★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

彗星の時(24)

2011年11月23日 | 短編小説「彗星の時」
 シャインが部屋を出て行くのを確認すると、ヤーコンは低い声でジニーに聞いた。
「ところで、母国の動きはどうですか」
「はい、ケイン殿下が行方不明になったことは伏せられていますので、とりあえず影武者を立てて表面上は何事もなかったかのように誕生日式典の準備がすすんでいます。しかし、期限まであと一ヶ月を切っていますので、女王陛下のご心配ようは尋常でないご様子。白大魔導師ジュンサイ様をジアスまで派遣されたとのことです」
「なんと、ジュンサイ様を国境の町まで派遣とは・・」
「ですので、2日後にはジュンサイ様と合流されて帰国ということになると思います」
「そうか、ジュンサイ様まで・・、まあ、ケイン様は『天の国』が800年待ち焦がれた男子の王族。天神の力を手に入れられるかの瀬戸際だからな」
「天神の力?」
「そうか、ジニー殿は知らなんだか。フム、この際だからジニー殿にも知っておいてもらった方が良いかもしれん。ケイン様が無事帰り着けば、このアジトにも大きな影響が出るはずだからな」
 ヤーコンは、そう言うと両手を口元の前に上げ、特殊な形の印を結ぶとなにやら小声で呪文を唱えた。呪文を終え、印を解いたヤーコンは「周りには誰もいないな」とつぶやき話を続けた。
「それは、王族と一部の魔導師にしか知られていない、『天の国』に伝わる古の石板の伝説といわれている。その石板とは宮殿の最上階、すなわちこの世で最も天に近いとされる、聖なる「操りの間」にあった透明な石板で、それを持つ者の頭に直接語りかけてきたという。その言葉によると、王族の男子で碧玉色の瞳を持つ者が、15歳の誕生日に「神座」に座ると天神の力を手に入れ、混乱した地上を平定し全世界を治める・・という内容のものだったそうな。これが、天神の力の伝説といわれているものだ」

彗星の時(23)

2011年11月20日 | 短編小説「彗星の時」
「今日中に用意しましょう。出発は明日の早朝、日の出とともに人目につかないうちが良いでしょう。走鳥は夜目が効かないので夜は走れませんから」
 ジニーはそう言うと、自分の茶碗の青茶を飲み干し、茶碗をテーブルの上に置いた。
「さあ、みなさん、夜通し歩いてお疲れになったでしょう。明朝までゆっくり休んで十分に英気を養ってください」
「ああ、そうすることにしよう。すまんな。ジニー殿」
「なにをおっしゃるヤーコン殿。これが我らの務め。なにより、魔導師学校で大変お世話になったヤーコン先輩のためとあらばなんなりとお申し付けください。さあ、ケイン殿下、部屋を用意してあります。まずはごゆるりと疲れを取ってくだされ」
「ありがとう。ジニーさん、おことばに甘えて先に休ませてもらいます」
 ケインは、疲れきった足を引きずるようにして部屋を出て行った。
「シャイン殿もお部屋がございますので、どうぞお休みください」
「いや、俺は大丈夫だ。休む必要はない」
「え、、しかし、、」
当惑ぎみのジニーにヤーコンが説明した。
「シャイン殿は我々とは違う部族の方でとてもタフな御仁だ。しかしシャイン殿、まあ、ここはジニー殿の部屋なので、とりあえず用意してもらった部屋へ行って少しは休んでみてはどうかな」
「ああ、そうか、、判った」
シャインはそう言うと席を立った。
 いぶかしげにジニーはシャインを見上げたが、シャインは一向に気にとめる様子もなかった。

彗星の時(22)

2011年11月16日 | 短編小説「彗星の時」
「ここからは、走鳥を使いましょう」
 青茶を飲みながらヤーコンは言った。
 三人の姿は、既に元通りの濃さに戻っていた。そこは、建物全体に結界が張られていて、魔導師サルサにも察知される心配はない。ヤーコンが作り出した身代わりの影たちは、必死に追っていた兵士たちの目の前で突然消え去っていた。兵士たちの驚愕し悔しがる姿が目に浮かぶようだった。
 三人が逃げ込んだ建物はシアークの町の中でも比較的大きな旅籠だった。三人は、旅の汚れを落とした後、旅籠の主人の部屋に通され、朝食を食べお茶を飲みひとごこちついていた。
 その旅籠とは、表向きはごく普通の旅籠だが、実はヤーコンやケインの故郷である『天の国』の隠れアジトで、主人から下男まで全て『天の国』の手の者だった。勿論、この地で旅籠の商売を地道に行ってきたので、町の人間でそのことに気づいている者は誰もいない。しかし実際には『天の国』の出先機関として、このシアークの町だけでなく周辺の地域情報を密かに母国に報告したり、今回のような秘密行動の手助けをしたり重要な役割を果たしていた。
「そうですね。それがいいでしょう。走鳥ならば、国境の街アジスまで丸1日あれば行けます。『天の国』に入ってしまえばなんとでもなります」
旅籠の主人ジニーが、青茶をシャインの茶碗に注ぎながら言った。
「走鳥?」
「走鳥は野生のギメルダチョウを飼いならして乗れるように調教した鳥です。馬よりも早く走るし、ほんの少しなら飛ぶこともできます。力は馬の方が強いのですがとにかく速いので軍の偵察隊や郵便の早便なんかに使われるんですよ」
ケインが記憶喪失のシャインのために説明した。

彗星の時(21)

2011年11月06日 | 短編小説「彗星の時」
 兵士たちは、なにかおかしいと思いながらも、目の前を逃げていく獲物を逃がしてはなるまいと本能的に追っていく。
 影の薄くなったケインたち本物は、兵士のいなくないった門をすばやく通り抜けまんまと町内に入り込んだ。
 シアークの町は、近隣の町の中ではかなり大きい部類に入る。オアシス自体が大きいことと、大きな街道が交差している交通の要所であることから交易の町としても栄えていた。
 太陽が照らし始めた街は、伸びでもするかのように建物の影を長く地面に映し出し、徐々に目覚めていく。
 三人は、ヤーコンが先頭となり足早に大きい通りの端を進んだ。通りの両側には大きな商家が並んでいる。ヤーコンは、周囲に気を配ってから、人が一人ギリギリ通れるような建物の間の路地に入り込んだ。
 しばらく行くと、路地に面した建物の扉が開き中から一人の男が三人を見つめていた。ヤーコンは、その男に相槌を打つと、後に続く二人に目配せし扉の中に入っていった。