★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

街のカラス(29)

2009年09月30日 | 短編小説「街のカラス」
「この壷は、あなたの手助けはいたしますが、あくまであなたの気持ちの持ち方しだいですから、がんばってみてください」
 ラメの紫服男は、壷を風呂敷で包んで会員に渡し、出口へ促した。
 「ふう、色んな悩みがあるものだなぁ、あと何人くらい待ってるのかな」
 部屋に残った道師さまは、会員が去ったあとの椅子や机の位置を直しながら、ラメの紫服男に話しかけた。
 「今待っているのは10人位じゃないかな、会員も徐々に戻ってきてるな」
 「ああ、そんな感じだなぁ、しかし、あの時はびっくりしたよな。あのクリスタルのビンに麻薬を塗って配ってるなんてな」
 「ひどい話だよ、だからあんなに繁盛したんだよ。麻薬の力は恐ろしいよな。おかげでウチもとばっちりを食って、家宅捜査されたしな。まあ、ウチの壷もちょっとは細工してたから、どきどきだったよなぁ」
 「だからそれに懲りて、妙な小細工はやめてまともな陰陽説の人生相談に戻したんだよな。やっぱりまじめにやるのが一番なんだよ」
 「そういうことだ、じゃあ次の会員さんに入ってもらうよ」
そう言うと、ラメの紫服男は壁のボタンを押し、外にいる女性スタッフに合図を送った。

街のカラス(28)

2009年09月29日 | 短編小説「街のカラス」
 部屋の中には、道師さまとラメの紫服男、それと会員らしい女性が一人の計3人がいる。3人とも椅子に座って話をしているようだ。声が小さくて何を言っているのか聞き取れないが、会員の女性は時折手に持ったハンカチで目の辺りをぬぐっている。
 その後、しばらくの間無言の状態が続き、場の雰囲気が一段落着いたような感じになった。
 「では、そろそろ、壷を精錬しましょうか」
 ラメの紫服男は、そう言って会員から壷を受け取ると、うやうやしく机の上に置いた。
 「でぇーわ、こーぉれからぁ、あーなぁたの邪気ぃーぃを清ょーめまぁーす」
 道師さまはいつもの変な発音の日本語を繰り出しながら、壷の前に立ちガラスの付いた棒を振りかざした。
 おっ、また例の派手なパフォーマンスをやるのかな、オイラは意外とあの棒のひかり具合も嫌いじゃないなぁ等と考えていると、
 「きぇい・・」
 道師さまは、短い気合のような言葉とともに棒を一回まわし
 「はい、終―ぉわりまーぁした」
とあっさり儀式を終了してしまった。

街のカラス(27)

2009年09月28日 | 短編小説「街のカラス」
 さて、今年の冬もなんとか乗り越えられたオイラは、数が増えた仲間に別れを告げ、あの鉄塔に向かうことにした。
 暖かい春風に乗ってゆったりと飛びながら、懐かしい街並みを眺めてみる。街路樹や庭木等に春の息吹が感じられ心がウキウキしてくる。本来、春は繁殖の季節で相手を探しながら巣作りに励む時期であるが、今年のオイラは、なぜかまだそんな気がしてこない。とりあえず、お気に入りのねぐらを決めてから、じっくり考えることにしよう。などど考えながら例の道師さまの家の上あたりにたどり着いた。
 おっ、行列があるじゃないか。でもなんか人数は少ないかなぁ。そう思いながら2階の部屋が見える電柱に、気付かれないよう十分注意して取り付いた。

街のカラス(26)

2009年09月27日 | 短編小説「街のカラス」
 今年の冬は例年に比べ、雪が少なかったような気がする。温暖化の影響なのか、異常気象なのか、いずれにしろ雪が少ないことはオイラ達にとっては好都合だった。雪が降って辺り一面真っ白になると、確かにきれいではあるが、食料も覆い隠されてしまい探し出すのが一苦労である。
 もっとも、オイラ達都会のカラスにとっては、食料はニンゲンの出すゴミが主流なので雪の影響は少ない。ゴミ置き場は、場所も時間も決まっているので食いっぱぐれることがまずないのだ。カラスにとっては、天国のような場所である。したがって、最近は、仲間の数が増えニンゲン社会の中で問題になっているらしい。このまま増え続けニンゲンとの関係が悪化していくと、もしかしたら天国から一気に地獄になるかもしれない。なんたってニンゲンは仲間同士さえ殺しあう恐ろしい大型動物なのだから。

街のカラス(25)

2009年09月27日 | 短編小説「街のカラス」
 しばらくの間、お気に入りの場所を堪能してから、オイラは飛び立った。次にこの場所にくるのは、春がきてからだ。冬の一人暮らしは都会のカラスといえど危険なのである。
実は今回は様子を見に来ただけで、ここで冬を越すつもりはない。厳しい冬は仲間と一緒に神社の森で助け合いながら過ごしていくのが恒例である。
 オイラは、鉄塔の周りを数回廻って風が安定している高めの高度を確保してから、神社に向かって進路を取った。帰りは追い風なので楽だ。
 いつもより速いスピードで例のマンションの上空を通過した時、オイラの目に赤色灯の輝きが飛び込んできた。パトカーが数台と赤色灯を屋根に載せた黒塗りのセダンが数台マンションの入り口に集まっている。
 なんだろう。好奇心を刺激されたオイラは、見に行こうと思ったが、高度が高いうえ風が強い。
 方向転換がきかず、そのまま風に流されてしまった。
まあ、この都会では、パトカーのサイレンや赤色灯は珍しくはない。この逆風に逆らってまで見に行くまでもないだろう。そう思ったオイラは、体制を立て直し仲間のいる神社の森目指して速度を上げた。これから厳しい冬が始まる。

街のカラス(24)

2009年09月26日 | 短編小説「街のカラス」
 オイラは、しばらく3人の様子を見ていたが、なにやら声が小さく、ただしゃべっているだけでつまらなくなってきたので、本来の目的である鉄塔の確認にいくことにした。今回は、女性スタッフのすっとんきょうな奇声を聞かないで飛び上がれるので、なんとなくうれしい。
 さて、オイラのお気に入りの鉄塔は・・おっ、遠目に見るとネットが無い。やっと工事が終わったのか。あれ?近づいてみると、鉄骨が格子に組まれた見慣れた鉄塔はどこにもなく、同じ場所に太い鉄柱の鉄塔が建っている。鉄塔の立替え工事だったのだ。
 鉄塔の上の方には、円形の踊り場のような箇所があり、手すりがついている。オイラは、その手すりに止まって具合をみることにした。
 手すりにつかまってみると、この場所独特の風と景色が全身を包み込みなつかしさでいっぱいになった。手すりのつかまり具合は前の鉄骨ほどではないが、まあ仕方ない。多分オイラは、この場所の雰囲気と高さ具合が気に入っているんだと思う。

街のカラス(23)

2009年09月25日 | 短編小説「街のカラス」
 その時、ドアが静かに開いて一人の女性が入ってきた。
 「あの~、壷をお祓いしていただきたいんですけどぉ」
 突然の来訪者に3人は一瞬あたふたしたが、すぐにいつものポジションに付くと、道師さまは壷を置くように促した。
 「あら、このビンは・・」
 あまりに慌てたものだから、ライバルのクリスタルのビンを机に置いたままだったのだ。
 「あのマンションのナントカ教会でくれるビンよね。実は私も行ってみたんだけど、なんか胡散臭いのよねぇ。それにこちらはお悩み相談もしてくれるでしょ。最近は忙しそうであまりしてくれなくなったけど。実は、今日は壷のお祓いだけじゃなくてちょっと聞いてほしいこともあるんだけど、いいかしら」
 ラメの紫服男は、一瞬道師さまと顔を見合わせた後、「ふっ」と気が抜けたように表情を崩すと
 「いいですよ。今日はそんなに忙しくないですから、じっくりとご相談にのりましょう。じゃあ、壷は後で精錬しておきますから、先にお悩みをお聞きしましょうか。」
とやさしく言うと、道師さまと共に椅子に腰掛けた。
 それを見ていた女性スタッフは、
「もう、二人とも人がいいんだから・・こうなると長いのよねぇ・・・」
 と小さな声でつぶやき、部屋から出て行った。

街のカラス(22)

2009年09月24日 | 短編小説「街のカラス」
 それから数ヵ月後、木枯らしが吹きすさぶ中、仲間たちは冬に向けての準備を始めた。
 もっとも、都会のカラスたちは、あまり真剣に冬対策を考えていない。おいら達の食料であるニンゲンが出すゴミの量は、冬だからと言って減るわけではない。年間を通してほぼ同じようなものだから特別に冬支度というのは必要ないのだ。
 さて、オイラは4度目の正直、ということで、例のねぐらを目指して飛んでいる。風向きが変わり、モロに向かい風なので、なかなか前に進まないが、やっと例の道師さまたちの家に近づいた。
 あれれっ?・・・・行列が無い。・・・・どうしちゃったのかな。 これは是非確かめねばなるまい、という変な使命感から、例の2階が丸見えの電柱に降り立った。
 部屋には、会員の姿はない。道師さまとラメの紫服男、それに女性スタッフの3人が、壷を置くはずの長机に頬杖をついてたそがれている。
 カラスに何かしらの恨みを持っている女性スタッフがつぶやいた。
「また、会員さんたち来なくなっちゃいましたねぇ」
 道師さまが、例の杖を片手でいじりながら、「そうだなぁ、うまく行きかけたんだけどなぁ」
 ラメの紫服男はライバルが使っているビンを前に置いて腕組みをした。
「あいつら、また新たな手口を編み出したらしい。が、内容がよくわからん。このクリスタルのビンに何か細工したのは間違いないんだが・・」
「俺らもまた何か考えなきゃいけないかなぁ」

街のカラス(21)

2009年09月23日 | 短編小説「街のカラス」
 そんな会話をしているうちに、壷はきれいに片付けられ、次の会員達を案内する準備ができ、ラメの紫服男は近くの壁にある小さなスイッチを押した。
 数秒後、さっき会員達が出て行った扉が音もなく開き、女性スタッフが新しい会員達を引き連れて入ってきた。
 どうもこの電柱は、あの扉の位置からちょうど対角線上にあるらしく、今回も入ってきた女性スタッフとばっちり視線が合ってしまった。
 「か・からすがこっちを見てるぅ~!」
 本当にこの女性スタッフは、カラスに何か特別な恨みでもあるのだろう。前回と同じようにすっとんきょうな声をあげてオイラを指差し、それに釣られて道師さまとラメの紫服男もオイラの方を振り返った。
 彼らの近況も判ったし、今日は引き上げるとしよう。
 オイラは電柱を強く蹴って大空に飛び上がった。この辺りはマンションからのビル風の巻き込みがあり上昇気流が強いので、上空に上るのは簡単である。
 めざすは、懐かしのねぐらのある鉄塔。
 うーん、残念。遠目に見てもまだネットははずされていない。よく見ると、格子状に組まれた鉄塔の真ん中を、太い鉄柱のようなものが貫いていて、その高さは、鉄塔とほぼ同じくらいになっている。
 なんか、まだ時間がかかりそうだなぁ、と思いながら、三度、神社の森へと進路を変えた。

街のカラス(20)

2009年09月22日 | 短編小説「街のカラス」
 会員たちは手を合わせ頭をたれて、自らの邪気を払ってもらうかのようにその白煙を浴び神妙にしていた。
 ひととおり儀式が終了すると、ラメの紫服男が口を開いた。
 「はい、道師さまありがとうございました。これで皆様がお持ちになった邪気は浄化されました。お帰りの際、スタッフが新しい壷をお渡しいたしますのでお持ちください。いつものように壷に邪気が溜まってきますと悪臭がしてきますので、頃合を見計らってお持ちくださいませ。大変お疲れ様でした。」
 会員たちは、その言葉に促されるように立ち上がり、女性スタッフと一緒に出口から出て行った。
 道師さまは、会員が全員いなくなったのを確認すると、振りかざしていた棒をおろし、
 「ふう、あと何人位待っているのかなぁ」
と肩をもみながら言った。
 「そうだな、あと50人てところか」
とラメの紫服男が机の上の壷とお布施を片付けながら答えた。
 「そうか。前ほどじゃないけど、また会員達が戻ってきてくれてよかったなぁ」
 道師さまは、ガラス玉のついた棒の真ん中あたりをいじりながらしみじみつぶやいている。
 ラメの紫服男は壷を片付けながら
 「どうだ、この匂いがきいてるだろう」
と壷の中を覗き込んだ。
 「ああ、おまえの友達はすごいなぁ」
 「あいつは、大学時代から化学が得意だったからなぁ。頼んだとおりの物を作ってくれた。」
 「しかし、どういう薬品なんだろう。塗ったすぐにはちょっと良い香りがして、10日もすると悪臭に変わるけど、このスプレーでたちどころに無臭になるなんて」
と言いながら、道師さまは手に持った棒の先端を触っている。
 「なんでも、周りの湿気と反応して臭くなるらしいが、人体には無害なんだそうだ。まあ、邪気が匂ってくるなんて思えば、リアリティがあるからな。会員も戻ってくる訳だよ」
 なるほど、ライバルに取られた会員を取り返すために壷にひと工夫したらしく、それが功を奏したようだ。

街のカラス(19)

2009年09月21日 | 短編小説「街のカラス」
 おや、道師さまの持っているガラスのついた棒が、一回り太く立派になっている。
 道師さまは、その棒を振り回し、奇声を上げはじめた。
 「ぅ、きゃあああぁぁ・・ぽぽぽぅぽぅ・・げげげげぇぇ・・ぴぴぴ」
 なんか、奇声もバージョンアップしている。
 そして前と同じように棒を両手に持って先端を壷の口を覆っている紙のふたに突き刺した。
 「かぁーーーかっかっかっかっ」
 その時、なにやら臭いにおいが漂ってきた。匂いの元はどうも今棒を突き刺した壷のようだ。
 道師さまは、棒を壷に突き刺したまま
 「フンッフンッフンッフンッフンッ」
と気合を送っている。すると棒の先端のガラス玉がピカッと光り、棒が刺さっている紙との隙間からシューと気体が噴出した。その瞬間に、さっきの匂いはうそのように消えていた。
 「キェイィィ」
 そう言うと、道師さまは棒を生き抜いて、次の壷に取り掛かった。
 10個の壷に同じ行程を繰り返し、最後の一個が終わり棒を引き抜くと、その棒をうやうやしく上に掲げ、さらに大きな声で
「かあああああーーキエイィィィーーー」と叫んで頭の上で振り回した。すると棒の先端から霧のような白煙が出て、周囲にまだ若干残っていた匂いが全く感じられなくなった。

街のカラス(18)

2009年09月20日 | 短編小説「街のカラス」
 秋の風が吹き始めた頃、オイラは三度目のねぐら参りを試みた。
 季節としては、オイラは秋が好きだ。都会から出るゴミが主な食料だが、秋になるとやはりゴミに出てくる食料の種類が豊富になる。さらに、都会では数少ないが、カラスの本来の食料である木の実等も食べごろになるので、本能的に気持ちがウキウキしてくる。
 それでも日を追うごとに涼しくなっていく風を受けると、冬の到来を予感して身の引き締まる思いもしてくる。
 さて、もちろん今回も、例の妖しい光がどうなったか確かめずに素通りするわけにはいかない。
 どれどれ・・、おっ、行列だ。前回すっかりいなくなってしまった会員が戻ってきたのか、皆壷らしきものを抱えて並んでいる。
 オイラは、いつものように2階が丸見えの電柱に留まり、中を覗き込んだ。
いるいる。道師さまとラメの紫服男だ。女性スタッフもいる。そして会員も10人位いるようだ。
 「はい、それではいつものように壷を前に並べてください。道師様が壷を精錬いたします」
 ラメの紫服男がそういうと、会員達は道師さまの前にある長机に壷と祝儀袋を並べ始めた。
 壷を並べ終わり会場に一瞬の静寂が訪れると、真っ赤な袴姿の道師さまがタイミングを見計らったかのように、ガラスのついた棒を両手で握り締め、目を瞑りぶつぶつ呪文のような独り言をはじめた。

街のカラス(17)

2009年09月19日 | 短編小説「街のカラス」
 と、その時、オイラの頭に冷たい水滴がポツリと当たった。同時に曇り空のはるか上空で、ゴロゴロゴロ・・と雷の音が響いている。夕立である。日照りを避け、曇天に来たのがまずかった。1分もしないうちに、大粒の雨がザーっと降り出した。
 女性スタッフが、雨音に気付き、窓の方に視線を移した。またしてもオイラと視線が一致。
 「か・からすがこっちを見てるぅ~!」
 どっかで聞いたような奇声を放ち、こっちを指差した。
 天気も悪くなってきたことだし、ここが引き時と思い、土砂降りに負けないように電柱を強く蹴って雨のなかに飛びあがった。
 目指すは、おいらの懐かしいねぐらの鉄塔である。空の上から見ると、夕立の降っているところはベルト状にくっきりと分かれていて、まるで雨のカーテンのようになっている。そのカーテン越しに、おいらの鉄塔が見えてきた。
 まあ、覚悟はしていたがまだネットははずされていない。残念。よく見ると、格子状に鉄骨が組んである鉄塔の真ん中に、なにやら太い円柱が伸びてきている。まだまだ工事は途中のようだ。いったいいつまでかかるやら。
 オイラは、鉄塔の周りを数回まわって、またしても神社の森に向かって進路を取った。

街のカラス(16)

2009年09月19日 | 短編小説「街のカラス」
 その瓶は、いかにも高級そうなカットが入ったクリスタルで、瓶のふたもダイヤのような輝きを放つガラスでできている。道師さまの持っている棒のガラス玉よりもよほど豪華に見える。
 「俺達のやり方をパクったやつがいる。しかもすぐそこ。俺たちが前に住んでいたあのマンションの3階で始めやがった」
 「このビンは、、」
 「俺達は、壷だろう。やつらはこのビンで同じようなことを言って渡しているんだ。しかもお布施は3千円ポッキリ。教祖の格好がアラビアンナイト風のスタイルらしく、このビンも豪華に見えるんで部屋にマッチするとかで、うちの会員がそっくり取られちまった。」
 道師さまと女性スタッフは、机の上のクリスタルのビンを見つめて絶句している。
 「しかも、やつらは、このビンは俺達の壷よりも性能がいいが、一軒に同じようなものがあると反発してしまうので、この瓶を置くなら壷を割るように言っているらしい。割れた壷から出た邪気はこの瓶が掃除機のように吸い取るそうだっ。」
 ラメの紫服男は、そう言いながら机をドンと叩き、こぶしを震わせている。
 「すると、俺らの壷は、もう、、」
 「ああ、多分みんな割られてそれっきりだ」
 3人はすっかり無言になり、クリスタルのビンを見つめている。ビンは、よりゴージャスになった祭壇の光を受けてさらに妖しい光を放っていた。

街のカラス(15)

2009年09月17日 | 短編小説「街のカラス」
 「どうしたんだろう、最近さっぱり会員が来ないなぁ」
 道師さまが、壷を置くはずの長テーブルに、頬杖をつきながら、ガラスのついた棒をいじっている。
 「そうですねぇ。どうしちゃったんですかねぇ」
 会員が座るはずの椅子に、巫女の格好をした女性スタッフが一人座って相槌を打った。
 部屋には、道師さまと女性スタッフしかいない。
 「せっかく、祭壇もバージョンアップして豪華にしたのに、最近会員さんが激減しましたねぇ」
 確かに、壁面を飾る黄金の祭壇は、前のものよりデコボコが多くなり、ゴージャスになっている。スポットライトを浴びた丸いプレートも一回り大きくなって、前よりも妖しさ度がアップしていた。
 「それがいけなかったのかなぁ、それとも壷の効果が薄れたのかなぁ」
 どうやら、あんなに集まっていた会員が、来なくなってしまったらしい。そういえば、前回来た時、家の外の小路に並んでいた行列が、今はまったく無くなっている。

 その時、会員が入ってくるはずのドアが勢いよく開いて、ラメの紫服男が駆け込んできた。
 「わ・判ったぞ!」
 あまりに慌てているので、一見インテリ風に見える金縁めがねが鼻先までずり落ち、七三にセットされていたであろう髪型は強風にあおられたようにグシャグシャになっていた。
 「これだ、このせいで会員がいなくなったんだ」
 そう言いながら、長机の上に30センチほどのガラスのビンをドンと置いた。