★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

パーフェクト(14)

2023年10月19日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 とにかく今夜は、パーフェクトシティ全市民の記憶リセットを完了させなければならい夜なのだ。
 そのため通常は警備の仕事をしている我々まで駆り出され、大聖堂という記憶リセット施設に行くことができない人たちを、こちらから出向いてリセットする業務に就くことになっている。
 それに隊長の言葉どおり確かに反乱軍は現存している。
 約20年馴染んできた顔の傷は、反乱軍が蜂起した2回目の戦闘で受けたもので、俺が「IM-X」を始めたきっかけにもなっている。
 反乱軍とは、このパーフェクトシティ構想に反対する過激派で、不老を良しとせず、本来の自然な姿に戻るべきだという考えのゲリラ部隊のことだ。
 個人的には俺もその考えには賛成なのだが、「IM-X」がここまで普及するともう後戻りはできない。「IM-X」と共存し人類が進んでいくにはパーフェクトシティ構想しかないと俺は妥協している。

 しかし、この構想を破壊し、一気に解決するため武力による改革に振り切った連中が組織化し反乱軍と名乗り、今まで2回軍事行動を起こした。
 1回目の反乱で犠牲者が多数発生し、大聖堂も大きな被害を受け、記憶リセットの期間が大幅に狂った。それを機に警備隊が組織され俺も入隊した。
 2回目の攻撃は、約20年前に発生、前にも増して激しい攻防となったが、警備隊の奮闘により被害を最小限に抑えることができた。が、俺は爆発に巻き込まれこの傷を負ったわけだ。その後、今まで表立った戦闘は起きていないが、反乱軍は地下にもぐり密かな活動を続けているらしい。

 


パーフェクトシティ(13)

2023年10月05日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

「ところで、今夜は何件だ?」
 さりげなく話題を変えた。
「今のところ5件ですね」
 命令書を見ながらケンジが言った。
「ということは、帰宅は3時ってとこかな」
「そうですね~」
 まあ仕方ない、とあきらめていると「全員注目!」と号令が聞こえてきた。
「これより、隊長よりご挨拶があります。注目願います」
 いつの間にか、部屋の隅に小さな段が置いてありその上に警備隊長が立っていた。
「皆さん、深夜勤務ご苦労様。今日は、年に1回の大晦日、大聖堂が開く日です。釈迦に説法ではあると思いますが、今日の皆さんの任務は、何らかの理由で大聖堂に行けなかった方々を直接訪問し、大聖堂と同じように救済することです。
 大聖堂に行くことができなかった方々は、病気やケガまたは何らかのトラブルに巻き込まれている可能性が高いですから、ケースに応じて的確な対応をお願いします。
 また、絶対忘れてはいけないのは、反体制勢力、反乱軍の存在です。過去2回の武力衝突はこの日に起こっています。ここ20年、特に大きい紛争は発生していませんが、反体制勢力が消滅した訳ではありません。
 日頃から警備任務にあたっている警備隊員だからこそこの業務を速やかに完遂できると期待しております。パーフェクトシティの皆さんが2355年を無事繰り返すことができるよう頑張ってください」
 毎年、同じようなセリフしか言われないが、他に言うこともないのだろう。


パーフェクトシティ(12)

2023年03月21日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 部屋の中は黒づくめの男たちでごった返しており、見つけ辛いと思ったが意外と早く出会うことができた。相手の方が先に俺を見つけたのだ。
「どうも、ダイゴさん。お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」
「やあ、ケンジ、よろしく頼むよ」
 俺より年下のケンジが今夜の相棒だ。確か30台後半でもうベテランの域に入りつつある。だが、30歳代ということは、俺の身体年齢より20歳も若い。
「こんな大勢の中で、すぐ俺だとよくわかったな」
「え?ダイゴさん、目立ちますからね」
 やはり、この顔の傷跡は珍しいようだ。
「あ、顔じゃないですよ。そのガタイですよ。ガタイ。毎日筋トレしてるんでしょう」
 俺のような男に変な気をつかうなぁと思いながら、確かに筋トレオタクになってしまったと苦笑いした。
 体を鍛え始めたのは、顔にこの大きな傷がついた時からだ。あの時もっと体力があればこんな傷負わなかったのに、というトラウマがあるのかもしれない。


パーフェクトシティ(11)

2023年03月18日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 開始当初、どちらのグループとも同じくらいの人口だったが、やがて、パーフェクトシティの人口が増え始め、最終的に、パーフェクトシティが9割、オールドシティが1割程度で落ち着いた。
 その後、パーフェクトシティ構想が始まって20年程の歳月が過ぎると、人口の減少に歯止めがかかり、100年後にはわずかずつではあるが人口増に転じていた。人類は滅亡の危機をなんとか脱したのだ。

 俺が乗った車は、警備隊の建物の駐車場になめらかに停車した。
 夜間に関わらず駐車場はほぼ満杯だった。全部俺と同じ警備隊員の車だ。いつもは、交代勤務のため駐車場はガラガラなのだが、大晦日は全隊員が同時に出勤するためだ。
 車を降り、詰め所に入った俺は、今夜の相棒を探した。すでに組む相手は決まっている。
 いつも警備の仕事は一人でやっているが、今日の仕事は2人一組で行う。


パーフェクトシティ(10)

2023年03月10日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 ひとつは、記憶をリセットし同じ1年を何度も繰り返すため文明の発展がストップしてしまうこと。そしてもうひとつは、この世界をコントロールするため、記憶をリセットしない人々が必要であることだった。
 そこで、基本的に「IM-X」を使わず、記憶操作もしない二つ目のグループ「オールドシティ」が作られた。
 この「オールドシティ」は、いわば「IM-X」がない時代をそのまま受け継いでいる街で、住民は歳をとりやがて死んでいく。
 永遠の命を手にした人類にとって誰も入りたがらないグループのようだが、実際には生理的に「IM-X」が効かない人々が一定数いたこと、また思想的に永遠の命や記憶を操作されることに反対で、人類の歴史を積み上げ、継承し文明を発展させていかなくてはならないと考える人々で成り立っている。
 そして、このグループには、従前の社会の営みのほかに、パーフェクトシティを管理するという役目も課せられた。
 基本的にどちらのグループに入るかは、個人の自由判断に委ねられていた。また途中での変更にも規制はない。しかしそれぞれのグループは、地域的に隣接はしているものの明確に切り離され全く別の社会を作っていた。
 ちなみに、国家警備隊はパーフェクトシティ管理の業務のため、オールドシティに属している。
 勿論、基本的にオールドシティの市民は「IM-X」を使わないが、俺は例外的に「IM-X」を使って老化を止めている。定期的な検査を合格すれば「IM-X」を使いながら記憶もそのままで「オールドシティ」で暮らすことも可能なのだ。


パーフェクトシティ(9)

2023年03月09日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 その構想とは次のような内容だった。
 まず、人類をニつのグループに分けた。
 一つ目は、「IM-X」を使い、永遠に生きる人々のグループだ。
 彼らは、死なない。永遠に年を取らずに生き続ける。
 だが、不老を意識すると生きる気力を失い人類滅亡に突き進む。
 だから、彼らがストレスなく生きていけるよう永遠に続く世界を作り出した。
 それは、記憶を操作し、とある1年(AD2355年)を永遠に繰り返す世界。 
 一見不可能に見えるこの構想は、サン・アルベルト卿が開発した脳の記憶領域の制御方法により可能となった。
 つまり、1年に1回、大晦日に過去1年の記憶をリセットしてしまうことにより、同じ1年を繰り返していることを感じずに生きていくことができる都市を作り出したのだ。
 この都市の創出がこの構想のベースとなったことから、そこを「パーフェクトシティ」完璧な都市と呼び、人類の永遠の存続を約束した。
 だが、この世界には致命的な欠陥がふたつあった。


パーフェクトシティ(8)

2023年03月06日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 当然、全世界的に食糧難が発生し、餓死者が多発し始めた。
 一番の解決策は「IM-X」をやめること。誰もがそう思った。
 しかし、人々は一度手にした不老の薬を手放すことはできなかった。
 本能の根源にある「死」の恐怖から逃れた人間は、やはり二度と「死」を迎え入れることはできなかったのだ。

 人類はこの危機的な状況を乗り越える効果的な打ち手が見いだせないまま、約30年の間に人口を10分の1まで減らしてしまった。真綿で首を絞めていくような滅亡の危機に直面した。
 だが、神はまだ人類を見捨てていなかったのだろう。
 今でも世紀末の聖人・救世主として称えられている男が現れた。
 当時の国連事務総長サン・アルベルト卿だ。
 サン・アルベルト卿は、政治的な手腕はもちろん、脳科学者・発明家としても優秀な人物で、人類の危機に大胆な発想と発明を持ち込み実現させた。
 「パーフェクトシティ」と名付けられたその計画は、不老薬の「IM-X」ありきで考えられた究極の構想だった。


パーフェクトシティ(7)

2023年02月09日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 西暦(AD)2250年、画期的な薬「IM-X」が発明された。
 人類が誕生して以来、永遠の夢だった”不老薬”だ。
 この「IM-X」の効果はまさに驚異的だった。
 古来より不老不死と呼ばれる薬は山ほどあったが、実際には年をとらない薬など存在しなかった。
 しかし、この「IM-X」は違っていた。
 人体に備わっている老化(成長)システムを完全に阻害し、老化しなくなるという仕組みの薬で、飲み始めた日から一切年を取らなくなる。
 若返るわけではないが、若い人は若いまま、高齢の人は高齢のまま、子供は子供のまま、一日一錠「IM-X」を飲み続けるだけで永遠に同じ姿で生きていける。
 勿論、物理的なケガを負ったり大病を患ったりすれば普通人と同じように死が訪れるが、健康でいる限り年をとらず永遠に生き続けることができるのだ。
 年を取らない永遠の生命という人類が太古の昔から追い求めた究極の夢の薬だ。
 しかも、値段が誰でも手軽に買えるほど安価だった。
 おかげで、全世界に爆発的に広がっていき、瞬く間に人類そのものの老化(成長)が止まった。
 その結果、どうなったか・・死ぬ人が減ったのだから人口が増加するように思われたが、蓋を開けてみると人類は急激に人口を減らしはじめ、滅亡へと転げ落ちていった。
 不老薬「IM-X」により死の恐怖から解放された人々は、生きる気力を失った。
 死という期限を自ら取り払った人間は今日やるべきことをやらなくなった。
 結果として、経済が停滞し社会活動が止まってしまった。人類全体が鬱状態に陥ったのだ。


パーフェクトシティ(6)

2022年04月05日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 さわやかな「ユキ」の声が車内に静かに響いた。
「では、発車します。詰め所への到着時刻は、今から約15分後、21時28分頃になります」
 声が終わり、一呼吸おいてから自動車はヘッドライトも点けず静かに動き始めた。
 運転している「ユキ」は、市を一括管理しているシティコンピューターと連結しているため、車や歩行者など全ての道路状況をデータとしてリアルタイムに把握している。そのおかげで、ヘッドライト等で前方確認をする必要がないのだ。
 ただ、万が一の場合に備えて、車には人が操作するハンドルやヘッドライトは付いている。しかし、俺は運転免許を取得した時以来、一度もハンドルに触れたことはないし、夜間、ライトを点けて走っている車を見たこともない。自動運転が始まってから、事故は一件も起きていない。完璧な交通管理システムだ。
 座り心地の良いシートに安心しきって身を任せた俺は、いつもより暗い夜景を見ながらつぶやいた。
「あれからもう100年以上も経つのか・・」
 俺を乗せた車は、徐々に加速していき、やがて闇の中へ吸い込まれていった。


パーフェクトシティ(5)

2021年06月13日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

「よし、時間だな。行くとするか」
 黒ずくめでこれから葬式へ向かうようないで立ちの俺は、出勤用のカバンを持って家を出た。
 大晦日の冷気が体を包む。だが寒くはない。喪服のような黒いスーツは都市国家からの支給品だが、単なるスーツではない。この大晦日の作業用に作られた特注品ユニフォームで群を抜く保温機能を備えている。
 俺は、そのまま自宅前に駐車してあるマイカーに乗り込んだ。
 ダッシュボードにある画面に、若い女の顔が浮かびあがり、にっこりと微笑んだ。車に標準装備されているカーコンピュータだ。
「こんばんは、ダイゴ様。お仕事ですね。お疲れ様です。行先はいつもの警備隊詰め所でよろしいですか」
 ダイゴは俺の名前、職業は国家警備隊の隊員だ。
「ああ、ユキさん。こんばんは。うん、詰め所でいいよ」
 最近は、自分の車のカーコンピュータに名前を付けて呼ぶのが流行っている。
 AI技術が発達して、運転を含めたすべての車の操作はカーコンピュータがやってくれる。会話もほとんど人間と変わらなくできるため、名前があったほうが便利なのだ。
 ちなみに、名前は自由につけられる。「ユキ」という名前に特に根拠はない。
なんとなく響きがいいからそう呼んでいた。


パーフェクトシティ(4)

2021年06月02日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 右上部の額から鼻の真ん中を通り左側の顎骨の部分まで幅3センチぐらいの巨大な傷跡がある。一見ムカデか何かを張り付けたようなその傷跡は赤黒く盛り上がり、見る者に不快感と恐怖と哀れみの感情を湧きあがらせた。
 さらに、顔中に小さな傷が無数に散らばり、髭剃りという普通人からすれば簡単な作業を恐ろしく手間がかかる難物に変えていた。
 しかも、その障害物に加え、年相応の、深い溝の皺がその顔を覆っていた。
 今の医療技術を持ってすれば、古い傷跡や皺などきれいさっぱり、跡形もなく除去できるはずなのだが、あえて手を加えてはいなかった。
 特に医者嫌いなわけではないが、俺自身顔をきれいにする必要性を感じていなかったし、逆に仕事の特性上、少々強面の方が都合が良かったりもしたからだ。
 かなり手こずったが、なんとか髭剃りを終えた俺は、年に一回だけ使用する白のワイシャツと黒いスーツを身に着け、黒いネクタイと黒のサングラスをかけ再び鏡をのぞきつぶやいた。
「しかし、誰の趣味なんだ?昔の映画に出てくる主人公のパクリだな」
言った後で、毎年必ず同じセリフを言う自分自身に気が付きフッと自嘲気味に苦笑いした。


パーフェクトシティ(3)

2019年09月11日 | 短編小説「パーフェクトシティ」

 そんな大晦日の夜、俺は熱いシャワーを浴びていた。
 年に1回の夜勤に備え頭をハッキリさせるためだ。
 バスルームから出た後、ふうと大きくため息をつくと、今夜は何時ごろ帰れるんだろう・・とぼやきながらバスタオルで体を拭き、洗面台の鏡に映る自分の顔を見て目を細めた。
「相変わらず醜い・・ひどい顔だな・・・あぁ、それにこの皺、俺も歳をとったなぁ」
 そう言いながら、あごにシェービングクリームを塗り、棚からT字型のシェーバーを取り出して、顔のひげをそり始めた。
 剃り残しがないように鏡を見ながら丁寧に剃っていく。
「今日は、ひと様の家に入るから、髭ぐらいはきれいにしておかないとな」
 しかし、鏡に映る俺の顔は、ひげを剃った位で印象が良くなることは決してないような様相を呈していた。


パーフェクトシティ(2)

2019年05月13日 | 短編小説「パーフェクトシティ」
今日は、西暦(AD)2155年が終わる日。大晦日だ。
 昔は、大晦日といえば一年の締めくくりと新年を迎える日として世の中全体が浮足立ったような喧騒に包まれていたが、今は全く違う。
 シンと静まり返った闇の中を、人々は何もしゃべらず、整然とそして淡々と、ある建物に入っていく。
 そこは、「大聖堂」と呼ばれる大きな建物で、年に一回だけ門が開かれその街の人々が入っていき、10分後には反対側の出口から、また整然と出ていく。
 その不思議な光景が暗闇の中で一晩中続き、全市民が大聖堂を通り抜けた翌日の新年の朝には、何事もなかったかのように街の雰囲気は正月のめでたさに包まれ、いつもの年と同じように日々の生活を始めていく。

パーフェクトシティ(1)

2019年05月11日 | 短編小説「パーフェクトシティ」
 太陽が何の音もたてず海に沈んだ。
 都市を寒い闇が覆いはじめると、数百羽ものカラス達が街のはずれにある林のねぐらに一斉に向かいながら、寂夜の到来をカアカアと皆に告げていく。
 昼の喧騒が嘘のように静まり返り、都市から一切の社会活動の気配が消えた。
 いつもは深夜でも昼間の時間帯と同じように騒がしいその街は、年に一度、今夜だけ全ての動きを止める。
 日中たくさんの人々が出入りしている無数のビルには灯りが一切灯らず、まるで大きな墓石のように黒々と立ち並んでいる。
 ひっそりと静まった街には、静かさがもたらす清廉とした空気が流れ、日頃の汚れを洗い流すかのような厳かな雰囲気さえ漂っていた。