月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

1世紀の重み

2012-09-03 | 仕事
先週で仕事が一段落すると思っていたら、ありがたことにまったく一段落しない。
今日、突然取材が入ったし、明日もあさっても、新たな仕事の打合せだ。
先週の取材分の原稿がやや押し気味。

そんなわけでちょっとバタバタしているが、今日の取材はよかった。
数年前から明治生まれの人を取材して短い自伝のようなものを書くというプロジェクトに参加している。
と言っても、取材したのは始めた年に3人だけ。
ここ2年ほど連絡も来なかったので、もう中断したのかなーと思っていた。

すると、久しぶりにH社長から連絡が。
ようやく30人分たまったので、本にするとのこと。
その編集作業を頼まれた。
また、30人目はこれから取材で、すごい人なので、ぜひ担当してほしいとのこと。
急な依頼でどうしようかなと思ったが、人物を聞いて、これは断ってはいけないと思った。

テレビや雑誌などでも紹介されたことが何度もあるので、知っている人もいると思う。
名門、灘中学・高校の国語教師で、中学の3年間を通して、中勘助の「銀の匙」1冊だけを教材に使って教えたということで有名な橋本武先生だ。
灘で50年教師を務め、今年100歳になる。明治45年生まれ。

私はテレビで見ていて、とても興味をひかれていたので、実際にお会いできてお話をうかがえるチャンスを逃してはいけないと思った。
それで、今日、行ってきた。

H社長と担当のIさんと私の三人で、ご自宅へ。
右耳の聴力を病気で失っているうえ、左耳も老化であまり聞こえないので、大声でインタビューするのが大変だったが、頭はしっかりされているし、話す言葉も聞き取りやすかった。
取材慣れしているということもあったのか、すらすらと詰まることなく生い立ちから話してくださった。

やっぱり「1世紀を生きた人」というのはすごい。
単にもう、生きているというだけですごい。

いろんな話を聞いて思ったのは、「まだ役目があって生かされている人なんだな」ということ。
何度も死にかけて、そのたびに奇跡的に助かっている。
奥様が病弱だったとかで、お子さんはいない。
100年かけて、この人自身がこの世の中に伝えるべきこと、やるべきことがあったのだなと思えた。
誰にも託さずに。DNAも残さずに。

「よし、これをやろう。やりたいと思ったら、何でもやったらいい。人のまねをする必要はないし、逆に、人のまねをしたっていい。それが自分がやりたいと思ったことなら、やってみればいい」

そう話していた。
私がここで書いても薄っぺらだけど、100年も生きた人の言葉だと、重みがあった。

たった1冊の本を3年かけて学習するという教え方は、数年前になってようやく世間で注目されるようになった。
「スローリーディング」なんて名前もつけられた。
でも、「今だから」なんだろうなと思う。
今の世の中に必要な、求められている教育法だったのだ。だから、注目される。
先生は50年以上前からずっとそうやって教えてきたというのに。

だけど、これも先生が生きているからこそ。
亡くなっていたら、世の中にこの話を出そうという人もいなかったかもしれない。

先生は、年齢は重ねて、見た目は年寄りだけど、とてもイキイキとして輝いていた。
120歳まで生きる計画があるらしい。
まだいろいろやりたいこともあるみたいだ。
やりたいことがある人は、何歳になっても輝いているんだなと思った。

源氏物語の現代語訳も出版されたそうで、これはぜひ読んでみたいと思った。
谷崎潤一郎の現代語訳は「谷崎源氏」になるし、田辺聖子の現代語訳は「田辺源氏」になってしまう。
でも、これは、紫式部が現代に生きていたらこう書いただろうということを想定して書いた「紫式部の源氏」なのだとか。
それを聞いたらぞくーっとした。読みたくて読みたくて。

ご自宅は本だらけ。
読むことと書くことが好きなんだとか。
そして、教師の仕事が好きで好きで、自分の人生のすべてなんだとか。
そう言えるのは素敵だ。
100歳になった今でも、月に3回は文化教室で古典の授業をしているという。
きっと死ぬまで現役なんだろう。

帰りに、ご自分で創った冊子をたくさんいただいた。(手前の「銀の匙」は私の本)


今日はなかなかできない体験ができてよかった。
こういう取材で得た言葉というのは、私の宝だなぁ。

先生を含めて明治生まれの人たちのインタビュー30名分の本を、年内くらいにまとめて出版したいとH社長は言う。
また書籍にかかわることができて、嬉しい。
もっと頑張らないといけないな・・・

いよいよ精神的に嫌気がさして、今日は久しぶりに酒をやめている。
無理に飲まないでいるわけでも、体調が悪いわけでもない。ただ、まったく飲む気がしない。
この夏、ひたすら飲み続けて、堕落した生活をして、毎朝後悔で目覚めて、もう本当に、本当に、ほとほとイヤになったのだ。
自分の性格はいつもだけど、自分の生活にここまで嫌気がさしたのは初めてだ。
いつもの「ちゃんとしよう。明日からがんばろう」も通り越して、おのずと「ちゃんとしている」。
よっぽどだ。

ちょうど仕事も忙しいし、久しぶりに集中している。
目の前の仕事もあるし、年内に出す書籍の原稿もたまっているし、書いても書いても終わらないほど、書くことがある。
幸せなことだ。
毎日、不安に押しつぶされそうになりながら酒をあおらなくても、書いていればいいのだから。
とりあえず、しばらくの間だけでも、堕落した生活を抜け出そう。

書いて書いて書いて、お金をもらう。
いちばん幸せな時間。
こんなふうに1円にもならないブログを書くのとは違う。
仕事で書いているときが幸せ。
自分がいちばん好きなことで、ちょっとだけ世の中に役に立てていると思えるから。

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2 コメント

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よかったなー (もんちゃん)
2012-09-04 01:01:56
2年ほど間があいてもH社長は
心にかけてくれててんなぁ。
よかったね

橋本先生の本は前に読んだことがあって
すごいおもしろかった。
そんな人の取材できてよかったね

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うん (かおり)
2012-09-04 10:00:23
もんちゃん

そうやなぁ、もう関わることもないかと思っててんけど、
ちゃんと忘れないでいてくれはった。
ライティングの仕事が出てきたら、必ず私に声をかけるようにと、部下にも伝えてたんやって。
ありがたいことやね。

本、読んだことあるんや。
「奇跡の教室」かな?
私も読もうと思ってます。
いろんな人に会えるのは、この仕事の特権やね。

アルコールも久しぶりに抜けたし、がんばるぞ!
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