★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

彗星の時(73)

2012年06月18日 | 短編小説「彗星の時」
「ギガベース」に入り込んだシャインは、破壊したハッチのある部屋から通路へ抜け出て、「ギガベース」のほぼ中心にある機関室を目指して走っていた。「イオノスⅣ」のデータベースから学んだ情報から「ギガベース」の内部構造は全て把握していた。
 その時、周囲が赤く点滅しアラームが鳴り始めた。
「自己防衛機能が起動したか・・」
 シャインは足を止め前方を確かめた。
 50メートル程先に人影が見えた。
 全身銀色で長髪の女が一人立ってこちらを見つめていた。
 手には長剣を持っている。
「MD23-FE型か」
 そう呟くと、シャインはブラスターキャノンを担ぎ直し照準を合わせ発射した。
 オレンジ色の閃光が廊下の空気を引き裂き、銀色の女を襲った。
 しかし、女は表情ひとつ変えず、紙一重で閃光をよけると、シャインに向かって走り始めた。
 シャインはさらに引き金を引いた。
 行く本もの光条が通路の中を交錯したが、ことごとく女は避け、猛スピードで近づいてくる。
「光速と同じスピードのブラスターが当たらない・・」
 とうとう女の長剣が届く範囲まで迫ってきた。
 整った顔立ちの女は、表情を全く変えず剣を打ち込んできた。
 その刹那、一瞬女の動きが止まった。
 シャインはその機を逃さずブラスターキャノンの閃光を女の胸にぶち込んだ。
 銀色の女は、真後ろに吹き飛ばされ、糸の切れたマリオネットのようにガラガラ・ガシャンと廊下に転がった。
 シャインはブラスターを降ろし、後ろを見た。
 そこには、胸の前で印を結んでいるヤーコンの姿があった。
「ヤーコン殿」
「いやあ、シャイン殿、恐ろしいおなごですなぁ、大丈夫ですか」
「今、あれが一瞬止まったのは、ヤーコン殿が・・」
「そうです。あの巨大ゾンデを止めたのと同じ覇道を使ったのですが、ほとんど効果がありませんでしたな」
「いえ、ヤーコン殿が来なければ、今頃、私はあれに切り刻まれていました」
「あのおなごはいったい・・」
「この「ギガベース」の自己防衛機能。侵入者を排除するためのアンドロイドです」
「アンドロイド・・ああ、先日ケイン様を襲ったメイドのような機械と同じものですか?」
「はい、このタイプは、「ギガベース」専用のもので、侵入者を殺戮し排除するためのみに作られています。施設内部に傷をつけないよう火気類は持っていませんが、刃物による白兵戦に特化した専用タイプで、斬り合いに持ち込まれたら、私などひとたまりもありません。近づかれる前に撃ち壊さないと勝てない相手ですが、まさかブラスターまで避けるとは想定外でした。ヤーコン殿の覇道のおかげで助かりました。しかしヤーコン殿はなぜここへ・・」
「ああ、砦の中をどうしてもみたくて・・好奇心に勝てず来てしまいました。ところであのおなごのようなのは他にもいるのですか」
「あのアンドロイドは「ギガベース」には全部で10体装備されているはずです。あと9体はいます。あのスペックだと私一人ではほとんど勝ち目がありません。・・・ヤーコン殿、ぜひご同行願いたいのですが」
「おお、私でお役にたてるのであれば喜んでお供しましょう。ところでどこを目指して進んでいるのですか?」
「機関室です。機関室にはケイン殿がこの「ギガベース」をコントロールするように設定できる操作盤があります。この「ギガベース」を止めるにはそれしかないでしょう」
「あっ、新手が来ましたよ」
 ヤーコンは、シャインの肩越しに、女の姿を見つけ知らせた。
 シャインは振り向いてブラスターキャノンを構えるとヤーコンに合図を送った。
 ヤーコンは胸の前で印を結び、呪文を唱えた。
 女は、ものすごい勢いで二人に向かってきたが、一瞬、見えない何かにぶつかったように動きが鈍った。
 シャインはその動きを的確に捉えてブラスターの熱線を叩き込んだ。
女は、ブラスターの衝撃と自身の勢いが相殺され、真横にはじき飛び、壁に激突した。

彗星の時(72)

2012年06月12日 | 短編小説「彗星の時」
椅子に座って画面を見ていたガーゼル王は、かすかな衝撃音を感じてジーザ王子を呼んだ。
「王子よ、今わずかだが響くような音が聞こえたが、なにか無かったか?」
「響くような音?ですか」
王子は怪訝に思いながら、学者に調べるように指示を出した。
すると、様々な映像が映っている画面の一部に、黒ずくめの男の姿が映しだされた。
「これは・・誰だ」
盤を操作しながら学者が答えた。
「どうやら侵入者のようです。側面のハッチが破壊されています。そこから入り込んだようです」
「なにっ。この『動く砦』に侵入者とは、、何者だ、こやつ」
画面を見ていたガーゼル王には思い当たる節があった。
「もしや、あの戦鉄牛を一撃で倒したという謎の男か、そういえば『ヤミ』の結果を聞いておらぬ・・」
ジーザ王子は、学者に言った。
「こやつを排除する何か良い手はないのか」
指示を受けた学者は、書物をめくり調べながら答えた。
「自己防衛機能というのがありますが」
「なんだ?それは」
「まさしく、内部に敵が侵入した際に発動させ、その敵を攻撃する仕組のようです」
「よし、早速やってみよ」
「はい」
指示を受けた学者は、盤を操作し始めた。

彗星の時(71)

2012年06月04日 | 短編小説「彗星の時」
「あれが「動く針山」か・・。思っていたより大きいですな・・」
 ヤーコンは戦争だというのも忘れ、好奇心丸出しで「ギガベース」を見つめている。
「そうです。「ギガベース」という地上移動型の司令室です。あの突起物は様々な武器にもなるやっかいな超古代の遺物です。現代では正に無敵と言っていいでしょう。本来はイオノスⅢ・・天神の力の配下なのですが・・」
「えっ、あれも元々ならケイン様のもの・・天神の力というのはなんとも・・」
「ですが、今は完全に『地の国』のものになっています。それを取り返すため、あの中に侵入しなければなりません。ここからは私一人で行きます」
「えっ、一人で行かれるのか」
「はい。「ギガベース」には自己防衛機能があるはずですので、かなりの危険が伴います。しかもブラスター・キャノンも一機しかありません。行動するには一人の方が良いでしょう」
 ヤーコンは、とても残念そうな表情をしながら頷いた。
「そうですか。私も是非行ってみたいものですが、シャイン殿がそう言われるのならばいたしかたない。ご武運をお祈りいたします」
 シャインは、ありがとうございますと言いながら、走鳥にまたがって手綱を握り、ブラスター・キャノンを肩に担ぎ上げ、走り出すタイミングを図った。
 歩兵部隊の大半が国境警備軍の制圧に向かったため、「ギガベース」の周辺には兵がほとんどいない状態だった。
 シャインは、はっという気合とともに、走鳥をスタートさせた。
 シャインを乗せた走鳥は、翼を広げ高台からの坂を半分飛びながら一気に駆け下り、あっという間に「ギガベース」の傍に辿り着いた。
「ギガベース」は人が走るぐらいの速度で進んでいた。
 シャインは、担いだブラスター・キャノンの照準を「ギガベース」の側面に合わせ、引き金を引いた。オレンジ色の火球が轟音と供に発射され、狙い通りに「ギガベース」の脇腹を直撃した、が「ギガベース」の装甲には若干の傷が付く程度だった。
「・・やはり一発では無理か・・」
 シャインは、そう呟くと立て続けに数発発射した。オレンジ色の弾道は寸分たがわず同じ場所に激突する。
 突然、それまであまり変化が無かった着弾点がばっくりと口を開けた。出入り口と思われるハッチが吹き飛んでいた。
「よし」
シャインは、ブラスターキャノンを担いだまま、走鳥から「ギガベース」の中に飛び移った。