★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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義腕の男2(43)

2015年08月31日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺は、その直後意識を失ったのだろう、次の記憶は一気に場面が変わり、清潔なベッドの上の病院着の自分だった。そこは病室なのか、それとも何かの研究室なのか、白い壁のかなり広い部屋の一角で、ベッドの周りには様々な機器があり、それらから伸びた無数の線は俺の身体に繋がっている。装置類は時々、それぞれ独自の電子音を発し、ランプが点滅している。どうやら俺の身体をモニターしているようだ。
 人の気配がする。それも一人ではない、数人分を感じる。
 頭を上げて周囲を見てみると、俺のベッド以外に様々な実験器具やPC等が配置され白衣を着た研究員が数人作業していた。
 しばらくの間、記憶が混乱し自分がどこにいるのか、なぜそこにいるのか判らなかったが、俺の視界に映るように身を乗り出した少女の顔が見えた。
「気がついたようね。良かったわ」
 氷の器が熱風で溶かされ、一気に中身が出るように、記憶が蘇ってきた。
 クリス博士だ。
「ここは・・」
「Dビルの研究室の中よ。私のじゃないけど、医療設備は整っているわ」
その時俺は気がついた。
あれだけひどかった左足の痛みが全く消えている。まさか切断されたのか。確かに受けた傷の深さといい、受傷してからの経過時間といい、足をそっくり切ってもおかしくはない。そう思った俺は、首を上げ左足を見てみた。

義腕の男2(43)

2015年08月29日 | 短編小説「義腕の男2」
額に脂汗が噴出し始めた。
 少女がイスランに戻ると決断して俺の脚の手当ては大幅に遅くなった。あのまま脱出を続ければ、今頃は潜水艦の医務室である程度の手当ては受けていたはずだが、相変わらずの応急処置のまま揺れる車内で痛みが増してきている。
「発熱もしてきたみたいね」
少女は俺の額に手を当てて言った。
「ごめんなさいね。でもアレをあのまま放って置く事はできないのよ。Dビルに着けば、十分な手当てが受けられるから、もう少し我慢してね」
今度は熱と痛みのせいで朦朧とし始めた意識の下で尋ねた。
「アレって・・何なんだ・・」
「・・そうね、あなたには知る権利があるかもね・・いいわ、教えてあげる。私がイスランに拉致されて研究を強制されていたのは知っているわよね。」
「ああ、・・確か生命科学の権威だとか・・」
「ええ、私がイスランで研究していたのは、究極の戦士を作り出す方法よ」
「・・・究極の・・戦士・・?」
「そう、オイルマネーで潤っているイスランは、今、軍事力増強に躍起になっているわ。もちろん様々な兵器の開発も行っているけど、戦力の基本である兵士の質を上げるという分野にも力を入れていて、世界中からその分野の科学者をかき集めたの。私もその一人というわけ」
「・・そうか、拉致されたのは君ひとりだけじゃないんだ・・」
「研究は、数人でチームを組んでやってたんだけど、完成が近づいてきて私は身震いしたわ。この研究で作り上げる戦士は、まさに無敵。計算では10倍の戦力と同等に戦える。しかも歳をとらない。たとえ負傷してもあっという間に治ってしまう。敵にとっては悪夢のような軍隊になるわ」
「・・・それは・・もしかして・・あのMr.J・・なのか・・」
「えっ?あぁ、いいえ、ジェイは違うわ。彼は元々ああいう種族なの。でも研究開発の参考にしたことは事実ね。・・そう・・究極の戦士はジェイに近いかも知れないわね」
「・・そうか・・・だが・・それと・・これから・・・戻る理由と・・・どういう・・・」
かなり熱が高くなってきたのか、意識の混濁が激しくなってきた。
「・・もう喋らないで、寝たほうがいいわ」
「・・・  ・・・・・」
 俺の記憶は、この辺りから急に怪しくなり、霧の向こうの出来事をさらに曇りガラスを通して見ているかのような掴みどころのないものしか残っていないが、「・・ジェイ!早くして!やばいわ・・この人・・」という切羽詰ったような声が聞こえたような気がする。