モノ・語り

現代のクラフトの作り手と作品を主役とするライフストーリーを綴ります。

「アート鑑賞いろは塾」第5回のお知らせ

2012年12月29日 | アート鑑賞いろは塾


井上まさじ作「同心円」(部分) インク、アクリル絵の具


「アート鑑賞いろは塾」第5回を下記のように開催します。

テーマ:「ものの美について」
日時: 2013年1月12日(土)午後2時~4時
会場: 可喜庵(町田市、最寄駅は小田急線鶴川)
聴講料:2,500円

「ものの美」ということについては前回の記事で導入的なことを書きました。
この塾では鑑賞法のひとつの在り方、つまり「何を見るのか」というテーマで話します。
もちろん「いろは塾」らしく、初心者向けにわかるようにお話します。
「感じ方」を重視した鑑賞法なので、コンセプチュアルな鑑賞法よりも
元々がわかりやすい話なのです。
キーワードとしては、「複製素材と自然素材」「わざ」「気韻生動」といった言葉を使うことになるでしょう。

終了後はお屠蘇を用意する予定です。
とても美味しい屠蘇酒です。
「ものの美」と味覚とは深く関連してますので、「ものの美味」を味わいつつ、
質素ながら「豊かな暮らし」ということを1年の計としたく思います。
開催の詳細および聴講の申し込みは実践知塾サイトでどうぞ。

では、みなさん、良い年を! 来年は脱原子力技術元年となることを祈ります。


剪定をしたりんごの木

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「物質の美(ものの美)」について

2012年12月01日 | モノ・こと・ことば

ちょっと古い話題になりますが、9月の「第3回アート鑑賞いろは塾」のテーマは
〈「高める」または「養う・磨く」――見ることで感性は養われる〉というものでしたが、
いわゆる「アートの鑑賞は目を肥やしていく」ということで、
よりクオリティの高いものを求めていくようになる、ということを話しました。
(そうならないとしたら、アート鑑賞を知識や教養を身につけるためのものと見なしていたり、投機目的でその世界に首を突っ込んでいたりといった、不純な動機が邪魔をしています。)

「よりクオリティの高いものを求めていく」ことの現れとしては、
美術の歴史をさかのぼって求めて行くというケースが多くの人に見られますが、
現代美術の先進的なものに向かっていくのも一つの方向であると私は思ってま
す。
北大路魯山人なんかは、美術の歴史を遡るほどにクオリティは高まっていくと言い、
最終的には奈良朝から平安朝の仏画が頂点をなしている、
そのころの仏画がわかればどんなものでも(美術でも工芸でも建築でも書でも)わかる
と言っています。しかし「アート鑑賞塾」での私の話は、
仏画からさらにさかのぼって、中国やギリシャの古代の美術・工芸品から
さらに原始の時代にまでさかのぼって、究極は先史時代の土器にまで至ったのでした。
(先史時代の造形物の秀作は、古代仏教の曼荼羅図も超えているということです。)



中国の先史時代の土器です。(出典:Wikipedia)


中野みどりさんが織った帯(部分)。平面表現作品として捉えた写真です。

  
同上。布(帯)としての表情を捉えた写真です。

映写した画像はインターネットの中から探してきたもので、中国の先史時代の土器です。
塾の参加者で染織作家の中野みどりさんがこれを見て何か触発されたものがあったらしく、
さっそくその印象に基づいたきものの帯の新作を織り上げました。
それは、織物の技法としては「網代」と呼ばれているものの一種のようですが、
帯の意匠としてはあまり見かけることがないものでした。

中野さんによれば、先史時代の土器のピュアな印象と土味にインスピレーションを受けて、
紬の糸の素朴な質感を美的に昇華していくような織物を試みてみたとのことです。
確かにこの帯には、太古の時代の人々の大らかな生命感覚や
文明に汚されていない純粋感情のようなものが感じられるし、
逆に、現代美術的なミニマルな感じ、または超モダンな美の表出としても感じられます。
そしてその出どころは、紬の糸という素材が持っている物質としての個性です。

こういう仕事を現代のものづくりのシーンで見かけることはほとんどなくなってきています。
現代美術では「コンセプチュアル」であることが優先され、
使用される素材は複製物が主流なので、「物質の美」ということに関心が向けられなくなっています。
昔の人たちの「高度な鑑賞力」というのは、実はそういった「物質の美」を判断する力に拠っているのですが、
現代のものづくりは、そういった感覚を失ってきているように感じられます。
そういうことを、これからの美術・工芸は反省していく必要があると私は思っています。


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