モノ・語り

現代のクラフトの作り手と作品を主役とするライフストーリーを綴ります。

「さろん」のお知らせ――「アートでおもてなし」展⑤

2011年11月27日 | 展覧会・イベント


「アートでおもてなし」展の会期中の5日には「さろん」を設けます。
今回の趣向は「アートの愉しみ方講座」ということで、
私流の美術鑑賞の手引きのようなことをメインとし、
「取り合せの美」のことなどお話します。

思いついたのは名倉亜矢子さんの「ドレミから始めよう」を受講していたときです。
小学校で習ったようなことをもう一度おさらいしながら歌唱の訓練を受けるのですが、
基礎から学ぶということは、音楽の本質ということを改めて考える契機ともなります。
そこで、美術鑑賞の在り方ということについても、
その初歩から私なりに語ることを試みてみようと思ったわけです。

したがって初心の方にも受容できるような内容のものになるよう努めていくつもりです。
しかし果たして上手くいくかどうか、聞いてのお楽しみというところでしょうか。
美術・工芸の世界にかかわって30年以上が経ちますが、
昔も今も一貫して変わらないのは、「美術はわからん」と
頭から敬遠してしまう人たちが少なからずいるということです。
そういう人たちの中から一人でも美術鑑賞に目覚めてもらえることを願って、
これまでたくさんの関係者が「美術はムズカシクナイ」という趣旨の本を書いてきましたが、
「美術はわからん」という人はいっこうに減っていく様子がありません。
とはいえ、それらの入門書的な本を読んでみると、
やはりそれなりにムズカシクなっていったり、独善的であったりするものが多いようです。

私自身の話もそうなるかもしれないというリスクがありますが、
そういったスリルを味わうのもひとつの楽しみと心得ております。
美術鑑賞のいろはから始めて、最後には現代美術の先端部分とか日本美術の本質とかにも
触れるような構成を考えています。
平日の昼間の開催です。お時間が許される方のご参会をお待ちしています。


「さろん」は茶菓子付きで、参加希望の方は予約を入れてください。
参加費1,000円です。その他詳細はこちらをご覧ください。



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着物と帯の取り合せについて――「アートでおもてなし」展④

2011年11月19日 | 展覧会・イベント


「アートでおもてなし」展のテーマは「取り合せは日本文化のエッセンス」ということですが、
展示構成は「床の間奪回」と「着物と帯」「器の彩り」の3本立てで構成するということを
「萩の植草達郎さんの陶芸」の記事でお知らせしました。
今回は「着物と帯」の部門についてご案内します。

紬織りの中野みどりさんの着物に、仁平幸春さん(東京友禅系)と
駒田佐久子さん(型染)の新作帯、それから創作帯のお店の「花邑(銀座店、目白店)」
からも古布によるオリジナルの帯を出品していただきます。
いわば現代作家ものとクラシックの競合ですね。

最近よく見かけるのは、同系色のものでモノトーンにまとめた洋服感覚の取り合せですが、
中野さんの考え方のベースは、異なった世界を組み合わせながら
全体として一つのハーモニーを醸し出していくという取り合わせ方です。
モノトーンにまとめられるフラットな着方ではなく、立体的に構成される着方といえるでしょうか。


 
中野さんの着物に、古布による創作帯(花邑銀座店)の取り合せ


中野さんの着物に、仁平さんの染め帯の取り合せ
こうしてみると、着物の美は人体を包む形をとることで一層美しく見えることがわかります。



異なった世界を取り合せることで発生してくるもうひとつの美の現われ方もあるのです。
そしてそこに「日本の美」の本質があるのではと、私は思うわけです。
また、現代の日本文化の中に着物を復活させるひとつの筋道がここにあるのでは、とも思います。

中野さんの「着物の取り合せの考え方については、ブログの「講義の記録から」をお読みください。
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角好司さんの漆芸――「アートでおもてなし」展から③

2011年11月13日 | 角好司の漆


漆芸家の角好司さんからは、撮影用に香合が3点届きました。
掌の中にすっぽりと収まるほどの大きさで、重さがほとんど感じられないぐらいに軽量です。
だけど宝石を入れておきたくなるような高貴な雰囲気があって、
小さいけれども存在感のある漆の蓋物です。
全体に黒漆の色と艶が印象的ですが、一部に蒔絵がほどこされていて、
控えめではあるのですが、それがかえってお洒落感を盛り上げています。


 香合 高さ約5cm


香合「初雪」 乾漆巾約7cm



角さんは石川県輪島市の人です。お兄さんに角偉三郎さんという人がいて、
1990年代~今世紀初頭に一世を風靡した人です(2005年に惜しくも亡くなられました)。
好司さんは偉三郎さんの華々しい活躍の陰であまり表立ちませんでしたが、
若いときはアヴァンギャルドな、冒険的な制作をさりげなく発表したりして、
しかもセンスがよかった。いま思うと、やはりお洒落な感覚というのがあったんですね。


でも本領は蒔絵の仕事です。蒔絵というと伝統工芸の象徴みたいなところがあって、
多くの蒔絵師は伝統的な意匠や絵付けに引っぱられる傾向があります。
しかし好司さんはちゃんと自分の絵を描いて、蒔絵という高度に工芸的な仕事に
自分の呼吸を吹き込んでいます。「絵が生きている」そういう蒔絵です。


 角さん作の蒔絵の飾り箱

 同上(部分 上面と側面)


好司さんが制作している蒔絵の仕事は、もっと世の人に知られて
尊重されるべきであると私は思っています。
しかし好司さんは性格的に非常に控えめな人で、もう還暦を過ぎているのですが、
エラそうに自分の仕事を吹聴したり、自慢したりをぜんぜんしないんです。
なのでみなさん気がつかないでいますが、本当はお洒落センスもあるし、
仕事はきちんとしているで、クォリティの高さを維持している数少ない工芸家です。

角好司にもっと注目しなければいけないと思います。



展覧会のご案内は「かたち21」のサイトで。

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岸野 承さんの木彫り仏像――「アートでおもてなし」展から②

2011年11月06日 | 岸野 承の木彫


岸野承さんについては当ブログの6月10日の記事「床の間奪回」で紹介してる人です。
三月の大震災直後に東京で木彫りの仏像による個展を開いてますが、
現在も仏像にいれ込んでいるようで、2点ほど送られてきましたが、
若手ということもあるのでしょうか、この半年で作境を一歩進めたという印象を受けます。


   
木端仏


木端仏というのは、路傍にうち捨てられているような何の変哲もない棒っきれから、
仏様を彫り出した作品です。棒っきれの無価値で儚い感じを残しながら、
仏様の尊い雰囲気が漂っていて、何かジーンと感じさせられるものがあります。
仏教の信者でもないのに、仏様の有難味というものが伝わってくるのはなぜなんだろうかと、
そんなことを考えさせられてしまうような仏像です。


もうひとつの特徴は、木を削った跡の面が妙に目に焼きつくような印象があります。
彫っているというよりも削っているという感じで、その削り跡の面が印象的なのです。
そういう感想を岸野さんに伝えたところ、「形を面で構成している」というふうなことを言ってました。
これはかなり重要なことです。


西洋の伝統的な彫刻の方法は、大きくモデリング(足す)やり方と
カーヴィング(彫る)の二つの方法があると言われますが、
面を組み立てていくという考え方はそのどちらでもなく、
日本の古い木彫の方法だということです。



雲水



岸野さんは面をどう展開していくかという考え方で木を彫っていくということです。
一つの面を削ったあと、次にどう展開するかは、イメージが出てくるまで待つのだそうです。
こういう方法は、非常に興味深いものがあると私は思います。
信者でもない人間にも岸野さんが彫る仏像が尊く感じられるのはなぜか
という問題とも関係していると思います。
今のところまだ言葉にすることができませんが、新しい彫刻のビジョンが秘められているように感じています。


こんなのもあります。


亀(銅板を打ち出した小品)

展覧会のご案内は「かたち21」のサイトで。



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