★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

自転車に乗って(27了)

2010年01月22日 | 短編小説「自転車に乗って」
 役立たずの超能力者、僕達はどうもそういう人種らしい。しかも遺伝するとのこと。
 今夜泊まる町の名前を母に告げると、僕はケイタイをポケットにしまい、自転車のハンドルを握ったまま、今通ってきた道を振り返った。
 今まで見たこともないような真っ直ぐな道だった。
 もやもやした疑問はなくなったものの、この先どうなるんだろうと漠然とした新たな不安が生まれてきた。
 暖かい5月の北海道の涼風が、僕の髪を揺らしている。この風のいたずらでここまで来たのかもしれない。
 まあ、とりあえず今回は、この道を見れたんだからいいかな、と自分に言い聞かせていた。
 僕の銀色の自転車も5月の陽の光を浴びて満足そうに輝いていた。

自転車に乗って(26)

2010年01月21日 | 短編小説「自転車に乗って」
「なんで僕が北海道にいることを疑わないの?」
「・・・」
「もしかして、母さんも同じようなことがあったんじゃない?」
「・・そうね、会ってから話そうと思ったんだけど、電話でもまあいいか。多分、あなたが思っているとおりよ。あっくんにも母さんにも、ある特殊な力があるの。俗に言う超能力なんだけど、全く役に立たない力なの」
「えーっと、もしかして、瞬間移動、テレポーテーションっていうやつ?」
「そう、そう、よく知ってるわね。ただし、私達の能力は、コントロールが効かないのよ。いつどこに飛ぶか判らないの。多分、あっくん、今日なにかのきっかけで頭が働かなくなったんじゃない?それが前兆なの」
「!!、なった、なった。自転車に乗ってたらやたら気分が良くてぼーっとしたような感じがして・・気がついたらここだった」
「そう、そう、でも行き先も判らないし、突然始まるし、迷惑なだけの力なのよ」
 母の「そう、そう」というセリフがやたらと耳に残った会話だった。

自転車に乗って(25)

2010年01月18日 | 短編小説「自転車に乗って」
 道はまだ若干下り坂になっていて、加速するのは容易い。やがてまた緩い上り坂になったがそんなにきつくなく、はるか遠くに見えた線路は、坂を登りきった頂きあたりに敷設されていた。
 道路と線路は垂直に交差しており、小さな踏切があった。踏み切り付近から道路の先を見通すと、小さな町が見えた。
 旅館や民宿くらいはありそうだ。
 ほっと胸をなでおろすと、さっきの疑問がまたふつふつを沸いてきた。
 再び電話をしてみる。
「もしもし、あっくん?さっきは出れなくてごめんね。そっちに行く準備をしてたものだから。泊まる場所は見つかった?」
 なにやら声が弾んでいる。思いがけない旅行気分なのか。

自転車に乗って(24)

2010年01月17日 | 短編小説「自転車に乗って」
 ケイタイを胸ポケットにしまい、草の上にひっくり返っている弁当の救済に取り掛かった。まだ腹の虫は納まっていないのでなるべく食べれる範囲を大きくしたい。
 弁当がさかさまに置かれた草と地面との間にそおっと手を入れて、えいっと元に戻す。
 幸い、濃密な草のおかげで、ほとんど土などはつかず、なんとか全部賞味することができるようだ。
 三個目のから揚げの草切れを払いながら、さっきの母の言葉を考えた。
 遺伝?遺伝?もしかして・・・・
 僕は、疑問を解消するために母に電話をしたが、誰も電話にでなかった。
 仕方がないので、まずは救済した弁当を食べ尽くし、泊まれる場所を見つけることにした。道路の左側のはるかかなたを一両編成の汽車が走っていたので、その線路を頼りに移動すればなにかあるかもしれない。
 そう思った僕は、愛車にまたがり再び走り出した。時刻は12:00を過ぎている。まだ暖かいが、北海道の夜は寒そうだ。陽の高いうちに泊まれる場所を見つけたいものだ。

自転車に乗って(23)

2010年01月16日 | 短編小説「自転車に乗って」
「母さん、僕が北海道にいるって本当に信じたの?」
「・・ん、まあね。しょがないわね。遺伝かしら」
 遺伝?偉大さが遺伝するのか?母の母も偉大だったのか?なんか僕の考え方のピントがずれているような気がするが。
「とにかく、帰ってくる方法を考えなきゃいけないわね。近くに旅館とかホテルとかはないの?」
「草原のど真ん中で何もない」
「そっか、今から迎えにいくけど、今日中には着かないかもしれないから、泊まれる場所を見つけておいてね。見つかったらまた電話ちょうだい」
 そう言うと、母はあっさり電話を切った。
 息子が自転車で約800キロメートル移動したのに、そんなに取り乱しもせず淡々と後処理をしようとしている。あれ?何かへんだなぁ。

自転車に乗って(22)

2010年01月14日 | 短編小説「自転車に乗って」
「本当に北海道なの・・?」
「あ、そうだ。僕のケイタイはGPS機能があるから、母さんのケイタイでチェックすることができるよ」
ケイタイとは便利なものである。ただし、母がGPS機能を使いこなせるかどうかは判らない。
「あっくん、お金いくら持ってんの?」
突然、母の口調からとげが消え、母親らしい語り口になった。
しかも、息子が突然北海道に行ったことに対して疑問を持たないらしい。GPSでの場所確認ができるほど時間がたっていないはずなのに。
「1000円しか持ってないよ」
基本的に高校生は買い食いする程度のお金しか持っていない。僕は、買い食いはしないのだが、鞄のポケットにいつも1000円だけ入れている。それが今の所持金全額である。
「ふう、・・・そこは、北海道のなんていう町?どんな場所なの?」
偉大な母である。不条理なことを言われても自分の息子を信じ切っているのだ。

自転車に乗って(21)

2010年01月13日 | 短編小説「自転車に乗って」
「学校から電話があって、どうしましたか。病気ですかって、担任の高橋先生が言ってたわよ。あなた、今どこにいるの?」
「あ、、ええと・・・」
「あなた、一人なの?まさか、学校行かないで悪い友達と変なところに行ってるんじゃないの?」
 完全に母は、僕が不良になって遊び歩いていると思っているらしい。それにしても、本当に変なところへ行っているのならば、場所を言うはずがないと思うのだが。もっとも、ここだって十分変な場所ではある。
「ここは・・北海道だよ」
 嘘を言っても仕方ないので、正直に答えた。信じる信じないは別として・・
「・・えっ・・・北海道ってあの北にある北海道?」
「ああ、信じないかもしれないけど、自転車で北海道に来ちゃった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

自転車に乗って(20)

2010年01月12日 | 短編小説「自転車に乗って」
 から揚げを噛むのも忘れ、しばらくケイタイを握りしめ、画面の「北海道」の文字を、穴の開くほど見つめていると、突然、ケイタイの着信音が鳴り始めた。
 超びっくりしてケイタイを落としそうになった。かろうじてケイタイは助かったものの、ひざの上に置いておいた弁当が草むらの上に転がった。
「あぁ・・」と声を出したが、ケイタイの画面を見て声が止まった。
母からだった。
 すかさず、ケイタイの通話ボタンを押した。
「もしもし!」
 ちょっと間を空けて母の声が聞こえた。
「もしもし、あっくん?あなた、いまどこにいるの」
「・・・あの・・・」
 僕がどう答えれば良いのか迷っていると、いつものように畳み掛けてきた。

自転車に乗って(19)

2010年01月11日 | 短編小説「自転車に乗って」
 もう一個・・から揚げを頬張りながら考えた。
 さーてこれからどうしようか・・だいたいここはどこなんだ?
 そうだ、僕はひらめいて胸ポケットのケイタイを取り出した。ケイタイを開け、アンテナを確認する。かろうじて1本立っている。
「よし!」
 僕は食事中なのも忘れ、作業に没頭した。
 何のことはない。僕のケイタイはGPS機能つきだった。それを利用すれば今自分がどこにいるかすぐに判る。
 検索した結果・・・・、ここは北海道だった。
 この風景から察するに、そうじゃないかなとは思っていたが、明確に指摘されるとやっぱりびっくりする。
 僕の家がある町から、800キロメートルは離れている。
 僕は自転車に乗ってどうやって来たんだろう。

自転車に乗って(18)

2010年01月07日 | 短編小説「自転車に乗って」
 草原を渡り行く風は、さっきまで感じていた風よりも若干冷たい気もするが、青葉や花など自然の香りがずっと濃厚な感じがする。
 太陽はほぼ真上にあり、時間が11時30分というのもうなずけてしまう。おかげで黒い学生服をあたためてくれるので、幾分涼しい空気の中でも寒さは全く感じない。
 僕は、鞄を持って道路から草原に踏み入れた。牧草なのだろうか、丈が5センチくらいの草が密集してはえており、高級な絨毯の上を歩いているような感覚だった。
 数メートル歩いた辺りで鞄の中から弁当を取り出した。鞄をそのまま草むらに置き、その上に腰掛けた。草があまりにも青々としているので、直接座るとズボンが濡れそうな気がしたからだ。
 弁当を腿の上に置き、蓋を開けた。
 おっ、今日はから揚げか・・箸で一個つまみ上げ、口に運んだ。
 うーん、んまい。

自転車に乗って(17)

2010年01月06日 | 短編小説「自転車に乗って」
 僕は、ケイタイを学生服の胸ポケットにしまうと、自転車から降りてそのまま道の左側に自転車を引いていき、スタンドをかけて駐輪した。
 前を見ても後ろを見ても自動車はおろか人影さえない道だったが、日頃のくせなのかなんとなく道の端に止めた。
 広い草原のど真ん中である。左側は地平線のかなたまで緑色の草原であった。よく見ると、所々に赤や黄色の花が咲いている。甘い香りの正体のようだ。
 タタン・タタン・・とはるかかなたから小さな音が聞こえてくる。地平線のわずか下をなにか白いものが動いている。一両編成の汽車が実にのんびりと走っていた。
 右側も新緑の草原が延々と続いているが、地平線の近くには林のような帯がありその上には頂き付近がまだ雪化粧されている山並みが見える。
 僕がいるこの世界は、上半分が青で、下半分が緑の単純で清廉なところだったんだと納得してしまいそうだ。

自転車に乗って(16)

2010年01月03日 | 短編小説「自転車に乗って」
 はっと思い立った。そうだ、鞄にケイタイが入っている。あれさえあれば・・僕は両足を地面について自転車を倒れないように固定し、両手で前かごから鞄を引っ張り出した。
 ケイタイはいつも鞄の中の一番手前の仕切りに入れている。よし、あったあった。
 僕は鞄を前かごに戻しケイタイを開いた。待ち受け画面が起動した。
 「時間は・・と・・・!」
 なんと表示されている時間は11時30分となっている。
 朝、家を出たのは7時15分過ぎで、途中住宅街で迷いかけたり、天神川の土手までちょと寄り道をした程度のはずだったのに4時間以上経過していることになる。そんなバカな・・。
 その時、「くうううう」とまた腹の虫が鳴った。
 なるほど。本当に11時30分なのであれば、腹もすくはずだ。この訳のわからない状況で変な納得をしてしまった。
 あ、そうだ。弁当があったんだ。

自転車に乗って(15)

2010年01月02日 | 短編小説「自転車に乗って」
 「え?」5月の妖精に拉致され怠けていた僕の脳みそもさすがに再起動したらしい。僕の両手をブレーキレバーにひっかけさせ、ゆっくり握らせた。
 自転車は「キュュ・・」と小さな音を立ててゆっくり止まった。
 僕は、右足をペダルに残し、左足を地面につけそのまま周り360度見渡した。僕が通ってきたはずの住宅街が全くなくなっていた。左側の川もなくなっていた。自転車が走ってきた道路も土手の上ではなく、草原の中の一本道だった。
 どういうことだろう。せっかく再起動した僕の脳みそは、活動しているにもかかわらずこの状況にパニくってしまい、やはり正常な思考ができないでいる。
 その時、「くうううう」と僕の腹の虫が鳴った。
 まだ朝ごはんを食べてから、そんなに時間はたってないはずなのに、パニくっている僕の脳みそは、空腹感をキャッチしていた。
 「あれ?」なにかに気が付いた。正常な状態に戻った僕の思考回路は、とりあえず現在時間を確認しようとしていた。