★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(12)

2014年03月20日 | 短編小説「義腕の男2」
「行き先はここだ」
 壁面に大きく映し出された地図には見覚えがある。
「・・イスラン公国・・ですか」
 イスラン公国とは、皇帝を名乗るイポロン三世という人物が治める独裁国で、我がユーリ連邦と戦争状態にある。観光気分が一気に吹き飛び、なにやらきな臭い内容になってきた。
「そうだ。知っているように、ならずもの国家指定されているイスラン公国は、豊富な地下資源を基に軍事力の強化を図っている。その一環としてクリス博士は誘拐され、ここN市にある研究施設Cビルに軟禁、強制的に研究を続けさせられているらしい」
 壁に映し出されているイスラン公国の地図は、N市がズームアップされ、さらにその郊外にある大きなビルが映し出された。
「実は、今回の協力要請とは関係なく、対イスラン公国戦略参謀本部では、既にこの研究所の重要性を認識しており、10日後にこのCビルを予告空爆する作戦を進行中だ。そこで、その予告空爆の混乱に乗じて博士を救出する、というのが今回のミッションの概要だ」
 確かに、空爆予告をされると、その施設は蜂の巣をつついたように大騒ぎになる。それを利用するというのは良い手だろう。
「いつものように詳細はそのカードに入っている。今回のミッションは支援が中心だ。できるだけ協力しノスリル共和国に恩を売るのが本当の狙いと言っても過言ではない。その点を理解して行動するように」
 そういうことか。協力要請のターゲットと、すでに実行中の攻撃プログラムがたまたま一致し、単なる救出活動への協力、つまり俺一人を追加するだけでノスリル共和国の最新技術を手に入れられる、濡れ手に粟というやつだ。うまいことを考えたものだ。まあ、何であれ、俺にとってはできることをやり、無事生還するのが第一目標ということか。

義腕の男2(11)

2014年03月18日 | 短編小説「義腕の男2」
 今まで印象派の絵画がかかっているように見えた壁面は、准将の視線にあわせ巨大なモニターに変わり、地図が映し出された。
 前に来たときは、腕時計内蔵型コントローラで操作していたはずだが、今日は腕を動かさずにモニターの操作を行っている。
「あ、もしかして思考感応型コントローラですか?」
 部屋に入った時から気付いていたが、准将の右耳に見慣れない装置が付いていた。難聴になってしまい補聴器でも着けているのかな位にしか思わなかったがどうやら最新の機械らしい。
「ああ、気が付いたか。そうだ、これはノスリル製の脳波を利用したコントロールシステムBMIの試作品だ。身体を動かさなくとも考えるだけで色々な機器の操作ができる。このシステムにもクリス博士の理論が利用されているということだ。今回の協力により技術供与された」
 なんだ、正義だ、国際間の体面だなどなんのかんの言っていたが、結局我が国はこの技術が欲しかったのか。
 そんなことを思っていると、部屋の電気がチカチカと点滅し始め、窓のブラインドが動き、大きなマホガニー製の机の上に穴が開き良い香りのコーヒーが出てきたりと、一斉に電気製品が動き始めた。
「ただ、操作に若干の慣れが必要だな。まあコーヒーでも飲んでくれ」
 准将はニコリともせず、誤動作で出てきたコーヒーを勧めてくれた。誤動作の割りにちゃんと暖かく、味は悪くない。

義腕の男2(10)

2014年03月15日 | 短編小説「義腕の男2」
 時間通りにヤマト准将のオフィスに着いた俺は、挨拶もそこそこに、いつものようにミッションデータカードを渡されながら概要を聞いた。
「今回の作戦は、我がユーリ連邦の同盟国ノスリル共和国との連携による人質救出だ」
 大きな本皮製椅子にすっぽりはまった巨体を微動だにせずヤマト准将は続けた。
「約2年前、ノスリル共和国のクリス博士が拉致誘拐された。クリス博士とは、生命科学分野の権威で100年に一人の天才と言われる人物だ。世間的には、誘拐ではなく行方不明と発表されていたが、秘密裏に捜索が進められ、最近になってようやくある国の研究所に軟禁されていることが判明した。
 本来、救出活動はノスリル共和国が独自で実施するものだが、中尉も知っているようにノスリル共和国は技術立国であり、軍事力は専守防衛軍しか持っておらず、他国に派遣できる実働部隊は正式には存在しない。だが、軍が動けばノスリルの憲法にも抵触する。そこでノスリルでは他国へも部隊を派遣できる同盟国の我々ユーリ連邦に協力依頼をするという形をとることにした。
 我々とすれば、同盟国からの要請であること、なにより拉致誘拐とは人道上許せない行為であるという正義の立場から協力するのは当然ということで、ユーリ連邦軍が正式に協力依頼を受けることになり今回の作戦が発動した。
 だが、実効的にはノスリルにも優秀な特殊工作部隊が非公式に存在しており、その部隊が作戦を実行することとなる。我がユーリ連邦軍としても国際間の国のこじつけに兵士の命を懸けるつもりは毛頭ない。だが、表面上あくまでユーリ連邦が活動した形にするため、必要最小限の人員を派遣することとなった」
「必要最小限ということは、つまり俺一人ということですか」
「そうだ、今回のミッションはあくまでノスリルが主体だ。我々は形さえ整えばいい」
「なるほど、つまり、その博士が軟禁されている国に行ってノスリルの救出作戦に同行してこいということですかね」
「そういうことだ」
「そりゃ、結構楽そうですね。観光気分でいけるのかな」
 今回中止にされた旅行の代わりになるかな~などと不埒なことを考えていると、准将は何も答えず視線を壁の方に向けた。