★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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彗星の時(76)

2012年07月23日 | 短編小説「彗星の時」
 司令室では、ヤーコンとシャインが機関室に入っていく画像を確認すると、ガーゼル王がジーザ王子を呼び寄せた。
「ジーザよ、撤収の準備をしろ。此度の出兵は失敗じゃ。引き上げの準備指令を廻せ」
「な、・・なんと申された!」
「今回の出兵は間違いだったと言ったのだ。やはりこのような超古代の悪魔の武器に頼ってはならぬのだ」
ジーザ王子は蒼白になりながら食い下がった。
「しかし、すでに『天の国』領土の奥深くまで進撃できていますし、戦鉄牛もまだ全く無傷です。このまま進めば王都まであとわずか、敵の反撃など恐れるに足りません。しかも・・」
 そこまで言いかけた時、順調に進んでいた「動く砦」は、急激に速度を落とし急停止した。そのショックで立っていた者は床に投げ出され、固定されていなかった物が部屋中に散乱した。さらに、転んでいる人々が立ち上がる間もなく、今までの進行方向とは全く別の方向に動き始めた。
辛うじて椅子にしがみついて難を逃れたガーゼル王は、様々な映像が映っていた壁面や操作盤が一斉に切り替わり、一人の少年の顔が映し出されたのに気がついた。
ケインだった。
複数のケインの映像が一斉に話し始めた。
「地の国の偉大な獅子帝、ガーゼル王よ。私は天の国のケインです。今回私は、天神の力を手に入れました。そして今、その力を使ってあなたの『動く砦』を私の統治下に置きました」
幾分青ざめた表情のケインが、優しくも自信を持った言い方で続けた。
「今、王が乗っておられるその砦は、王都への道をはずれ、天の国と地の国の境にある母なる『レマ湖』に向かっています。超古代の兵器は今度こそ永遠の眠りにつきます。青く深い湖の底で」
 映像を見ていたジーザ王子は、学者達に向かって怒鳴った。
「どうなっておる。なんなのだ。あの画面は。この砦はどこに向かっておるのだ!なんとかしろ!・・そうだ、戦鉄牛を呼び寄せろ!あれに護らせるのだ!」
「無理だよ」
ジーザの声が聞こえたかのように画面のケインが応えた。
「戦鉄牛も僕のものだよ」
 ひとつの画面がケインの顔から戦鉄牛の映像に切り替わった。
 30体位の戦鉄牛が隊列を組んで走っている。突然先頭を走っていた1体が土煙を上げて地面に倒れこんだ。それを見習うかのように、後続の戦鉄牛達も次々と倒れていく。その後、地面に半分めり込み動かなくなった戦鉄牛の胴体後部のハッチが爆発音とともにはじき飛び、下帯姿の操縦者が這い出してきた。頭に繋がった線をはずしながら、変わり果てた戦鉄牛の姿に呆然としている。

彗星の時(75)

2012年07月10日 | 短編小説「彗星の時」
 ヤーコンは混乱した。なぜこんなところにこんな子供が・・
 少女は何も言わず、べそべそ泣きながらトコトコと近づいてきた。
 ヤーコンは、呆然としたまま少女を見つめていた。
 少女は、ヤーコンに数メートル位まで近づいた時、豹変した。
 目にも止まらぬ速さで背中から自分の背丈程もある長い剣を抜き出し、ヤーコンに向かってものすごい勢いで振り下ろした。
 ヤーコンの記憶は一旦そこで途切れ、次に覚えているのは、目の前でシャインが少女と斬り合っている場面だった。それは、不思議な光景だった。体格的に優れた超戦士のシャインが妙に長い剣を扱っている少女に完全に押されている。押されているどころか、シャインの身体には無数の刀傷がついており、ヤーコンが見ているほんの数秒の間にも数箇所切られていた。
「子供の形をしたアンドロイドか!」
 ヤーコンは我に帰ると、印を結び呪文を唱え始めた、が、目の前で、少女の長剣が深々とシャインの胸に刺さり背中へ突き抜けた。
「カー!」
 ヤーコンが気合を入れて覇道を放つと少女の動きが一瞬止まった。
 シャインは、胸に剣が突き刺さったまま、ビームサーベルを横に薙ぎった。サーベルは的確に少女型アンドロイドの頚部を切り裂き、頭部が床にゴンと落ちて転がった。
 シャインは、腕を上げたまま固まったように立ち尽くしている。
「シャイン殿!」
 ヤーコンがよろめきながら近づいていくと、シャインは自分の胸から生えている剣を鷲づかみに引き抜き、顔を上げヤーコンの方に向き直し表情ひとつ変えず話しかけた。
「ヤーコン殿、突き飛ばしてすみません。最後のアンドロイドが小児タイプとは想定外でした。あれは、小型ですが基本性能は他のタイプと同じなもので、ああしないと間に合いませんでした。お怪我はありませんか?」
「・・・ええ、・・私は大丈夫です・・それよりシャイン殿こそ・・」
「・・ヤーコン殿、お願いがあります。既に私の稼動可能率は10%を下回り、自発歩行が困難になってきました。機関室の扉は開きましたので、私を操作盤まで連れていってもらえませんか」
 そう言いながら、シャインは尻餅をつき口端からピンク色の液体を流し始めた。
「・・わかりました」
 ヤーコンはシャインを抱きかかえ開いたばかりの機関室の扉の中へ入っていった。

彗星の時(74)

2012年07月01日 | 短編小説「彗星の時」
 壁に映った映像を見ていたガーゼル王は、顎鬚をいじりながら黙っていた。
 ジーザ王子は画面に映った二人の男と銀色の女の戦いを見て驚嘆の声を上げた。
「あれが、黒ずくめの戦士ですか・・もうひとりは、魔導師ですね。あの信じられないような動きの女といい、なんという戦いだ・・」
 味方がやられているにも関わらず、ジーザはその戦いに魅入られている。
「あの者どもはどこに向かっている?」
 ガーゼル王が学者に尋ねた。
「どうも、『砦』の中心に向かっているようです」
「中心?中心には何がある?」
 書物をめくり調べながら学者が答えた。
「・・・機関室です」
「機関室?」
「ここ司令室が頭であれば、機関室はいわば心臓になります」
「心臓とな・・うぅむ・・」
 それっきりガーゼル王は黙りこくってしまった。
 そうしている内にも、ガーゼル王たちの見ている映像には、シャインとヤーコンが次々と刺客を倒し、機関室へ向かっている姿が映し出されていた。


 シャインとヤーコンは、どこからともなく現れてくるアンドロイドを、超古代の武器と覇道のダブル攻撃でくぐりぬけ、ようやく機関室の扉の前に辿り着いた。
「ヤーコン殿、ここが機関室です。この中に操作盤があります」
 シャインはそう言うと、ブラスターキャノンを肩から降ろし、バックパックからビームサーベルを取り出した。
「おっ、光る剣ですね。直ったんですか」
「ええ、王宮でエネルギーを補充できました」
 そう言うと、シャインはビームサーベルを機関室の扉の横にある小さな窓のような部分の近くに差し込んだ。
 火花が上がり、扉の中で何か唸るような音が聞こえる。シャインは壁に刺さったビームサーベルの角度を変えたりして扉を開けようと細工していた。
 その時、ヤーコンは、なにか気配を感じ振り返ってみて驚いた。
 10メートル程先に、少女がいた。4.5歳だろうか、ぼろぼろの服を着た薄汚れた女の子が泣きながら立っている。