★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義椀の男(47)了

2010年06月21日 | 短編小説「義腕の男」
「とりあえず、命拾いしたかな」
 俺は、准将と話し終えた公衆電話の受話器を左手で置いた。右腕はまだ戦闘モードのため何にも触ることができない。結構不便である。
 この先どうするかいろいろ迷ったが、結局知らん振りをして戻ってみることにした。このまま行方をくらますこともできたが、一生脱走兵として追われる身になるだけだし、バランサーの望むとおりチップはMr.Rに送ってやったのでいきなり殺されることもあるまい。
 まずは、うちに帰ってシャワーを浴びて、それからジャックのところに行って、通常の生活ができるように右腕を直してもらうのが、今一番の望みである。

義椀の男(46)

2010年06月20日 | 短編小説「義腕の男」
「どうした?Mr.R。ずいぶんと賑やかな顔だな」
「はい・・・、例のもの入手しました。腕時計に内蔵されており小包で郵送されてきました」
「・・・そうか、内容は確認したのか」
「今、研究所で分析していますが、十中八九間違いないでしょう」
「・・分かった」
 准将はそう言うと、またキーボードを操作し、モニターの画像が消えるのを確認してからケースの蓋を閉めた。
「・・フム・・」
 准将は右手をあごに付け、革張りの椅子の背もたれに巨体を任せ思案しているようだった。
 その時、今度は秘書官から通常の電話のサインが来た。
「ケンジ中尉より電話がかかってきております」
「つないでくれ」
 その返事と同時に壁一面のスクリーンに電源が入ったが、何も映らず声だけが聞こえてきた。
「准将、ケンジ中尉です。作戦は失敗しました。目標と接触しましたが品物の受け渡しに障害が発生し、これ以上の作戦続行は不可能です。今回の任務は残念ながらこれで終了し、撤収許可をお願いします。」
「今、どこにいるのか」
「・・ケベ空港です・・」
「了解した。無事帰還することを祈る。帰着後報告書を提出するように。失敗の責任については別途検討する」
「ありがとうございます。これにて撤収します」
「・・うむ、ご苦労・・」
結局モニターには何も映らないまま、音声は雑音に変った。

義椀の男(45)

2010年06月17日 | 短編小説「義腕の男」
 中には、中古の腕時計が入っており、カードが添えてある。
≪親愛なるMr.R殿 度重なるご無礼 誠に失礼仕った。貴殿がご所望の品、お送りいたす。ご笑納くだされば幸いなり≫
 Mr.Rは、一瞬意味が判らず、目が泳いだ。が、次の瞬間、傷だらけの腕時計をつかむと、部屋を飛び出して行った。

 ヤマト准将は、執務室の自分の椅子に身を沈め葉巻を咥えていた。バナナ産の高級な葉巻は、芳醇な香りを部屋中に漂わせ、いる者すべてにリラックスした気分を与えるはずだった。
 しかし、ジャガイモのようにごつごつした准将の顔には緩んだ雰囲気は無く、深い考慮の印である縦ジワが眉間に寄っていた。
 その時、巨大なマホガニー製のデスク上にあるモニターの一番右端のアイコンが点滅した。
「・・ン」
 准将は巨体を折り曲げて、机の下にある銀色のアタッシェケースを取り出し、机の上に置き蓋を開けた。中はふたの裏側がモニターとなっているノート型のパソコンのような機器が入っていた。
 准将がキーボードを操作すると、モニターに男の顔が映し出された。顔中ガーゼやら包帯やらで飾られたMr.Rだった。

義腕の男(44)

2010年06月06日 | 短編小説「義腕の男」
 上の階に登る階段は、この廊下の先だ。追っ手の足止めのため、すぐそばにある部屋の鉄の扉に右手を手刀型にして突っ込み、パワーショベル並みの右腕でドアを壁から引き剥がし、そのまま廊下の床に差し込んだ。廊下を全面的に通行止めにするわけではないが、ある程度足止めにはなるだろう。そのまま俺は階段目指して駆け抜けていった。

 翌日、Mr.Rは自分の部屋で包帯だらけの顔を手鏡に写して見ていた。最初に殴られた3箇所に加え、昨日コンクリートの塊をぶつけられた額の傷のせいで顔全体が赤くむくんでいた。
「ちくしょう、あの野郎・・」
 命に支障は無い傷だったが、任務の最中に気絶し作戦をまっとう出来なかったうえ、ケンジを逃がしてしまうなど、失態が続いた精神的なダメージのほうが大きかった。傷がうずくにつれ、ふつふつと怒りが沸いてきていたが、どうすることもできなかった。
 Mr.Rが新しく巻かれた頭部の包帯を触っていると、部屋のメールボックスに荷物が届いた。Mr.Rはむくんだ顔に注意しながらボックスから届いた荷物を取り出した。10センチ四方の小さな小箱だった。
 差出人の名前は書いていない。
『なんだ?』
 Mr.Rは、小包の包装を破り、ふたを開けてみた。