2年前にある程度まとめたのだが,ベクトル三重積について補足しておく。
【スカラー三重積がベクトルのサイクリックな置き換えに関して不変であること】
まず,2つのベクトル a と b の外積について,
a・(a×b)=0
であることを認めると,
(a+b)・((a+b)×c)=0
である。ところが,左辺を展開すると
(a+b)・(a×c+b×c)
=a・(a×c)+a・(b×c)+b・(a×c)+b・(b×c)
=a・(b×c)+b・(a×c)
となるので,b・(a×c)=-b・(c×a) であることに注意して,
a・(b×c)=b・(c×a)
という,スカラー三重積の重要な性質が導かれる。
この議論は,以前にまとめたときに参照した B. Walsh の論文の他,僕が学部生時代に出会った思い出深いテキスト
P. チャドウィック (Chadwick),連続体力学,ブレイン図書出版株式会社
の p.3 にも見られる。
【ベクトル三重積の展開公式について】
2つのベクトル a と b とが1次独立であることの必要十分条件は a×b≠0 であることは認めるものとする。
(i) b と c とが1次従属であれば,b×c=0 であり,さらにあるベクトル d とスカラー s, t を用いて b=sd, c=td と表せるから,
a×(b×c)=0,
(a・c)b-(a・b)c=ts(a・d)-st(a・d)=0
となる。したがって,この場合には
a×(b×c)=(a・c)b-(a・b)c
が成り立っている。
(ii) b と c とが1次独立であるとき,b, c, b×c は1次独立である。なぜならば,
sb+tc+rb×c=0
を満たすスカラー s, t, r について,まず両辺と b×c との内積を考えれば
0+0+r|b×c|2=0
となるが,b と c とは1次独立であるため b×c≠0 であり,したがって r=0 でなければならない。その結果,s と t は
sb+tc=0
を満たすスカラーであることになるが,再び b と c とが1次独立であるという仮定により s=t=0 を得るからである。
このように,b, c, b×c は3次元のベクトル空間における基底になっているので,
a×(b×c)=xb+yc+zb×c
と表せる。
この両辺に b×c を内積すると,先ほどと同様に z=0 であることがわかる。
さらに両辺と a との内積をとることにより,
x(a・b)+y(a・c)=0
が得られる。したがって,ある実数 w を用いて
x=u(a・c),
y=-u(a・b)
と表すことができる。
ここまでの議論は
アルフケン,ウェーバー,ベクトル・テンソルと行列(基礎物理数学第4巻),講談社
の1.5節にも見られる。同書では u=1 であることを示すのに
a×(b×c)=u{(a・c)b-(a・b)c}
の両辺の大きさを比較している。
僕が以前考えたのは,左辺と右辺の第1成分を比較して u=1 を示すという中途半端なものだったように思う。
それらに比べて簡明というわけではないが,次のような議論を新たに考案した。それを述べるにはさらなる準備が必要となる。
2つのベクトル a と b について,a×(a×b) の展開公式をまず用意する。これはベクトル三重積の特別なケースである。
a と b とが1次従属ならばこれは 0 である。
a と b とが1次独立であるとき,a, b, a×b は1次独立であって,
a×(a×b)=sa+tb+ra×b
となる。この両辺と a との内積をとれば
s|a|2+t(a・b)=0
となる。また,
b との内積により,スカラー三重積の性質を用いて左辺を
b・{a×(a×b)}=(a×b)・(b×a)=-|a×b|2
と変形すれば
s(a・b)+t|b|2=-|a×b|2,
を得る。最後にa×b との内積により r=0 がわかる。
これらのうち第1式により,ある実数 p を用いて
s=p(a・b),
t=-p|a|2
と表せるから,これを第2式に代入して
p{(a・b)2-|a|2|b|2}=-|a×b|2
となる。ところが,ベクトルの内積と外積の大きさに関する三平方の関係により,かっこ { } の中身は -|a×b|2 に等しく,仮定によりこれは 0 ではないから p=1 であることがわかる。
以上により,a と b とが1次独立であるとき,
a×(a×b)=(a・b)a-|a|2b
が成り立つことがわかった。この式は a と b とが1次従属であるときにも成り立つので,a と b とは任意のベクトルで構わない。
これで準備は整った。この等式の a を a+b,b を c と書換えた
(a+b)×{(a+b)×c}=((a+b)・c)(a+b)-|a+b|2c
の両辺を展開し,さらに a×(a×c) なども同じ公式で展開した上で整理すると,最終的に
a×(b×c)+b×(a×c)=(a・c)b+(b・c)a-2(a・b)c
という等式にたどり着く。
この両辺に b を内積すると
b・{a×(b×c)}=(a・c)|b|2-(a・b)(b・c)
となるが,左辺は
b・[u{(a・c)b-(a・b)c}]=u{(a・c)|b|2-(a・b)(b・c)}
であるから,u=1 であろうと予想される。
・・・と,ここまで書いてきて,最後の詰めが甘いことに気が付いた。
(a・c)|b|2-(a・b)(b・c)≠0
であれば u=1 であることが確定するが,これが 0 であると困ってしまう。
むむー,それはもう少し考えないとわからないなぁ。
というわけで,ぐだぐだになってしまったが,ここらでひとまず筆を擱くとしよう。
【スカラー三重積がベクトルのサイクリックな置き換えに関して不変であること】
まず,2つのベクトル a と b の外積について,
a・(a×b)=0
であることを認めると,
(a+b)・((a+b)×c)=0
である。ところが,左辺を展開すると
(a+b)・(a×c+b×c)
=a・(a×c)+a・(b×c)+b・(a×c)+b・(b×c)
=a・(b×c)+b・(a×c)
となるので,b・(a×c)=-b・(c×a) であることに注意して,
a・(b×c)=b・(c×a)
という,スカラー三重積の重要な性質が導かれる。
この議論は,以前にまとめたときに参照した B. Walsh の論文の他,僕が学部生時代に出会った思い出深いテキスト
P. チャドウィック (Chadwick),連続体力学,ブレイン図書出版株式会社
の p.3 にも見られる。
【ベクトル三重積の展開公式について】
2つのベクトル a と b とが1次独立であることの必要十分条件は a×b≠0 であることは認めるものとする。
(i) b と c とが1次従属であれば,b×c=0 であり,さらにあるベクトル d とスカラー s, t を用いて b=sd, c=td と表せるから,
a×(b×c)=0,
(a・c)b-(a・b)c=ts(a・d)-st(a・d)=0
となる。したがって,この場合には
a×(b×c)=(a・c)b-(a・b)c
が成り立っている。
(ii) b と c とが1次独立であるとき,b, c, b×c は1次独立である。なぜならば,
sb+tc+rb×c=0
を満たすスカラー s, t, r について,まず両辺と b×c との内積を考えれば
0+0+r|b×c|2=0
となるが,b と c とは1次独立であるため b×c≠0 であり,したがって r=0 でなければならない。その結果,s と t は
sb+tc=0
を満たすスカラーであることになるが,再び b と c とが1次独立であるという仮定により s=t=0 を得るからである。
このように,b, c, b×c は3次元のベクトル空間における基底になっているので,
a×(b×c)=xb+yc+zb×c
と表せる。
この両辺に b×c を内積すると,先ほどと同様に z=0 であることがわかる。
さらに両辺と a との内積をとることにより,
x(a・b)+y(a・c)=0
が得られる。したがって,ある実数 w を用いて
x=u(a・c),
y=-u(a・b)
と表すことができる。
ここまでの議論は
アルフケン,ウェーバー,ベクトル・テンソルと行列(基礎物理数学第4巻),講談社
の1.5節にも見られる。同書では u=1 であることを示すのに
a×(b×c)=u{(a・c)b-(a・b)c}
の両辺の大きさを比較している。
僕が以前考えたのは,左辺と右辺の第1成分を比較して u=1 を示すという中途半端なものだったように思う。
それらに比べて簡明というわけではないが,次のような議論を新たに考案した。それを述べるにはさらなる準備が必要となる。
2つのベクトル a と b について,a×(a×b) の展開公式をまず用意する。これはベクトル三重積の特別なケースである。
a と b とが1次従属ならばこれは 0 である。
a と b とが1次独立であるとき,a, b, a×b は1次独立であって,
a×(a×b)=sa+tb+ra×b
となる。この両辺と a との内積をとれば
s|a|2+t(a・b)=0
となる。また,
b との内積により,スカラー三重積の性質を用いて左辺を
b・{a×(a×b)}=(a×b)・(b×a)=-|a×b|2
と変形すれば
s(a・b)+t|b|2=-|a×b|2,
を得る。最後にa×b との内積により r=0 がわかる。
これらのうち第1式により,ある実数 p を用いて
s=p(a・b),
t=-p|a|2
と表せるから,これを第2式に代入して
p{(a・b)2-|a|2|b|2}=-|a×b|2
となる。ところが,ベクトルの内積と外積の大きさに関する三平方の関係により,かっこ { } の中身は -|a×b|2 に等しく,仮定によりこれは 0 ではないから p=1 であることがわかる。
以上により,a と b とが1次独立であるとき,
a×(a×b)=(a・b)a-|a|2b
が成り立つことがわかった。この式は a と b とが1次従属であるときにも成り立つので,a と b とは任意のベクトルで構わない。
これで準備は整った。この等式の a を a+b,b を c と書換えた
(a+b)×{(a+b)×c}=((a+b)・c)(a+b)-|a+b|2c
の両辺を展開し,さらに a×(a×c) なども同じ公式で展開した上で整理すると,最終的に
a×(b×c)+b×(a×c)=(a・c)b+(b・c)a-2(a・b)c
という等式にたどり着く。
この両辺に b を内積すると
b・{a×(b×c)}=(a・c)|b|2-(a・b)(b・c)
となるが,左辺は
b・[u{(a・c)b-(a・b)c}]=u{(a・c)|b|2-(a・b)(b・c)}
であるから,u=1 であろうと予想される。
・・・と,ここまで書いてきて,最後の詰めが甘いことに気が付いた。
(a・c)|b|2-(a・b)(b・c)≠0
であれば u=1 であることが確定するが,これが 0 であると困ってしまう。
むむー,それはもう少し考えないとわからないなぁ。
というわけで,ぐだぐだになってしまったが,ここらでひとまず筆を擱くとしよう。
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