★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(93)

2017年11月26日 | 短編小説「義腕の男2」
 もうすぐ始まるのかな・・と思ったが、全く出てこない。
 なぁんだ。やっぱり単なる迷信なんだな・・と妙に納得していると、突然、ガクンと右肩に衝撃が走った。
 見ると、ロボットが絡まった右腕が、腕の付け根の部分からはずれ、強風にあおられな
がら俺から離れていく。
もちろん、自爆する予定のロボットを付けたままだ。
 俺の義腕は特注品で、そんなに簡単に外れるものではない。このタイミングで外れるなんて全く意味が分からない。
 だが、事実は事実。
 目の前で俺の一番大事な体の一部が銀色のロボットを付けたまま離れていく。
 と、その時、なぜかロボットの赤く輝くLEDの目と強風で細めた俺の目が合った。
 銀色ののっぺりした顔は何の表情もないはずだが、一瞬にやっと笑ったように見えた後、赤い目が点滅し始め、すぐに消えた。
 次の瞬間、爆音と白い閃光に包まれたところで俺の記憶は途切れた。
 
 次の記憶は、清潔な白い天井だった。
 どこかで見たことがあるような模様があるパネルで作られている天井だ。
 どこだったかな。何度も見たことがある・・・
 そうだ、この天井はユーリ連邦の軍病院の病室のものだ。 
 ミッションで負傷して帰還した時には、必ずこの柄の天井の病室に入院していた。
 まだ朦朧としている意識で、どうやってここまで帰って来たのか思い出そうと試みたがどうしても無理だった。

義腕の男2(92)

2017年11月22日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺は一瞬博士と視線を合わせると、ニッと笑い大声で叫んだ。
「キャプテン!こいつ爆発するぞ!ハッチを開けてくれ!」
 さっきから操縦に手こずっていたパイロットは、さらなるアクシデントに悲鳴を上げた。
「なに---っ!」
 だが、やはり軍人であるパイロットは対応が早い。驚愕しながらもすかさず後部ハッチの開閉スイッチを操作した。
 途端に機内は暴風が荒れ狂い、何かに捕まっていないと機外に吸い出される状態になった。
 いつ爆発するかわからないロボットを右腕に絡めた俺は、ハッチの先端が通れる程開くまで待たずに、わずかにあいた隙間目掛けて突っ込み、博士につけてもらった強力な左足をぶち込んだ。
 「ガッ」という鈍い音とともにぐっと開いた隙間から、俺は自爆するロボットとともに機外に飛び出した。
 何の準備もしていないスカイダイビングだ。
 眼も開けられない程風圧がすごい。
 耐え切れずくるりと上向きになった。
 空が青い。
 パラシュートもなく、この高度から落ちたら間違いなく命はない。それどころか、多分途中でこのロボットが爆発し、痛みも感じずあの世に行けるだろう。
 まあ、それも悪くない。
 すっかり覚悟を決めた俺は、右腕に元凶のロボットを付けたまま、飛び出してきた飛行機を見上げた。
 見る見るうちに遠ざかっていく。
 これだけ離れれば今爆発しても皆には影響はないだろう。
 ふと、人間、死ぬ直前には、それまで生きてきた記憶が走馬灯のように蘇るという言い伝えを思い出した。

義腕の男2(91)

2017年11月21日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺は、咄嗟に右手を手刀の形にし戦闘用フルパワーでロボットの胴体に叩きこんだ。
「ボシュ」
鈍い音とともに、俺の義腕は銀色の胴体に突き刺さり、勢い余って反対側から手が飛び出した。
 博士に迫っていたロボットは、自分の体から飛び出た俺の手をじっと見つめた後、はみ出ている俺の手を握りしめ、銀色でのっぺりし表情がないはずなのになぜか悲しい雰囲気を感じさせる頭部を俺の方に向けた。
 頭部で光っている緑色のLEDがゆっくりと点滅し始めた。
 何か聞こえる。
 さっき博士に向かってしゃべった音声と同じトーンだが、雑音が多く内容がよく聞き取れない。
 だが、一部聞き取ることができた。
「・・・・・・ザッ・・・自爆モードセット・・・・」
 博士にも聞こえたのだろう、恐怖から驚愕に変わった表情で俺を見つめた。
 俺は、ロボットに刺さった右腕を引き抜こうとしたが、反対側に飛び出した手をロボットに掴まれているため離れることができない。
 ロボットのLEDの点滅が徐々に早くなっていく。
 もう一度ロボットを腕から離そうと試みたが、頼りの義腕にまとわりついたロボットは俺の手を握りしめたまま固まっている。
 ここまでか。
 俺は瞬時に腹をくくった。
 特殊情報部員の宿命か、軍に入った時からこの判断に躊躇しない覚悟はできていた。

義腕の男2(90)

2017年11月19日 | 短編小説「義腕の男2」
 Mr.Jがロボットの腕にベルトをひっかけようとした時、銀色の胴体に何か光る文字が浮き出し始めた。
 まるで、パソコンの画面にコマンドが表示されるように次々と文字が流れていく。
 その文字に気が付いた博士はじっとその文字を凝視し、突然叫んだ。
「このロボット、AIも搭載しているわ!遠隔操作しなくても単独行動できるタイプよ!」
博士が言い終わると同時に、ロボットの頭部の赤いLEDが緑色に変わり、再び動き出した。
 その動きは、超空間通信による遠隔操作の時よりもかえって滑らかで人間っぽい。
 銀色のロボットは、頭部と思われる三角の部分で周りをぐるりと見渡し、少女博士を見つけるとすっと前に立ち、静かな声で淡々と言った。
「クリス博士ですね。わたくしとご同行願います。もし従っていただけない場合は、強制的に連行いたします」
 ロボットの姿を見ないで声だけ聴けば全く人間と変わらない。ちょっと抑揚が少ない感じがするだけだ。
 あっけにとられていたMr.Jは、はっと我に返ると持っていたベルトを握り直し、後ろからロボットを縛り上げようとした。
しかし、AI自立行動に切り替わったロボットは、後ろにも目が付いているかのように的確にしかも瞬時に手を回しMr.Jの顔面をを強打した。
 すごいパワーだ。
 2メートル近い獣人の巨体が、ロボットの片手の一振りで吹き飛び、また壁に激突し機体が大きく揺れた。
「なんだ?今度は何があったんだ?」
パイロットは、また機体の維持に全力をかけながら叫んでいる。
ロボットは何事もなかったかのように、博士に向かって手を伸ばした。
いつも年齢にそぐわない冷静な顔を崩さない少女が、真の恐怖を感じた瞳を震わせて身を縮めている。