★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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義腕の男2(60)

2016年08月29日 | 短編小説「義腕の男2」
 メキメキと音を立てて俺の指がMR.Jの手首にめり込んでいくと、さすがに興奮で赤黒かったMR.Jの顔もみるみる青白くなり、その表情から闘争心が消え苦悶の影が出始めている。
 俺はそのまま、MR.Jの手を俺の首筋から引き離し無事着地した。
「博士は、ザビ共和国の工作員と一緒に出て行った」
 俺のその言葉を聴いたMR.Jは俺に締め付けられた手首をさすりながら目をむいた。
「!ザビ共和国!、なぜザビ共和国がここに・・」
「そうか、そっちでもザビ共和国の情報は掴んでいなかったのか・・」
MR.Jに聞けば何かわかるかと思っていたが、俺と同じレベルの情報量のようだ。
 さてこれからどうするか・・
 博士がいなくなった今となっては、ここにいる必要は全くない。それどころか博士という後ろ盾がいなくなったことで、敵地に裸で放り出されたようなものだ。とにかくこのビルからは早く脱出するに越したことはないようだ。
 状況を察したMr.Jは、よほど気に入らなかったらしいメガネをはずしいまいましく投げ捨てると、俺に向かって言った。
「すぐに警備兵たちが集まってくる。その前にここから撤退し博士の追跡を開始する。ビルの外にMr.Bが車で待機している」
 博士は自から望んで付いていったのだから、追いかけても戻ってくるかは不明だが、とりあえず脱出方法が用意されていたということは、ついさっきまでは博士は帰るつもりだったようだ。
 いずれにしろ、まだ博士救出のミッションは終わっていない。
 再び彼らと一緒に行動しなくてはならない。なにしろ俺の役割は彼らの支援なのだ。
 俺とMr.Jは、なんとか警備員たちが到着する前に研究室を抜け出し、ビルの外で待機していたMr.Bの車に乗り込んだ。 
 車は、前に使っていたのと似ているトラックだが「いのしし」マークではなく、荷物を咥えた「こうのとり」の絵柄がついた改造車だ。どちらのマークもこの国では有名な運送業者の印でどこにいてもおかしくはない。
 どうやらノスリル側では複数台の特殊車両を用意していたようだ。
 この手の車は、特別製だからかなり高額になるはずだが、惜しげもなく投入しているところを見ると、今回のミッションにはよほど力をいれているのだろう。益々手を抜きづらくなってきた。

義腕の男2(59)

2016年08月14日 | 短編小説「義腕の男2」
 そんなことを思いながら次の行動を躊躇していると、やつらが出て行った出入り口に人影が現れた。
 白衣を着た研究者のいでたちで、髪を七三に割け黒縁のメガネをかけて変装しているようだが、とにかくでかい。
2m近い身長は隠しようもなくとても目立つ。
 Mr.Jだ。
 多分、博士が迎えにくるように手配したのだろうが、肝心の天才博士はさっき出て行ってしまった。
 Mr.Jは、白衣とメガネが気になるのか、部屋の入り口に立ったまま自分の服装をいじりながらもじもじしていたが、ふっと目を上げ、やっと部屋の惨状に気がついたようだ。
「こ・これは・・」
 俺は、Mr.Jの視界に入るように手を揚げて合図した。
 Mr.Jはまるで戦場のような研究室の中にぼろぼろの手術着姿の俺を発見すると、床の瓦礫などものともせず目を三角に吊り上げ俺に近づいてきた。
「博士はどうした!?」
元々は浅黒い顔が興奮のせいで赤黒く変色し口角につばを溜めながら、いきなり手を伸ばし俺の胸倉を絞り上げた。俺の身体は軽々と宙に浮いた。
 相手は、いざとなったら豹に変身してしまう獣人だ。
 人間の姿をしている時でも身長は2m近くもあり、腕力も半端ない。
 普通の人間ならばあっさりと首の骨が折れるところだが、俺は咄嗟に戦闘モードに換えた右腕で、MR.Jの手首を掴み首に指が食い込むのを防ぎ、逆に絞り込んでやった。
 常人の100倍の力が出る俺の右腕だからこそ、この獣人に対抗できるのだ。

義腕の男2(58)

2016年08月09日 | 短編小説「義腕の男2」
 今回のミッションのターゲットでもある天才少女は、白い敵科学者に連れられ部屋を出ていった。
 しんがりのフル装備の兵士は、部屋を出る直前に最後っ屁のように部屋の中にマシンガンを掃射し、最後に手榴弾を転がしていった。
 本当に容赦のない兵士だ。
 俺は、手近にある毛布を被ると、さらに物陰の奥深くに身を押し込め耳と目を強く抑え手榴弾の衝撃に備えた。
 俺が着ていた手術着はすでに破れ去り皮膚が露出し裸同然になっている。薄手の毛布一枚でもあるとないとではかなり違う。
 また、こんな部屋でのような狭い空間で手榴弾が爆発すると身体の中で一番弱い部分がダメージを食らう。眼球と鼓膜が一番損傷を受けやすいのだ。
ドオオ~ン
 建物全体が揺れるような大音響と地鳴りが響き渡った。
 全くあの兵士は本当に手抜きをしないヤツだ。
 爆発が収まった頃合に顔を上げて辺りを見回した。
 一面に粉塵が立ち込め視界が悪い。
 煙越しに目を凝らしてみると、意外と頑丈な建物のようで、部屋の躯体には影響はないようだが、内装や什器類はほとんど全てが原型をとどめない瓦礫と化している。
 俺は、被っていた毛布を投げ捨てると博士たちが出て行った入り口を目指して走りだそうとしたが、リノリューム張りの綺麗だった床は、ヤツらに荒されたガラスの破片やら瓦礫が散乱していた。
 手術着姿の俺は、裸足のままのため、床はとても無傷で通れる状況ではない。
 足の裏は一見鈍感のように思えるが、実は神経が集中していて、ちょっとした傷でも全身の動きに大きなダメージを与えるものだ。 
 それに、あの時の博士の態度からすれば、自分から進んでついていったのは明白だ。たとえ追い着いたにしても引き戻すことはほとんど無理のような気がする。