モノ・語り

現代のクラフトの作り手と作品を主役とするライフストーリーを綴ります。

“空”と“全体(無限)”の関係

2020年10月17日 | 「‶見ること″の優位」
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ブログタイトル:「侘びのたたずまい——WABism事始め」


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「見るはたらき」は「見るはたらき」自身を見ることができない(『中論』のテーゼ)が、
テレビカメラとモニターの関係のように敢えて見ようとすると、
モニター画面の中に渦巻きのような無限に繰り返される反復現象が生じてくる。
このことは、長谷川沼田居の絵などでも渦巻き的なイメージが見られたりしますが、
論理学的な観点からでも、それなりの理由があることをここで確認しておくことにします。

論理学の領域での真偽判断の拠りどころとして、同一律、矛盾律、排中律という3つの法則があります。
このうち矛盾律は、Aという事象に対して非A(Aでない)という事象が立てられて、両者の関係を「Aは非Aでない」という文で言い表される事柄を言います。
これを数学基礎論の集合論で表すとするならば、たとえば、
「集合Aは、Aに含まれる要素でないものは含まない」
というふうに表すことができます。
至極自明(証明の必要がない当たり前さ)の話に思えるかもしれませんが、そのような“自明”の事柄を重ねていくような思考の展開を論理学(基礎数学の領域を含む)と言います。

集合論では「集合Aに含まれる要素でないもの」を空集合と呼び、どんな集合も空集合を含むとされます(集合論の2番目の公理「空集合の存在公理」)。

       

ここで話がちょっと別のところに逸れますが、集合論においては、
集合Aについて「集合Aは集合A自身も含む」場合と「集合Aは集合A自身を含まない」場合との二通りがあります。

「集合Aは集合A自身も含む」場合は、たとえばAの要素が1だけだとすると、
A={1, A}={1, {1, A}}={1, {1, {1, A}}}=……となっていて、ひとつの無限集合が発生してきます。
これがまさに、テレビカメラがそれに接続されたモニターを写すとモニター画面の中にモニターのフレームが無限の入れ子状態で映し出されたり、モニターを少し傾けると渦巻き画像が発生することの数式的な表現です。
つまり、「見るはたらき」が「見るはたらき」自身を見ようとすると渦巻きが発生してくるということを意味しているということです。
『中論』では、「見るはたらき」が「見るはたらき」自身を見ることができないとされ、
なので、「見るはたらき」という実体とか「見るはたらき」の主体というものがどうして存在しえようか、となるわけですが、
「見るはたらき」の実体や主体は存在しない=空は、現代の論理学で言えば、無限という事象に等しい、とみなされうることになります。

他方、「集合Aは集合A自身を含まない」とする場合はどう考えられるかですが、
まず“空集合”とは何か、ということが前もって問われます。
空集合の論理学的な意味は「集合には含まれない要素の集合(空なものとして集合に含まれる)」として捉えられます。
「集合には含まれない要素」としては、集合Aそれ自身もそうですし、非Aなるものも当然含まれていません。
つまり、空集合においては「A=非A」が成立するということです。
『中論』に由来する般若系仏典が表明する「AはAでなく、Aでないのでもない」という“空”の哲理は、
反矛盾律の論理として、現代集合論によって裏付けられることになります。

さらに空集合の論理学的な意味にはもう一つの瞠目すべき特徴があります。
それは、「空集合の情報量はそれを含む集合の情報量の全体である」
というものです。
これは論理学的な手順を追って証明することも出来ますが、
直観的に了解することもできますので、関心を覚える方は自分で考えてみてください。
了解できれば、これは至極当然であることが納得できます。

「空集合の情報量はそれを含む集合の情報量の全体である」ことから、
「空=全体」というヴィジョンが得られてきます。
空を含む集合が無限集合であるとすれば、「空=無限」ともいえます。
あるいは、空と全体(無限)は裏腹の関係にあると見なしてもいいでしょう。

「見るはたらき」の実体や主体の存在は認められないが、それを空と観じることによって、「見るはたらき」の全体に達する、というヴィジョンです。
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