★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

彗星の時(55)

2012年02月28日 | 短編小説「彗星の時」
「なにっ。先発部隊の戦鉄牛が全部倒された?」
ジーザ王子が眼をむいた。
そこはつい先程確認作業が終わり、出撃できる体制が整った『砦』の司令室の中だった。
「はっ、先発部隊として出撃した10体の戦鉄牛のうち、1体は『天の国』の国境警備軍の総攻撃で倒されたようですが、残り9体は、王都に入ってすぐに、何やら光る槍のようなものが突き刺さりあっという間にやられてしまったとのことです」
若い兵士から報告を受けたジーザは部屋の中央にある大きな椅子に座り込んだ。
「うーむ。なんだそれは・・先発隊の戦鉄牛は、我が軍でも屈指の最強部隊。あの10体だけでも王宮を落とせると思っていたが・・」
腕を組んだジーザ王子の後ろから声が聞こえた。
「それは、例の黒い戦士の仕業か?」
声のする方を見て、ジーザは椅子から立ち上がった。
「父上、ようこそ『砦』へ、この『機械』はお嫌いではなかったのですか」
「ああ、このような地下深くで眠っていた超古代の悪魔などわしは好かん。じゃが、驚異的な戦力であることは違いない。。で、戦鉄牛を倒したのはあの黒尽くめの男なのか」
「いえ、そうではないようですが、なんらかの原因で一瞬のうちに、9体がやられてしまったとのこと・・」
「なんらかの理由?」
「はい、なにやら光る槍が突き刺さりあっという間に倒されたとか・・」
「光る槍とな、、ふむ、、」
「よもや、あの王族の小僧、ケインと天神の力が何か関係があるのでは・・」
「・・そうかも知れぬな。だが、今となっては引くことはできぬ。ジゼル大導師とサルサ導師に伝えよ。全ての飛竜と魔導師で戦鉄牛部隊の護衛に付くようにと。この機を逃してはならぬ。この『砦』はもう動けるのか?」
「はい、なんとか動くだけは・・」
「よし。それでかまわぬ。『砦』も含め全軍全速力で進撃するのじゃ」
「はい!解りました」

彗星の時(54)

2012年02月26日 | 短編小説「彗星の時」
『そう、あなたは[イオノスⅢ]に残された「半有機サイボーグ」の最後の一人。他の仲間達は、もう何百年も前に発出されて地上で任務を果たし死んでいった。最後に残ったあなたも、本当は何らかの任務を背負って地上に降りてくるはずだったんだけど・・・あの彗星の大接近で衛星が誤作動を起こして何もないままあなたを発出してしまった・・・ではシャインさん、ミッションを送ります。それであなたは目的を持って動ける・・あなたの任務は・・僕の護衛をお願いします・・・そう、元々あなたはSP、要人警護用として作られている、適任のはずです・・・・いいですね。・・では・・ミッションプログラム転送・・』
 シャインは天を仰ぎ見たまま、固まって動かなくなったが、頭の中には、新たな情報が滝のように流れ込んでいた。
 しばらく経つとシャインは全ての疑問が解けたかのような晴れやかな表情で、群集の前で手を上げて応えているケインのホログラムを見つめていた。
が、突然、ケインの姿が幻のように掻き消えてしまった。
「おぉ。大帝はどうした。どこに行かれた」
群集の間にどよめきが起こった。
それを見たシャインは、険しい表情になり王宮に向かって駆け出した。


彗星の時(53)

2012年02月23日 | 短編小説「彗星の時」
 そのタイミングを見計らったかのように、ケインは右手を上げて腹に響くような声で言った。
「我が名は、ケイン。カール大帝の真の後継者であり、天神の力を受け継ぐものなり!」
それを聞いた兵士達は歓声を上げた。
「うお~、やった~。ケインさまぁ、ケイン大帝、大帝ばんざーい」
あっという間に、群集が何千人と集まり「ケイン大帝」「ばんざい」コールが響きはじめた。
「あれは、地上投影用超遠距離ホログラム・・。ということは、ケインは「イオノスⅢ」の操作権を獲得したということか・・・ん・・[イオノスⅢ]・・・」
シャインは、群集の叫びに応えているケインのホログラムを見ながら頭を抱えていた。
「・・[イオノスⅢ]・・なんだ・・俺はいったい・・・」
何かを思い出しそうな気がした時、シャインの頭の中にケインの声が響いた。
『シャインさん、聞こえますか。聞こえるのであれば、まだ超時空通信機能は損なわれていないようですね。では、今からメディカルプログラムを送信します。これが走れば記憶を含めた全ての機能が回復するはずです。エネルギー不足の部分は、王宮の『操りの間』に来てくれれば、チャージできますよ。じゃあ、プログラムを送りますね』
そう聞こえたとたん、まるで雷に打たれたような衝撃がシャインの身体を突き抜けた。
シャインの頭の中には、失われた部分の記憶がまるでピントを合わせた写真のように次々と鮮明に蘇っていく。
「そうか・・そうだったんだ」
(俺は、長い長い間、戦略軌道衛星[イオノスⅢ]のサイボーグ格納室で待機状態を維持していた。だが、あの日突然地上に発出され、気がついたらあの丘の上に立っていたのだ。通常は、発出される前にミッションプログラムがインストールされ、そのために行動するのだが今回は何もなく、通常装備を身につけたまま地上に移送された・・)明確になる記憶の波に呆然としているシャインの頭の中に、再びケインの声が響いてきた。

彗星の時(52)

2012年02月20日 | 短編小説「彗星の時」
シャインが着地し、数十メートル離れ、『天の国』の兵士達も蜘蛛の子を散らすように戦鉄牛から離れた瞬間、9体の戦鉄牛に真上から細い光りの槍が突き刺さった。
 それまで、蟻を踏みつけながら進む象のように圧倒的な強さを誇っていた戦鉄牛が、突然その動きを一切止め、次々とその場に地響きと供に倒れこんだ。
 その光景を目の当たりにした天の国の兵士達にどよめきが起こった。
「いったいどうしたんだ。なにがあったのだ」
 命は助かったものの、目の前で起きた出来事にとまどいが隠せない。
 その時、土ぼこりの中で既に瓦礫となっている戦鉄牛の上に人影が現れた。
 ケインだった。
「勇敢なる天の国の兵士達よ。安心するが良い。今、天の国は再び天神の力を手に入れた。戦鉄牛など恐れることはない。「地の国」とて、もはや取るに足りない弱小国にすぎない。我ら「天の国」こそ神に愛でられた偉大な大国なのだ」
 倒れた戦鉄牛の上に立っているケインは、まだ少年の面持ちをした若い姿だったが、その声は周囲数キロまで届くような威厳のある奥深い声だった。
 あっけに取られた兵士達は、阿呆のような面持ちでケインを見つめていたが、一人の兵士が呟いた。
「あ、あれは、王族のケイン様だ」
「ケイン様といやぁ、例の、噂の・・本当だったのか・・」
倒れた戦鉄牛の周りに集まった兵士達の間に、ざわざわとした声が広がっていく。

彗星の時(51)

2012年02月19日 | 短編小説「彗星の時」
今ケインに見えているのは、『天の国』の王都に迫る9頭の戦鉄牛だった。戦鉄牛は、剣や槍で立ち向かう天の国の兵士達をまるで虫でもつぶすかのように蹴散らしながら進んでいく。
「あ、シャインさんだ」
戦鉄牛の一頭に切りかかっていくシャインの姿が見えた。
「そうか、シャインさんは『半有機サイボーグPX2008型SPタイプ』なんだ。どうりで強いはずだ」
 戦鉄牛に飛びかかったシャインは、戦鉄牛の頭部に取り付き、手にした刀で装甲に切りつけていたが、歯が立たないようだった。
「高周波ナイフもエネルギー切れなんですね。ではこちらから撃ちましょう。シャインさんはどいてください」

 シャインは、戦鉄牛の頭部に取り付いて、とりあえず装甲の弱そうな部分を「天の国」軍から借りた刀で切りつけていたが、全く効果はなかった。
「やはり無理か。この刀では硬度が低すぎて、RX23タイプ万能型機甲歩兵の装甲には傷ひとつ付かない・・・ん?」
シャインは何かに呼ばれたように空を見上げ、いきなり叫びながら戦鉄牛から飛び降りた。
「離れろー、戦鉄牛から離れるんだー、まきこまれるぞー」

彗星の時(50)

2012年02月17日 | 短編小説「彗星の時」
ケインは、空を飛んでいた。眼下には海や山が見えた。白い雲も見える。
『これが我々の星、「天の国」はここ、「地の国」はここ。今君はここにいる』
[イオノスⅣ]の思考が交差する度、景色が変わる。
『私は、この星「イオ362」を統治する機関、『イオノスセンター』のメインAIです。今からこの星の成り立ちと、統治する各機関、および現状の説明を行います』
 ケインの頭の中に「データ」という思考が直接流れ込んできた。
『この星は、銀河連邦の端に位置し362番目に発見された『イオ』型惑星。銀河連邦とは・・・』
 まるで聞いたことのない大量の思考が、直接脳に流れ込んできたケインは、意識が飛びそうになりながらも、なんとか持ちこたえ知識として蓄積していった。その知識とは、遠大な歴史から既に失われた科学技術など、普通に学習していたら一生かかっても習得できないような膨大な量だったが、直接脳に書き込まれるような不思議な感じで、まるで乾いた砂が水を吸い込むように記憶していった。
 やがて、嵐のような思考の流入は落ち着いていった。時間にすればほんの数十分位だったのかもしれないが、『イオノスⅣ』との繋がりはケインを大きく変えたようだった。

彗星の時(49)

2012年02月15日 | 短編小説「彗星の時」
「いかがですか、ケイン様。ご気分は大丈夫ですか」
頭の中に案内人の声が響いている。
「・・ああ、特に痛みもないし、大丈夫だと思うよ」
 今、ケインは案内人に導かれた部屋の中央にある椅子に座って、メインAI[イオノスⅣ]との高レイヤ接続をしようとしていた。
 ケインの頭には首から上がすっぽりと包み込まれる兜のような物が被せられ、その兜からは無数の線が延び、天井へと繋がっていた。
 眼も耳も鼻もふさがれ、真っ暗闇で何も聞こえないはずのケインには、案内人の声だけが頼りだった。
「・・・では、今から[イオノスⅣ]との接続を開始します。接続が成功しますと、[イオノスⅣ]が所持しているデータが全て知識としてケイン様に流れます。さらに衛生軌道上にある戦略軌道衛星[イオノスⅢ]の操作アカウントが取得できます。それによりこの星の統治者としての資格を得ることとなります」
「え、何?、衛星?・・」
「[イオノスⅣ]と接続すれば全てが判ります。では、接続を開始します。初めてですので、気分が悪くなることがありますが、耐えられなくなった場合には、手元のボタンを押してください。緊急停止いたします」
 次の瞬間、真っ暗だったケインの視界は、真っ青に輝きだした。
『ようこそ[イオノスⅣ]へ』
頭の中に案内人とは違う声が響いた。声、いや声ではなく思考そのものだった。

彗星の時(48)

2012年02月14日 | 短編小説「彗星の時」
 横たわっている者、それは死体だった。死んでからかなりの時間が経っているのか、生々しい死体ではなく、すっかりとミイラ化していた。
「あの方は、前のマスター、カール大帝です。この部屋でお亡くなりになりました」
「えっ、カール大帝・・あの800年前の・・」
 確かに、よく見ると服装が金をあしらった豪奢なもので、頭には王が日常嵌めている細い金の王冠が光っており、死んでもなお、大帝の威厳が感じられる。
「はい、カール大帝は、798年前、このコントロールルームで心臓発作で倒れられ、メディカルマシンが対処しましたが、残念ながら亡くなられました。この部屋には、許された者しか入ることができません。それ以来、ここでお眠りになっておられます。できましたら、ケイン様がお戻りになる際、お連れください」
ホログラムとは思えないような真摯な表情で案内人はケインに依頼した。
「あ、はい。・・わが「天の国」を救ったといわれる偉大な王、私の先祖でもある大帝をこのままにしておくわけにはいきません。判りました。僕がお連れしましょう」
白い顔をしたケインは、小さいながらも王族としての勇気を振り絞って答えた。
「よろしくお願いします」
実体のないはずの案内人は、ケインに深々と頭を下げた。

彗星の時(47)

2012年02月11日 | 短編小説「彗星の時」
 ケインは、案内人に促されるまま次の部屋に歩み行った。そこは部屋というよりも通路のようなもので、目の前には長い階段が上方に向かって続いていた。
「一段目の光っているところに進み、手すりにおつかまりください」
自ら案内人と名乗った女が、静かに言った。
 ケインは一瞬ためらったが、意を決したようにつばを飲み込むと、白くぼんやり光っている一段目の階段の上に立った。
「では、まいりましょう」
 女は、ケインが階段の横にある手すりを掴んだのを確認すると、やさしく微笑みながら視線を前の方に向けた。
 その女の動作に呼応するかのように、ケインの身体は音もなく何のショックもなく移動し始めた。かなりのスピードで動いているようだが、よく注意しないと判らないくらい静かだった。ぼんやり見える壁と、わずかな空気の流れで自分は運ばれているんだなと確認できるが、案内人の女が足も動かさずに傍らにいるおかげで、周囲の景色の方が動いているように錯覚してしまう。
 しばらく進むとぼんやり光る扉が近づいてきて、その前で止まった。ケインの来訪を知っていたかのように静かに扉が左右に開く。
「中へお入りください」
 案内人に促されるまま、ケインは部屋の中に歩を進めた。
 やはり薄暗い感じのする広い部屋だったが、壁一面に色鮮やかな光りが点滅していた。
「こちらへどうぞ」
 案内人は、部屋の中央にある椅子を指し示した。
 ケインは、恐る恐る部屋に進み入り、示された椅子へ向かった。数歩進んで、目が薄明かりに慣れてきた頃、部屋の隅に小さなベッドがあり誰かが横たわっているのが見えた。
「あ、あれは!」
 ケインはその横たわっている者の詳細が見えてくるにつれ、青ざめていった。

彗星の時(46)

2012年02月07日 | 短編小説「彗星の時」
「・・え、っと」
「私は、この『操りの間』の案内人でございます。先程の走査線、、扉の放った光でございますが、、での最終サーチにより、ケイン様がマスターの条件を満たしていると判定いたしました。ここから先は私がご案内いたします」
「なぜ僕の名前を知っているの」
「この塔、、ケイン様達が王宮と呼んでいるこの施設は、『操りの間』のメインAI[イオノスⅣ]で一括管理されており、大まかな出来事・情報は全て把握されております。もちろんケイン様が795年ぶりにマスターの条件を満たす可能性が高い男子としてお産まれになったこともデータとして残っております」
「え、、じゃあ君は僕より随分年上ってこと?そんな風には見えないけど。それにマスターって何?」
女は、ふっと微笑んだような表情になり語りかけた。
「私は、[イオノスⅣ]が作った案内用ホログラムです。実体はありません。この先様々な疑問がわいてくるかと思いますが、とりあえず私の指示に従ってくださいませ。後ほど[イオノスⅣ]との高レイヤ接続があります。その時点で全ての疑問が解決されるはずですので。では、こちらへお進みください」
 女がそう言うと、目の前に立ちはだかっていた銀色の扉が音もなく左右に開き、新たな空間への道が伸びていった。

「おお、なんだあの女性は、どこから出てきたのだ」
 ガラス窓から一部始終が見えるジュンサイは、年甲斐もなく興奮していた。
「何かをしゃべっているようだが何も聞こえない。なんだろう。。おぉ、扉が、開いた」
ヤーコンもまた興奮している。
 だが、ガラス越しに見ているだけの二人にとっては、何もできない。
「ああ、ケイン様が扉の中に入っていかれる・・」
ケインが次の部屋に入ると、再び銀色の扉は音もなく閉まった。


彗星の時(45)

2012年02月01日 | 短編小説「彗星の時」
ケインが部屋の中を進んでいくと、最初の扉はひとりでに閉まっていき、誰も入れなくなった。ジュンサイとヤーコンは、固唾を呑んでガラス越しにケインを見つめていた。
「そうじゃ、その扉じゃ。そこまではわしも行けたのじゃが、その扉を開けることはできなんだ」
 ちょっとびっくりしたようにヤーコンはジュンサイを見た。
「ジュンサイ様、入られたことがおありなのですか」
「うむ、代々白魔導師がこの『操りの間』の鍵を守ってきた。当然部屋の中で何が起きるのか知らねばならん。この部屋の隅々まで調べたが、あの『聖なる扉』を開けることはできなんだ。歴代の白魔導師も試したようだがの」
「そうなんですか・・」
 天の国随一の能力を備えた白魔導師でさえ何ともできなかった『聖なる扉』を、いかに伝説どおりとはいえ、まだ子供のケインがどうするのか、ヤーコンには興味がふつふつと沸いてきた。
 ケインは、言われたとおりに部屋を進んだ。王宮の豪奢さとは裏腹に、何の飾りもない白色の小さな四角い部屋だった。数メートル進むと、ジュンサイが言った『聖なる扉』があった。 その扉は、取っ手も模様もなく、銀色の無機質な光沢を放っていた。
 ケインは、部屋の中を見回し、どうしたものかと思いながら扉の前に立った。
 すると、銀色だった扉が段々と白く光りはじめ、眼を細めないと眩しくて直視できないくらいに輝いたかと思うと、いきなり元の銀色に戻っていた。その間ほんの数秒だったのだが、いつの間にかケインの目の前に一人の女が立っていた。
「お待ちしておりました。ケイン様」
 扉と同じような銀色の服装をした色白の女だったが、覇道で作り出した影法師のようなはかない感じがした。