★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(40)

2015年04月23日 | 短編小説「義腕の男2」
負傷兵になってしまった俺は、上半身裸のMr.Jの肩を貸り立ち上がった。
時間の経過とともに、だんだん頭がはっきりしてきた俺は、Mr.Jのみぞおちあに赤いあざがあるのに気がついた。
「これは・・」
「あら、気がついたのね」
少女がにやりと笑いながら言った。
「そうよ。さっきの獣人は彼なのよ」
やっぱりそうか、さっき朦朧とした状態で聞いた言葉はそのとおりだったのだ。はっきり理解するとかなりの驚きだ。
それに、博士と呼ばれる少女のことといい、霧が晴れるようにはっきりしていく俺の頭の中には疑問符が増えていく。
どうやら、全ての鍵を握るのは、この少女のようだ。脱出への道すがらじっくりと聞かせてもらおう。
 気絶していたMr.Bを起こし、死体が転がっている廃村を後に、車に乗り込んだ俺たちは、Mr.Jの運転で走り始めた。目指すは、沖合いで、ノスリルの潜水艦が待っている海岸だ。ここからは約300km程ある。
 俺は、脚が当て木を添えられ曲げられないようになっているため、後部座席に乗り込み斜めに座った。少女も俺の脚を気遣ってか、後部座席に座った。
 俺の頭はもうすっかり加速剤の副作用が抜け、いつもどおりの感覚になっている。
 様々な疑問が沸いてくるが、それと同時に打ち抜かれた膝の激痛がはっきり感じるようになってきた。
 痛みに耐えながら、早速少女に質問を浴びせかけた。

義腕の男2(39)

2015年04月07日 | 短編小説「義腕の男2」
 しばらくしてMr.Jが小さなバッグを持って戻ってきた。
「博士、こんなものしか無かったが・・」
 博士と呼ばれた少女は、全く違和感無くバッグを受け取り、蓋を開けて中身をチェックし、ため息をついた。
「ふん、まあ仕様がないわね。無いよりはましか・・」
 そう言うと、バッグから小さなビンと包帯を取り出し、傷ついた俺のひざを手際よく手当てし始めた。
「ちょっと痛いけどがまんしてね~」
「うおぉぉ・・」
 小さな子供なのに手馴れた手つきで容赦なく手当てしていく。
「普通の人間の手当をするのは久しぶりね・・とりあえずこんなものかな、あとは早く本格的な治療をしないと・・・動脈もいっちゃってるから時間との戦いね。」
俺の左膝は、曲がらないように添え木を当てて、真新しい包帯で包まれている。痛みも少しは弱まったような気がする。
「とにかく早く出発しましょう」
 少女は、Mr.Jに向かって言った。 
「しかし、我々のトラックはやられてしまってますが・・」
「そおねぇ・・あなたは何でここまで来たの?」
 少女は俺に聞いた。
 俺が、無断借用した高級車の話をすると、その車で脱出用の潜水艦が待つ海岸へ一緒に行くこととなった。
「じゃあ急ぎましょう」
 少女は、立ち上がり膝の砂を払いながら言った。

義腕の男2(38)

2015年04月06日 | 短編小説「義腕の男2」
「・・・いったい君は・・」
「とりあえず止血しないと、、、ジェイ!メディカルセットかなにか持ってる?」
「い、、いや。トラックには入っていたがさっきの攻撃でトラックごと燃えてしまっている」
「・・なら、イスランの装甲車にはないかしら」
「判った。探してこよう」
そう言うとMr.Jは、集落の入り口に止めてあったイスラン軍の装甲車に向かった。
「何もしないよりは、ましね」
少女はそう言いながら、近くに落ちていたロープの切れ端で、傷口の上をきつく縛った。
血の流出が少しは納まったようだ。
「これくらいしか今はできないわ。・・、あら?この右腕は・・」
少女は、今度は俺の右腕を触り始めた。
「すごい。これって有機義腕じゃないわ、ハードタイプの義腕なのね・・でもこのなめらかさといい、さっきのスピードにパワー、完璧なパワーユニットだわ。これを作った人はすごい技術者ね」
「・・・ああ、俺の親友だ」
俺の右腕をあちこちいじりながら、呟いた。
「ふうん・・ユーリ連邦にもこんなのを作れる人がいるんだ・・」
腕を見つめる目つきは、とても10歳の少女のものではない。まるで老練な学者か職人のようだ。

義腕の男2(37)

2015年04月05日 | 短編小説「義腕の男2」
逆光の中、よく見ると、その人影は上半身裸のMr.Jだった。
「クリス博士!」
Mr.Jが少女に向かって言った。
(クリス博士?)
 ただでさえ加速剤の副作用でボーっとした思考能力がますます混乱するうえに、左足の痛みが激しさを増し、ひざ下の感覚が無くなってきていた。
 足を見ると、ひざのあたりが血で黒く濡れており、その下が有り得ない方向に曲がっている。正気ならかなりの痛みのはずだが、薬の副作用で、感覚が鈍くなっているせいか痛みも半減している。
 俺の脚の具合に気がついた少女は、戻ってきて傷ついたひざを触り始めた。
「ひざの裏から撃たれた様ね。弾はひざの皿を破壊して貫通しているわ。関節もいっちゃっているし、もうこのひざは使い物にならないわね」
少女は、その見かけに似合わない冷徹かつ正確な診断を告げた。
「それに、あなた、さっき打った薬、加速剤SP2273でしょ。あと30分は廃人同様よ」
「うう・・」
何なんだ、この少女は。
「たしかに、ジェイと戦うには加速剤くらい使わないと通用しないけどね」
 俺は、朦朧とした意識で必死に考えたが、思考能力が完全に低下していて結論が出てこない。