カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ヒエイ

2014-12-07 | ヨコミツ リイチ
 ヒエイ

 ヨコミツ リイチ

 ケッコン して から 8 ネン にも なる のに、 キョウト へ いく と いう の は サダオ フサイ に とって マイトシ の キボウ で あった。 イマ まで にも フタリ は たびたび いきたかった の で ある が、 フサイ の シゴト が くいちがったり、 コドモ に テカズ が かかったり して、 イッカ ひきつれて の カンサイ-ユキ の キカイ は なかなか こなかった。 それ が キョウト の ギケイ から コトシ こそ は チチ の ジュウサン カイキ を やりたい から ぜひ くる よう に と いって きた ので、 ホカ の こと は アト へ おしやって いよいよ 3 ガツ ゲジュン に キョウ へ たった。 サダオ は ツマ の チエコ が トウキョウ イセイ は はじめて なので、 サダオ の ヨウネンキ を すごした トチ を みせて おく の も よかろう と おもい、 ヒトツ は コトシ ショウガッコウ へ はじめて あがる チョウナン の キヨシ に、 チチ の はじめて あがった ショウガッコウ を みせて やりたく も あった ので、 ヒトリ で ときどき きて いる ケイハン の トチ にも かかわらず、 コノタビ は アンナイヤク の こと とて キボネ も おれた。
 サダオ フサイ は ヤド を サダオ の アネ の イエ に した。 ヨクジツ は アネ の コドモ の ムスメ ヒトリ と サダオ の コドモ の チョウナン ジナン と、 それに サダオ フサイ に アネ、 ソウゼイ 6 ニン で フボ の ホネ を おさめて ある オオタニ の ノウコツドウ へ まいった。 すでに フボ は しんで いる とは いえ、 サダオ は コドモ を みせ に ドウ へ いく の は はじめて の こと とて ソリ を うった イシバシ を わたる エリクビ に ふきつける カゼ も おだやか に かんぜられた。 カレ は まだ フタツ に より ならぬ ジナン の ほう を かかえて、 もう サカリ を すぎた コウバイ を あおぎながら イシダン を のぼった。 キヨシ より 1 ネン ウエ の アネ の ムスメ の トシコ と キヨシ とは、 もう たかい イシダン を マッサキ に かけのぼって しまって みえなく なった。 サダオ は イシダン を のぼる クルシサ に カラダ が よほど よわって きて いる の を かんじた。 カレ は その トチュウ で、 コトシ つぎつぎ に しんで いった タクサン の ジブン の ユウジン の こと を おもいながら、 ふと、 ジブン が しんで も コドモ たち は こうして くる で あろう と おもったり、 その とき は ジブン は どんな オモイ で ドウ の ナカ から のぞく もの で あろう か と おもったり、 ヨ の ツネ の ドウ へ まいる ゼンナン ゼンニョ の ムネ に うかぶ カンガエ と どこ も ちがわぬ クウソウ の うかぶ の に、 しばらく は ヘイコウ しながら コドモ ら の アト を おって いった。 しかし サダオ は チエコ や アネ を みる と、 カノジョ ら は いっこう フボ の ホネ の マエ に でる カンガイ も なさそう に、 アタリ の フウケイ を しょうしながら たのしげ に はなして いる の を みる と、 それでは この ナカ で イチバン に コフウ なの は ジブン で あろう か と おもったり した。 そのくせ キョウト へは イクド も ヒトリ で きて いながら、 まだ カレ は イチド も ボサン を しなかった の で ある。
 サキ に いった コドモ ら は サダオ ら が まだ イシダン を のぼりきらない うち に、 もう ウエ の ケイダイ を オッカケアイ を して きた アシ で、 また イシダン を おりて くる と、 コンド は ハハオヤ たち の スソ の シュウイ を きゃっきゃっ と コエ を たてて おっかけあった。
「しずか に なさい しずか に、 また セキ が でます よ」 と アネ は トシコ を しかった。
 しかし、 コドモ たち は はじめて あった イトコ ドウシ なので、 オヤ たち の コエ を ミミ にも いれず また すぐ カイダン を かけあがって いった。
 イチドウ そろって ウエ に のぼり、 ノウコツドウ へ サンパイ して、 それから いよいよ ホンドウ で キョウ を あげて もらわねば ならぬ の で ある が、 ズキョウ の シタク の できる まで 6 ニン は ニワムキ の ヘヤ に いれられた。 そこ は ヒノメ の さした こと も なかろう と おもわれる よう な、 インキ な つめたい ヘヤ、 タタミ は イタ の よう に しまって かたく、 テンジョウ は たかかった。 しかし、 シュウイ の あつい キンデイ の フスマ は エイトク-フウ の ケンラン な カチョウ で イキグルシサ を かんじる ほど で あった。 サダオ は ヘヤ の イチグウ に 2 マイ に たたんで たてて ある ふるい ビョウブ の エ が メ に つく と、 もう コドモ たち の こと も わすれて ながめいった。 ハ の おちつくした チヘン の ハヤシ の トコロドコロ に、 モクレン らしい しろい ハナ が ユメ の よう に うきあがって いて、 その シタ の ミズギワ から 1 ワ の サギ が いましも とびたとう と して いる ところ で ある が、 おぼろ な ハナ や ハヤシ に ひきかえて その サギ 1 ピキ の セイドウ の キリョク は、 おどろく ばかり に シュンケイ な カンジ が した。 サダオ は これ は ソウタツ では ない か と おもって しばらく メ を はなさず に いる と、 いつのまにか チャ が でて いた。 コドモ ら は サトウ の ついた センベイ を おとなしく たべて いた が、 サダオ の スエ の フタツ に なる コ だけ は、 ほそく わりちらけて サンラン して いる カシ の ハヘン の ナカ で、 およぐ よう に ハラバイ に なり、 カオ から リョウテ に かけて カシ の カケラ-だらけ に した まま、 サダオ の みて いる ビョウブ を アシ で ぴんぴん イキオイ よく けりつけた。
「こりゃこりゃ」
 サダオ は ジナン の アシ の とどかぬ よう に ビョウブ を とおのける と、 また あかず ながめて いた。 しかし、 ヒバチ に ヒ の ある のに、 ひどく そこ は さむかった。 これ では また ミナ カゼ に やられる どころ か、 サダオ ジシン もう ツヅケサマ に クサメ が でて きた。 その うち に ようやく キョウ の ヨウイ も できた ので ホンドウ へ アンナイ された が、 きて みる と、 ここ は いっそう さむい うえ に、 もちろん ヒバチ も ザブトン も なかった。 サダオ の ヨコ へ トシコ、 キヨシ と ならんで、 サダオ の アネ が カレ の ジナン を だいて いる ソバ へ チエコ が すわった。 みわたした ところ イジョウ は なかった が、 アネ に だかれて いる ジナン の つきだして いる アシ に、 クツ が まだ ソノママ に なって いた。 しかし、 ジナン の クツ は まだ シタ へも おろした こと も なく、 タビ-ガワリ の クツ と いえない もの でも なかった ので、 サダオ は チュウイ も せず に だまって ソウリョ の でて くる ほう を ながめて いる と、 アネ は それ を みつけた らしい。
「あら、 ケイ ちゃん、 えらそう に クツ を はいた まま や がな。 こりゃ ども ならん」
 と いって、 わらいながら ケイジ の クツ を とろう と した。
「よい よい」 と サダオ は いった。
「そう やな、 アイキョウ が あって これ も オジイサン、 みたい やろ」
 アネ の コトバ に ケイジ の クツ を ぬがそう と した チエコ も ソノママ に した。 キヨシ と トシコ とは ブツダン の ほう を イチド も みず に、 まだ イシダン から の フザケアイ を つづけながら、 カタ を つぼめて 「くっくっ」 と ワライゴエ を しのばせて すわって いた。
 ズキョウ が はじまる と イチドウ は だまって キョウ の おわる の を まって いた が、 ウシロ から ふきつけて くる カゼ の サムサ に、 サダオ は ながい キョウ の はやく ちぢまる こと ばかり を ねがって やまなかった。 しかし、 もし これ が チチ の カイキ では なくって タニン の だったら、 こんな ネガイ も おこさず に いる だろう と おもう と、 いつまでも あまえかかる こと の できる の は、 やはり チチ だ と、 セイゼン の チチ の スガタ が あらためて アタマ に えがきだされて くる の だった。 カレ は チチ が すき で あった ので、 チチ に しにわかれて から は トシゴト に いっそう チチ に あいたい と おもう ココロ が つのった。 チチ は サダオ の 25 サイ の とき に ケイジョウ で ノウイッケツ の ため に たおれた ので、 サダオ は チチ の シニメ にも あって いなかった。 チチ が しんで から 10 ネン-メ に、 カレ は センパイ や チジン たち と ヒコウキ で ケイジョウ まで とんだ こと が あった が、 その とき も キ が ケイジョウ の ソラ へ さしかかる と、 まだ その アタリ の クウキ の ナカ に、 チチ が うろうろ さまよって いる よう に おもわれて、 ナミダ が うきあがって きた の を カレ は おもいだした。
 ようやく ながい ズキョウ が すんで、 イチドウ は ひろい タカエン に たつ と、 ヒ の さしかかって きた シガイ が イチボウ の ウチ に みわたされた。
「さあさあ、 これ で ヤクメ も すみました よ」
 そう いう アネ の アト から、 チエコ も ショール を ひろげながら、 「ホント に、 これ で はればれ しました わ」 と いって タカエン の ダン を おりた。
 アト は もう サダオ は カナイ イチドウ を つれて、 カッテ に どこ へ でも いけば よかった。
 ツギ の ヒ から カレ は コドモ を アネ に あずけ、 チエコ と フタリ で オオサカ と ナラ へ いった。 それ を すます と みのこした キョウト の メイショ を まわって、 サイゴ に ヒエイザン-ゴシ に オオツ に でて みよう と サダオ は おもった。 オオツ は カレ が サイショ に ガッコウ へ いった トチ でも あり、 ことに 6 ネン を ソツギョウ する とき に うえた ちいさな ジブン の サクラ が 20 ネン の アイダ に、 どれほど おおきく なって いる か みたかった。
 ヒエイ ノボリ の ヒ には、 マイニチ あるきまわった ため サダオ も チエコ も ソウトウ に つかれて いた が、 ジナン を アネ の イエ に のこして キヨシ を つれ、 ケーブル で ヤマ に のぼった。 サダオ は ヒエイザン へは ショウガッコウ の とき に オオツ から 2 ド のぼった キオク が ある が、 キョウト から は はじめて で あった。 チエコ は ケーブル が うごきだす と、 キモチ が わるい と いって カオ を すこしも あげなかった。 しかし、 のぼる に つれて カスミ の ナカ に しずんで いく キョウ の マチ の カワラ は うつくしい と サダオ は おもった。
「みなさい。 ヒコウキ に のる と ちょうど こんな だ」 と サダオ は キヨシ の カタ を つかまえて いった。
 シュウテン で おりて から チョウジョウ へ でる ミチ が フタツ に わかれて いた ので、 サダオ は サキ に たって ヒロバ の ナカ を つきぬけて いく と、 ミチ は ハヤシ の ナカ へ はいって しまって だんだん と クダリ に なった。
「こりゃ おかしい。 まちがった ぞ」
 サダオ は ミチ を ききただそう にも ツウコウニン が いない ので また アト へ ひきかえした。 チエコ は ツネヅネ から キョウ オオサカ なら どこ でも しって いる カオツキ の サダオ の シッパイ に、
「だから、 えらそう な カオ は する もん じゃ ありません わ」 と いって やりこめた。
 ユキドケ で びしょびしょ の ミチ を ようやく モト へ もどる と、 ヒトクミ の ホカ の ヒトタチ と イッショ に なった ので その アト から サダオ たち も ついて いった。 ほそい ヤマミチ は ヒ の あった ところ を とけくずしながら も、 ヤマカゲ は ザンセツ で ふむ たび に ゾウリ が なった。 チエコ は ときどき たちどまって、 まだ ユキ を かぶって いる タンバ から セッツ へ かけて のびて いる ヤマヤマ の ミネ を みわたしながら、
「おお きれい だ きれい だ」 と カンタン しつづけた。
 7~8 チョウ も あるく と、 また ハリガネ に つるされた ノリモノ で タニ を わたらねば ならなかった が、 これ は ケーブル より も いっそう ノリグアイ が ヒコウキ に にて いた。
「この ほう が ヒコウキ に にて いる よ」
「これ なら キモチ が いい けど、 ケーブル は なんだか いや だわ」
 そう いう チエコ に だきかかえられて いる キヨシ は、
「ほらほら、 また きた」 と とつぜん さけんで ゼンポウ を ゆびさした。
 みる と ムコウ から あたらしく したてて きた クルマ が、 こちら を むかって ういて きた。 ミナ が しばらく クチ を ぼんやり あけて その クルマ の ほう を おもしろそう に ながめて いた。 すると その トタン に、 チュウケイ の ハシラ の ところ で、 キュウ に ごとり と シャタイ が イチド ずりさがった。 イチドウ は イキノネ を とめて たがいに カオ を みあわした が、 チュウケイ の ハシラ が いきすぎた クルマ の コウホウ に みえる と、 はじめて ナットク した らしく また キュウ に コエ を あげて、 あれ だ あれ だ と いって わらいだした。 しかし、 その とき には もう あたらしく ゼンポウ から きた クルマ は、 ミナ の びっくり して いる カオ の マエ を いきすぎて いた ので、 ソウホウ の クルマ は アンシン の アト の ヨウキ な キモチ で、 たがいに テヌグイ を ふりあって いっそう マエ より はしゃいだ。
 クルマ を おりて はじめて チ を ふんだ とき、 キヨシ は おおきな コエ で、
「こわかった ね、 さっき、 ごとり って いう ん だ もの。 ボク、 おっこちた か と おもった」 と チエコ に いった。
 すると、 クルマ を おりて から もう ずっと ゼンポウ を あるいて いる ヒトビト まで、 ふりかえって また どっと わらいだした。
 チョウジョウ の コンポン チュウドウ まで は まだ 18 チョウ も ある と いう ので、 カゴ を どう か と サダオ は おもった が、 チエコ は あるきたい と いった。 カゴカキ は しきり に ユキドケ の ミチ の ワルサ を セツメイ しながら 3 ニン の アト を おって きて やめなかった。 しかし、 サダオ も チエコ も アイテ に せず あるいて いく と、 なるほど ユキ は ゾウリ を うめる ほど の フカサ で どこまでも のびて いた。
「どう だ、 のる か」 と また サダオ は ウシロ を ふりかえった。
「あるきましょう よ。 こんな とき でも あるかなければ、 なにしに きた の か わからない わ」 と チエコ は いった。
 サダオ には、 ミチ は どこまでも ヘイタン な こと は わかって いた が、 キヨシ も よわる し、 ぬれた ゾウリ の ツメタサ は アト で こまる と おもった ので、
「のろう じゃ ない か。 キモチ が わるい よ」 と また すすめた。
「アタシ は のらない わ、 だって ノボリ が もう ない ん でしょう」 と チエコ は まだ ガンキョウ に ヒトリ サキ に たって ユキ の ナカ を あるいて いった。
「それじゃ、 こまったって しらない ぞ」 と サダオ は いう と シリ を はしょった。
 ミチ は くらい スギ の ミツリン の ナカ を どこまでも つづいた。 チエコ と サダオ は ナカ に キヨシ を はさんで、 かたそう な ユキ の ウエ を えらびながら わたって いった。 ひやり と はださむい クウキ の ホオ に あたって くる ナカ で、 ウグイス が しきり に ハオト を たてて ないて いた。 サダオ は あるきながら も、 デンギョウ ダイシ が ミヤコ に ちかい この チ に ホンキョ を さだめて コウヤサン の コウボウ と タイリツ した の は、 デンギョウ の マケ だ と ふと おもった。 これ では キョウ に あまり ちかすぎる ので、 よかれ あしかれ、 キョウト の エイキョウ が ひびきすぎて こまる に ちがいない の で ある。 そこ へ いく と コウボウ の ほう が イチダン ウエ の センリャクカ だ と おもった。 サダオ は コウヤサン も しって いた が、 あの チ を えらんだ コウボウ の ガンリキ は 1000 ネン の スエ を みつめて いた よう に おもわれた。 もし デンギョウ に ジシン の ノウリョク に たよる より も、 シゼン に たよる セイシン の ほう が すぐれて いた なら、 すくなくとも ここ より ヒラ を こして、 エチゼン の サカイ に コンポン チュウドウ を おく べき で あった と かんがえた。 もし そう する なら、 キョウ から は ビワコ の シュウシュウ と リクロ の ベン と を かねそなえた うえ に、 ハイゴ の テキ の ミイデラ も ガンチュウ に いれる ヨウ は ない の で あった――。
 こういう よう な ムソウ に ふけって あるいて いる サダオ の アタマ の ウエ では、 また いっそう ウグイス の ナキゴエ が さかん に なって きた。 しかし、 サダオ は それ には あまり きづかなかった。 カレ は ジシン に たよる デンギョウ の ショウジョウテキ な コウドウ が、 イマ げんに、 まだ どこ まで つづく か まったく わからぬ ユキ の ナカ を、 カゴ を すてて トホ で あるきぬこう と して いる ツマ の チエコ と ドウヨウ だ と おもった。 それなら イマ の ジブン は コウボウ の ほう で あろう か。 こう おもう と、 サダオ は また コウボウ の ダイジョウテキ な オオキサ に ついて かんがえた。 できうる かぎり シゼン の チカラ を リヨウ して、 キョウト の セイフ と タイキュウリョク の イッテン で たたかった の で あった。 つまり、 イマ の サダオ に ついて かんがえる なら、 カゴ を リヨウ して ユクサキ の フメイ な ユキミチ を わたろう と いう の で ある。 コウボウ は セイフ と コウヤサン との アイダ に ムリ が できる と ユクエ を くらまし、 モンダイ が カイケツ する と また でて きた。 そうして ショウガイ アンノン に ヨ を おくった コウボウ は、 この エイザン から キョウト の ズジョウ を ジシン の ガクリョク と ジンカク と で たえず おしつけた デンギョウ の ムボウサ に くらべて、 セイフ と いう シゼンリョク より も おそる べき コノヨ の サイジョウ の キョウケン を ソウジュウ する ジュッサク を こころえて いた の で ある。 サダオ は サイジョウ の キョウケン を かんがえず して おこなう コウイ を、 ミ を すてた ダイジョウ の セイシン とは かんがえない セイシツ で あった。 なぜか と いう なら、 もし ジガ を おしすすめて いく デンギョウ の オコナイ を ジゾク させて いく なら、 カレ の シゴ に つづく ギョウジャ の クリョ は、 ヒツゼンテキ に テンダイ イッパ に ながれる ソコヂカラ を ホウカイ させて いく の と ひとしい から で ある。
 げんに サダオ は、 チエコ と ジブン との アイダ に はさまれて、 フキゲン そう に とぼとぼ あるいて いる コ の キヨシ の アシツキ を みて いる と、 いつまで フタリ の アユミ に つづいて こられる もの か と、 たえず フアン を かんじて ならなかった。 その うち に しつこく ついて きた カゴカキ は、 いつのまにか いなく なって いた が、 それ に かわって、 キヨシ の アシツキ を みて いた バアサン が まだ ついて きて、 コドモ を サカモト クダリ の ケーブル の ところ まで おわせて もらいたい と いって きた。
「どう する。 キヨシ だけ おぶって もらわない か」 と サダオ は また いった。
「いい わ。 あるける わね」 と チエコ は ウシロ の キヨシ を ふりかえった。
「それでも、 まだまだ とおい どす え。 こんな オコサン で あるけ や しまへん が、 やすう まけときます わ」 と バアサン は いいながら、 コンド は キヨシ と サダオ の アイダ へ わりこんで きた。
「でも、 この コ は アシ が つよい ん です から、 もう いい ん です の」
「おぶって もらえ おぶって もらえ」 と サダオ は いった。
「だって、 もう すぐ なん でしょう」 と チエコ は バアサン に たずねた。
「まだまだ あります え。 やすう オマケ しときます がな。 20 セン で いきます わ。 どうせ かえります の やで、 ひとつ おわして おくんなはれ」
 あくまで すりよって あるいて くる バアサン に、 チエコ も コンマケ が した らしく、
「キヨシ ちゃん、 どう する。 オンブ して もらう?」 と たずねた。
「ボク、 あるく」 と キヨシ は いって バアサン から ミ を はなした。
 こんな とき には、 ながく ヒトリゴ だった キヨシ は いつも ハハオヤ の ほう の ミカタ を する に きまって いた。
「アナタ サカモト まで かえる ん です の」 と チエコ は バアサン に たずねた。
「ええ、 そう です。 マイニチ かよって ます の や」
「オンブ して もらう ヒト ありまして、 こんな とこ?」
「コノゴロ は あんまり おへん どす な。 マイニチ テブラ どす え」 と バアサン は いった が、 もう キヨシ を おう の は ダンネン した らしく、 タビ の ミチヅレ と いう カオツキ で チエコ と ノンキ に ならんで あるきだした。
 サダオ は かたむきかかった キモチ も ようやく キンコウ の とれて くる の を かんじた。 しかし、 キヨシ は ハハ と チチ と が ジブン の こと で サッキ から ケンアク に なりかかって いる の を かんじて いる ので、 サダオ が ソバ へ ちかづく と すぐ チエコ の ミヂカ へ ひっついて あるいた。 サダオ は これから ツギ の ケーブル まで この バアサン が ついて くる の だ と おもう と、 キモチ を なおして くれた バアサン で ある にも かかわらず、 サッキ の イラダタシサ が いつ また からみついて くる か しれない フアンサ を かんじた ので、 コンド は いちばん セントウ に たって あるいて いった。 カレ は あるきながら も、 イマ ヒトリ ここ を あるいて いた の では イマ イジョウ の マンゾク を かんじない で あろう と おもった。 カレ は イクド も キョウ から この ミチ を とおった に ちがいない デンギョウ が、 この アタリ で、 どんな マンゾク を かんじよう と した の か と、 ふと ユキミチ を あるいて うかぶ カレ の コドク な シンリ に ついて かんがえて みた。 デンギョウ とて イッサン を ここ に おく イジョウ は、 シュジョウ サイド の ネンガン も この アタリ の サビシサ の ナカ では、 ボンプ の シントウ を キョライ する ザツネン と さして ちがう はず は あるまい と おもわれた。 しかし、 その とき、 サダオ の アタマ の ナカ には、 キョウト を みおろし、 イッポウ に ビワコ の ケイショウ を みおろす この サンジョウ を えらんだ デンギョウ の マンゾク が キュウ に わかった よう に おもわれた。 それ に ひきかえて、 イマ の ジブン の マンゾク は、 ただ ナニゴト も かんがえない ホウシン の キョウ に いる だけ の マンゾク で よい の で ある が、 それ を ヨウイ に できぬ ジブン を かんじる と、 イットキ も はやく ユキミチ を ぬけて ミズウミ の みえる ヤマヅラ へ まわりたかった。
 まもなく、 イマ まで くらかった ミチ は キュウ に ひらけて きて、 ニッコウ の あかるく さして いる ヒロバ へ でた。 そこ は コンポン チュウドウ の ある イッサン の チュウシン チタイ に なって いた が、 ヒロバ から いくらか クボミ の ナカ に ある チュウドウ の ヒサシ から は、 ユキドケ の シタタリ が アメ の よう に ながれくだって いた。
「やっと きた ぞ」 サダオ は ウシロ の チエコ と キヨシ の ほう を ふりかえった。
 チュウドウ の マエ まで いく には ゾウリ では いけそう も ない ので、 3 ニン は すぐ ヒロバ の ハシ に たって シタ を みおろした。 ソウシュン の ヘイヤ に つつまれた ミズウミ が タイヨウ に かがやきながら、 ガンカ に ひろびろ と よこたわって いた。
「まあ おおきい わね。 ワタシ、 ビワコ って こんな に おおきい もん だ とは おもわなかった わ。 まあ、 まあ」 と チエコ は いった。
 サダオ も ひさしく みなかった ビワコ を ながめて いた が、 ショウネンキ に ここ から みた ビワコ より も、 シキサイ が あわく おとろえて いる よう に かんじられた。 ことに ヒトメ で それ と しれた カラサキ の マツ も、 イマ は まったく かれはてて どこ が カラサキ だ か わからなかった。 しかし、 キョウト の キンコウ と して イッサン を ひらく には、 いかにも ここ は リソウテキ な チ だ と おもった。 ただ ナンテン は あまり に ここ は リソウテキ で ありすぎた。 もし こういう バショ を センユウ した なら、 シュウイ から あつまる センボウ シッシ の しずまる ジキ が ない の で ある。 サダオ は この チ を えられた デンギョウ の チイ と ケンイ の タカサ を いまさら に かんじた が、 たえず キョウト と ビワコ を ガンカ に ふみつけて セイカツ した シンリ は、 デンギョウ イゴ の ソウリョ の ソボウ な コウイ と なって センオウ を おこなった こと など、 ヨウイ に ソウゾウ できる の で あった。 これ を ぶちくだく ため には、 ノブナガ の よう な ヨーロッパ の シソウ の コンゲン で ある ヤソキョウ の シンジャ で なければ、 できにくい に ちがいない。 サダオ は シンブツ の アンチジョ が このよう な コウイチ に ある の は それ を シュゴ する ソウリョ の ココロ を かきみだす サヨウ を あたえる ばかり で、 かえって シュジョウ を すくいがたき に みちびく だけ だ と おもわれた。 それ に くらべて シンラン の ひくき に ついて マチ へ ネ を おろし、 チョウカ の ナカ へ ながれこんだ リアリスティック な セイシン は、 すべて、 ジュウシン は シタ へ シタ へ と おろす べし と といた ロウシ の セイシン と にかよって いる ところ が ある よう に おもわれた。
 しかし、 それにしても、 サダオ は ビワコ を キャッカ に みおろして も、 まだ ヨウイ に ホウシン は えられそう にも なかった。 デンギョウ とて、 トキ の セイフ を うごかす こと に ムチュウ に なる イジョウ に、 しょせん は ホウシン を えん と して チュウシン を この サンジョウ に おいた に ちがいない で あろう が、 それなら、 それ は カンゼン な アヤマリ で あった の だ。 サダオ は コンポン チュウドウ が ヒロバ より ひくい クボチ の ナカ に たてられて、 ガンカ の チョウボウ を きかなく させて ごまかして ある の も、 クリョ の イッサク から でた の で あろう と おもった が、 すでに、 チュウドウ ソノモノ が サンジョウ に ある と いう ロウマン シュギテキ な ケッテン は、 イッパ の ハンエイ に トウゼン の アクエイキョウ を あたえて いる の で ある。
 サダオ は キヨシ と チエコ を つれて、 いくらか クダリカゲン に なって ミチ を また あるいた。 ここ は キョウ-ムキ の ミチ より ユキ も きえて あかるい ため でも あろう。 ウグイス の ナキゴエ は マエ より いちだん と にぎやか に なって きた。 カレ は トチュウ、 あおい ペンキ を ぬった ウグイス の コエ を まねる タケブエ を うって いた ので、 それ を かって ヒトツ ジブン が もち、 フタツ を キヨシ に やった。 その ちいさな フエ は、 シリ を おさえる ユビサキ の カゲン ヒトツ で、 イロイロ な ウグイス の ナキゴエ を だす こと が できた。 サダオ は キヨシ に ヒトコエ ふいて みせる と、 もう ツカレ で ふくれて いた キヨシ も キュウ に にこつきだして ジブン も ふいた。 あるく アト から せまって くる の か、 ウグイス の コエ は わきあがる よう に アタマ の ウエ で しつづけた。
 サダオ は ふく たび に だんだん ジョウタツ する フエ の オモシロサ に しばらく たのしんで あるいて いる と、 キヨシ も リョウテ の フエ を かわるがわる ふきかえて は、 キ の コズエ から すべりながれる ニッコウ の ハンテン に カオ を そめながら、 のろのろ と やって きた。
「まるで コドモ フタリ つれて きた みたい だわ。 はやく いらっしゃい よ」
 チエコ は キヨシ の くる の を まって いった。 キヨシ は ハハオヤ に いわれる たび に フタリ の ほう へ いそいで かけて きた が、 また すぐ たちどまった。 ミチ が キ の ない ガケギワ に つづいて ウグイス の コエ も しなく なる と、 コンド は キヨシ と サダオ と が マエ と ウシロ と で タケブエ を なきかわせて ウグイス の マネ を して あるいた。 その うち に キヨシ も いつのまにか ジョウズ に なって、
「けきょ、 けきょ、 ほーけっきょ」
 と そんな ふう な ところ まで こぎつける よう に なって きた。
「アイツ の ウグイス は まだ コドモ だね。 オレ の は オヤドリ だぞ。 オマエ も ひとつ やって みない か」
 サダオ は わらいながら チエコ に そう いって、
「ほー、 ほけきょ、 ほー、 ほけきょ」 と やる の で あった。
 チエコ は アイテ に しなかった が、 ガケ を まがる たび に あらわれる ミズウミ を みて は、 テ を ヒタイ に あてながら たのしそう に たちどまって ながめて いた。
 まもなく 3 ニン は ケーブル まで ついた が、 まだ くだる ジカン まで すこし あった ので、 ふかい タニマ に つきでた ミネ の アタマ を きりひらいた テンボウジョウ の トッタン へ いって、 そこ の ベンチ に やすんだ。 サダオ は カヤ の ミツリン の はえあがって きて いる するどい コズエ の アイダ から ミズウミ を みて いた が、 ベンチ の ウエ に アシ を くむ と アオムキ に ながく なった。 カレ は ヒロウ で セナカ が べったり と イタ に へばりついた よう に かんじた。 すると、 だんだん イタ に すわれて いく ヒロウ の カイカン に ココロ は はじめて クウキョ に なった。 カレ は もう ソバ に いる コ の こと も ツマ の こと も かんがえなかった。 そうして メ を イッテン の クモリ も ない ソラ の ナカ に はなって ぼんやり して いる と、 ふと ジブン が イマ しねば ダイオウジョウ が できそう な キ が して きた。 もう ノゾミ は ジブン には なにも ない と カレ は おもった。 いや、 マクラ が ヒトツ ほしい と おもった が、 それ も なく とも べつに たいした こと でも なかった。
 チエコ も つかれた の か だまって うごかなかった が、 キヨシ だけ は まだ、 「ほー、 けっきょ、 けっきょ」 と こんよく くりかえして フエ を ふいた。
 サダオ は しばらく ねた まま ニッコウ に あたって いた が、 もう まもなく ハッシャ の ジコク に なれば、 イマ の ムジョウ の シュンカン も たちまち カコ の ユメ と なる の だ と おもった。 その とき、 キュウ に カレ の アタマ の ナカ に、 コ の ない ジブン の ユウジン たち の カオ が うかんで きた。 すると、 それ は ありう べからざる キミョウ な デキゴト の よう な キ が して きて、 どうして コ の ない のに ヒビ を ニンタイ して いく こと が できる の か と、 ムガ ムチュウ に あばれまわった エンリャクジ の ソウリョ たち の カオ と イッショ に なって、 しばらく は ユウジン たち の カオ が カレ の ノウチュウ を さらなかった。 しかし、 これ とて、 ない モノ は ない モノ で、 ある モノ の ボンノウ の イヤラシサ を おかしく ながめて くらしおわる の で あろう と おもいなおし、 ふと また サダオ は テンジョウ の すみわたった チュウシン に メ を むけた。
「カミガミ よ ショウラン あれ、 ワレ ここ に コ を もてり」
 カレ は マナイタ の ウエ に ダイ の ジ に なって よこたわった よう に、 ベンチ の ウエ に のびのび と よこたわって いた。 カレ は デンギョウ の こと など もう イマ は どうでも よかった。 しかし、 ジカン は イガイ に はやく たった と みえて、 うつらうつら ネムケ が さして きかかった とき、
「もう キップ を きって いまして よ。 はやく いかない と おくれます わ」 とつぜん チエコ が いった。
「ハッシャ か、 なんでも こい」 と サダオ は ふてぶてしい キ に なって おきあがった。 カレ は サカミチ を エキ の ほう へ かけのぼって いく チエコ と キヨシ の セナカ を ながめながら、 アト から ヒトリ おくれて あるいて いった。
 サダオ が クルマ に のる と すぐ ケーブル の ベル が なった。 つづいて クルマ は ミズウミ の ナカ へ ささりこむ よう に 3 ニン を のせて マッスグ に すべって いった。
「ほー、 けきょけきょ、 ほー、 けきょけきょ」 と キヨシ は マド に しがみついた まま まだ フエ を ふきつづけて いた。

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