★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

裏葬儀屋(39了)

2009年11月10日 | 短編小説「裏葬儀屋」
「ああ、駐在さん、遅かったじゃないですか」
 赤い顔をした浦河が言った。
「すまんすまん、検死報告書に手間取っちまって」
「なにか不備でも・・」
「いやいや、全然問題なしじゃ、あ、ご主人、わしにはビールをくれ」
「ところで・・」
と少々酔いの回ったような佐藤医師が口を開いた。
「診療所に新しい機械が欲しいんだけどどうかな」
「いくらなんですか」
「500万くらいかなぁ」
「じゃあ、いつものとおり村長に相談してみましょう。多分大丈夫ですよ」
「わしの、駐在所にもちょっと欲しいものがあるんじゃがの」
「んじゃ、それも一緒に相談ですね」
そう言いながら、浦河は、チューハイをもう一口グイッと飲み込んだ。

 陸の孤島といわれる雲霞村の診療所に、最新の検査機器が一台増えたのはその三ヶ月後のことだった。

裏葬儀屋(38)

2009年11月09日 | 短編小説「裏葬儀屋」
 浦河は、ひと仕事を終えた安堵感に包まれ、温泉街の居酒屋のカウンターで一杯やっていた。隣には診療所の佐藤医師がいる。
「いやー今回はびっくりしましたよ。まさか副作用がでるなんて」
「確かにめったにでない症状らしいが、今後は気をつけたほうが良いね」
「そうですね」
 浦河は、そう言うとチューハイのグラスを口に持っていった。
 その時、カウンター越しに店の主人らしき人が、焼き鳥の盛り合わせを二人の前に置いた。
「へい、おまちどうさま。浦河さん、今回もうまくいったんですかい?」
「ども、おかげさんでうまくいきました。社長さんは、今先生のところで整形してますから、もし会った時はやさしくしてあげてくださいね」
「もちろんでさぁ、この村が潤ってるのもそういう人がいるからだからねぇ」
 店の主人が、いつものことのようにそう答えた時、店の扉が開いて新たな客が入ってきた。

裏葬儀屋(37)

2009年11月08日 | 短編小説「裏葬儀屋」
 やがて、新幹線は二人が降りる駅に近づいてきた。二人は、荷物棚から荷物を降ろしたり、下車の準備を始めた。さっきまで口を開けて寝ていた同じシート列のおばさんも、同じ駅で降りるらしく、立ち上がって荷物の整理をしている。
 その時、列車にブレーキがかかりおばさんはバランスを崩し理穂の方に寄りかかってきた。
「あら、ごめんなさい」とおばさんは理穂に向かって言った後、理穂の耳元でささやくように
(村での出来事はもっと小さな声でね)
と話しかけた。
 ぎょっとした理穂と恵子は化け物でも見るかのように目を見開き、そのおばさんの顔をまじまじと見た。
 その太ったおばさんは、二人の驚いた顔を楽しむかのようにニッと笑って再び自分のシートに戻って下車支度を続けた。
 その横顔を見ていた恵子は、「あっ」と小さな声を上げささやくように理穂に言った。
(たしかあのおばさん、行きの新幹線でも近くに座っていた人よ。ということは・・)
 理穂は、母の顔を見てつぶやいた。
(あの人も浦河さんの仲間で、もしかして行く時から監視されていたっていうこと?)
 二人は、葬儀屋と名乗った浦河の会社の底知れなさに不気味さを感じていた。

裏葬儀屋(36)

2009年11月07日 | 短編小説「裏葬儀屋」
 翌々日、柴田のお骨を持った妻と娘は帰りの新幹線の中にいた。
 妻は、骨壷を大事そうに抱え、二人シートの窓側に座っている。
「お母さん、朝からずうっとそうやって持っているよね」
「そうね。だって大事な人なんですもの。ちゃんと連れて帰って丁寧に供養してあげないとねぇ」
「そうだね。でも先生も仲間だなんてびっくりだよね。いったいどういう会社なのかしら」
「しっ、声が大きいわよ」
「大丈夫よ、ほら、そこの人だって寝てるし・・」
といって同じシートの列のとなりの人をチラリと見た。
 確かに、三人がけシートの二つを一人で占有して座っている太ったおばさんは、さっきから口を半開きにして寝ている。
 妻は、どこかで見たような人だなと思いながらも、明確な心当たりが見つからなかった。

裏葬儀屋(35)

2009年11月06日 | 短編小説「裏葬儀屋」
「奥様と理穂さんは、今夜は通夜ということで、旅館には戻れませんので、やはり3階の部屋に泊まってください。明日になったら柴田さんの遺体と火葬場に行っていただき、柴田さんを火葬しお骨を持ってご自宅に帰っていただきます」
 恵子と理穂も大きくうなずき、お互いに見つめあった。
「そのあとは、奥様は山田社長と電話等で連絡を取り合い葬儀等をひととおり済ませ、保険金を受け取り会社の建て直しを行ってください。多分一週間もすれば、山田社長も帰れるかと思いますが、死んだことになっていますので表にはでれません。決して知り合いには会わないようにしてください」
 今度は、山田社長と恵子が見詰め合ってうなずいていた。
「本当の正念場は、保険金を受け取ってからです。山田社長が本人として人前に出れないのは何かと不都合がありますが、ご家族一致団結してがんばってください」
 山田社長は、妻と娘を見つめ「よし、がんばろうな」と言って、二人の手をとった。
 浦河は、柴田の遺体に目をやり、(この人達こんなに喜んでいるよ。柴田さん、ありがとう)と小声で言った。

裏葬儀屋(34)

2009年11月05日 | 短編小説「裏葬儀屋」
「えっ、ここの先生に頼んだら、計画がばれてしまうじゃないですか」
 浦河は、にやりと笑って
「この計画、お医者さんの協力がなくてもできると思いますか」
「・・じゃあ、あのお医者様もグルなんですか」と娘が言った。
 浦河は、カクンと気の抜けたような目つきをして
「グルとはちょっとひどい言い方ですねぇ、理穂さん」
 理穂はごめんなさいと小声で言って、ペロリと舌を出した。
「では、整形のほうも申し込まれるということでよろしいですね」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、山田さんはこれから私と一緒に先生のところへ行って、今後の日程について相談します。もう今日から山田さんは人前には出れませんので、この診療所の3階の部屋に寝泊りすることになります」
 山田は大きくうなずき、頬のあたりを撫で回した。この顔ともお別れかというような名残惜しげな所作だった。

裏葬儀屋(33)

2009年11月04日 | 短編小説「裏葬儀屋」
 浦河は、ベッドの横にあるバックからビニール袋を取り出し、山田に渡した。
「柴田さんの所持品で、免許証など身分がわかるものです。特に免許証は、顔写真があるので注意が必要です。山田さんの顔を柴田さんの顔に近づけるような整形をすることもできますがどうしますか」
「その話は初めてですね」と山田は、少々びっくりしたように言った。
「はい、そうです。これはオプションですから。山田さんの顔って柴田さんになんとなく似てると思いませんか」
「そういわれてみればそうかも」と妻が言う。
「実は、今回、計画の提案先として選ぶときの基準に、背格好や顔が似ているかという項目もありまして、山田さんはそれもパスしてるんです。ですから整形するといっても、皺や鼻筋など少しいじる程度で免許証の写真にかなり近づけることが可能です。また、整形は知っている人にあったときにごまかしやすいという利点もあります。費用はだいたい30万円くらいですね。いかがされますか」
「なるほど、で、その整形手術はどこでやるんですか」
「この診療所の先生が行います。腕は確かですよ」

裏葬儀屋(33)

2009年11月03日 | 短編小説「裏葬儀屋」
「打ち合わせでもお話しましたが、この村は自殺の名所でして、年間何十人もの遺体が出てきます。老若男女さまざまな人がいます。もちろん身元不明の方も多いですが、身元が判明してご家族に迎えに来ていただく場合もあります。そして中には、身元が判ったものの、天涯孤独で身寄りが全くいない方がいらっしゃいます。そのような場合、その方の身元を徹底的に再調査し、その方に身代わりになっていただくと幸せになれるような人、つまりあなたのような方を探し出して提案するのが私の仕事なんです」
 山田社長一家は、これから山田の代わりに亡くなってくれる人の顔をじっくり見つめ、心に焼き付けているようだった。どことなく山田に似ているような気もした。

裏葬儀屋(32)

2009年11月02日 | 短編小説「裏葬儀屋」
 10分後、山田社長は遺体安置所で無事息を吹き返した。
「う・う・・ふおぉぉぉ・・・、ど・どこだ、ここは・・・」
「あなた、大丈夫ですか?」「お父さん大丈夫?」
 妻と娘は、今度は演技ではなく心の底から本当に心配している。やはり家族とは良いものだ。
「ああ、お前たち、俺は生き返ったのか。計画は順調にいっているのか」
 浦河は、山田社長の様子を見ながら言った。
「無事生還されたようですね。気分はいかがですか。しばらくの間、頭痛がしたり節々が痛かったりしますが、1・2日で治りますので気にしないでください」
 浦河はそう言うと、部屋の奥に歩いていき、突き当りの壁面にある小さな扉を開け、一台のキャスターベッドを引っ張り出した。
 そのベッドには、死体が一体乗っていた。
「山田さん、今からあなたは『柴田五郎』になります。そして、この方が『山田正一』つまり山田さんあなたになりかわって、これから火葬場で焼かれ骨になります。合掌願います」
 4人は、新たに運ばれてきた遺体に対し、しばらくの間手を合わせた。

裏葬儀屋(31)

2009年11月01日 | 短編小説「裏葬儀屋」
「なるほど、それで上手なわけだ。・・さて、死亡診断書もできたし、検死作業も終わりましたので、火葬場にいきましょうか」
「えっ」恵子と理穂は顔を見合わせた。
「冗談ですよ。さてお父さんに生き返ってもらいましょうか」
 浦河は、ポケットから銀色のケースを取り出し蓋を開けた。中には、注射器と茶色い小瓶が入っていた。
 憎まれ口をたたいた浦河だったが、実は計画の中で一番不安と緊張につつまれる時間帯だった。
(生き返らなかったらどうしよう)
そんな気持ちをおくびにも出さず、浦河は小瓶に注射器を刺して薬を吸い上げ、手馴れた手つきで山田社長の腕に薬を注入した。

裏葬儀屋(30)

2009年10月31日 | 短編小説「裏葬儀屋」
 霊安室は診療所の地下にあった。小さな村の設備にしては、には似つかわしくないくらい、広い部屋だった。
 山田社長の偽遺体を前に、三人は話し合っていた。
「ずいぶん広い安置所ですね」と理穂が言った。
「前にもお話しましたが、この村は自殺で有名なものですから、村の大きさの割りに遺体安置所が広いんですよ」
 浦河は、ひんやりした広い部屋を見わたして言った。
「しかし、びっくりしましたね。まさか土壇場で山田社長がいなくなるなんて。あの薬の副作用は聞いてはいたものの実際におきたのは初めてですから。もっともそのおかげで、途中の旅館での工程がはぶけて計画が早く進みました。よかったですよ。・・それにしても理穂さん本当に涙を流すなんてたいしたものですね」
「実は、私、大学で演劇サークルに入ってるんです」

裏葬儀屋(29)

2009年10月30日 | 短編小説「裏葬儀屋」
 処置室のベッドの上には、山田社長が上半身裸になって寝ていた。ベッドのそばには、妻と娘が寄り添って肩を震わせている。
 反対側に立っている白衣の男性が話しかけた。この村唯一の佐藤医師である。
「この度はご愁傷様です。ここに運びこまれた時にはすでに心停止していまして、手の施しようがありませんでした。なにか持病でもお持ちだったんでしょうか」
「はい、心臓を患っていまして、、注意はしてたんですが」
 妻はそう言うと、ハンカチを目に当てより一層肩を震わせ、娘は「お父さん!」と叫んで、父の偽遺体にすがりついた。
 浦河の後ろに立っている駐在の岩田は、その光景を見て目頭を押さえ、「くっくっ」と言いながら部屋を出て行った。
「そうでしたか。いたしかたありません。申し訳ございませんが、ご遺体を霊安室に移させていただきたいのですがよろしいでしょうか」
「はぃ」
 蚊の鳴くような声で恵子はうなずいた。

裏葬儀屋(28)

2009年10月29日 | 短編小説「裏葬儀屋」
診療所は旅館から100メートルほど離れたところに建っている。小さな町の割には、意外と大きな白い建物であった。
浦河達三人は、取るものもとりあえず診療所へ急いだ。
診療所では、先ほど電話をくれた駐在の岩田が待っていた。
「どうも、どうも、浦川さん。また死人が出たようですなあ、もっとも今回は自殺ではなく病死のようですがのぉ」
「駐在さん、ご迷惑をおかけしました。こちらご家族の方々です」
「ああ、このたびはどうも。奥さんですかいのぉ。ご主人は、そちらの処置室におられるんでどうぞ」
妻の恵子はハンカチで口元を押さえ、泣きながら(泣く演技をしながら)そそくさと処置室に向かった。娘の理穂は、手を口に当て本当に泣きながら母の後を追った。
(娘のほうが演技がうまいな)
浦河はそう思ったが、口に出して言うわけにもいかず、駐在に会釈をして二人の後に続いて処置室に入った。

裏葬儀屋(27)

2009年10月28日 | 短編小説「裏葬儀屋」
 三人は、それぞれ場所を決めて探し始めた。さほど大きくない旅館なので探す場所は限られている。10分もしないうちにそれぞれの持ち場を探しつくしてしまったが、見つけることができなかった。
 三人は、フロントの前に集まり首をひねった。
「こうなると、外に出たとしか考えられません。しかし・・」
 浦河はそう言うと旅館の玄関から外に目をやった。田舎のため街灯が少なく漆黒の闇が広がっている。
「とにかく、探しに行きましょう。薬を飲んでから30分は経過している。もうどこかで倒れているかもしれません」
 浦河はあせっていた。今まで35回実行してきたが、こんなケースは初めてだった。確かに副作用の話は聞いていたが、今まで一度も起きたことはない。実際に起こるとは思ってもいなかった。とにかく3時間以内に探し出し、解毒剤を打たなければ山田社長は本当にあの世行きである。
 三人が、懐中電灯を持って外に出ようとしたとき、フロントの電話が鳴った。
 内線ではなく、外からの電話だった。フロントにはたまたま誰もいなかったので、浦河がでるしかなかった。
「もしもし・・」
「あーー、駐在の岩田ですが、お宅の浴衣を着た男の人が道っぱたで倒れとったんで、診療所に連れていったぞい」
「え、あ・ありがとうございます。その方の具合はどうですか」
「あ~、なんかあぶなそうだったなぁ、外傷はなかったようだが、とりあえず、今先生が診とるよ」
「わかりました。すぐ診療所へ伺います」

裏葬儀屋(26)

2009年10月27日 | 短編小説「裏葬儀屋」
「お父さんがいなくなって何分経ちますか」
「10分だと思います」
「すると、薬を飲んでから20分位ですね」
 浦河は、あごに手をあててちょっと考え、はっと気がついたように理穂を見返した。
「あの薬は、まれに副作用が出ます。仮死状態になる途中、意識が朦朧としてきて夢遊病のようにふらふらと歩き回る場合があるんです。多分お父さんは、そんな状態になり無意識のまま部屋を出てしまったのではないでしょうか。そうすると時間的にもそんなに遠くへは行ってないと思います。まだ旅館の中にいると思いますので、手分けして探しましょう。ただし、他のお客様には気付かれないよう静かに行動してください」