★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

パーフェクトシティ(12)

2023年03月21日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 部屋の中は黒づくめの男たちでごった返しており、見つけ辛いと思ったが意外と早く出会うことができた。相手の方が先に俺を見つけたのだ。
「どうも、ダイゴさん。お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」
「やあ、ケンジ、よろしく頼むよ」
 俺より年下のケンジが今夜の相棒だ。確か30台後半でもうベテランの域に入りつつある。だが、30歳代ということは、俺の身体年齢より20歳も若い。
「こんな大勢の中で、すぐ俺だとよくわかったな」
「え?ダイゴさん、目立ちますからね」
 やはり、この顔の傷跡は珍しいようだ。
「あ、顔じゃないですよ。そのガタイですよ。ガタイ。毎日筋トレしてるんでしょう」
 俺のような男に変な気をつかうなぁと思いながら、確かに筋トレオタクになってしまったと苦笑いした。
 体を鍛え始めたのは、顔にこの大きな傷がついた時からだ。あの時もっと体力があればこんな傷負わなかったのに、というトラウマがあるのかもしれない。


パーフェクトシティ(11)

2023年03月18日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 開始当初、どちらのグループとも同じくらいの人口だったが、やがて、パーフェクトシティの人口が増え始め、最終的に、パーフェクトシティが9割、オールドシティが1割程度で落ち着いた。
 その後、パーフェクトシティ構想が始まって20年程の歳月が過ぎると、人口の減少に歯止めがかかり、100年後にはわずかずつではあるが人口増に転じていた。人類は滅亡の危機をなんとか脱したのだ。

 俺が乗った車は、警備隊の建物の駐車場になめらかに停車した。
 夜間に関わらず駐車場はほぼ満杯だった。全部俺と同じ警備隊員の車だ。いつもは、交代勤務のため駐車場はガラガラなのだが、大晦日は全隊員が同時に出勤するためだ。
 車を降り、詰め所に入った俺は、今夜の相棒を探した。すでに組む相手は決まっている。
 いつも警備の仕事は一人でやっているが、今日の仕事は2人一組で行う。


パーフェクトシティ(10)

2023年03月10日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 ひとつは、記憶をリセットし同じ1年を何度も繰り返すため文明の発展がストップしてしまうこと。そしてもうひとつは、この世界をコントロールするため、記憶をリセットしない人々が必要であることだった。
 そこで、基本的に「IM-X」を使わず、記憶操作もしない二つ目のグループ「オールドシティ」が作られた。
 この「オールドシティ」は、いわば「IM-X」がない時代をそのまま受け継いでいる街で、住民は歳をとりやがて死んでいく。
 永遠の命を手にした人類にとって誰も入りたがらないグループのようだが、実際には生理的に「IM-X」が効かない人々が一定数いたこと、また思想的に永遠の命や記憶を操作されることに反対で、人類の歴史を積み上げ、継承し文明を発展させていかなくてはならないと考える人々で成り立っている。
 そして、このグループには、従前の社会の営みのほかに、パーフェクトシティを管理するという役目も課せられた。
 基本的にどちらのグループに入るかは、個人の自由判断に委ねられていた。また途中での変更にも規制はない。しかしそれぞれのグループは、地域的に隣接はしているものの明確に切り離され全く別の社会を作っていた。
 ちなみに、国家警備隊はパーフェクトシティ管理の業務のため、オールドシティに属している。
 勿論、基本的にオールドシティの市民は「IM-X」を使わないが、俺は例外的に「IM-X」を使って老化を止めている。定期的な検査を合格すれば「IM-X」を使いながら記憶もそのままで「オールドシティ」で暮らすことも可能なのだ。


パーフェクトシティ(9)

2023年03月09日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 その構想とは次のような内容だった。
 まず、人類をニつのグループに分けた。
 一つ目は、「IM-X」を使い、永遠に生きる人々のグループだ。
 彼らは、死なない。永遠に年を取らずに生き続ける。
 だが、不老を意識すると生きる気力を失い人類滅亡に突き進む。
 だから、彼らがストレスなく生きていけるよう永遠に続く世界を作り出した。
 それは、記憶を操作し、とある1年(AD2355年)を永遠に繰り返す世界。 
 一見不可能に見えるこの構想は、サン・アルベルト卿が開発した脳の記憶領域の制御方法により可能となった。
 つまり、1年に1回、大晦日に過去1年の記憶をリセットしてしまうことにより、同じ1年を繰り返していることを感じずに生きていくことができる都市を作り出したのだ。
 この都市の創出がこの構想のベースとなったことから、そこを「パーフェクトシティ」完璧な都市と呼び、人類の永遠の存続を約束した。
 だが、この世界には致命的な欠陥がふたつあった。


パーフェクトシティ(8)

2023年03月06日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 当然、全世界的に食糧難が発生し、餓死者が多発し始めた。
 一番の解決策は「IM-X」をやめること。誰もがそう思った。
 しかし、人々は一度手にした不老の薬を手放すことはできなかった。
 本能の根源にある「死」の恐怖から逃れた人間は、やはり二度と「死」を迎え入れることはできなかったのだ。

 人類はこの危機的な状況を乗り越える効果的な打ち手が見いだせないまま、約30年の間に人口を10分の1まで減らしてしまった。真綿で首を絞めていくような滅亡の危機に直面した。
 だが、神はまだ人類を見捨てていなかったのだろう。
 今でも世紀末の聖人・救世主として称えられている男が現れた。
 当時の国連事務総長サン・アルベルト卿だ。
 サン・アルベルト卿は、政治的な手腕はもちろん、脳科学者・発明家としても優秀な人物で、人類の危機に大胆な発想と発明を持ち込み実現させた。
 「パーフェクトシティ」と名付けられたその計画は、不老薬の「IM-X」ありきで考えられた究極の構想だった。