★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
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義腕の男2(53)

2016年05月05日 | 短編小説「義腕の男2」
 向かってくるMr.Rに向き直って右腕のモードを切り替えたように、心のスイッチを戦闘モードに切り替えた。病院服を着たままというのがちょっと情けないが致し方ない。
さっきまでベッドの上で完全に病人状態で頭の中も凝り固まっていたが、気持ちを切り替えると全身の五感がフル活動し始めた。
 まず第一に、身体の状態をチェック。
 部屋の端まで一気にジャンプした時、身体的に何も問題がないうえ新しい足は驚異的なパワーを秘めている。
 次に、状況を確認。
 かなり広い実験室のような部屋だ。窓がないところから見ると地下室か?様々な機器や手術用のライトなどが配置されていることから医療系の実験室といった感じだ。人間は20名くらいいるようだが、Mr.Rの襲撃でどこかに隠れているのだろう、ほとんど人影は見えない。
 Mr.Rは、まだ俺の左足の秘密に気がついていない。しかもヤツは自分がパワーアップしたことや俺が負傷していると思い込んでいる。隙だらけだ。
 俺は、走ってくるMr.Rから逃げるのではなく逆に突っ込んでいった。
 まだ生身の右足で一歩目を踏み出した。最初に蹴った足は、普通の足なのでそれこそ普通の一歩を踏み出したのだが、次の蹴り足は当然左足である。多分、Mr.Rには二歩目を踏み出した俺の姿は突然消えたに違いない。それほど新しい脚のパワーはものずごい。
 なるべく低い姿勢でMr.Rに迫っていく。狙いはヤツの足元だ。
 その時、不思議な感覚に捕われた。
 ヤツの目に止まらぬほどのスピードで移動している俺自身、その速度にまだ慣れていないはずなのだが、周りの状況やヤツの動き、さらにはその表情までまるでストップモーションを見るかのように鮮明に判別できるのだ。
 その感じは、加速剤を使った時のようだ。
 一瞬、自分の体が自分のものではないような気がしたが、感覚が付いてこないパワーやスピードは無用の長物に過ぎない。コントロールできる感覚があってこそ初めて有効な武器となる。ヤツのパワードスーツと戦うにはなくてはならないものだ。
 俺はその感覚に身を任せ、通常ならば目で追いにくいほどのスピードで走ってくるMr.Rの足首を戦闘モードになった右腕で的確にすくい上げた。