★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
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義腕の男2(42)

2015年06月30日 | 短編小説「義腕の男2」
 その時、道路に障害物があったのか、ちょっと大きな衝撃が車に伝わってきた。そのショックで、助手席に置いてあった銀色のトランクが大きくバウンドした。そうだった。頼まれ物があったことを思い出した。
「そうだ、クリス博士。Cビルで、ノスリルのエージェントらしい男からあのトランクを預かった。博士に渡して欲しいと言われたんだが・・」
少女は、なにか思い当たる節があるのか、一瞬顔色を変えて助手席に身を乗り出しトランクを引き寄せた。
席に座りなおし膝の上にトランクを置いた博士は、下あごに右手を添えたまましばらく考え込んだ後、トランクの上面に手を置いた。
ピッという短い電子音が聞こえると、トランクの横から細い走査線が照射され、博士の顔をスキャンし始めた。額から顎まで照らし終わると、再び小さな電子音とともにトランクのロックがはずれ、蓋があいた。
中には小型のパソコンが入っているらしい。少女は、そのパソコンのキーボードに何かを打ち込んで、モニターを凝視している。と、突然きついまなざしに豹変し、大声をあげた。
「ジェイ!戻るわよ!N市のDビルに行って頂戴!」
「えっ、な、なに?・・なんですか?」
突然大声で呼ばれたMr.Jは、訳もわからずとりあえずブレーキをかけた。砂漠の一本道を爆走していた高級車は砂埃を巻き上げて、タイヤの溶ける臭いとともに急停車した。
急激な制動の動きの車内でも、少女は何かに取り付かれたかのように、蓋の開いたトランクの中身を凝視しながら呟いた。
「これは、ジェファーソン博士のデータね。やっぱりここで間違えている。でも、まさか、ここまで進んでいるとは思わなかったわ。このままじゃ大変なことになる。なんとしてもやめさせないと・・・」
少女の声があまりに小さく、ジェイには聞き取れなかったのか、それとも突然の予定変更の理由が判らずとまどったのか、ジェイは改めて聞きなおした。
「博士、戻るってどういうことですか。本当にイスランに戻るんですか?」
少女は顔を上げてきっぱりと言い切った。
「そうよ。たしか、ジェファーソン博士はDビルに避難したはず。ということは、これの基データも、Dビルに移設されてる。私が作ったCビルのデータや機材は爆撃でなくなったけど、ジェファーソン博士も進めていたとは知らなかったわ。こっちも破壊しないと・・しかもこの理論には大きな間違いがあるの。これが実行されるととんでもないことになるわ」
少女の強い口調を確認したジェイは、あきらめたように前に向き直し、アクセルを踏み込んだ。三人を乗せた高級オフロード自動車は、たった今来た道を同じように猛スピードで逆戻りし始めた。