モノ・語り

現代のクラフトの作り手と作品を主役とするライフストーリーを綴ります。

子ブタの箸置(やきもの)

2008年12月27日 | モノ・こと・ことば

「かたち21」のHP






この子ブタの箸置は山口県山口市の明善窯という萩焼の窯元で見つけました。
一見ふつうの子ブタちゃんですが、しばらく見ているうちにお尻あたりのふくらみ具合など、
「カワイー」という感じがだんだんと増してきたのと、
型ものであるにもかかわらずしっぽの付き方がそれぞれ違っていて、
一個一個手を入れることで表情が生れてきていることが認められたことと、
薪の窯で焼いたものですが値段が1000円以下であったということが理由で、
思わず財布の紐が解けてしまいました。






私はキムズカシイ方なので、子ブタとかネコとかトリとかの小動物の細工物を見ても
簡単には「カワイー」などとは思いません。
しかしその後、現在に至るまでこの子ブタたちは食事のたびに私の面前で
箸置としての役割を果たしてくれているのですが、
「カワイー」という実感が未だに新鮮なままに続いています。

動物彫刻というと、私の経験では縄文時代のものや中国の古代のものが感動的です。
それからこの夏に町田市の歴史博物館で見た『アジアを慈しむ』というタイトルの
東南アジアの陶磁器展に出品されていた、15~16世紀頃のタイのやきものがよかった。
掌にすっぽりと収まるぐらいの小さな蓋もので、作行きは素朴に感じられますが、
生き物のの息遣いが伝わってくるような存在感がありました。




『アジアを慈しむ』展(町田市歴史博物館)図録より



『アジアを慈しむ』は子ブタの箸置を手に入れたあとに見ましたが、
その動物彫刻群のなかに子ブタの箸置を置いても負けていないなと思いました。
また秋には、プロの彫刻家の動物彫刻をいくつか見る機会があったけれども、
「生き物」らしさは、タイの蓋ものの動物たちと子ブタの箸置の方がまさっていました。

「生き物」を感じさせる動物彫刻が作れる人を待ち望んでいます。
子ブタの箸置の作者は、今のところまったく無名の人です。
これからも頑張って欲しいと思っています。



この箸置を手に入れたい人はこちらへどうぞ。



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名倉亜矢子さんの歌い方について

2008年12月21日 | 音のかたち

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12月12日付記事「名倉亜矢子のアイルランド古謡に浸る」からの続き。

名倉さんは少し細身で華奢な感じのする体つきをしています。
クラシック系の歌手は恰幅のいい堂々とした体躯をしているというイメージが一般的である中で、
名倉さんの「ごく普通の体つき」は、かえって異様な印象を受けます。
あの朗々としたのびやかな声は、いったいどうやって発せられるのだろうと
いぶかしく思ってしまうほどです。

19日の金曜日に、名倉さんの初CD『やすらぎの歌』のキャンペーンリサイタルがあって、
生の声をソロで初めて聴きました。1時間半ほどで20曲近くの演奏でしたが、
師走のあわただしい中をじっくりと堪能させてもらいました。

会場は東京・大久保にある教会(淀橋教会)の、100人ぐらいが入れそうな小さな講堂でした。
音響環境も音楽の演奏向きに設計されていて、その中で名倉さんの透明な声がよく響き渡りました。
そのとき感じたことは、彼女は身体を楽器のように響かせているのではなくて、
コンサート空間そのものを楽器のように響かせているのでは、ということでした。
そういうテクニックを持っているのではないでしょうか
(もしそうだとすると――私はきっとそうだと信じますが――
名倉さんはやっぱりケルトの民話に出てくる妖精だということになります)。

それにしても、彼女の声質や歌唱法はどこからきているのか、私には謎めいたものを感じます。
ある雑誌の(古楽情報誌アントレ)最新号に彼女のエッセーが載っていました。
それによると、ボストンで過ごした大学生時代に、
「ルネサンスの歌曲に加えて、ディンディアのモノディを歌うことにな」り、
「日本人としての血が騒ぐ、演歌や民謡を聴いた時のような、
不思議な懐かしさを感じた」ということです。

これで名倉さんも日本人なんだということが確認されて安心した、
というわけではありません。謎の核心はまだこの先です。
そこには壮大な物語を予感させるものがありますが、
今のところ闇の中です。


12月22日千葉市美術館でソロコンサートあり。詳細はこちら

CD『やすらぎの歌』は「かたちSHOP」でも取り扱い中
  
  
  
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カステラと木のフォーク

2008年12月20日 | 飯碗、湯呑み、木のクラフト

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デスクワークの一日は、午前の11時ごろと午後の4時ごろが休憩の時間です。
休憩の時間はエネルギーの補給の時間でもあって、
午前は主として糖分系のものを、午後は炭水化物系でカロリーのやや高いものを摂ります。

今日の午前はカステラでした。
生活クラブから取り寄せた、素精糖カステラです。
甘味を含んでややもちっとしたスポンジ質の生地を一口大に切り分けるのは、
うえやまさんの木のフォーク。先の方のカーブの浅い方のエッジが
お菓子などを切り分けられるように少し薄くなっています。

ナイフを兼ねているんですね。そしてカステラに突き刺して
口に運ぶ間が黒文字よりも安心感があります。
カステラとフォークのやわらかで暖かい感触がマッチしていて、
体がカステラの甘みの中にひたっていきました。




「やすらぎの贈りもの」はこちら
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石内 都の「ひろしま」

2008年12月16日 | アートの工芸的見方



「かたち21のHP]






写真は石内都という写真家の最新作品集『ひろしま』からコピーさせてもらいました。
広島の原爆記念館に収蔵されている被爆者の遺品を撮影したものです。
『ひろしま』はこのような衣類の遺品の写真集です。

広島に原爆が落とされたのは1945年。その当時に広島市の人たちが着ていた衣服ですね。
花柄のワンピースとか、縞のドレスとか、透きとおったものとか、
フリルの付いたものとかいろいろあります。
戦中にも結構華やかに着こんでいたんだということがわかります。

今、東京の目黒区立美術館で石内さんの展覧会をやっていて、
最新作の「ひろしま」の作品も展示されています。
今月3日に石内さんと社会学者の上野千鶴子さんの公開対談が行われましたが、
上野さんは戦時中の広島の女性たちがこんなにおしゃれを愉しんでいたとは思わなかったと言い、
石内さんは衣服としてのクオリティーも高いものだ、と言ってました。

昨年(2007年)の1月に原爆記念館を初めて訪れるまで
「広島」には関心を持っていなかったという石内さんが、
これらの遺品を目にして、写真家としてその世界にのめり込んでいくのです。







アートとしてのこれらの写真作品を見ての感想はいろいろありますが、
私の知人はこんなことを言ってました。
「もし現代に同じような悲惨な事態が起こって、衣服が遺されたとしても、
「未来の石内さん」が同じようにその遺品の写真を撮ろうと思うだろうか」というものです。

「ひろしま」という写真集を実現させたのは、
戦中の広島の女性たちが着ていた日常着のクオリティの高さであり、
それを愉しんでいた人々の心の豊かさであり、
そしてそのことを見透した石内さんの目と、それを写真の世界に仕上げていく写真家としての力量です。
『ひろしま』は単に過去の出来事を改めて記録したというだけでなく、
それによって「現代」という時代を照射するはたらきも獲得しました。
それは石内都の写真がある普遍性に達したということだと私には思えました。






「石内 都展 ひろしま/ヨコスカ」は明年1月11日まで 詳細は目黒区立美術館HP
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名倉亜矢子のアイルランド古謡に浸る

2008年12月12日 | 音のかたち

「かたち21」のHP



音楽は演奏が終わると消えてしまいます。
その点は、いつも姿を見せている工芸品と異なるところです。
だけど、人間には記憶のはたらきがあって、
記憶の中では音楽はその全体の姿をとどめています。
記憶という空間の中で聴く音楽は、ひとつの立体物であると私は思っています。

だから音楽からひとつの造形物を想像できますし、
逆に(前回の斉藤さんの家具のように)立体物から音楽を聞き取ることもできるわけです。





さて、今日の「モノ・語り」は、音楽の話題です。
名倉亜矢子さんという、クラシックの古歌の分野で活躍されている
ソプラノ歌手の初めてのCDです。
曲目はアイルランドの古謡が中心となっています。

アイルランドといえば、工芸との関連で言えばケルトの装飾芸術があって、私はこれが大好きです。
それから、稲垣足穂から紹介されたダンセイニや、
スイフト(『ガリバー旅行記』の作者)や
イエイツ(ケルトの神話・民話を収集した20世紀初頭の詩人)といった詩人、
何よりもジェームス・ジョイスの文学ですね。
こういった人たちのファンです。

とにかく足穂が「たそがれの民族」と呼んだ、ケルト民族の文化というものには、それが何であれとても惹かれているので、
音楽についても例外ではありません。
アイルランドの民謡や古謡を集めたCDをずうっと長い間求めていたんです。

名倉さんの声質はちょっとボーイソプラノぽいところがまた魅力です。
透明で、そしてよく響きます。
私にはケルトの民話に出てくる妖精の声のように聞こえて、それがアイルランド古歌の哀愁を帯びた曲想にぴったりです。
長年の渇望が充分に満たされたという感慨に浸っています。

世界に名演奏は無数にありますが、
最近の一枚としては私は敢えてこのCDをお奨めしたいと思います。





CD『やすらぎの歌」のお求めはこちら


名倉さんの12月のコンサート情報はこちら
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