★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男(4)

2010年02月28日 | 短編小説「義腕の男」
 バスルームを出て、コーヒーをすすっていると、電話がかかってきた。現代の電話はベルが鳴るわけではない。ホームコンピューターが、電話・来客・メディア等の情報をあらかじめ設定したレベルで管理してくれる。
 たとえば、俺の部屋の場合は、電話がかかってくると、女性の声で、誰から電話がかかってきてるか教えてくれるようになっている。出るか、出ないか返事をすれば、コンピューターがそのとおりにしてくれるというわけだ。
「ケンジ様あてにヤマト様よりレベルAの電話がかかってきております」
 これはコンピューターの声で、俺の耳元でささやくように聞こえてくる。部屋のどこにいても超指向性スピーカで俺の耳元を狙ってくるので聞き漏らすことはない。
 また、同じ部屋に別人がいてもよほど近づいていない限りその別人にはコンピューターの声は聞こえないという便利なものだ。

義腕の男(3)

2010年02月21日 | 短編小説「義腕の男」
 俺は、今、3ヶ月にもわたる長期作戦がやっと終了し、休暇をとっている真っ最中だった。
 そして、その期間を利用して最近調子の悪い右腕を兵器開発センターにオーバーホールに出していた。もちろん、代替の市販品の腕をもらっていたが、しっくりこないためはずして寝ていたのだった。
 そう、俺には右腕がない。俺の属している連邦軍の特殊工作部隊は訓練が厳しいことで有名である。訓練中に命を落としたやつもいる。俺の右腕も、3年前の演習の時、爆発とともに吹っ飛んだ。
 だが、西暦2156年の現代では、人工臓器の技術が発達し、義手や義足は、本物とほとんど寸分ちがわないようになってきている。「痛い」「熱い」等の触覚も、本物とかわりない。へたをすると発揮する力は本物よりも性能がよいものがあるくらいだ。
 左手で額の汗をぬぐった俺は、とりあえず代替の右腕を取り付けてバスルームに入った。
 右手でシャワーの操作パネルに触れた。やはりワンテンポ遅れる。脳の命令に右手の動きがついてこない。しかし、日常生活に支障ないので仕方あるまい。しばらくの辛抱である。
 熱いお湯は、頭の中から右腕の不快感と悪夢を幾分かは洗い流してくれたようだ。

義腕の男(2)

2010年02月15日 | 短編小説「義腕の男」
 それを見た俺の心臓は1回バックンと大きく動き、口をゆがませながら大きく開き、腹の底からうなるような、叫びを上げた。
「う・うおおお・・・」

 自分の唸り声に、はっと眼がさめた。俺は、暗闇の街ではなく自分の部屋のベッドの上にいた。周りは明るい。白い壁が窓からの光を受けて薄明るく光っている。
「夢か・・」
 全身汗だらけになっていた。だが、周りは暗闇ではない。見慣れた自分の部屋である。
 夢と同じように流れる額の汗を拭こうと右手を上げたが、額にはなにも届かなかった。やはり夢のように心臓が1回大きく鼓動したがその鼓動とともに、寝ぼけた頭に現実の記憶が音を立てるように戻ってきた。

義腕の男(1)

2010年02月11日 | 短編小説「義腕の男」
 息が苦しい。額に汗が流れる。氷のように冷たい汗だ。だが、音を立ててはいけない。暗闇の中で、俺は右手に拳銃を持ち、建物の角の壁に体をぴったりとはりつけ、曲がった向こう側にいるはずの敵の気配をうかがっている。
 厳しい訓練で身に付けたヨガの呼吸法で心肺機能を平準化させ、敵の気配が迫ったその瞬間、俺は、建物の角から右手だけを出し、確実に敵を倒すため、引き金を引いた。
 ・・引いたつもりだった、が、拳銃がない。それどころか、目の高さまで上げたはずの右手すら、ない。あるはずの右手・そして右腕を探して視線をずらしていくと、右肩の先で5センチ位の右腕がカクカク動いているのが見えた。