担当授業のこととか,なんかそういった話題。

主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

実数は実数ではない。

2024-03-24 16:19:33 | mathematics
言葉遊びの一種である。

「実数」とは何かをきちんと規定するのは特に 19 世紀の後半に人類がようやく到達した境地であり,しかもそれなりにちゃんと理解するのは案外大変なので,素朴に「数」と置き換えてもよい。

次のような問答を考えてみよう。

LO : ねぇねぇ,2 って実数?

CC:ええ,実数ね。

LO:じゃあ,-0.57 は実数?

CC:ええ,そうよ。

LO:それじゃあー,うーん,√2 は?

CC:実数ね。

LO:次はちょっと複雑なのいくよ?

CC:そう言われてしまうと答えられるかどうか自信がなくなるけれど,どうぞ。

LO:x が実数のとき,x2 も実数でよい?

CC:そうね。それでいいわね。

LO:じゃあねー,x2=1 のとき,x は実数?

CC:x として当てはまる実数は 1 と -1 の二つあるから,その両方を合わせたものが実数といえるかといわれるとよく分からなくなるけれど,それぞれが実数なのかといわれれば,それははっきり「そうだ」と答えるわね。

LO:ああ,確かにそういう問題は出てくるねー。なら,こうだったらどうかな?

x2=0 のとき,x は実数ですか?

CC:その場合はさっきと違って x=0 の可能性しかないから,迷わずに「そうだ」と答えられるわね。

けれども,一つ指摘させてほしいのだけれど。

LO:いいよー。なあに?

CC:そもそも x がどういったものかが分からなければ,x2 という文字列が何を意味しているのか,あなたと私の間で共通する理解が得られないから,x が何であるかを問うこと自体,無意味になってしまうのではないかしら。

LO:あー,確かにそうかもねー。そっかぁ,ここまでのクイズでそんなところまで話が進んじゃうんだね。

そうなると,とっておきの最後の質問がし辛くなっちゃうなぁ。

CC:いいから言ってごらんなさい。もったいぶらずに。

LO:わかった。せっかく用意してきたんだし,当たって砕けろの精神で質問するね。

CC:どうしてそこまでの覚悟が必要なのか,まるで理解できないのだけれど,どうぞ。

LO:実数は実数ですか?

CC:・・・。何か魂胆がありそうだけれど,率直に言って,答えは「はい」ね。

LO:じゃあ,その実数は正ですか,負ですか?

CC:え?どういうこと?

LO:どんな実数も,それが正の数であるか,負の数であるか,0 であるかの 3 通りの場合のどれか一つだけがいえる,というのは実数の基本的な性質の一つだよね?

じゃあ,実数は実数だというなら,実数は正の数,負の数,0 のどれに当てはまるのかな?って話なんだけど。

CC:待って待って。あなたの言いたいことがわかるような,わからないような,混乱状態に陥っているのだけれど。

LO:例えばね,空欄の□を使って,「□は実数か?」という型の文を考えるとするよね?

CC:ええ。

LO:あたしの最初の方の質問は,空欄の□に具体的な実数を当てはめたものを使用したわけ。

例えば「2 は実数か?」みたいな。

CC:そういえば一番最初の質問はそれだったわね。ここまでの会話を録音したのを聴き直して確認できたわ。

LO:え,ちょっと待って。このやり取り,ずっと録音してたわけ??

CC:そうよ。今のご時世,何があるかわからないから。

LO:・・・。まさか,うちらが出会ってから今までずーっと会話を録音し続けてきたってこと?

CC:全部というわけではないのだけれど,だいたいはそうね。

LO:こっわ!何それ怖すぎるんですけど?!

第一,あたしの許可なく勝手に録音してるとか,信じられないんですけど?!

録音データを何に使われるかわかったもんじゃないし。こっわー!!!!

CC:だから,今後もうかつなことを口にしないよう,気を付けて頂戴。

LO:ていうか,なるべく会話しないようにするわー。あーこわー。

CC:これで会話を録音していることについて情報の共有は済んだから,話をもとに戻してくれないかしら。

LO:うー,仕方がない,録音の件はあとでキッチリ話し合うことにして,実数話を片付けるかー。

CC:それが利口な選択ね。遠慮なく続けて頂戴。

LO:いや,録音されてるってわかった以上,遠慮するし。

とりま,気を取り直して・・・,と。

「□は実数か?」っていう文の空欄□にあれこれ数字を当てはめても,基本的に答はイエスなわけだよね?

CC:そうね。先ほどは出てこなかったけれども,□の中身が円周率だったりしても,答えは「はい」になるわね。

LO:あー,そっちの話も今回の話に関係がなくもないけど,それも後回しにするとして。

空欄に「実数」という言葉を入れた途端,話がおかしくなったわけだよね。

CC:ああ,そういうことね。

「実数は実数か?」という文は,通常は「はい」と答える習わしだけれども,「『 』は実数か?」という文の空欄『 』の中身には「実数と呼ばれるモノ」しか当てはめられないという暗黙の規則で話が進んでいたのに,「実数」という漢字二文字を代入したら質問としてちゃんと機能しているのか,といったような話ということかしら。

LO:うんうん,あーしの言いたかったことはだいたいそんな感じなんよ。

空欄『 』の中身に数値を表す文字列ないしは記号列が代入された場合,「『 』は実数か?」の答えは「イエス」になるんだけれども,「実数と呼ばれる何か」を言い表す,概念を意味する用語である「実数」という文字列を代入すると,それは「A は A か?」という,通常は「イエス」と答える質問文であるにもかかわらず,じゃあ「実数」という文字列の表す数値は具体的に,例えば 0 より大きいのか,小さいのか,それとも等しいのか,数値なんだったらどれか一つの場合に当てはまるはずだから,どれになるの?って質問に進めたわけ。

「実数が実数だというなら,じゃあその値はいかほどか?」っていう,すごくパラドックスっぽいフレーズを思いついたから,今回の話を始めたんだ。

CC:たったそれだけの話題なのに,ここまでくるのにずいぶんかかったわね。

LO:それはあなたが会話を録音しているとか怖いことを言いだしたからでしょう?

CC:さあ,それはどうかしら。そのクイズに対しては「イエス」と答える気はないのだけれども。

LO:お後がよろしいようで。

・・・って,全然よくなーーーい!




言葉って,よくよく考えるとすごく難しいよねー。

中学校の数学で習い始めてからその後の生涯を通じてお付き合いをしていく「変数」という概念も,きちんと捉えようとすると雲をつかむようで,実体がいまいちよく分からない概念である。

補習塾みたいなところでバイトで教えていたとき,文字 x に指定された数値を「代入する」という操作がなかなか伝わらない生徒がいて苦労した。

結局,私の力及ばず,その生徒は代入操作が苦手なままでいるのだと思う。

初等教育というのは,たいていの子どもならいつの間にか習得してしまう,というヒトが元来備えている高い学習能力に頼っている部分はとても大きいのだろうと思う。

そして,「たいていの子ども」ができることがなかなかできるようにならずにつまずいてしまう子どもたちにどう理解させるかは,それこそ教師の力量が問われる場面であろうが,私は己の力不足を棚に上げて,次のように思うのである。


それは無理な望みである,と。


もちろん,簡単に匙を投げずに,時間の許す限り,その子どもが理解できるようになることを願って手は尽くす。

それは前提としても,こちらが思い描いたように相手が概念や理論を理解したり,計算技能を習得できるかどうかは,天に任せるべき運ということになる。

そんな風に受け止めるしかないというのが今の私に導きうる結論である。



それにしても,「x に 2 を代入した時,x は何ですか?」と聞いたとして,わざとではなく,本気で「x は x です。」と答えてくるような生徒がいたとしたら,どう指導したらよいものか。

このような話に限定した場合,コンピュータのプログラミング言語というのは多くの示唆を与えてくれるように思われる。

例えば,ユーザである我々が期待するタイプの解答をコンピュータから引き出すには,適切な問い掛け方という「作法」が取り決められているわけなので,教育現場においては生身の人間である生徒からこちらの期待する答えを引き出すような質問の仕方を周到に考えるべきであろう。

そうすると,まずはお手本を示し,それを真似て答えさせるのが最善のやり方のように思えるが,そうなってくると「〇〇に芸を仕込む」といった側面が強いように感じられて,なんだかなぁ,という気にもなる。

とはいえ,身体を動かすタイプの技能はすべて先生が生徒にお手本を見せ,それをうまく真似させることから始めるわけだから,昔から,そして広く行われているし,理にかなったやり方であるのは間違いないだろうから,私が抱いている妙な嫌悪感は捨てて,「『学ぶ』は『真似(まね)ぶ』ことと心得たり」の精神で「真似させメソッド」を積極的に取り入れていくべきだろう。


あ,今回のメインテーマである「実数は実数であるが,実数ではない」というパラドックスの分析は私の手に余る問題なため,このパラドックスを提示するだけに留めます。
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