンのペアと奇妙なほど内的に類似しているというコメントをせずにはいられない。つまり、ファラデーとガリレオは、ものごとの関係を直観的に理解し、マックスウェルとニュートンはそれを正確に定式化し、定量的に応用しているのである。

 アインシュタインが二つのペアに見た内的な類似とは、ものごとのの関係の直観的な理解からその正確な定式化・定量的な把握という認識過程であった。

 わたしは、2組のペアのそれぞれにアンペールとケプラーをつけ加えた2組のトリオに着目してきた。すなわち、アンペール・ファラデー・マクスウェルのトリオとケプラー・ガリレオ・ニュートンのトリオである。

 そして、この2組のトリオは、内的に類似していると考えてきた。すなわち、2組のトリオに、弁証法を見てきたのである。この弁証法は、ヘーゲル弁証法や唯物弁証法ではなく、わたしが提唱している複合論のことである。

   ε と μ の複合 ――マクスウェルの弁証法

「マクスウェルの電磁気学」は、マクスウェルがアンペールの電気の磁気作用の法則とファラデーの電磁誘導の法則を選択し、混成し、統一することによって、形成した「論理的なもの」である。

   ニュートン力学の形成と弁証法 

「ニュートン力学」は、ニュートンが ケプラーの惑星の法則とガリレイの落体の法則を選択し、混成し、統一することによって、形成した「論理的なもの」である。

 2組のトリオ(アンペール・ファラデー・マクスウェルとケプラー・ガリレオ・ニュートン)は、2組のペア(ファラデー・マクスウェルとガリレオ・ニュートン)の内的な類似を包んでいるのではないかと思う。

 「ε と μ の複合」に少し手を加えて、「ε と μ の複合 ――マクスウェルの弁証法」とした。アインシュタインがマクスウェルの核心と考える「真空中と誘電体中の変位電流とそれの及ぼす磁気作用の導入」というのは、複合論(新しい弁証法の理論)では、混成モメントの形成に対応している。これは、アンペールの自己表出(回転的な場の出現)とファラデーの指示表出(場の変化)が結合したもので、一つの微分方程式(変化する電場は回転的な磁場を生み出すことをしめす)で表される。この方程式は、ものごとのの関係の直観的な理解からその正確な定式化・定量的な把握という認識過程の一段階にあると考えられるだろう。


楕円と弁証法2007

2007-12-29 | 案内
 今年(2007年)書いた「対話とモノローグ」の記事から、6つを選び、「弁証法試論」への導入とした。
 目次は次のようになっている。
  1 楕円と弁証法
  2 悟性の二重性
  3 連立と複合
  4 マクスウェルの弁証法
  5 踊るのか、跳ぶのか
  6 対幻想

     楕円と弁証法2007




マルクスもうひとつの弁証法

2007-10-27 | 案内

 堀江忠雄はマルクスの「貨幣の資本への転化」には、3つの誤りがあると指摘している。これがきっかけになった。「貨幣の資本への転化」(『資本論』)を検討してみようと思ったのである。

 「弁証法試論」補論13として、『マルクスもうひとつの弁証法――「貨幣の資本への転化」について』をまとめた。
 
 目次は、次のようになっている。

  0 はじめに
  1 マルクスの問題設定と解答
  2 3つの誤りがある
  3 ヘーゲルとマルクスの弁証法
  4 流通部面は買いだけでよい
  5 資本は産業資本だけである
  6 剰余労働はいつでもあった
  7 「虚偽」について
  8 マルクスもうひとつの弁証法

 マルクスもうひとつの弁証法――「貨幣の資本への転化」について

 マルクスの「貨幣の資本への転化」は、リカードの労働価値説とヘーゲル弁証法を複合する試みとして読むことができる。この複合する試みそのものが弁証法である。マルクスがおこなった複合において、「貨幣の資本への転化」の全過程は、すこしだけ縮んでいる。ここにヘーゲル弁証法の制約をみることができる。矛盾の論理としての弁証法は否定されるべきである。

 参考文献

  堀江忠雄『マルクス経済学と現実』学文社 1979年
  堀江忠雄『弁証法経済学批判』早稲田大学出版部 1975年
  マルクス/大内兵衛・細川嘉六監訳『資本論』大月書店 1968年
  吉田憲夫『資本論の思想』情況出版株式会社 1995年
  伊藤誠『『資本論』を読む』講談社学術文庫 2006年
  柄谷行人『マルクスその可能性の中心』講談社 1978年
  久留間鮫造ら『資本論辞典』青木書店 1966年
  廣松渉編『資本論を物象化論を視軸にして読む』岩波書店 1986年
  リカードウ/羽鳥・吉澤訳『経済学および課税の原理』岩波文庫 1987年
  ローゼンベルグ/副島種典・宇高基輔訳『資本論註解』青木書店 1962年


使わない弁証法

2007-07-08 | 案内

 田坂広志は『使える弁証法』(東洋経済新報社 2005年)で、「割り切らない」ということ強調している。そのためもあってか、田坂の弁証法には、「矛盾」と「対話」が同居しているようである。

 わたしは、ヘーゲルの弁証法(「矛盾」と「止揚」)に対して、複合論(「対話」と「止揚」)を提起している。矛盾律を前提にして弁証法を考えているのである。そして「矛盾」と「弁証法」は無関係であると主張している。ようするに、田坂の弁証法とは違っているのである。わたしは、「矛盾」と「対話」の関係について、「割り切り」を実行していることになる。

 〈「割り切り」とは、魂の弱さである〉という亀井勝一郎を引用してまで、田坂広志は、「割り切り」の価値を低く見ている。しかし、「割り切らない」弁証法は、ほんとうに使えるのだろうか。使えるのかもしれない。しかし、わたしは使わない。

 「弁証法試論」補論12として、「正反合から正々反合へ」をまとめた。

 目次は次のようになっている。

  はじめに 正反合の図式
  1 対話と正反合
  2 正反合と「論理的なものの三側面」
  3 「論理的なものの三側面」の再構成
  4 「正々反合」による思考の深化
  5 「正々反合」の図式

   「々」が、あるのとないのとでは大違い。

   正反合から正々反合へ


スフィンクスの謎と弁証法

2007-06-10 | 案内

 スフィンクスの謎。「朝は四本足、昼になると二本の足となり、夜には三本足となるものとはなにか?」その答え。「人間。人間は赤ん坊のとき這って歩くので四本足、大きくなると立ち上がって二本足、老いては杖をついて三本足で歩く。」これは幼いころから知っていた表現である。オリジナルはどのような表現だったのだろうか。気になって調べてみた。スフィンクスの謎と弁証法が結びつきそうな気がしていたのである。

 「弁証法試論」補論11として、「スフィンクスの謎と弁証法の構造」をまとめた。

 目次は、次のようになっている。

   はじめに  
   1 スフィンクスの謎
   2 弁証法の構造
   3 「4―2―3」という進展の形式
   4 「4―2―3」の例――電磁波の存在
   5 新しいスフィンクスの謎とその答え

 「スフィンクスの謎と弁証法の構造

一つの声をもち、二つ足にしてまた四つ足にしてまた三つ足なるものが
地上にある。
それがもっとも多くの足に支えられて歩くときに、
その肢体の力はもっとも弱く、その速さはもっとも遅い。

おまえがいうのは弁証法、地を這うときは
腹から生まれたばかりの四つの自己表出と指示表出。
時が経ち、二つの混成モメントが立ち上がる。
時が満ちれば、三つ目の「論理的なもの」で身を支え、
重い首をもたげ、老いた背を曲げる。

   参考文献

    ソポクレス・藤沢令夫訳「オイディプス王」 岩波文庫 1967年
    川島重成「『オイディープス王』を読む」講談社学術文庫 1996年


「弁証法試論」補論10への案内

2007-05-13 | 案内

 「弁証法試論」補論10として「ラボアジェの燃焼理論と唯物弁証法」をまとめた。目次は次のようになっている。

   はじめに
   1 エンゲルスの説明
   2 歴史のなかのラボアジェ
   3 ラボアジェと唯物弁証法

 エンゲルスは、ヘーゲル弁証法と合理的弁証法の関係を、燃焼理論におけるフロギストン説とラボアジェ説の関係で説明している。エンゲルスはラボアジェ説に合理的弁証法を見ているのである。しかし、ラボアジェ説を検討してみると、それは「燃素」(フロギストン)とは異なるが「熱素」という「実体」と不可分な理論であることがわかる。
 エンゲルスが『反デューリング論』で示したヘーゲル弁証法と合理的弁証法の説明を利用して、唯物弁証法と複合論の違いを明確にした。

   「ラボアジェの燃焼理論と唯物弁証法

 「燃焼理論において、撚素や熱素が歴史のエピソードになったのと同じように、弁証法の理論において、弁証法と矛盾の関係は、いずれ歴史のエピソードになるだろう」(喜一郎)


「弁証法2000」への案内

2007-01-21 | 案内

 「弁証法2000」とは、『もうひとつのパスカルの原理』(文芸社 2000年)に見られる弁証法を指している。

 『もうひとつのパスカルの原理』は創造活動の理論をテーマにしているが、もうひとつの弁証法の理論でもある。この理論を取り上げてみた。

 2000年の時点で、わたしは「論理的なものの三側面」を克服していない。

 もうひとつのパスカルの原理、いいかえれば複素過程論の弁証法は、ヘーゲル弁証法と非ヘーゲル的弁証法の過渡的な形を示している。

 「弁証法試論」の補論8として、「弁証法2000」をまとめた。

 目次は次のようになっている。

    はじめに

   1 モメントの構成の違い

   2 共時的な構造

   3 複素過程論のモメントの形成

   4 複合論のモメントの構成

        弁証法2000


双子の微笑2006

2006-12-24 | 案内
 今年(2006)書いたブログ「対話とモノローグ」の記事から、6つを選び、「弁証法試論」への導入とした。
 目次は次のようになっている。
   1 双子の微笑
   2 アンチとヘテロとパラ
   3 ひらがな弁証法
   4 新しい弁証法的精神
   5 「対立物の相互浸透」のゆくえ
   6 弁証法の理想型と現実型

   双子の微笑2006


「主な著作」の復元(ウィキペディア「ヘーゲル」)

2006-12-02 | 案内

 ウィキペディアに投稿する「許萬元」の原稿をまとめていたとき、「ヘーゲル」のなかの「主な著作」の投稿者が、高く許萬元を評価しているのを知った。

 「ヘーゲル論理学の研究」の項で、マルクス・エンゲルス・レーニンの古典に並べて、許萬元の三部作(『ヘーゲルにおける現実性と概念的把握の論理』『ヘーゲル弁証法の本質』『認識論としての弁証法』)を紹介していたのである。

 その投稿者の「不朽の名著」という許萬元の評価は、すでに「本文」にはないもので、「履歴」の中から拾い上げたものである。

 「主な著作」は、今年(2006年)の9月下旬、トラブルに巻き込まれていた。投稿者の翻訳書や研究書についての批評が「個人的見解」という理由で勝手に削除されてしまったのである。いろんな人がいるのだなあと思う。

 しかし、このトラブルのおかげで、わたしたちは一つ、ブログを見られるようになったのである。

    国語辞書・マクシコン 

 いま(2006年12月2日)、「主な著作」を見ると、ただ「著作」が並んでいるだけである。また、「ヘーゲル論理学の研究」の項がなくなっている。当然ながら、わたしがクリックした許萬元のリンクもなくなっている。削除する必要があったのだろうか。

   「許萬元の弁証法

 「主な著作」の項目はいずれなくなるかもしれない。
 
 「主な著作」は、次のようだった。「個人的見解」である。

    ヘーゲル(邦訳とヘーゲル研究)1
 
    ヘーゲル(邦訳とヘーゲル研究)2
 


「正方形の複合」への案内

2006-03-21 | 案内

 九鬼周造は、円を使って、三つの様相性の体系を図示している。しかし、円では、対当関係の核心は十分に把握できないのではないか。九鬼の幾何学的精神に対抗して、直線と正方形を使って、様相性の体系の図示を試みる。

 「弁証法試論」の補論7として、「正方形の複合」をまとめた。

 目次は次のようになっている。

  はじめに

  1 円のなかの様相

  2 直線上の対当関係

  3 直線上の様相

  4 正方形のなかの様相

  「弁証法試論」

  「弁証法試論」 補論7  「正方形の複合」