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「黒死館殺人事件」 小栗虫太郎

2017-07-31 00:07:07 | 読書
 
山田風太郎の地の果ての獄に出てきた、独休庵だが、大友宗麟が休庵宗麟と称していたらしい。
グレーテ・ダンネベルクが殺害される。燐光を放って死亡しているという不思議な様子。直接の死因は青酸カリを服毒したため。しかしなぜ燐光を放つかは不明。
遡って、算哲博士の自殺について。法水は全く奇想天外な解釈で他殺ではないかと推理する。太陽を回る水星、火星の軌道になぞらえた驚くべき発想の殺害方法。ところがこれは頑固な足の不自由な召し使いである真斎を恫喝尋問するための陽動作戦だったのだ。先制攻撃するために即興で作り上げたトリックだったのだからまた驚く。
マンガで読破「黒死館殺人事件」とコミック化されたものがある。こちらは非常にあっさりしている。かなり無駄を削ぎ落とした印象。そう考えると、原作の衒学的な演出が物語の面白さを引き立てるのかもしれない。誰かの感想にあったが、無駄を落としたら、薄っぺらいストーリーだ、という話もあり得なくはない。外来語を敢えて漢字にしルビをつける。またこんな文献実在するのだろうか?と言うようなものを、「君はあれを読んだかね?」とか「当然読んでいるだろうね」と上から目線なところもストーリーに深みを加える。
易介が吊るされて殺害された辺りから、鐘楼から聞こえる演奏のなかで不自然な倍音が聞こえてくる。この倍音が事件の鍵になっているという。この中で、ピアノを例にとって、共鳴現象の例が出てくる。この際に音符を使って説明する箇所があるが、昔これを読んだ記憶がある。ここまでは読んだのだろうしかし全くストーリーの方は記憶にない。今の方が格段に理解できている。
第三篇黒死館精神病理学。ここでは薬物学や呪術などが多く登場する。後半の戯曲の一説をレヴェズ氏と、またクリヴォフ婦人と応酬する場面は全くチンプンカンプンだ。恐らく内容とは関係ないだろう。
第四篇は短い。3枚の絵画が光の当たる加減で反対側の漆扉にテレーズの肖像を浮かび上がらせるというトリック。算哲が防犯のためにそんな仕掛けを仕掛けたという。
後半は心理学的な推理が展開される。面白いのだが、現代においてはそれが証拠となりうるのか分からない。この小説がかかれた時代は、最先端で、斬新であったかもしれない。
ダンネベルク夫人はなぜ光輝いて殺害されたのか?それは放射性物質、つまりラジウムを使用されたからだという。すごい。何がすごいかというと、小説の書かれた時代は終戦前だ。つまり原爆の脅威を知らない時代だ。つまり、爆発力という意味ではなく、放射線被曝という意味で。放射性物質というのは、どうかすると、強力な爆弾になると言うことと、青白い光を放つという神秘的な側面しか知っていなかった。一番怖いのは放射線被曝による後遺症なのだ。ラジウムを安易に使う犯人もそうだし、作者によってそれに接触する登場人物も被曝の危険性があるのだが、その点は時代性を感じる。
ネタバレなのでここからはみないでほしい。
算哲の秘書である神谷伸子であるが、それが犯人だ。降矢木直系の旗太郎が正当と思われていたが、実はそうではなく、本当の直系は伸子だったのだ。しかし伸子は最後、衝撃的な自殺を遂げる。何とも悲しい。法水は衒学的知識をひけらかしながら、トリックを見破る。ように見せかけて、実は何度も外している。外した瞬間シュンと落ち込むのだが、すぐにメラメラと闘志が復活し、再び自信たっぷりに推理を始める。まあこれが最初の殺人から2、3日しかたっていないようなので、何とも打たれ強いことだろうか。そんなわけなので最後の真犯人も本当にそうなのかは怪しい。
残念なのは序盤に6人6様の運命を示した黙示図というのが出てきて、初読の中学生の時は、魔術的なものを連想させドキドキしたものだった。結局その通りになったのは2者だけだったのがストーリー的には惜しい。
しかし降矢木家の複雑な歴史。その家系の何たる異常さと悲しさだろうか。
 
20170703読み始め
20170730読了

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