カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ガラスド の ウチ 5

2018-01-05 | ナツメ ソウセキ
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 ヨノナカ に すむ ニンゲン の 1 ニン と して、 ワタクシ は まったく コリツ して セイゾン する わけ に ゆかない。 しぜん ヒト と コウショウ の ヒツヨウ が どこ から か おこって くる。 ジコウ の アイサツ、 ヨウダン、 それから もっと こみいった カケアイ―― これら から ダッキャク する こと は、 いかに コタン な セイカツ を おくって いる ワタクシ にも むずかしい の で ある。
 ワタクシ は なんでも ヒト の いう こと を マ に うけて、 すべて ショウメン から カレラ の ゲンゴ ドウサ を カイシャク す べき もの だろう か。 もし ワタクシ が もって うまれた この タンジュン な セイジョウ に ジコ を たくして かえりみない と する と、 ときどき とんでもない ヒト から だまされる こと が ある だろう。 その ケッカ カゲ で バカ に されたり、 ひやかされたり する。 キョクタン な バアイ には、 ジブン の メンゼン で さえ しのぶ べからざる ブジョク を うけない とも かぎらない。
 それでは ヒト は ミナ スレカラシ の ウソツキ ばかり と おもって、 ハジメ から アイテ の コトバ に ミミ も かさず、 ココロ も かたむけず、 ある とき は その リメン に ひそんで いる らしい ハンタイ の イミ だけ を ムネ に おさめて、 それ で かしこい ヒト だ と ジブン を ヒヒョウ し、 また そこ に アンジュウ の チ を みいだしうる だろう か。 そう する と ワタクシ は ヒト を ゴカイ しない とも かぎらない。 そのうえ おそる べき カシツ を おかす カクゴ を、 ショテ から カテイ して、 かからなければ ならない。 ある とき は ヒツゼン の ケッカ と して、 ツミ の ない ヒト を ブジョク する くらい の コウガン を ジュンビ して おかなければ、 コト が コンナン に なる。
 もし ワタクシ の タイド を この リョウメン の どっち か に かたづけよう と する と、 ワタクシ の ココロ に また イッシュ の クモン が おこる。 ワタクシ は わるい ヒト を しんじたく ない。 それから また いい ヒト を すこし でも きずつけたく ない。 そうして ワタクシ の マエ に あらわれて くる ヒト は、 ことごとく アクニン でも なければ、 また ミンナ ゼンニン とも おもえない。 すると ワタクシ の タイド も アイテ-シダイ で イロイロ に かわって ゆかなければ ならない の で ある。
 この ヘンカ は ダレ に でも ヒツヨウ で、 また ダレ でも ジッコウ して いる こと だろう と おもう が、 それ が はたして アイテ に ぴたり と あって スンブン マチガイ の ない ビミョウ な トクシュ な セン の ウエ を アブナゲ も なく あるいて いる だろう か。 ワタクシ の おおいなる ギモン は つねに そこ に わだかまって いる。
 ワタクシ の ヒガミ を ベツ に して、 ワタクシ は カコ に おいて、 オオク の ヒト から バカ に された と いう にがい キオク を もって いる。 ドウジ に、 センポウ の いう こと や する こと を、 わざと ひらたく とらず に、 あんに その ヒト の ヒンセイ に ハジ を かかした と おなじ よう な カイシャク を した ケイケン も たくさん あり は しまい か と おもう。
 ヒト に たいする ワタクシ の タイド は まず イマ まで の ワタクシ の ケイケン から くる。 それから ゼンゴ の カンケイ と シイ の ジョウキョウ から でる。 サイゴ に、 アイマイ な コトバ では ある が、 ワタクシ が テン から さずかった チョッカク が ナニブン か はたらく。 そうして、 アイテ に バカ に されたり、 また アイテ を バカ に したり、 まれ には アイテ に カレ ソウトウ な タイグウ を あたえたり して いる。
 しかし イマ まで の ケイケン と いう もの は、 ひろい よう で、 そのじつ はなはだ せまい。 ある シャカイ の イチブブン で、 ナンド と なく くりかえされた ケイケン を、 タ の イチブブン へ もって ゆく と、 まるで ツウヨウ しない こと が おおい。 ゼンゴ の カンケイ とか シイ の ジョウキョウ とか いった ところ で、 センサ バンベツ なの だ から、 その オウヨウ の クイキ が かぎられて いる ばかり か、 そのじつ センサ バンベツ に シリョ を めぐらさなければ ヤク に たたなく なる。 しかも それ を めぐらす ジカン も、 ザイリョウ も じゅうぶん キュウヨ されて いない バアイ が おおい。
 それで ワタクシ は ともすると じじつ ある の だ か、 また ない の だ か わからない、 きわめて あやふや な ジブン の チョッカク と いう もの を シュイ に おいて、 ヒト を ハンダン したく なる。 そうして ワタクシ の チョッカク が はたして あたった か あたらない か、 ようするに キャッカンテキ ジジツ に よって、 それ を たしかめる キカイ を もたない こと が おおい。 そこ に また ワタクシ の ウタガイ が しじゅう モヤ の よう に かかって、 ワタクシ の ココロ を くるしめて いる。
 もし ヨノナカ に ゼンチ ゼンノウ の カミ が ある ならば、 ワタクシ は その カミ の マエ に ひざまずいて、 ワタクシ に ゴウハツ の ウタガイ を さしはさむ ヨチ も ない ほど あきらか な チョッカク を あたえて、 ワタクシ を この クモン から ゲダツ せしめん こと を いのる。 で なければ、 この フメイ な ワタクシ の マエ に でて くる スベテ の ヒト を、 レイロウ トウテツ な ショウジキモノ に ヘンカ して、 ワタクシ と その ヒト との タマシイ が ぴたり と あう よう な コウフク を さずけたまわん こと を いのる。 イマ の ワタクシ は バカ で ヒト に だまされる か、 あるいは うたがいぶかくて ヒト を いれる こと が できない か、 この リョウホウ だけ しか ない よう な キ が する。 フアン で、 フトウメイ で、 フユカイ に みちて いる。 もし それ が ショウガイ つづく と する ならば、 ニンゲン とは どんな に フコウ な もの だろう。

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 ワタクシ が ダイガク に いる コロ おしえた ある ブンガクシ が きて、 「センセイ は このあいだ コウトウ コウギョウ で コウエン を なすった そう です ね」 と いう から、 「ああ やった」 と こたえる と、 その オトコ が 「なんでも わからなかった よう です よ」 と おしえて くれた。
 それまで ジブン の いった こと に ついて、 その ホウメン の ケネン を まるで もって いなかった ワタクシ は、 カレ の コトバ を きく と ひとしく、 イガイ の カン に うたれた。
「キミ は どうして そんな こと を しってる の」
 この ギモン に たいする カレ の セツメイ は カンタン で あった。 シンセキ だ か チジン だ か しらない が、 なにしろ カレ に カンケイ の ある ある ウチ の セイネン が、 その ガッコウ に かよって いて、 トウジツ ワタクシ の コウエン を きいた ケッカ を、 なんだか わからない と いう コトバ で カレ に つげた の で ある。
「いったい どんな こと を コウエン なすった の です か」
 ワタクシ は セキジョウ で、 カレ の ため に また その コウエン の コウガイ を くりかえした。
「べつに むずかしい とも おもえない こと だろう キミ。 どうして それ が わからない かしら」
「わからない でしょう。 どうせ わかりゃ しません」
 ワタクシ には だんこ たる この ヘンジ が いかにも フシギ に きこえた。 しかし それ より も なお つよく ワタクシ の ムネ を うった の は、 よせば よかった と いう コウカイ の ネン で あった。 ジハク する と、 ワタクシ は この ガッコウ から ナンド と なく コウエン を イライ されて、 ナンド と なく ことわった の で ある。 だから それ を サイゴ に ひきうけた とき の ワタクシ の ハラ には、 どうか して そこ に あつまる チョウシュウ に、 ソウトウ の リエキ を あたえたい と いう キボウ が あった。 その キボウ が、 「どうせ わかりゃ しません」 と いう カンタン な カレ の イチゴン で、 みごと に フンサイ されて しまって みる と、 ワタクシ は わざわざ アサクサ まで ゆく ヒツヨウ が なかった の だ と、 ジブン を かんがえない わけ に ゆかなかった。
 これ は もう 1~2 ネン マエ の ふるい ハナシ で ある が キョネン の アキ また ある ガッコウ で、 どうしても コウエン を やらなければ ギリ が わるい こと に なって、 ついに そこ へ いった とき、 ワタクシ は ふと ワタクシ を コウカイ させた ゼンネン を おもいだした。 それに ワタクシ の ろんじた その とき の ダイモク が、 わかい チョウシュウ の ゴカイ を まねきやすい ナイヨウ を ふくんで いた ので、 ワタクシ は エンダン を おりる マギワ に こう いった。――
「たぶん ゴカイ は ない つもり です が、 もし ワタクシ の イマ おはなし した ウチ に、 はっきり しない ところ が ある なら、 どうぞ シタク まで きて ください。 できる だけ アナタガタ に ゴナットク の いく よう に セツメイ して あげる つもり です から」
 ワタクシ の この コトバ が、 どんな ふう に ハンキョウ を もたらす だろう か と いう ヨキ は、 トウジ の ワタクシ には ほとんど なかった よう に おもう。 しかし それから 4~5 ニチ たって、 3 ニン の セイネン が ワタクシ の ショサイ に はいって きた の は ジジツ で ある。 その ウチ の フタリ は デンワ で ワタクシ の ツゴウ を ききあわせた。 ヒトリ は テイネイ な テガミ を かいて、 メンカイ の ジカン を こしらえて くれ と チュウモン して きた。
 ワタクシ は こころよく それら の セイネン に せっした。 そうして カレラ の ライイ を たしかめた。 ヒトリ の ほう は ワタクシ の ヨソウドオリ、 ワタクシ の コウエン に ついて の スジミチ の シツモン で あった が、 のこる フタリ の ほう は、 アンガイ にも カレラ の ユウジン が その カテイ に たいして とる べき ホウシン に ついて の ギギ を ワタクシ に きこう と した。 したがって これ は ワタクシ の コウエン を、 どう ジッシャカイ に オウヨウ して いい か と いう カレラ の モクゼン に せまった モンダイ を もって きた の で ある。
 ワタクシ は これら 3 ニン の ため に、 ワタクシ の いう べき こと を いい、 セツメイ す べき こと を セツメイ した つもり で ある。 それ が カレラ に どれほど の リエキ を あたえた か、 ケッカ から いう と この ワタクシ にも わからない。 しかし それ だけ に した ところ で ワタクシ には マンゾク なの で ある。 「アナタ の コウエン は わからなかった そう です」 と いわれた とき より も はるか に マンゾク なの で ある。

(この コウ が シンブン に でた 2~3 ニチ アト で、 ワタクシ は コウトウ コウギョウ の ガクセイ から 4~5 ツウ の テガミ を うけとった。 その ヒトビト は ミンナ ワタクシ の コウエン を きいた モノ ばかり で、 いずれ も ワタクシ が ここ で のべた シツボウ を うちけす よう な ジジツ を、 ハンショウ と して かいて きて くれた の で ある。 だから その テガミ は みな コウイ に みちて いた。 なぜ イチ ガクセイ の いった こと を、 チョウシュウ ゼンタイ の イケン と して ソクダン する か など と いう キツモンテキ の もの は ヒトツ も なかった。 それで ワタクシ は ここ に イチゴン を フカ して、 ワタクシ の フメイ を しゃし、 あわせて ワタクシ の ゴカイ を ただして くれた ヒトビト の シンセツ を ありがたく おもう ムネ を オオヤケ に する の で ある。)

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 ワタクシ は コドモ の ジブン よく ニホンバシ の セトモノ-チョウ に ある イセモト と いう ヨセ へ コウシャク を きき に いった。 イマ の ミツコシ の ムコウガワ に いつでも ヒルセキ の カンバン が かかって いて、 その カド を まがる と、 ヨセ は つい コハンチョウ ゆく か ゆかない ミギテ に あった の で ある。
 この セキ は ヨル に なる と、 イロモノ だけ しか かけない ので、 ワタクシ は ヒル より ホカ に アシ を ふみこんだ こと が なかった けれども、 ドスウ から いう と いちばん おおく かよった ところ の よう に おもわれる。 トウジ ワタクシ の いた イエ は むろん タカタ ノ ババ の シタ では なかった。 しかし いくら チリ の ベン が よかった から と いって、 どうして あんな に コウシャク を きき に ゆく ジカン が ワタクシ に あった もの か、 イマ かんがえる と むしろ フシギ な くらい で ある。
 これ も イマ から ふりかえって とおい カコ を ながめる せい でも あろう が、 そこ は ヨセ と して は むしろ ジョウヒン な キブン を キャク に おこさせる よう に できて いた。 コウザ の ミギガワ には チョウバ-ゴウシ の よう な シキリ を ニホウ に たてまわして、 その ナカ に ジョウレン の セキ が もうけて あった。 それから コウザ の ウシロ が エンガワ で、 その サキ が また ニワ に なって いた。 ニワ には ウメ の コボク が ナナメ に イゲタ の ウエ に つきでたり して、 キュウクツ な カンジ の しない ほど の オオゾラ が、 エン から あおがれる くらい に ヨブン の ジメン を とりこんで いた。 その ニワ を ヒガシ に うけて ハナレザシキ の よう な タテモノ も みえた。
 チョウバ-ゴウシ の ウチ に いる レンジュウ は、 ジカン が あまって つかいきれない ユウフク な ヒトタチ なの だ から、 ミンナ ソウオウ な ナリ を して、 ときどき ノンキ そう に タモト から ケヌキ など を だして コンキ よく ハナゲ を ぬいて いた。 そんな のどか な ヒ には、 ニワ の ウメ の キ に ウグイス が きて なく よう な キモチ も した。
 ナカイリ に なる と、 カシ を ハコイリ の まま チャ を うる オトコ が キャク の アイダ へ くばって あるく の が この セキ の シュウカン に なって いた。 ハコ は あさい チョウホウケイ の もの で、 まず ダレ でも ほしい と おもう ヒト の テ の とどく ところ に ヒトツ と いった ふう に ツゴウ よく おかれる の で ある。 カシ の カズ は ヒトハコ に トオ ぐらい の ワリ だった か と おもう が、 それ を たべたい だけ たべて、 アト から その ダイカ を ハコ の ナカ に いれる の が ムゴン の キヤク に なって いた。 ワタクシ は その コロ この シュウカン を めずらしい もの の よう に きょうがって ながめて いた が、 イマ と なって みる と、 こうした オウヨウ で ノンキ な キブン は、 どこ の ヒトヨセバ へ いって も、 もう あじわう こと が できまい と おもう と、 それ が また なんとなく なつかしい。
 ワタクシ は そんな おっとり と ものさびた クウキ の ナカ で、 ふるめかしい コウシャク と いう もの を イロイロ の ヒト から きいた の で ある。 その ナカ には、 すととこ、 のんのん、 ずいずい、 など と いう ミョウ な コトバ を つかう オトコ も いた。 これ は タナベ ナンリュウ と いって、 モト は どこ か の ゲソクバン で あった とか いう ハナシ で ある。 その すととこ、 のんのん、 ずいずい は はなはだ ユウメイ な もの で あった が、 その イミ を リカイ する モノ は ヒトリ も なかった。 カレ は ただ それ を グンゼイ の おしよせる ケイヨウシ と して もちいて いた らしい の で ある。
 この ナンリュウ は とっく の ムカシ に しんで しまった。 その ホカ の モノ も タイテイ は しんで しまった。 ソノゴ の ヨウス を まるで しらない ワタクシ には、 その ジブン ワタクシ を よろこばせて くれた ヒト の ウチ で いきて いる モノ が はたして ナンニン ある の だ か まったく わからなかった。
 ところが いつか ビオンカイ の ボウネンカイ の あった とき、 その バングミ を みたら、 ヨシワラ の タイコモチ の チャバン だの ナン だの が ならべて かいて ある ウチ に、 ワタクシ は たった ヒトリ の トウジ の キュウユウ を みいだした。 ワタクシ は シントミ-ザ へ いって、 その ヒト を みた。 また その コエ を きいた。 そうして カレ の カオ も ノド も ムカシ と ちっとも かわって いない の に おどろいた。 カレ の コウシャク も まったく ムカシ の とおり で あった。 シンポ も しない カワリ に、 タイホ も して いなかった。 20 セイキ の この キュウゲキ な ヘンカ を、 ジブン と ジブン の シュウイ に おそろしく イシキ しつつ あった ワタクシ は、 カレ の マエ に すわりながら、 たえず カレ と ワタクシ と を、 ココロ の ウチ で ヒカク して イッシュ の モクソウ に ふけって いた。
 カレ と いう の は バキン の こと で、 ムカシ イセモト で ナンリュウ の ナカイリマエ を つとめて いた コロ には、 キンリョウ と よばれた ワカテ だった の で ある。

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 ワタクシ の チョウケイ は まだ ダイガク と ならない マエ の カイセイ-コウ に いた の だ が、 ハイ を わずらって チュウト で タイガク して しまった。 ワタクシ とは だいぶ トシ が ちがう ので、 キョウダイ と して の シタシミ より も、 オトナ タイ コドモ と して の カンケイ の ほう が、 ふかく ワタクシ の アタマ に しみこんで いる。 ことに おこられた とき は そうした カンジ が つよく ワタクシ を シゲキ した よう に おもう。
 アニ は イロ の しろい ハナスジ の とおった うつくしい オトコ で あった。 しかし カオダチ から いって も、 ヒョウジョウ から みて も、 どこ か に けわしい ソウ を そなえて いて、 むやみ に ちかよれない と いった フウ の せまった ココロモチ を ヒト に あたえた。
 アニ の ザイガクチュウ には、 まだ チホウ から でて きた コウシンセイ など の いる コロ だった ので、 イマ の セイネン には ソウゾウ の できない よう な キフウ が コウナイ の そこここ に のこって いた らしい。 アニ は ある ジョウキュウセイ に フミ を つけられた と いって、 ワタクシ に はなした こと が ある。 その ジョウキュウセイ と いう の は、 アニ など より も ずっと トシウエ の オトコ で あった らしい。 こんな シュウカン の おこなわれない トウキョウ で そだった カレ は、 はたして その フミ を どう シマツ した もの だろう。 アニ は それ イゴ ガッコウ の フロ で その オトコ と カオ を みあわせる たび に、 キマリ の わるい オモイ を して こまった と いって いた。
 ガッコウ を でた コロ の カレ は、 ヒジョウ に シカク シメン で、 しじゅう かたくるしく かまえて いた から、 チチ や ハハ も たしょう カレ に キ を おく ヨウス が みえた。 そのうえ ビョウキ の せい でも あろう が、 つねに いんきくさい カオ を して、 ウチ に ばかり ひっこんで いた。
 それ が いつ と なく とけて きて、 ヒトガラ が おのずと やわらか に なった と おもう と、 カレ は よく コワタリ トウザン の キモノ に カクオビ など を しめて、 ユウガタ から ウチ を ソト に しはじめた。 ときどき は ムラサキイロ で キッコウガタ を イチメン に すった カメセイ の ウチワ など が チャノマ に ほうりだされる よう に なった。 それ だけ なら まだ いい が、 カレ は ナガヒバチ の マエ へ すわった まま、 しきり に コワイロ を つかいだした。 しかし ウチ の モノ は べつだん それ に トンジャク する ヨウス も みえなかった。 ワタクシ は むろん ヘイキ で あった。 コワイロ と ドウジ に トウハチケン も はじまった。 しかし この ほう は アイテ が いる ので、 そう マイバン は くりかえされなかった が、 なにしろ へんに ブキヨウ な テ を あげたり さげたり して、 ネッシン に やって いた。 アイテ は おもに 3 バンメ の アニ が つとめて いた よう で ある。 ワタクシ は マジメ な カオ を して、 ただ ボウカン して いる に すぎなかった。
 この アニ は とうとう ハイビョウ で しんで しまった。 しんだ の は たしか メイジ 20 ネン だ と おぼえて いる。 すると ソウシキ も すみ、 タイヤ も すんで、 まず ヒトカタヅキ と いう ところ へ ヒトリ の オンナ が たずねて きた。 3 バンメ の アニ が でて オウセツ して みる と、 その オンナ は カレ に こんな こと を きいた。
「ニイサン は しぬ まで、 オクサン を おもち に なりゃ しますまい ね」
 アニ は ビョウキ の ため、 ショウガイ サイタイ しなかった。
「いいえ シマイ まで ドクシン で くらして いました」
「それ を きいて やっと アンシン しました。 ワタクシ の よう な モノ は、 どうせ ダンナ が なくっちゃ いきて いかれない から、 シカタ が ありません けれども、……」
 アニ の イコツ の うめられた テラ の ナ を おすわって かえって いった この オンナ は、 わざわざ コウシュウ から でて きた の で ある が、 もと ヤナギバシ の ゲイシャ を して いる コロ、 アニ と カンケイ が あった の だ と いう ハナシ を、 ワタクシ は その とき はじめて きいた。
 ワタクシ は ときどき この オンナ に あって アニ の こと など を ものがたって みたい キ が しない でも ない。 しかし あったら さだめし オバアサン に なって、 ムカシ とは まるで ちがった カオ を して い は しまい か と かんがえる。 そうして その ココロ も その カオ ドウヨウ に シワ が よって、 からから に かわいて い は しまい か とも かんがえる。 もし そう だ と する と、 かの オンナ が イマ に なって アニ の オトウト の ワタクシ に あう の は、 かの オンナ に とって かえって つらい かなしい こと かも しれない。

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 ワタクシ は ハハ の キネン の ため に ここ で ナニ か かいて おきたい と おもう が、 あいにく ワタクシ の しって いる ハハ は、 ワタクシ の アタマ に たいした ザイリョウ を のこして いって くれなかった。
 ハハ の ナ は チエ と いった。 ワタクシ は イマ でも この チエ と いう コトバ を なつかしい もの の ヒトツ に かぞえて いる。 だから ワタクシ には それ が ただ ワタクシ の ハハ だけ の ナマエ で、 けっして ホカ の オンナ の ナマエ で あって は ならない よう な キ が する。 サイワイ に ワタクシ は まだ ハハ イガイ の チエ と いう オンナ に であった こと が ない。
 ハハ は ワタクシ の 13~14 の とき に しんだ の だ けれども、 ワタクシ の イマ トオク から よびおこす カノジョ の ゲンゾウ は、 キオク の イト を いくら たどって いって も、 オバアサン に みえる。 バンネン に うまれた ワタクシ には、 ハハ の みずみずしい スガタ を おぼえて いる トッケン が ついに あたえられず に しまった の で ある。
 ワタクシ の しって いる ハハ は、 つねに おおきな メガネ を かけて シゴト を して いた。 その メガネ は テツブチ の コフウ な もの で、 タマ の オオキサ が サシワタシ 2 スン イジョウ も あった よう に おもわれる。 ハハ は それ を かけた まま、 すこし アゴ を エリモト へ ひきつけながら、 ワタクシ を じっと みる こと が しばしば あった が、 ロウガン の セイシツ を しらない その コロ の ワタクシ には、 それ が ただ カノジョ の クセ と のみ かんがえられた。 ワタクシ は この メガネ と ともに、 いつでも ハハ の ハイケイ に なって いた 1 ケン の フスマ を おもいだす。 ふるびた ハリマゼ の ウチ に、 ショウジ ジダイ ムジョウ ジンソク ウンヌン と かいた イシズリ など も あざやか に メ に うかんで くる。
 ナツ に なる と ハハ は しじゅう コンムジ の ロ の カタビラ を きて、 ハバ の せまい クロジュス の オビ を しめて いた。 フシギ な こと に、 ワタクシ の キオク に のこって いる ハハ の スガタ は、 いつでも この マナツ の ナリ で アタマ の ナカ に あらわれる だけ なので、 それ から コンムジ の ロ の キモノ と ハバ の せまい クロジュス の オビ を とりのぞく と、 アト に のこる もの は ただ カノジョ の カオ ばかり に なる。 ハハ が かつて エンバナ へ でて、 アニ と ゴ を うって いた ヨウス など は、 カレラ フタリ を くみあわせた ズガラ と して、 ワタクシ の ムネ に おさめて ある ユイイツ の カタミ なの だ が、 そこ でも カノジョ は やはり おなじ カタビラ を きて、 おなじ オビ を しめて すわって いる の で ある。
 ワタクシ は ついぞ ハハ の サト へ つれて ゆかれた オボエ が ない ので、 ながい アイダ ハハ が どこ から ヨメ に きた の か しらず に くらして いた。 ジブン から もとめて ききたがる よう な コウキシン は さらに なかった。 それで その テン も やはり ぼんやり かすんで みえる より ホカ に シカタ が ない の だ が、 ハハ が ヨツヤ オオバンマチ で うまれた と いう ハナシ だけ は たしか に きいて いた。 ウチ は シチヤ で あった らしい。 クラ が イク-トマエ とか あった の だ と、 かつて ヒト から おしえられた よう にも おもう が、 なにしろ その オオバンマチ と いう ところ を、 この トシ に なる まで いまだに とおった こと の ない ワタクシ の こと だ から、 そんな こまか な テン は まるで わすれて しまった。 たとい それ が ジジツ で あった に せよ、 ワタクシ の イマ もって いる ハハ の キネン の ナカ に クラヤシキ など は けっして あらわれて こない の で ある。 おおかた その コロ には もう つぶれて しまった の だろう。
 ハハ が チチ の ところ へ ヨメ に くる まで ゴテン-ボウコウ を して いた と いう ハナシ も おぼろげ に おぼえて いる が、 どこ の ダイミョウ の ヤシキ へ あがって、 どの くらい ながく つとめて いた もの か、 ゴテン-ボウコウ の セイシツ さえ よく わきまえない イマ の ワタクシ には、 ただ あわい カオリ を のこして きえた コウ の よう な もの で、 ほとんど トリトメヨウ の ない ジジツ で ある。
 しかし そう いえば、 ワタクシ は ニシキエ に かいた ゴテン ジョチュウ の はおって いる よう な ハデ な ソウモヨウ の キモノ を ウチ の クラ の ナカ で みた こと が ある。 モミウラ を つけた その キモノ の オモテ には、 サクラ だ か ウメ だ か が イチメン に そめだされて、 トコロドコロ に キンシ や ギンシ の ヌイ も まじって いた。 これ は おそらく トウジ の カイドリ とか いう もの なの だろう。 しかし ハハ が それ を うちかけた スガタ は、 イマ ソウゾウ して も まるで メ に うかばない。 ワタクシ の しって いる ハハ は、 つねに おおきな ロウガンキョウ を かけた オバアサン で あった から。 それ のみ か ワタクシ は この うつくしい カイドリ が ソノゴ コガイマキ に したてなおされて、 その コロ ウチ に できた ビョウニン の ウエ に のせられた の を みた くらい だ から。

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 ワタクシ が ダイガク で おすわった ある セイヨウジン が ニホン を さる とき、 ワタクシ は ナニ か センベツ を おくろう と おもって、 ウチ の クラ から タカマキエ に ヒ の フサ の ついた うつくしい フバコ を とりだして きた こと も、 もう ふるい ムカシ で ある。 それ を チチ の マエ へ もって いって もらいうけた とき の ワタクシ は、 まったく なんの キ も つかなかった が、 イマ こうして フデ を とって みる と、 その フバコ も コガイマキ に したてなおされた モミウラ の カイドリ ドウヨウ に、 わかい ジブン の ハハ の オモカゲ を こまやか に やどして いる よう に おもわれて ならない。 ハハ は ショウガイ チチ から キモノ を こしらえて もらった こと が ない と いう ハナシ だ が、 はたして こしらえて もらわない でも すむ くらい な シタク を して きた もの だろう か。 ワタクシ の ココロ に うつる あの コンムジ の ロ の カタビラ も、 ハバ の せまい クロジュス の オビ も、 やはり ヨメ に きた とき から すでに タンス の ナカ に あった もの なの だろう か。 ワタクシ は ふたたび ハハ に あって、 バンジ を ことごとく くちずから きいて みたい。
 イタズラ で ゴウジョウ な ワタクシ は、 けっして セケン の スエッコ の よう に ハハ から あまく とりあつかわれなかった。 それでも ウチジュウ で いちばん ワタクシ を かわいがって くれた モノ は ハハ だ と いう つよい シタシミ の ココロ が、 ハハ に たいする ワタクシ の キオク の ウチ には、 いつでも こもって いる。 アイゾウ を ベツ に して かんがえて みて も、 ハハ は たしか に ヒンイ の ある ゆかしい フジン に ちがいなかった。 そうして チチ より も かしこそう に ダレ の メ にも みえた。 きむずかしい アニ も ハハ だけ には イケイ の ネン を いだいて いた。
「オッカサン は なんにも いわない けれども、 どこ か に こわい ところ が ある」
 ワタクシ は ハハ を ひょうした アニ の この コトバ を、 くらい トオク の ほう から あきらか に ひっぱりだして くる こと が イマ でも できる。 しかし それ は ミズ に とけて ながれかかった ジタイ を、 きっと なって やっと モト の カタチ に かえした よう な きわどい ワタクシ の キオク の ダンペン に すぎない。 その ホカ の こと に なる と、 ワタクシ の ハハ は すべて ワタクシ に とって ユメ で ある。 とぎれとぎれ に のこって いる カノジョ の オモカゲ を いくら タンネン に ひろいあつめて も、 ハハ の ゼンタイ は とても ホウフツ する わけ に ゆかない。 その とぎれとぎれ に のこって いる ムカシ さえ、 ナカバ イジョウ は もう うすれすぎて、 しっかり とは つかめない。
 ある とき ワタクシ は 2 カイ へ あがって、 たった ヒトリ で、 ヒルネ を した こと が ある。 その コロ の ワタクシ は ヒルネ を する と、 よく ヘン な もの に おそわれがち で あった。 ワタクシ の オヤユビ が みるまに おおきく なって、 いつまで たって も とまらなかったり、 あるいは アオムキ に ながめて いる テンジョウ が だんだん ウエ から おりて きて、 ワタクシ の ムネ を おさえつけたり、 または メ を あいて フダン と かわらない シュウイ を げんに みて いる のに、 カラダ だけ が スイマ の トリコ と なって、 いくら もがいて も、 テアシ を うごかす こと が できなかったり、 アト で かんがえて さえ、 ユメ だ か ショウキ だ か ワケ の わからない バアイ が おおかった。 そうして その とき も ワタクシ は この ヘン な もの に おそわれた の で ある。
 ワタクシ は いつ どこ で おかした ツミ か しらない が、 なにしろ ジブン の ショユウ で ない キンセン を タガク に ショウヒ して しまった。 それ を なんの モクテキ で ナン に つかった の か、 その ヘン も メイリョウ で ない けれども、 コドモ の ワタクシ には とても つぐなう わけ に ゆかない ので、 キ の せまい ワタクシ は ねながら たいへん くるしみだした。 そうして シマイ に おおきな コエ を あげて シタ に いる ハハ を よんだ の で ある。
 2 カイ の ハシゴダン は、 ハハ の オオメガネ と はなす こと の できない、 ショウジ ジダイ ムジョウ ジンソク ウンヌン と かいた イシズリ の ハリマゼ に して ある フスマ の、 すぐ ウシロ に ついて いる ので、 ハハ は ワタクシ の コエ を ききつける と、 すぐ 2 カイ へ あがって きて くれた。 ワタクシ は そこ に たって ワタクシ を ながめて いる ハハ に、 ワタクシ の クルシミ を はなして、 どうか して ください と たのんだ。 ハハ は その とき ビショウ しながら、 「シンパイ しない でも いい よ。 オッカサン が いくらでも オカネ を だして あげる から」 と いって くれた。 ワタクシ は たいへん うれしかった。 それで アンシン して また すやすや ねて しまった。
 ワタクシ は この デキゴト が、 ゼンブ ユメ なの か、 または ハンブン だけ ホントウ なの か、 イマ でも うたがって いる。 しかし どうしても ワタクシ は じっさい おおきな コエ を だして ハハ に スクイ を もとめ、 ハハ は また ジッサイ の スガタ を あらわして ワタクシ に イシャ の コトバ を あたえて くれた と しか かんがえられない。 そうして その とき の ハハ の ナリ は、 いつも ワタクシ の メ に うつる とおり、 やはり コンムジ の ロ の カタビラ に ハバ の せまい クロジュス の オビ だった の で ある。

 39

 キョウ は ニチヨウ なので、 コドモ が ガッコウ へ ゆかない から、 ゲジョ も キ を ゆるした もの と みえて、 イツモ より おそく おきた よう で ある。 それでも ワタクシ の トコ を はなれた の は 7 ジ 15 フン-スギ で あった。 カオ を あらって から、 レイ の とおり トースト と ギュウニュウ と ハンジュク の タマゴ を たべて、 カワヤ に のぼろう と する と、 あいにく コイトリ が きて いる ので、 ワタクシ は しばらく でた こと の ない ウラニワ の ほう へ ホ を うつした。 すると ウエキヤ が モノオキ の ナカ で ナニ か カタヅケモノ を して いた。 フヨウ の スミダワラ を かさねた シタ から イセイ の いい ヒ が もえあがる シュウイ に、 オンナ の コ が 3 ニン ばかり ココロモチ よさそう に ダン を とって いる ヨウス が ワタクシ の チュウイ を ひいた。
「そんな に タキビ に あたる と カオ が マックロ に なる よ」 と いったら、 スエ の コ が、 「いやあー だ」 と こたえた。 ワタクシ は イシガキ の ウエ から トオク に みえる ヤネガワラ の とけつくした シモ に ぬれて、 アサヒ に きらつく イロ を ながめた アト、 また ウチ の ナカ へ ひきかえした。
 シンルイ の コ が きて ソウジ を して いる ショサイ の セイトン する の を まって、 ワタクシ は ツクエ を エンガワ に もちだした。 そこ で ヒアタリ の いい ランカン に ミ を もたせたり、 ホオヅエ を ついて かんがえたり、 また しばらく は じっと うごかず に ただ タマシイ を ジユウ に あそばせて おいて みたり した。
 かるい カゼ が ときどき ハチウエ の キュウカラン の ながい ハ を うごかし に きた。 ニワキ の ナカ で ウグイス が おりおり ヘタ な サエズリ を きかせた。 マイニチ ガラスド の ウチ に すわって いた ワタクシ は、 まだ フユ だ フユ だ と おもって いる うち に、 ハル は いつしか ワタクシ の ココロ を トウヨウ しはじめた の で ある。
 ワタクシ の メイソウ は いつまで すわって いて も ケッショウ しなかった。 フデ を とって かこう と すれば、 かく タネ は ムジンゾウ に ある よう な ココロモチ も する し、 あれ に しよう か、 これ に しよう か と まよいだす と、 もう ナニ を かいて も つまらない の だ と いう ノンキ な カンガエ も おこって きた。 しばらく そこ で たたずんで いる うち に、 コンド は イマ まで かいた こと が まったく ムイミ の よう に おもわれだした。 なぜ あんな もの を かいた の だろう と いう ムジュン が ワタクシ を チョウロウ しはじめた。 ありがたい こと に ワタクシ の シンケイ は しずまって いた。 この チョウロウ の ウエ に のって ふわふわ と たかい メイソウ の リョウブン に のぼって ゆく の が ジブン には タイヘン な ユカイ に なった。 ジブン の バカ な セイシツ を、 クモ の ウエ から みおろして わらいたく なった ワタクシ は、 ジブン で ジブン を ケイベツ する キブン に ゆられながら、 ヨウラン の ナカ で ねむる コドモ に すぎなかった。
 ワタクシ は イマ まで ヒト の こと と ワタクシ の こと を ごちゃごちゃ に かいた。 ヒト の こと を かく とき には、 なるべく アイテ の メイワク に ならない よう に との ケネン が あった。 ワタクシ の ミノウエ を かたる ジブン には、 かえって ヒカクテキ ジユウ な クウキ の ナカ に コキュウ する こと が できた。 それでも ワタクシ は まだ ワタクシ に たいして まったく イロケ を とりのぞきうる テイド に たっして いなかった。 ウソ を ついて セケン を あざむく ほど の ゲンキ が ない に して も、 もっと いやしい ところ、 もっと わるい ところ、 もっと メンモク を しっする よう な ジブン の ケッテン を、 つい ハッピョウ しず に しまった。 セイ-オーガスチン の ザンゲ、 ルソー の ザンゲ、 オピアム-イーター の ザンゲ、 ――それ を いくら たどって いって も、 ホントウ の ジジツ は ニンゲン の チカラ で ジョジュツ できる はず が ない と ダレ か が いった こと が ある。 まして ワタクシ の かいた もの は ザンゲ では ない。 ワタクシ の ツミ は、 ――もし それ を ツミ と いいうる ならば、―― すこぶる あかるい ところ から ばかり うつされて いた だろう。 そこ に ある ヒト は イッシュ の フカイ を かんずる かも しれない。 しかし ワタクシ ジシン は イマ その フカイ の ウエ に またがって、 イッパン の ジンルイ を ひろく みわたしながら ビショウ して いる の で ある。 イマ まで つまらない こと を かいた ジブン をも、 おなじ メ で みわたして、 あたかも それ が タニン で あった か の カン を いだきつつ、 やはり ビショウ して いる の で ある。
 まだ ウグイス が ニワ で ときどき なく。 ハルカゼ が おりおり おもいだした よう に キュウカラン の ハ を うごかし に くる。 ネコ が どこ か で いたく かまれた コメカミ を ヒ に さらして、 あたたかそう に ねむって いる。 サッキ まで ニワ で ゴム フウセン を あげて さわいで いた コドモ たち は、 ミンナ つれだって カツドウ シャシン へ いって しまった。 イエ も ココロ も ひっそり と した うち に、 ワタクシ は ガラスド を あけはなって、 しずか な ハル の ヒカリ に つつまれながら、 うっとり と この コウ を かきおわる の で ある。 そうした アト で、 ワタクシ は ちょっと ヒジ を まげて、 この エンガワ に ヒトネムリ ねむる つもり で ある。

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