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【高校数学のツボ】 因数分解という名のパズル (1)。

2010-05-06 23:49:59 | mathematics
因数分解はパズルである。

時間をかけて,ああでもない,こうでもないと試行錯誤すること自体を楽しむ行為である。
そしてうまく因数分解できたときにはご褒美として爽快感と達成感を味わえる。

基本的には2文字の2次式の因数分解が手ごろである。
たとえ2次式でも,文字数が3に増えるとかなり手ごわくなる。
あるいは,たとえ2文字でも3次式になるとやはり手ごわい。
高校レベルだと,3文字の3次式というのがほぼ最高峰だろう。
4次以上となると,もうほとんど問題の種類は限られてくる。

僕は中学時代に,なぜか国語の教師から高校で扱うような因数分解の問題を出されて一所懸命解いていた覚えがある。
たぶん歯が立たなかった問題もあったと思うが,印象に残っている問題はない。

因数分解ではときどき「どうしてそう変形するの?」と声をあげたくなるような巧みな式変形に出会う。
「そうすればできるから」としか答えようがないわけだが,ある項を足して引くといったようなテクニックは,どこかしら,幾何の問題で補助線を引く行為に似ている。

さて,次のような問題にみなさんはどう取り組むだろうか?

問題1.1. a2+2ab+b2=(a+b)2 という公式を知らないものとして,つまり,この公式を適用して一発で答えを出すという方法を使わずに,a2+2ab+b2 を因数分解せよ。

問題1.2. やはり
a2+b2+c2+2ab+2bc+2ca=(a+b+c)2
という公式を知らないものとして,a2+b2+c2+2ab+2bc+2ca を因数分解せよ。

答えは一番最後に書く。

さて,x2+5x+6 を因数分解するときには,たすきがけという図式を使うことが多い。
これは公式に高校などで教えられているからではあるが,僕はこのたすきがけというのを最近まできちんとマスターできていなかった。
頭の中で済ませてしまうからいちいちたすきがけの絵を書く必要を感じなかったというのも理由の一つだが,たすきがけの絵を書く練習をサボったからだというのが最大の原因である。

ただし,最近たすきがけについて真面目に考えたおかげでわかったことだが,たすきがけというのは因数分解を簡単にする方法なのではなく,因数分解を行うときの試行錯誤を,少ないスペースにメモるだけで済ますことができるという補助手段に過ぎず,実質的に展開計算の筆算の一形態であるということである。
「うまく行く組み合わせ」を探索するときのメモなだけであって,因数分解という行為は,結局のところ,「因数を予想して展開してうまく行っているか確かめる」という試行錯誤の集大成なのである。

もちろん,単なる試行錯誤だとはいっても,検討すべき枝を減らすテクニックはいくつかある。とはいっても,もちろん,高校程度の簡単な因数分解のみに通用するものに過ぎないけれども。

ここで述べた議論の意図がわかってもらえるような例を挙げよう。

まず,x2+5x+6 であるが,これはどうせ (x+a)(x+b) の形に因数分解できるはずだと『予想』して,これを展開すると x2+(a+b)x+ab となるから,a+b=5,ab=6,つまり
『足すと5,かけると6になるふたつの数はな~あに?』
というなぞなぞを解くことになる。

足し算の分解の仕方は掛け算の因数の分け方に比べて場合分けが非常に多くなるのが普通だろうから,通常は掛け算の方からヒントを得て,その後足し算がうまく行っているかを検証することが多い。
だが,この程度の問題なら,

足して5になる2数の組合せですぐに思いつくのは
1+4
2+3
の2通りくらいかな。
1×4=4,2×3=6 だから,なぞなぞの答えは 2 と 3 だね。

というやり方も通用する。

これは,x2-25x+150 のような,積の分解の仕方もなかなか数が多いときに便利かもしれない。

かけて150のように5の倍数になるためには,25 を 5 の倍数と何かの数との和に分けなくちゃいけないな。
それは 5 と 20,10 と 15 くらいしか思いつかないや。
あ,5×20=100 だからちょうどいいや。

この,『積ベース』の場合分けではなく,『和ベース』の場合分けというのは,実は今この記事を書いていて思いついたことなのだが,なかなかいいアイデアのような気がしてきた。ちゃんとメモっておこう。あ,この記事自体がメモになってるか。

さて,x2+5x+6 の因数分解をもう一度考察してみよう。
標準的な積ベースの場合分けによると,因数分解したものが
(x+1)(x+6)

(x+2)(x+3)
のいずれかである,と予想するわけである。

これは,x2+5x+6 にたどり着くルートとして,振り返って眺めてみたら,(x+1)(x+6) と (x+2)(x+3) という町の明かりが見えたということである。
そこで,(x+1)(x+6) と (x+2)(x+3) の町にいる友人にお願いして実際にこっちに来てもらう。つまり,(x+1)(x+6) と (x+2)(x+3) を実際に展開してもらって,こちらの町 x2+5x+6 に無事たどりつけるかどうかをたどってもらうのである。
その結果,(x+1)(x+6) は x2+7x+6 という別の町につながっており,x2+5x+6 と等号で結ばれていたのは (x+2)(x+3) という町の方だった,ということがわかる。

このように,因数分解された式の形を複数予想して,たすきがけなどを用いて予想式を実際に展開して,因数分解しようとしている元の式に戻るかどうかを探るのが因数分解という作業である。

他にも,例えば 3x2+11x+6 という式を見たとき,どういう推理をして予想の数を減らす(=可能世界を減らす?!)のか,といったことも解説したいのだが,それは稿を改めることとしよう。

では,お待ちかね,問題の解答を述べよう。

解答1.1.
公式を知らないものとして,という設定でお願いしたわけだが,我々はすでにこの公式,つまり因数分解の結果をよく知っているのだから,その記憶を消し去ることなどできやしない。
せっかくだから,その,すでに知っている知識を最大限に活用することとしよう。解答を書くときだけ,知らなかったふりをすればいいのだから。そういうRPGなのである。

a2+2ab+b2
において,2ab=ab+ab と分けて・・・(*)
a2+2ab+b2=(a2+ab)+(ab+b2).
この各項を部分的に因数分解して(かっこよく,この操作を『部分因数分解』と呼ぶことにしよう!部分について解決すると,それが全体の解決に繋がることがよくあるのだ。そうはいっても,必ずそれでうまく行くとは限らないのだが。),
(a2+ab)+(ab+b2)=a(a+b)+b(a+b)
を得て,共通因数 (a+b) でくくれば(「くくる」という言葉は学習指導要領には載っていない非公式の用語(スラング)なのだが,これほど便利な言葉もない!教科書にも載っていないかも?載せてもよい,むしろ載せるべきだと思うのだが)
a(a+b)+b(a+b)=(a+b)(a+b)=(a+b)2
となって因数分解が完了する。

途中,(*) の印をつけた箇所は,「え~,なんでそうするの!」と叫びたくなるようなテクニカルな式変形であろう。
そう思いついたのだから仕方がない,としか答えようがないのだが,理屈をつけられなくもない。
先ほどの式変形を逆再生すれば,
(a+b)2=(a+b)(a+b)=a(a+b)+b(a+b)=a2+ab+ab+b2
となって,なんのことはない,この展開の仮定を逆にたどっただけだというのが種明かしなのである!
そういわれてしまうと,なんということもないつまらない計算に思えてくるが,コロンブスの卵という言葉がまさにぴったりだろう。

解答1.2.
部分因数分解を行う。
a2+2ab+b2 などという式を見ると,ついむらむらっときてしまうのも無理はない。

a2+b2+c2+2ab+2bc+2ca=(a2+2ab+b2)+(c2+2bc+2ca)=(a+b)2+c(c+2b+2a).

はて,困った。部分分数分解を行ったけれども,これ以上進めそうにない。
これはグループ化の仕方が悪かったのである。
もちろん,ここからもう少し工夫すればどうにかならなくもないのだが,ここは先人たちの知恵『どれか1文字について式を整理してみよ。さすれば道は開かれん!』という言葉に素直に従って出直すことにしよう。

例えば c について降べきの順に整理すると
c2+2(a+b)c+(a2+2ab+b2)=c2+2(a+b)c+(a+b)2={c+(a+b)}2=(a+b+c)2
と,ごくあっさりとケリがつく。
ここで,部分因数分解がちゃんと活かされていることに注意されたい。

因数分解というのは,このように,少し式変形の道を誤ると途端に八方塞に陥ってしまうという,『不安定性』を内包しているのである。
正しい道を短時間でかぎつけるというのは勘と経験の賜物であるが,それにしたって試行錯誤が本質であることに変わりはない。
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