★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

彗星の時(44)

2012年01月29日 | 短編小説「彗星の時」
「おお、お待ちしておりました」
 大きな扉の前でジュンサイが共の者も連れず一人で立っていた。ケインが来るのを心待ちにしていたらしい。
 そこは王宮の真ん中にそびえ立つ中央塔の最上階に位置する部屋、『操りの間』の前だった。カール大帝以来、誰も入っていないその部屋は、開かずの間として扱われ、近づく者さえほとんどいなかった。
 廊下に面した『操りの間』の扉は、王宮の他の部屋と同じような豪奢な装飾が施されきらびやかなつくりになっていたが、他と違う点があった。扉の中央あたり、丁度人の頭の高さの部分がガラスでできており、中が見えるようになっている。
 王族であるケインは、昔からこの扉の構造を知っていたが、何のためそのようになっているかは知らなかった。
 ジュンサイは、懐から金色の鍵を取り出すと、目の前の巨大な扉の鍵穴に差し込んだ。扉はギギギッと腹に響く音とともに人が一人通れるぐらいまで開いた。
「さぁ、こちらです、ケイン様。お入りください。中に入りますと、もうひとつ扉がございます。『聖なる扉』と呼ばれております。その扉の前までは誰でも行くことができます。ですが、その『聖なる扉』をくぐることができるのが『選ばれし者』だけ、すなわちカール大帝以来誰もおりません」
不安げにケインが聞いた。
「本当に僕が入れるのかなぁ」
「『選ばれし者』の条件は、王族の男子で碧玉色の瞳を持つ者ということになっております。まさにケイン様は、この条件を満たしていらっしゃいます。自信を持ってお進みください」
 ケインは、ジュンサイに促され扉の中に入ろうとして、もう一度聞いた。
「その先はどうしたらいいの?」
ジュンサイは、悲しいような、興味を掻き立てられるような複雑な目つきで言った。
「ここから先は、何が起こるか私にも判りません。何しろ800年前のカール大帝以来誰も入っていませんので・・伝説では、カール大帝は『神座』に座り力を得たとなっております。まずは『神座』をお探しください」
「・・わかりました」
大きくひとつ息を吐くと、意を決したように唇をきっと結んで、ケインは部屋の中に入っていった。

彗星の時(43)

2012年01月25日 | 短編小説「彗星の時」
 三人が呆然と銀色のアンドロイドを見下ろしていると、開けっ放しになったドアから一人の魔導師の若者が飛び込んできた。
「ヤーコンさ・・ま・・」
 ヤーコンに話があって来たらしいが、床に転がる不可思議な銀色の人型を見てたじろいだ。
「どうした?ジェイ、そんなに慌てて、何があった?」
 ジェイと呼ばれた青年は、ヤーコンに近づくと小声で話しかけた。
 話を聞きながら、ヤーコンの顔色は見る見るうちに変わっていき、終いには苦渋の土気色になっていた。
「どうしたの。ヤーコン導師」
 心配になったケインはヤーコンに尋ねた。
「ケイン様、『地の国』の大軍団が、我が『天の国』に進軍を始めました。しかも先発部隊の戦鉄牛10体がすでに国境を超え、我が軍と交戦しています」
「えっ。『地の国』の戦鉄牛が我が国に入り込んだの?」
「『地の国』が言うには、こちらが先に国境を越え、王族の飛竜を飛ばした。『天の国』が先に領域を犯したというのが名目らしいです」
「もしかして、それってあのジュンサイ様と『地の国』を脱出した時のこと?」
「それしか考えられません」
「でも、それって先にあっちが僕を誘拐したからじゃないか」
「はい。確かにそうなんですが、『地の国』はそんなことを認めません。やつらにとって理由はなんだって良いのです。とにかくやつら『地の国』は我が『天の国』に攻め込み、支配するのがカール大公に退けられた時以来の800年越しの願いなのですから」
「・・・・で、その先に入った10体の戦鉄牛はどうなったの」
「はい、なんとか1頭は倒したようですが、残り9頭は国境警備軍を突破しここ王都に向かっています」
 ケインは青白い顔のまま絶句している。
「ケイン様、急いで『操りの間』にお越しください」
 ヤーコンは極力厳かに言った。
「今こそ、ケイン様がカール大公が手に入れた天神の力を授かる時なのです」
「僕が、、ああ、、やっぱりそうだったんだ。なんで僕のことで大騒ぎしているのか不思議だったんだけど。・・・・でも、本当に僕なんかにできるのかな」
「伝説どおりであるならば、ケイン様でなくてはできません。・・さあ、参りましょう」
「うん、わかった」
 ケインはそう言うと、ソファーに座り込んで額に手を当てて休んでいるシャインの肩に手を置いた。
「シャインさん。短い間だったけどありがとう。シャインさんに助けられた命だから頑張ってみるよ」
 シャインは、額から手を離し、虚ろな眼でケインの顔を見上げた。
 ケインはその顔を見ると、軽くうなずいてヤーコンと供に部屋を出て行った。

彗星の時(42)

2012年01月19日 | 短編小説「彗星の時」
 しかし、シャインはその動きが予測できていたかのように、一瞬も躊躇することなく一連の動きでナイフを拾い上げると、翻って銀の人型に向かって飛び跳ねた。
 銀の人型は、シャインの位置とスピード、それにケインの位置を計算したのか、刀型の腕を真横に構え、小さな稲光を発生させ始めた。
 シャインはそれを見ると、空中をものすごい勢いで銀の人型に飛びながら左手を握りしめ、手の甲を銀の人型の方に向けた。
 すると、手の甲が赤く光り、周囲にキーンをいう耳障りな音が響いたと同時に、銀の人型は稲光が消え固まったように動かなくなった。
 シャインは左手をそのままに部屋の端から端に飛び、1秒もかからずに銀の人型に迫った。
 銀の人型は頭部と思われる赤い眼の付いた面をシャインが迫りくる方向に向けた。もし人間のような顔があったとしたら、驚愕の表情になっていたのかもしれない。
 だがシャインは、ためらうことなく黒いナイフを赤い眼の間に深々と差し込んだ。一瞬金属と金属が擦り合うような高周波の音が響いたが、シャインの勢いに押されそのまま後ろの壁に叩きつけられ、切れた操り人形のように床に投げ出された。
 シャインは、倒れた銀の人型の傍で左手の赤光を向けたまま立っていたが、銀の人型の赤い目の輝きが消えたのを確認すると、手を下ろし数歩後ろによろめいた。
 ほんの数分、いや数十秒間の戦いに呆然としていたヤーコンがシャインの異常に気がつき、シャインに駆け寄って後ろから支えた。
「だ、大丈夫ですか?シャイン殿」
「あ、ああ、次元ロック装置を作動させるのはかなりエネルギーを使うから、一時的に一部機能不全が起きただけだ。しばらく経てば回復する」
「・・・そ、そうですか。直るんですね、それは良かった」
ヤーコンはシャインの言うことがいまいち理解できなかったがとりあえず納得し、改めて床の銀色の刺客を見た。
「・・しかし、これはいったいなんですか。人なんですか?」
「いや、これは、人間ではない。次元転移、、、つまり空間を飛び越えてあらゆる所に出現できる機能を持ったアンドロイド、・・機械だ。主に戦闘時の偵察によく使われる」
「・・・機械、つまりあの戦鉄牛と同じ種類のものですか」
「そうだ。だが、もうほとんど戦えるほどエネルギーが残っていなかったようだから助かった。フルチャージだったらどうだったか」
「戦鉄牛と同じということは、・・・これは『地の国』からの差し向けですか!」
「・・・・そうかもしれない」

彗星の時(41)

2012年01月15日 | 短編小説「彗星の時」
 銀色の人型が振り下ろした刀は、確実にケインを切り裂くと思われた寸前、軌道が大きくはずれケインが座っているソファーに深々と突き刺さった。
 よく見ると銀の人型の腕に黒い刃のナイフが刺さっている。どこからか飛んできたそのナイフのおかげでケインは命拾いをしたようだ。
 銀の人型は、刀がソファーに刺さったまま、赤い目をドアの方に向けた。どうやら黒いナイフはドアの方から飛んできたらしい。 
ケイン達もつられてドアの方を見た。ドアは半開きになっていて一瞬黒い影が見えたような気がしたが次の瞬間、空中を飛んで銀の人型に蹴りかかっていくシャインの姿が見えた。
 シャインの蹴りが届く直前、銀の人型は、小さな稲妻と供にふっと消え、ほぼ同時に部屋の隅にメイドの少女が現れた。腕には黒いナイフが刺さっている。
 ひらりと着地したシャインは、すぐその姿に気がつき低い声で言った。
「次元転移型偵察アンドロイド、JK521sか」
さらに、ソファーで血の気が失せた顔色のまま、あっけに取られているケインや、棒立ちしているヤーコンに向かって早口で言った。
「ヤツは危険だ。気を抜くな」
「は、はい・・」
部屋の隅に現れたメイドは、腕に刺さった黒いナイフを抜き床に捨てながらシャインを見つめつぶやいた。
「第二ターゲット発見。・・あれは、人間ではない。半有機サイボーグPX2008型SPタイプと判別可能」
 シャインは再び、眼にも止まらぬ速さで床を蹴り、メイドに向かって突進していった。が、シャインのパンチが当たる直前にまたしても姿を消し、反対側の壁際に今度は銀色の人型で現れた。

彗星の時(40)

2012年01月09日 | 短編小説「彗星の時」
「あれ、ところでシャインさんはどこに行ったの」
「我々の命の恩人ですから粗末には扱ってないはずです。とりあえず客間にいるはずですが」
「これからどうするのかな」
「あれだけの戦士ですから、ぜひ身近にいてほしいところですが、記憶が戻った時どうなるか不安なところはあります」
その時、ドアがノックされ外から女性の声が聞こえてきた。
「お飲み物をお持ちしました」
「どうぞ」
ケインは気軽に返事をしメイドを招き入れたが、ヤーコンの脳裏に一瞬不安がよぎった。
(いつもの小姓じゃないのか)
入ってきたのはメイドの格好をした少女が一人で、トレーにガラスのデキャンターとグラスを載せて持っていた。
「失礼します。ケイン様」
「ああ、あれ、君見かけない子だね」
近づくメイドを見てケインが尋ねた。
不安が大きくなったヤーコンは、メイドとケインの間に入り、さりげなくメイドの接近を防ごうとした。
「後は、私がやるから下がってよい」
ヤーコンが、メイドからトレーを受け取ろうと手を伸ばすと、メイドは大きな眼をヤーコンに向けて言った。
「いえ・私が・・」
言い終わる前に、メイドの周りに小さな稲妻が光ると、瞬く間にメイドの姿が消え失せた。
次の瞬間ケインの目の前の空中に「パリパリ」と小さな稲光が起きると、その場所に銀色の人型の物体が突然現れた。
人の形はしているものの、全身銀色でのっぺりしており、顔の辺りには丸い穴が二つ開いているだけ、腕も手がなく代わりに刀のようなものが光っている。
 その顔の眼と思われる二つの穴が赤く光り、ケインの方を見つめると、刀の腕を大きく振り下ろした。
「!!!」
一瞬の出来事で、ヤーコンもケインも身じろぎもできず、防ぐこともできなかった。

彗星の時(39)

2012年01月08日 | 短編小説「彗星の時」
 残ったのは黒い霧状の塊で、ケースが無くなっても拡散したりせず、部屋の中央に固まっていた。
「では、ミッションを開始します」
そういう声が流れると、黒い霧の塊の周りに、小さな紫色の稲光が無数に走り始めた。
やがて稲光はパリパリという小さな立て始め、突然表れた白い大きな光玉が霧の塊を包み込み、次の瞬間、跡形もなく消えてしまった。
 それと同時に、今まで薄ぼんやりと光っていた壁の明かりも消え、全くの暗闇になった。
「ふむ、とうとうここも最後か・・・」
 サルサは、そう言いながら杖を振った。すると杖の先端が青白く光り、動くものが全く無くなった部屋を照らしだしていた。

 「ふー、疲れるなー」
 ケインは、そう言いながらソファーに座り込んだ。
大広間で朝から執り行われていた「15歳誕生の儀」が終わり、やっとの思いで自室に引き上げてきたところだった。
 様々な出来事が起きた旅の疲れがまだ抜けぬまま、予定通りに行われた儀式に強制的に参加しさせられ、若いケインでもさすがに疲れの色は隠せない。
 深々とソファーに沈み込んでいるとドアをノックし入ってくる者がいた。
 ヤーコンだった。
「いかがですかな。ケイン様」
「ああ、ヤーコン導師。丁度良いところへ。ちょっと疲れが取れる覇道を教えてくれませんか」
「ふふ・・大変でございますな」
そう言うとヤーコンは手に持った杖の先端をケインの方に向け、クルリと回すとぶつぶつ小声で呪文を唱えた。
「どうでしょう」
「ああ、なんか身体が軽くなったような気がします。ありがとうございます。やっぱり覇道はすごいなぁ。これって何番くらいなんですか」
「これは、ケイン殿でもご存知のはず。基本中の基本、覇道3番、相手に気を送るというやつですよ。肉体も魂も元気になります。世の中には様々な力があるのです。ですが、全ての力の根源は、大自然の森羅万象の力、宇宙の力が全ての基になっているのです」
「ふーん、するとあの戦鉄牛もそうなのかな」
「確かに、あの超古代の化物は違うような気もしますが、この世に存在しているということは、やはり基は同じだと思いますね」

彗星の時(38)

2012年01月02日 | 短編小説「彗星の時」
 サルサが入っていくと、それまで真っ暗だった部屋の中が、壁自体がうっすらと光り、ぼやけた感じで全体が見渡せた。
「久しぶりじゃな。『ヤミ使い』よ」
 部屋の中心部には人が一人入れるくらいの透明な円柱状の容器が立っており、その中には、今までの部屋の暗さが凝縮されているかのようなガス状の暗闇が漂っていた。
 サルサは、その円柱の近くに立っている丸い玉の付いたポールの傍まで進んだ。
「はい、前回の訪問より9年10ヶ月15日23分経過しています」
容器の中の暗闇から声が聞こえてきた。
「『ヤミ』の具合はどうじゃ」
「エネルギー残量は0.002%ですので、このままの状態であれば、およそ96.25年間起動していることが可能です」
「そうか。今いちど仕事を頼みたいのじゃが、できるかのう」
「ミッションの内容によります」
「ふむ。そうじゃのう」
 サルサはそう言うと、傍らにあるポールの先端の丸い玉に手を置いて何かを念じ始めた。
 しばらく経つと透明なケースの中の暗闇がグルグルと回り始め、闇の中に小さな点が二つ光り、やがて二人の顔が浮かび上がった。
「今回のミッションは、この二人の人間の暗殺、期限は一週間以内、でよろしいですか」
かなり疲れたのか、玉から手をはずしたサルサは肩で息をしながら頷いた。
「ああ、今は『天の国』の王宮にいるはずじゃ。どうじゃできそうか」
「暗殺であれば、オプションシステムの起動が必要になります。ターゲットの所在地、累積データによる活動パターンから消費エネルギーを計算しますと、現在のエネルギー残高であれば98%の確率で可能と推測されますが、本ミッション終了後は全機能が停止し再起動不能となります」
「つまり、できるということか」
「・・はい、表現的には『ほぼ間違いなくできるが、これが最後の仕事』ということになります」
「そうか、、、ではすまないが早速取り掛かってくれ」
「了解いたしました。ではシステムを起動いたします。後ろの黄色い線までお下がりください」
 サルサが黄色線まで下がると同時に微かな低いうなり音が部屋中に響き渡り、透明なケースが真ん中から上下に割れ、天井と床に吸い込まれていった。

彗星の時(37)

2012年01月01日 | 短編小説「彗星の時」
「・・・・もしや、戦鉄牛と同じような古代の武器を操る者か・・・」
決定的な答えが出ないまましばらく沈黙の時が過ぎ、王は再び口を開いた。
「サルサよ。『ヤミ』はまだ使えるのか」
「『ヤミ』でございますか・・。先の『海の国』との戦の際にかなり使われましたゆえ、ほとんど力が残っておりませぬが、、はたしてできるかどうか」
「相手が戦鉄牛をも凌ぐ武器を使うとなれば他に手はあるまい。『ヤミ』が最後になってもかまわぬ。ケインとその男、確実に仕留めるのじゃ。よいな。即刻手配せよ。」
「・・御意」
サルサはそう言うと国王執務室を後にした。その表情は目深に被ったフードのため読み取ることはできないが、いつもよりさらに暗い雰囲気を醸し出していた。


 一時間後、サルサは『地の国』の王宮の地下深くにある部屋の前に立っていた。その部屋に辿り着くには幾つもの厳重な扉と魔道で封印された門を通らなければならないため、サルサ以外の者は入ることができない秘密の部屋だった。
「あの戦以来、10年ぶりかの。できればこのままそっとして置きたかったがのう。仕方あるまい」
 サルサはそう呟くと扉の前に立った。扉の上にある小さな丸い光源から細い光線が照射されサルサの全身に当たった。
「ようこそ。サルサ殿」
 どこからともなく声が聞こえてくると同時に扉がゆっくりと開いた。
 サルサは何も答えず、無言で部屋に入っていった。