今回は桶谷寧さんが焼いた黒織部茶碗と井戸茶碗です。
桶谷さんといえば、当ブログでもすでにご紹介しているように、
曜変天目茶碗や油滴天目、禾目天目、柿天目などの天目系のやきものを
現代に再創造した陶芸家です。天目系は中国の古典的なやきものですが、
この黒織部茶碗、井戸茶碗は桃山時代(西暦1600年前後)に焼かれた
いわゆる「国焼き」といわれるやきものです。
中国古陶磁を再現した人が今度は日本の古陶磁の再現? と思われるかもしれませんが、
桶谷さんによれば、どちらも同じ窯で、似たような焼き方をしてできるということです。
中国の古典的なやきものでも、日本の伝統的なやきものでも、
国宝クラスの評価を得ているやきものの本質は同じだというのが
桶谷さんの考え方ですが、それを実践で証明してみせているのですね。
数年前に世田谷区用賀の静嘉堂文庫美術館で曜変天目茶碗が一般公開されたとき、
桃山期の長次郎(楽茶碗の創始者)の黒楽茶碗や瀬戸黒茶碗が同時公開されており、
私は桶谷さんと一緒に見てまわりました。若い時分にも見たことがありますが、
何十年ぶりかで見て、その圧倒的な存在感に溜息をつく思いでした。
そして桶谷さんの黒織部茶碗というのが、長次郎や桃山期の瀬戸黒茶碗と同質のものであって、
そういう「黒」を焼ける桶谷さんと時代を共有していることの幸せを感じたものであります。
井戸茶碗について言うと、その侘びた味わいは経年変化の結果と思われていますが、
これも桶谷さんの説では、焼かれた当初からこういう色合いだったということです。
私は桃山期の数寄者の美意識からして、桶谷さんの説を支持したいと思います。
侘びた色合いと見えるのは高温焼成によって引き出されてくる土の色を表わしており、
それは自然界が人間の視線に対して秘めている色の本質であるというふうに私は思います。
つまり、常温下での経年による古さびた色ではなく、土が変容して露わになる、
生々しい自然の色であるということです。
そこに井戸茶碗のリアルな、そして人為を超えた美しさがあるわけです。
茶を喫するのであればこういう茶碗で、というのが私の願望です。
やきもののやきものたるゆえんということを探っていくならば、
最終的にはここに行き当たると私は思っています。
桶谷さんの作品は〈「かたちの会」コレクション〉のサイトでも展示中。