★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(26)

2014年07月21日 | 短編小説「義腕の男2」
 カーテンの下で、俺は改めて状況を整理してみた。
 一番予定と違うところは、あの少女だ。博士に子供がいるという情報はまったくなかった。だが、あの酷似ぶりは親子以外考えられない。
 そして、その娘が、母親を撃ち殺した、ついでに俺も。
 さらにあの会話、Mr.Jはターゲットを確保したと言い、その少女をノスリル共和国のエージェント達は連れて行った。
 残念ながら、あの会話の後はMr.Jたちの会話は聞こえてこない。
 謎を解く鍵は、あのクリス博士激似の少女ということか・・・・・。
 さて、これからどうするか。約2時間後には、このビルは地上から消滅することは間違いない。 
 俺のミッションは、さっきのイスラン兵じゃないが、このクリス博士を救出することだったが、ターゲットが死んでしまった今となっては、作戦終了ということになる。
 だが、このまま終わって良いのか。せっかく協力したイスランに裏切られたのか。
 その時、俺は気がついた。
 俺の上に乗っている血だらけのクリス博士の死体に違和感を感じたのだ。
 確かにどこからどう見ても、写真どおりの赤毛の熟女美人だが、何かが違う。
 しかし、いくら考えても、違和感の原因が判らない。
 今回のミッションは、腑に落ちないことばかりだ。
 しかし、爆撃の時間は刻一刻と迫ってきている。とりあえず死んだフリをやめ、このビルから退去するのが先決だ。その後のことは、脱出後に考えよう。
 カーテンの下にいるので外が見えるわけではないが、通り過ぎる足音からすると、まだ廊下の人通りはあるようだ。いきなり立ち上がっては、また騒ぎになってしまう。

義腕の男2(25)

2014年07月19日 | 短編小説「義腕の男2」
 その時、俺の耳のイヤホンからMr.JとMr.Bの会話が聞こえてきた。
「ターゲット確保、数分後に車に戻る。発車準備をしてくれ」
「Mr.Kはどうした?」
「Kは死んだ」
「・・了解」
 しばらく経って、一人の兵士がMr.Jを追おうとしたが、真ん中のリーダーらしき兵士が制止した。
「待て、我々の第一ミッションは博士の移送だ・・だったが・・」
 もう一人の兵士が胸に大穴が開いて倒れているクリス博士に近寄り、首の辺りに手をやり脈を測ったが、左右に首を振った。
 リーダーが続けた。
「クリス博士はもう死んでしまった。第一ミッションは終了した」
「ですが、あの子供と連れ去った謎の兵士、それにこの兵士は・・」
 見かけは血だらけの俺も、死んでいると判断したのだろう。
「通常であれば、徹底的に追求するところだが、命令は第一ミッションが終了したら、直ちに第二のミッションに移行することとなっている。空爆まで時間がない。第二ミッションである物品の搬出支援に回る。いいか」
「はっ」
「・・この遺体はどうしますか」
 部下の質問に一瞬躊躇したようだったが、リーダーは冷たい命令を下した。
「・・このビルは数時間後には瓦礫の山になっている。これからは時間との勝負である。死体を運ぶよりも、一つでも多くの物品を搬出するのが我々の目的である。放置しろ」
「・・了解しました」
 博士の脈をとっていた兵士は、俺には触れず胸で十字を切ると、立ち上がって他のイスラン兵とともに走っていった。
 このリーダーの判断は、俺にとってはとてもラッキーだった。調べられたら、あっという間に俺が生きていることがばれてしまうところだった。
 俺は、博士の遺体の下で死んだふりをしたまま、意識が徐々に鮮明になっていき、状況判断ができるまで回復してきていた。
 銃弾は博士の薄い胸を貫通し、俺の背中に当たったが、幸いにも防弾チョッキで止まっていた。もっとも撃たれた衝撃は半端なく、二人そろって反対側の壁まで吹き飛ばされてしまったのだ。
 俺と博士の遺体は、廊下の片隅に打ち捨てられ、荷物を持って行き来する人々はギョッとしながらも無視していく。数分後、だれか心優しい人が大きな布をかけてくれた。どこかからはがしてきたカーテンのようだ。
 助かった。俺の意識はもうすっかり回復し、身体も動けるようになっていたが、衆目にさらされて死んだフリを続けるのはつらい。

義腕の男2(24)

2014年07月09日 | 短編小説「義腕の男2」
 当然、イスランの兵士達は信じない。銃を構え直して問い詰める。
「そんな話は聞いていない。博士を移送するのは我々だけのはずだ。誰だ貴様ら!」
 できれば、穏便に博士を救出したいと思っていたが、どうやらそうも行かないらしい。頼りの右腕は既に戦闘モードになっている。いつ事を起こすかタイミングを測っていると・・
 突然、身体に衝撃が走った。
 何が起きたのか全く理解できないまま、胸に致命的な痛みが走ると同時に、白衣姿のクリス博士がものすごい勢いで身体ごとぶつかってきた。
 俺とクリス博士は、巨大な神の鉄槌を食らったかのようにまとめて吹き飛ばされ、数メートル離れた反対側の壁に激突した。
 俺が、飛ばされながら、コマ送りのように見た映像は、Mr.Jの傍らに立っていた博士そっくりの子供が、銃をこちらに構えたままにしている姿だった。
 その銃口からは発射したばかりの証である煙が上がっている。
 俺は、吹き飛ばされながら、この娘が俺とクリス博士を撃ったのだということだけは確信した。
 銃声が響いた廊下には、一瞬にして緊張が走り、物品の運搬に勤しんでいた人々も自身の安全を確保するためしゃがみこんだりして、固まっている。
 その隙をついて、Mr.Jは銃を持ったままの女の子を抱きかかえ、人間とは思えないような跳躍力で人々の上をジャンプし、猛スピードで出口に向かって走り出した。
 銃を構えたイスラン兵は、多分何が起きたのか頭の整理がつかないのだろう。呆然と立ち尽くしている。

義腕の男2(23)

2014年07月06日 | 短編小説「義腕の男2」
 Mr.Jの姿を見た博士は、一瞬びっくりしたようだが、すぐに平常の表情に戻り、傍にいる10歳位の女の子を抱き寄せて「わかりました」と言った。
 えっ?よく見ると、博士が引き寄せた子どもは、博士にそっくりだ。髪の毛の色といい、目鼻立ちといい本当に似ている。博士の子供なのか。事前のミッションデータにはそんなことは全く載っていなかった。
 親子ということは、二人とも救出するということか?そうこう考えていると、Mr.Jは子供の手を引き、
「さあ、参りましょう」
と博士と共に歩き始めた。
 いまいち状況に納得がいかない俺だが、事実として子供が存在しているうえ、あくまで支援が目的で、主体はノスリル共和国側であるため、とりあえずその後に続いて出口に向かって歩き始めた。
 その時、俺たちの背後から怒声が聞こえた。
「止まれ!貴様達は、どこの部隊か?!」
 声の方を振り返ると、人ごみの間からイスラン軍の兵士が3人、銃を構えてこちらを凝視している。
 どうやら本物のイスラン兵らしい。
 真ん中の兵士が、銃を構えたまま、近づいてきた。
「我々は、イスラン陸軍第5師団12中隊のものである。博士の移送を命令され到着した。他の隊にも同じ命令が出ているとは聞いていない。貴様らはどこの所属か、名乗れ!」
 Mr.Jは、赤毛の女の子の手をつないだまま振り返り兵士に向かって言った。
「我々は、陸軍情報部の者だ。移送が確実に行われるようバックアップに来た」
 あらかじめこういう状況を想定していたのか、とっさに答えたにしては良い内容だと思うが、残念ながら表情が伴っていない。
 体がでかい割りに小心者なのか、演技が下手なのか、Mr.Jの表情は頬あたりが引きつって、いかにも嘘をついています、という顔つきなのだ。