ビールを飲むぞ

酒の感想ばかり

「スクイズ・プレー」ポール・ベンジャミン

2022-11-22 00:15:56 | 読書
長年ポールオースターを読んでいるならば、推察のとおり、ポールオースターの、ポールオースターになる前のペンネーム時代の作品。
作家デビューできるという条件に、大衆的な小説、すなわちハードボイルド小説を嫌々書いたという。読んでみるとまさにハードボイルド。読んだ数少ないハードボイルド小説のなかで言うと、チャンドラーというよりは、ブコウスキーに近い。しかし好みはこちらだ。相手の話しかけたことにいちいちいちゃもんをつける。そんな雰囲気。ただ、さすがにオースター、それが小気味良い。
これがハードボイルドというものなのだろうか。状況描写がほとんどで、実際の中身は少ない。マックス・クラインが、ジョージ・チャップマンを怪我させ野球人生を終わらせたトラック運転手のブルーノ・ピグナートに会いに行き話を聞き出そうとして失敗して帰る。それだけの場面で1章分使う。冗長とも言えるが、情景描写がまたくどい。しかしさすがオースターのストーリーテリングで小気味良い。
キャシーと離婚したが、今の仕事である探偵になった時から、関係性が回復した。そんなときにキャシーと結婚したいという男性が現れ、その男性と結婚するか、マックスと復縁するか迷う。マックスはキャシーが望むものは何一つ与えられないだろうと答える。このあたりは悲しく、ハードボールドではなく純文学風。
ジョージ・チャップマンの所属する球団のオーナーであるチャールズ・ライトを訪ねる。チャールズとしてはチャップマンが怪我をして選手としては活躍できなくなった。しかし8年の契約上、報酬を払い続けなければならない。そんな中恩義を忘れ政治家になろうとしていることが気にくわない。
マックスがチャップマンを訪ねると殺害されていた。殺人課のグライムス警部補に疑われる。
次にピグナートを訪ねるとこれまた殺害されていた。ゴリンスキという捜査官がやってくるがそいつにも疑われる。
ジュディを訪ねる。そこには弁護士のバーリンソンとアソシエイトがいた。いけすかなそうな弁護士。マックスと二人にしてれと頼むジュディ。二人きりになった途端ジュディはマックスを求める。モテるやつだ。
ジョージは死亡するわけだが、その殺人容疑がジュディにかかっている。
マックスは背後を調査していると、関係のうまく行っていなかった所属する球団のオーナーや、マフィアなど、いかにも怪しい人間関係が出てくる。
その過程で、マックスはヒットマンから命を狙われたりする。
結末はそれぞれの登場人物の全く違った顔が判明する。
ジョージの死因は自殺。自分の才能を多額の金を賭けて賭けをすることにしか意味を見いだすことができない。
そしてジュディはいわゆる魔性の女だったのだ。チャップマン、教授と関係を持ち、自分の手を汚すことなく、それどころか暗殺者を使うことなく自殺させてしまうのだ。マックスも言ってみればそれに巻き込まれたわけだが、ジュディと別れでもって逃れた感じになる。言ってみればジュディに関わったばかりに暗殺者から命を狙われることになったわけだが、全くとばっちりだ。
マックスには妻子がいた。妻とは関係が覚めきっており、妻は子供をつれて家を出て行こうとしている。結婚を続けるどうか決める最後の機会に、なにも知らない息子と、初めて生の野球観戦に二人きりで行く。すごくいい思い出だ。息子を妻の元に送り届ける。そこで妻から最後のチャンス、結婚を続けるか終わらせるかの決断を迫られる。マックスはもう決めていたのだ。妻にとって最善の人生を選ぶことを望むと。そして去る。それから背後で聞こえる息子の泣き叫ぶ声が悲しい。
結局この章があまりに文学的で、ハードボイルド小説のエンタメ的なオースターではなく、その後の文学作家オースターが垣間見れる。
ハードボイルドらしく最後は悪女が思わせぶりに、しかしあっさりと去っていく。
ある意味ルパン三世っぽい。というのか、ルパン三世がハードボイルドを醸しだしたのかは現時点ではよくわからない。
 
20221021読み始め
20221122読了

最新の画像もっと見る

コメントを投稿