かたち21のHP
「やすらぎの贈りもの’10」展「さろん」には萩原修さん(『9坪の家』の著者)が参加されていました。
発言の中に「空間とものとの関係をどう考えるか」という質問(難しい質問です)があり、
可喜庵オーナーの鈴木工務店社長がこれに答えられていましたが、
そのときに私が思いうかべていたのは、うえやまともこさんという木工家の住まいのことでした。
この秋、和歌山市のうえやまさんの工房を訪ねたときに、
「ここが私の住まいです」と言って部屋の中に案内していただきました。
ご両親が住んでいる母屋が別にあるのですが、
うえやまさんは仕事場の隣に自分の部屋を作って、そこで暮らしているということでした。
8畳ほどの小さな住まいですが、寝床があり炊事場があり、
真ん中には食事をしたりお茶を飲んだりする小さな座卓(昔であればちゃぶ台でしすね)があって、
そして入口の真向かいの壁の(つまり一番奥の)座ってちょうど目の高さあたりに、
円空仏の小さな写真が貼ってあって、ここが神棚とか仏壇とかにあたる、
この部屋のいわば聖域みたいな場所かと推測しました。
一隅に薪のストーブがあって、木工の仕事で出てくる木屑が燃料に使われていました。
私たちが訪ねた昼過ぎには火は消えていましたが、
部屋の空気は柔らかく暖たまっていてとても心地よかった。
「ここが私の住まいです」といううえやまさんの言葉を思い出すたびに、
「私はこんなふうに暮らしてます」と言ってるように私には聞こえてきます。
部屋の中にあったさまざまなものが、そこにあるべくしてあるというか、
統一した「暮らしの空間」のイメージを作り出していて、
その中で菊茶を飲みながら過ごしたひと時は、とても居心地のいいものでした。
この印象を作り出しているのは、インテリアがどうのこうのということでは全然ないのです。
うえやまさんは畑も持っていて、自然農の方法で野菜を育てていると言い、
また、味噌を作ったり梅干を作ったりもしているとのことでした。
他にもいろいろとあるのですが、そういうことが全部つながっての「暮らし」ということであり、
それが「暮らしの空間」としてのうえやまさんの「住まい」の印象も形作っているのです。
そして彼女が作る木のスプーンやフォーク、皿や鉢もまた、
彼女の「暮らしぶり」あるいは「生き方」そのものを表しています。
うえやまさんは自分の木工の仕事をそういうふうに捉えているわけです。
明年正月明けに発行予定の「かたち」No.05号ではうえやまさんに寄稿してもらっていますが、
そのタイトルは「必要なものはすべて用意されている」というのです。
是非読んで欲しい文章です。
うえやまさんの工房にて
【冊子「かたち」のご案内】
1部1,000円(送料込)
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※うえやまともこさんの作品は
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