担当授業のこととか,なんかそういった話題。

主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

スカラー三重積とベクトル三重積。

2013-04-18 23:14:34 | mathematics
毎年,前期はベクトル解析の授業を担当するので,この時期にベクトルについてあれこれ考えてブログに書くというのが通例になってしまった。

けっこうしつこく話題に取り上げたような記憶があるが,自分の過去の記事をググってすぐに見つかったのは次のものだけである。

外積とは何か。

外積とは何か。(続)

内積や外積の割り算について。(外積編)

※ 内積編はないのか,と自分にツッコミを入れておく。記憶にございません。

ベクトルの積。

無限小回転と回転座標系。

なぜ外積の成分はあのように定義されているのか,とか,本当にいつでも元のベクトルたちと外積の位置関係は右ねじの法則に従っているのか,など,誰もが一度は疑問に思うようなことをあれこれ考えたが,このブログにはあまり書いていないらしい。講義でも時間がないのでまずめったに紹介することはない。僕としては,ちょうど自分が興味を持っているわけだから,非常に面白い話題だと思うのだが,そういったことを考えたことのない人にはありがたみがわからないだろうし,うまく説明しなければ問題意識すら伝わらないだろう。それに,他に教えなければならない題材がたくさんあるため,時間が割けない。こういった事情が,僕の考察を紹介しない(できない)理由である。

しかし,せっかく考えたことは誰かに話したい。そういった原始的(社会的?)な欲求を満たすため,こうしてブログに書いているわけである。

今回は,前々から気になっていたことの一つ,「スカラー三重積の値がベクトルのサイクリックな置き換えに関して不変であること」について考えたことを書き綴ろうと思う。

スカラー三重積の値がサイクリックな置き換えで不変であることは,成分で考えれば,直接計算して確かめるなり,3次行列式の基本性質を利用するなりして確かめることができる。しかし,成分を使わずに示す方法はないものかという疑問がずっと気にかかっていた。

この疑問が芽生えたきっかけは,ベクトル三重積の展開公式を,成分を使わずに証明できるかと考えたことである。実のところ,考えているベクトル空間の次元が 3 であるという特殊事情を使った,本質的に成分を利用した証明しか思いつかないのだが,それでも自分としてはただ一点を除いて満足のいくものであった。気に食わない「一点」は何だったかというと,スカラー三重積の不変性に基づいた証明だったという点である。スカラー三重積の不変性は成分を用いなければ証明できないのだとすると,ベクトル三重積の証明も成分のお世話になっていることになってしまう。それでは僕の考えた証明の意義は失われてしまう。

そこで考えた方策が,スカラー三重積の不変性を「内積と外積の間を取り持つ公理」へと昇格するという方法であった。内積や外積とスカラー倍,加法との間に分配法則などを入れないと有用な理論にならないのと同様,内積と外積の間にもなんらかの関係を持たせる必要がある。その関係性を規定する公理として,スカラー三重積の不変性を課してはどうか,というアイデアである。このアイデアは気に入ったので,それでこの問題の考察は打ち切ったようである。

そして,またベクトル解析の季節が巡ってきた。春になると芽吹く木々のように,この時期になるとベクトルに関して疑問に思ったことを思い出してくる。

そういえばスカラー三重積の不変性って,納得いく説明ができたんだっけ,と思い返してみても,成功したという記憶がない。そのように消化不良な気分が拭い去れないままなので,こうしてまたその問題に立ち返ってしまうのだろう。

とりあえず,今回は違ったアプローチを試みたので,それを書いておこうと思った次第である。すでに同じ内容を過去に書いてなかったかと調べた結果が,冒頭に掲げた過去の記事のリストである。

今回のアイデアは次の通りである。

  1. 空間の次元が 3 であることを陽に利用する。
  2. 今度は逆に,ベクトル三重積の展開公式を公理にすえる。

アイデア 1 は,ある種の成分表示を使うということであり,アイデア 2 は相変わらず困難を棚上げするという発想である。ただ,スカラー三重積の不変性からベクトル三重積の展開公式が得られ,逆にベクトル三重積の展開公式からスカラー三重積の不変性が得られるという,両者の間の関係がこれで明確になり,内積や外積に関する理解が少し深まったことになるので,ひとまずよいこととしよう。

以下では,三つのベクトル a,b,c のうち,どれか2つは一次独立である場合のみ述べる。a と b が一次独立である場合,a,b,a×b は一次独立である(外積は元の2つのベクトルに垂直であることと,一次独立な二つのベクトルの外積はゼロベクトルではないということも公理として仮定する)から,3つの実数 s,t,r をうまく選んで

c=sa+tb+ra×b

と表すことができる。つまり,(s,t,r) は c のある種の成分である。これが,ベクトル空間の次元が 3 であることを利用するということであり,実質的に成分表示をしているという言葉の意味である。

この両辺と a×b との内積をとると,

c・a×b=r|a×b|2

となる。

一方,先ほどの式の両辺に右から a を外積すると

c×a=tb×a+r(a×b)×a

となるが,ベクトル三重積の展開公式により,

(a×b)×a=|a|2b-(a・b)a

であるから,

c×a=tb×a+r[|a|2b-(a・b)a]

となる。この両辺に b を内積すれば

b・c×a=r[|a|2|b|2-(a・b)2]

となる。ここでさらにもう一つの公理である「三平方の定理」|a|2|b|2=(a・b)2+|a×b|2 を導入して使えば,

b・c×a=r|a×b|2

が得られる。これで c・a×b=b・c×a となることが証明された。


この証明を反省すると,ベクトル三重積の展開公式というよりも,それよりも弱い「2ベクトル版」(a×b)×a=|a|2b-(a・b)a だけで十分らしいことがわかる。

そうすると,「弱い」ベクトル三重積の展開公式から「スカラー三重積の不変性」を示し,それを用いてオリジナルの「強い」ベクトル三重積の公式を導けることになる。

ふむ。そこそこの結論が得られたようだの。余は満足じゃ。


[追記] スカラー三重積の性質はもっとずっと簡単に導けることが発覚した。

x・(x×y)=0 という,内積と外積を関係づける最も基本的な公式において,x=a+b,y=c を代入し,分配法則を用いて展開すると

(a+b)・{(a+b)×c}=(a+b)・(a×c+b×c)=a・(a×c)+a・(b×c)+b・(a×c)+b・(b×c)

となるが,(a+b)・{(a+b)×c}=a・(a×c)=b・(b×c)=0 であり,b・(a×c)=-b・(c×a) なので,最終的に a・(b×c)=b・(c×a) が得られる。

この事実は,

Bertram Walsh, The scarcity of cross products on Euclidean spaces, The American Mathematical Monthly, Vol. 74, No. 2 (Feb., 1967), pp.188-194

から学んだ。この論文からは他にもたくさんのことを学べそうなので,まじめに読もうと思っている。(2013.4.19.)
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