★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

彗星の時(63)

2012年03月29日 | 短編小説「彗星の時」
「うーん。ケイン様のためとあらばなんとかしなければ。そうだ、ジュンサイ様に頼んでみましょう。丁度御前会議をしているはずですし、一番早いかもしれません」
 そう言って、ヤーコンは一歩下がると右手を顔の前に上げ不思議な形の印を結び、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。しばらくして印を解きふーっと息を吐き出してにっこりと笑った。
「今、ジュンサイ様にお願いしました。そういうことであればすぐに王の間に来るようにと。女王様に話を通しておいてくれるそうです。女王様は近年稀に見る名君と誉れ高きお方。必ずやお力になっていただけます。早速参りましょう」
魔導師と異世界の戦士の二人は、足早に『操りの間』を出て王の間へと向かった。

 王の間では、女王ライラが王の座に座り、その下に重臣たちが左右に並んで待っていた。
皆、どこかしら落ち着かない雰囲気を漂わせている。
 ケインがすでに天神の力で地の国の軍に対抗すべく『操りの間』に入ったこと、シャインという超古代の戦士のこと、そしてシャインが宝物庫に入りたいと言っていること等は、ジュンサイを通じて女王達の耳に入っていた。
「そなたが、超古代から来たというシャインと申す者か?」
 女王はシャイン達が王の間に入り、傅くとすぐに聴いた。
「はい」
 品定めをするような目つきでシャインを一瞥し横に控えているジュンサイに目配せをし、ジュンサイのうなずきを確認すると改めて聴いた。

彗星の時(62)

2012年03月25日 | 短編小説「彗星の時」
「おおぉ、、なんだこれは!」
「[イオノスⅣ]の接続端末のひとつです。簡単な情報の参照が可能です」
シャインは壁に手を触れたまま画面を見つめ、ぶつぶつとつぶやいた。
「・・このセンターはほとんどの機能が失われ、増築された王宮と一体化しているが、、融合炉がまだ運転している・・稼働率0.5%。・・コントロールルームはそのエネルギーにより継続稼働中。・・・ん、武器庫もまだ生きている。在庫は・・ほとんどないようだが・・確認が必要・・・。ヤーコン殿!」
突然名前を呼ばれヤーコンはギョッとした。
「な、なにか」
シャインは画面に映っている一点を指さしている。
「この武器庫・・、ここは今の王宮で言えば、どこになるのですか。早急にここに行きたいのですが」
ヤーコンは頭をひねりながら画面を見つめ、
「えっ?・・ああ、これは王宮の見取り図ですね。・・ええと・・ここが、王の間で・・もしかしてここは王家の宝物庫じゃないですかね。・・えっ・・ここへ行きたい?」
「はい、ぜひ、ケイン殿のためにどうしても行って確認しなければなりません。しかもすぐに」

彗星の時(61)

2012年03月22日 | 短編小説「彗星の時」
ケインは『聖なる扉』に入る前にヤーコンに尋ねた。
「あれ?そういえばジュンサイ様はどうしたの」
「はい、ジュンサイ様は『地の国』の進軍の知らせを受けて、女王様や大臣達との会議に出られています」
「そうか、じゃあ、ヤーコン導師、女王様に伝えてください。『地の国』の軍にはケインが天神の力で立ち向かいますので、『天の国』の軍は、王都の守備に全力を傾注してください、と。それから、このシャインさんは、超古代から来た人で、完全に僕の味方だからよろしくね」
ケインはそう言うと蒼白な顔にむりやり笑顔を浮かべ、シャインと供に『聖なる扉』の中に消えていった。
 しばらくすると、シャインだけが『聖なる扉』から出てきた。
「ケイン様はいかがですか」
シャインは普段でさえ無表情なのだが、さらに若干暗い感じに眉を寄せ、
「前回の接続の影響が残っているので、あまり良いとは言えませんが、[イオノスⅣ]との接続を行っているところです。」
と言いながら、扉と反対側の何もない壁面に近づいていき、壁に軽く手を触れた。すると、灰色の壁が突然光りだし、様々な模様が映し出され始めた。

彗星の時(60)

2012年03月20日 | 短編小説「彗星の時」
「全軍?じゃあ戦鉄牛なんかも来てるの?」
ケインはベッドから降りながら聞いた。
「はい、偵察隊からの報告によりますと、戦鉄牛の数はおよそ80、これまで確認された数より30体ほど増えています。それに加え、見たこともない巨大な動く針山が向かっているとのこと・・」
「動く針山?」
「はい。多分戦鉄牛と同じように超古代の遺物と考えられますが、大きさはちょっとした小山くらいあり、形はお椀を伏せたような感じで、背中には沢山の突起物が生えているそうです。それが本隊の中央に位置し、軍の中心のようになって我が国へ向かっているとのことです」
身支度を整えたケインはシャインに向かって言った。
「僕はいくよ。地の国の軍を止めるには天神の力しかないよ」
「はい、いたしかたありません。ですが、体調には十分注意してください。まだ前回の接続でのストレスが抜けきったわけではありません」
ふらついているケインをサポートしながらシャインが言った。
「うん、判った。とにかく急ごう」
三人は再び『操りの間』へ足早に向かっていった。

彗星の時(59)

2012年03月13日 | 短編小説「彗星の時」
「条件を備えた人?」
「はい、王族で碧玉色の瞳を持つ15歳の男子、というのが伝説の天神の力を手に入れる者の条件・・これは、血統的に[イオノスⅣ]との接続に耐え平常心を保ちうる可能性が高い人間、なのです。元々天の国の王族の祖先は、統治AI[イオノスⅣ]の管理者でした。彼らは遺伝子的に人工AIとの接続に難がなく、逆にAIを操る能力に長ける家系でした。特にその能力が高い人間の特徴が眼の色だったのです。15歳という年齢は、耐久力と精神の成長のバランスが一番良い時ということです。しかし長い年月で、遺伝的特徴も薄れ、AI自体も老朽化が進んできています。あまり長時間の接続はやめた方が良いと思います」
「そうか。シャインさんもすっかり昔の記憶を取り戻したんだね」
「はい。すべての機能は正常に動作しています」
「名前は良かったの?」
「元々製造番号しかありませんので、マスターに付けて貰ってよかったのです」
「そっか。これからもよろしく頼むね」
「それより、ご気分はいかがですか」
だいぶ良くなったと言おうとした時、部屋の扉が開いてヤーコンが飛び込んできた。
「ケイン様。敵が、『地の国』の大軍が迫っています。規模からすると数千の軍勢かと思われます。地の国ほぼ全軍が一気に決着をつけるかのように進撃してきております」

彗星の時(58)

2012年03月12日 | 短編小説「彗星の時」
「うん。あの部屋で亡くなったので、誰も連れて帰ることができなかったんだ。僕達王族のご先祖様だもんね。丁重に葬ってあげないと・・」
そう言うと、ケインは足元をふらつかせ倒れそうになった。
 一番近くにいたジュンサイが、かろうじて支えはしたものの、ケインの疲労はピークに達していた。
「ケイン殿には休息が必要だ。早急に部屋にお連れし、十分な栄養と睡眠をとらせてください」
シャインがヤーコンに依頼すると、ヤーコンはそそくさと動き始めた。
「おお、そうだな。死んだ者より生きている者の方が何百倍も大切だ。ささ、ケイン様。お部屋へ戻りましょう」

 暗闇の中を轟音と供に光りの玉が幾重にも飛んで、ぶつかった物を全て破壊し燃やし尽くしていく。壊されるものは、建物であったり、乗り物であったり、人であったり見境がない。男も女も子供も関係なく、まるで紙のように簡単に燃えていく。空には黒い影の飛行物体が無数に飛び交い、地上に爆弾をばら撒き破壊の限りを尽くし、自身も地上からの攻撃で火を噴き落ちていく。
「なんだこれは・・人が虫のように死んでる・・・戦争・・地獄のようだ・・」
はっと眼が覚めて、自分はベッドの上で寝ていることに気がついた。
「お目覚めですか。ケイン殿」
ベッドの傍らに立っているシャインが静かに声をかけた。
「・・夢か・・」
全身にべったりと気持ち悪い汗をかいていた。
『操りの間』から出てヤーコンたちと話をしているうちに気分が悪くなり、、までしか覚えていない。いつの間にか自分の部屋の寝具の中で寝ていた。
「シャインさん・・僕は・・」
「『操りの間』を出られてすぐ、気を失われました。[イオノスⅣ]との接続は、条件を備えた人でもかなりのリスクが伴います。ご注意ください」

彗星の時(57)

2012年03月09日 | 短編小説「彗星の時」
「とりあえず、この部屋をでて一旦休憩しましょう」
「そうだね。そうしようか。。あ、そうだ。シャインさん、お願いがあるんだけど・・そこに眠っているカール大帝を運んでくれないかな」
 シャインは、一瞬何のことか理解できず首を傾げたが、横たわっているミイラを見つけるとすぐに納得したように答えた。
「・・・わかりました。前マスターのカール大帝ですね。ここで亡くなられていたんですね」
「うん、多分シャインさんがさっき言った、[イオノスⅣ]との接続の負荷が原因じゃないかな」
「多分そうでしょう。ケイン殿も気をつけてください」
 シャインはそう言うと、ケインを優しく立ち上がらせ、大丈夫なのを確認すると、カール大帝の亡骸に近づいていった。

「おお、ケイン様。ご無事でしたか!」
『聖なる扉』が開き、ケインが戻ってきたのをジュンサイが見つけ声を上げた。
「な、、シャイン殿は何を持っておられるのだ」
 ケインの後から出てきたシャインを見たヤーコンは、シャインが抱えているものに気がついた。
『操りの間』から廊下に出てきたケインは顔色も悪く疲れきっていたが、質問をしたくて仕方ない様子の二人を見返し、部屋の中で起きた事柄をかいつまんで説明した。
「すると、その亡骸はあのカール大帝なのですか」
 恐れおののいたヤーコンは、数歩後ずさりしたが、興味津々の目つきでシャインが抱えているミイラを見つめていた。

彗星の時(56)

2012年03月07日 | 短編小説「彗星の時」
 ジーザ王子は、振り返ると副官に向かって叫んだ。
「全軍に伝えよ。『地の国』全てを挙げて進撃せよ。目指すは『天の国』の王宮ぞ!」
王子は再び父王ガーゼルの方を向き、顔を高揚させながら言った。
「さあ、父上。この『砦』も動き出しますぞ。父上はお嫌いなようですが、古代の超兵器が再び地上に現れるのです」
 ジーザ王子の合図と供に、アルテ洞窟の奥で眠っていた『砦』が轟音とともに動き出した。
小さな山ぐらいあろうかというその物体は、大きく広げられた洞窟の出口を目指してゆっくりと前進していった。

「・・・ケイン殿、お気づきになられたか」
「・・あ・・、シャインさん。ぼ・・僕はどうしたんだろう・・」
ケインは[イオノスⅣ]のコントロールルームの中で、接続装置に繋がったまま気絶していた。
シャインは、ケインを優しく抱きかかえながら、ささやくように言った。
「[イオノスⅣ]との接続は、かなりの肉体的・精神的負荷が発生します。ケイン殿は初めての接続で影響が大きすぎ気を失ったのです。長時間の接続は程ほどにしたほうが良いでしょう」
「そうなんだね。ふー・・。あれ?シャインさんはこの部屋に入れるの?」
「私は、あなたのSPです。あなたが行けるところは、基本的に全て入れます」
「下に誰かいなかった?」
「ジュンサイ殿とヤーコン殿がおられましたが、『操りの間』の防衛システムが作動するのであの二人は入ることはできません」
「やっぱりムリか。ちょっとかわいそうだね、フフっ」
笑う顔は15歳の少年のままだったが、その瞳には大きな苦悩を抱えた深遠な輝きが宿っていた。