月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

ここがやっぱり私のホーム

2018-06-16 | 美味しいもの
仕事を全部終わらせて、早く家と自分のメンテをしたいのに、次から次へとこまごました仕事が来て、慌ただしく過ごしていた。
半日かけた姫路での取材は、対象が久しぶりに酒蔵以外の企業だった。
どんな業種でも「社長」と呼ばれる人の話を聞くのは面白いなぁと思う。わくわくする。
やっぱり自分は取材が好きだと感じたし、遠方で移動は大変だったが、帰り道ではここのところあまり感じたことのないような充実感を得られていることに気づいた。

そして、昨日で仕事も一段落し、この週末はきちんと土日休んでゆっくりできる。
来週は月曜から秋田に飛ぶが、それが終われば6月後半は今度こそ本当に「メンテ」にあてられそうだ。

昨日は夕方までに仕事を終え、一人でびりけんへ行った。
2年前に手術してから一度も行けていなかった。
なぜか行こうとするとタイミングが合わずで、手術前にマスターにはたくさん励ましてもらっていたのに、元気になった姿を見せることなく2年も経ってしまった。

夕方、大阪へ向かう途中、顔がにやけてくるのを止めることができなかった。
こんなに嬉しいのなら、どうして早く無理をしてでも行かなかったんだろうかとも思った。

ビルの8階へ上がり、扉を開けると、まだ誰もお客さんはいなくて、マスターが「おおー、久しぶりやな」と笑顔で迎えてくれた。
最近、クラフトビールのサーバーを導入して、4種類のビールが飲めるようになったという。
ビールを注文して、いつものように料理が出てくるのを待った。

何もかもが美味しくて、自分がどんどん幸せになっていくのがわかった。

ロマネスコ。塩とオリーブオイルだけで。


明石のタコ。梅肉を添えて。


小鯵のお造り。醤油麹を添えて。この辺りからもちろん日本酒へ。
人生で食べた中で一番おいしい鯵のお造りだった。


鯖のスモーク。いい感じの燻し加減。それを温めているから、香りが立ってさらに美味しい。


賀茂茄子に野菜と出汁をかけたもの。賀茂茄子が柔らかくてホクホクで、優しい味の出汁とマッチ。
当然、出汁もすべて飲み干した。


ローストビーフ&ローストポーク。
普段、こんな生っぽいお肉を食べるのは苦手だけど、びりけんのローストビーフは大丈夫。味わい深くて、噛めば噛むほど肉のうまみがしみだしてくる。


焼き鳥。私は注文しなかったのだが、隣の女性が注文したものを分けてもらった。
甘酒と塩麹に漬け込んでから焼いているとのことで、ふわふわ。肉を「ふわふわ」と表現するのも変な話だが、切っているのを見たとき、お客さんがみんな「ふわふわ!」と言ったくらい、ふわふわなのだ。


餃子。びりけんの餃子は初めてだった。昔はにら饅頭だったんだけど、今はこれらしい。味がついているのでそのまま食べられる。
こんなに食べた後でもまだいくらでも食べられるような、食欲に火をつけるような味。


実はこれ以外にも、写真はないが、卵の燻製醤油漬けと、ふきのとうのペースとを塗ったバゲットを食べている。
夜にこんなたくさんの料理を食べたのは久しぶりだった。
すべてが美味しくて美味しくて、いつも食べているものは一体何だったんだろかと思うほど、素材が力を持っているのを感じた。
その力を持った素材が、そのまま自分の細胞にしみこんでいくような、そんな感じだ。
びりけんの料理は「美味しい」という表現では物足りなく感じる。他の店の美味しい料理と比べるのもステージが違う気がする。
それはどちらが上かということではなくて、まったく異なるステージだから、勝負することがそもそも違うという感じだ。
私はいつも「幸せの味」「パワー料理」と呼んでいる。
その意味がわかる人たちが、この店には集まって来るんだなといつも思う。

店はずっと満員だった。10席のカウンターは埋まったまま。
初めて顔を合わせた人たちも、みんなが知り合いのように話し、みんなで盛り上がる。
昨日はお絵かき大会になり、「カマキリ」や「エビ」などのお題で何人かが絵を描き、見せ合って大笑いした。
私の絵はとんでもなく下手だが、横に座っていたカオリニョさん(そう呼ばれている)が、かなりうわてで、独特の世界観と絵のタッチで場を沸かせた。
気づいたら横でこんなものを描いていた。


・・・気持ち悪い。笑

結局、6時に店に入ったのに、店を出たのは12時!
高槻行きの最終で、高槻からタクシーで帰ってきた。
さすがに疲れていたが、とてもとても幸せな時間だったと、シートに体を埋めながら、しみじみとかみしめていた。

元気になってよかったと思う。
スピリチュアルなパワーを持つマスターは、最後に私に言った。
正確には、マスターではない。マスターの口を借りて言葉をくれる、もう1つ上にいる“何者か”だ。

「寿命、長いよ。大丈夫。まだこれから長く生きる」

その言葉が嬉しくて、そうか、私、まだまだ長く生きるんだと、力強く扉を開けた。
また来るね、と笑顔で手を振って。
カオリニョさんが私が終電に乗り損ねないよう、エレベーターを停めてくれていた。
飛び乗って、ドアの隙間からカオリニョさんに頭を下げて、北新地を走って駅へと急いだ。

「1日5分でいい。散文を書きなさい」
スピリチュアルな何者かから、そんなメッセージももらった。それが、仕事とは別に、私の救いになると。