★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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彗星の時(80)

2012年09月08日 | 短編小説「彗星の時」
「シャイン殿、今、王宮にいるジュンサイ様と相談をしました。覇道を使います。しかし・・この覇道はかなり難しい・・だがこれ以外手はない・・しかも、そなたにかなりの危険が降りかかるがよろしいか?」
「私の使命は、ケイン殿の護衛。ケイン殿が助かるのであれば、全くかまいません」
ヤーコンは、シャインがそう答えるのを判っていたかのように、銀の輪の麗音を出し続け、今までとは違った呪文を呟きながら、シャインに説明した。
「まず第一に、覇道102番、霊魂の離脱・・そなたの霊魂を一時的にその身体から離し、王宮に送ります。王宮のジュンサイ様は覇道105番を使い、そなたの霊魂を自分の身体に取り入れます。霊魂は元々自分の身体の記憶を持っています。覇道106番でその記憶に自分の身体を合わせます。そして見かけはそなたのジュンサイ様が『操りの間』に入ってケイン様を助け出す・・という段取りです」
「・・私に霊魂があるのですか?この半有機サイボーグに?」
口からだけでなく、手で押さえた胸の傷からも薄いピンク色の液体が流れ始めたシャインは、不思議な顔をして尋ねた。
「この世にある全て、生きているものだけでなく、いまこの世界に存在している全てのものに霊魂がある、というのが覇道の考えです。もちろんシャイン殿、そなたにも霊魂はあります。そして霊魂こそがそのものの本質なのです」
「・・・」
「では、時間がありません。早速取り掛かります」
ヤーコンはそう言うと、手に持った道具をシャインに向け突き出し、印を切りながら聞いたことの無い呪文を唱え始めた。

彗星の時(79)

2012年09月05日 | 短編小説「彗星の時」
「・・どういうことですか?」
「ケイン殿は、王宮の操りの間でイオノスⅢ・・天神の力と繋がっていらっしゃいますが、気絶してしまっているようです。操りの間に入れるのはケイン殿以外は私だけです。気を失っているケイン殿を助けられるのは私しかいませんが、この損傷状況では約一時間位で私の全機能は完全停止します。一時間以内に王宮に戻ることは不可能です」
「・・そ・そなたは後1時間しか生きられないということですか?!・・・ということは・・・ケイン様はカール大帝のように操りの間で死んでしまうと?」
「・・・・・」
 シャインは答えなかった。どんなに計算してもケインを救助できる確率は「0」だったのだ。
 ヤーコンはちょっとの間、呆然としていたが、なにかを思いついたように懐から銀の輪の付いた道具を取り出し、軽く振りながら呪文を唱え始めた。
 しばらくして呪文を止めるとシャインに聞いた。
「確か、操りの間に入る時に、ケイン様は何やら光りを浴び、その後見知らぬ女が出てきてケイン様を導いていったように見えましたが、あの光でケイン様本人かどうかを調べたんですか」
「・・はい、あの走査線で対象物をスキャンし判別します。血液など物理的な採取による判断は行いません」
「つまり、姿形で判断している・・いうことですね」
「・・・」
シャインの返事を待たず、ヤーコンは手に持った道具を頭上に持ち上げ再び振り始めた。銀の輪は心に響くような音色をあげた。