★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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彗星の時(86)了

2012年12月08日 | 短編小説「彗星の時」
「・・・このアンドロイドとは、機械だと言ってました。つまり「物」なのです。しかしシャイン殿は、あの霊魂を見ても判るように、人間ではないが「生き物」です。その違いが問題なのではありませんか」
「ほう、そういうことか。・・では、「物」を霊魂の力で動かせれば良い訳じゃな。それならば話は簡単じゃ。何も100番台の難しい技を使う必要は無い。覇道の基本中の基本、霊魂の霊力の増加、気の注入じゃ」
 ジュンサイはそう言うと杖の動きを変化させ、より大きく動かした。銀輪の響きも大きくなる。
 新たな呪文が遺体安置所に響き渡った。
 間もなく銀色ののっぺりしたアンドロイドの身体が、薄ぼんやりと光り始め、表面が変化しみるみるうちに黒色のシャインの身体に変わっていった。
 さらに、その数十秒後には、新しいシャインが台の上に起き上がりジュンサイに話しかけた。
「急ごう、操りの間へ、ケイン様が危ない」

 数時間後、ケインは自室の寝具の上で目を覚ました。まだ治りきっていないのだろう、天井がぐるぐる回って見える。
 はっきり覚えているのは、ギガベースの遠隔操作アクセス権を取り戻し、レマ湖へ向かわせることに成功した辺りまでで、その後のことは、朦朧とした記憶の中でシャインに抱きかかえられイオノスとの接続が切れたこと等がぼんやりと浮かんでは消える。
「どうなったんだろう・・」
 漠然とした思いが頭を横切るが、何をどうしたら良いのか判らないし、身体も言うことをきかない。そう感じているうちにケインはまた深い眠りについた。

 ヤーコンは荒野の丘の上で意識を取り戻した。意識を取り戻したと言っても、今まで気絶でもしていたわけではなく、魂が離れていたので肉体が今目覚めたということで、ヤーコンの記憶は王宮へ飛んだ時から、帰ってくるまで全て残っている。
 肉体の眼を開けたヤーコンは、魂が離れていたのは1時間くらいだったはずだが、いつの間にかすっかり夜になっていたことに気が付いた。そういえば、霊魂となって王宮に飛んだときはもう夕方だった。
 傍らを見ると、シャインが横たわっていた。胸に開いた傷は乾ききり、ピンク色の液体を流していた口元はカサカサに固まっていた。

 シャインの霊魂は、アンドロイドに乗り移ってケインを抱きかかえ、操りの間から出てきたすぐ後、荒野に横たわっている本来の自分の身体が全機能停止したことを感じ取っていた。シャインの姿のアンドロイドは、ヤーコン達にケインを渡すと、ふっと笑って言った。
「皆さん、ありがとう。これで私も仲間のところへ帰れる・・」
シャインの魂は、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、アンドロイドの頭部から蒸気のように抜け出し、そのまま空中に霧散し消えていったのだった。

「・・シャイン殿・・」
ヤーコンは、涙をこらえて空を見上げた。
夜空には、一筋の大きなほうき星が輝いていた。

彗星の時(85)

2012年11月29日 | 短編小説「彗星の時」
「これがアンドロイドというものか、人の形はしているものの不気味なものよのう」
遺体安置所に置かれたケインを襲ったアンドロイドを見てジュンサイが言った。
 アンドロイドはシャインが倒した時と同じく、全身のっぺりとした銀色のまま横たわっていた。
「では時間がもったいない。早速はじめるとしよう。覇道の105番、霊魂の一体じゃ」
 ジュンサイはそう言うと銀の輪の付いた杖を大きく振り、音を響かせ始めた。
 その音に呼応して、シャインの魂はまた渦を巻いて回り銀色のアンドロイドに吸い込まれるように重なっていった。
 しかし、しばらく経っても横たわった銀色のボディには、何の変化も無い。
 ジュンサイの傍らに降り立ったヤーコンの霊が言った。
「うーむ、どういうことですかね。ピクリとも動きませんね。生きている霊魂が入ったのですから何かしらの動きがあるはずですが・・やはり、超古代の遺物には覇道は効かないのでは・・」
 杖を動かしながらジュンサイは確信を持って否定した。
「いや、覇道とは森羅万象、この世界の全て、万物の事象の真理を示したもの。たとえそれが時間を隔てた超古代のものであっても、この宇宙の理から外れるものではない。未熟な我々の導きが誤っているだけじゃ。よーく考えるのじゃ」

彗星の時(84)

2012年11月28日 | 短編小説「彗星の時」
 ジュンサイの傍らに立ったヤーコンの魂が言った。
「しかし、シャイン殿の霊魂が実体化しなければ操りの間にはいることができません。いったいどうしたら・・・」
「・・その通りじゃ、なにか良い手はないかのう・・」
 ジュンサイとふたつの霊魂は、行く手に詰まってしまった。
 その時、上で回っていたシャインの魂が聞いた。
「・・人間ではなくアンドロイドならば入れるのか」
 ヤーコンの魂が震えた。
「そうだ、ケイン様を襲ったメイドはシャイン殿と同じ超古代の機械だ。あれならば、なんとかなるかも・・」
「なんじゃ、それは?」
 ケイン達が自室でメイド型アンドロイドに襲われたことを知らないジュンサイにヤーコンが説明した。
「なるほど、他に良い考えもないし時間もない。やってみるしかあるまい。その機械は今どこに・・」
「死んだ人間と同じであれば、地下の遺体安置所のはず」
「地下か・・ふーむ。よし、では急ごう」
 ふたつの魂と白魔導師は、今いる塔の最上階からあたふたと地下へ向かった。


彗星の時(83)

2012年11月20日 | 短編小説「彗星の時」
 ジュンサイは目をつぶり、手に持った杖の動きを激しくし銀の輪の音を大きく響かせ、
不思議な調べの呪文を呟き始めた。
 すると、その波のような響きに呼応し、そのそれまでゆっくり回っていたシャインの霊魂が、渦に吸い込まれるように円を小さくしながらジュンサイの頭部に吸い込まれていく。
 やがて、霊魂の全てがジュンサイに収まった、と同時にジュンサイの呪文も銀の輪の動きも止まり、カッと目を見開いた。
 眼が血走っている。
 その口は苦しみにゆがみ、唸るような嗚咽を漏らし始めた。
 次の瞬間、全て収まったはずのシャインの魂が、沸騰した蒸気のように頭から抜け出て廊下の天上を回り始めた。
 ジュンサイは血の気の失せた白い顔をし、腰を落とした。
「だ、だめじゃ。こ、この者は人間ではない。魂を取り入れることができぬ、まさに超古代の文明で造られた異型のもの、我々とは根本的に違うものじゃ・・」
 荒い息遣いで天井付近を回っているシャインの魂を見ながら呟いた。

彗星の時(82)

2012年11月19日 | 短編小説「彗星の時」
 王宮では、ヤーコンから覇道で連絡を受けたジュンサイが、操りの間の前でシャインの魂が来るのを待っていた。手に持った杖の銀の輪をゆすり清涼な音を響かせている。霊魂を呼び寄せる覇道を使ってシャインの魂を導いていた。
 その呼びかけに従ってシャインの魂は、すでに王宮に到着しジュンサイの真上を回っていた。
「おう、来たか。シャインよ。ご苦労である。おぬしの魂は見かけによらず実に純粋な色をしておるな。まるで子どものようじゃ。おっ?ヤーコンではないか。そなたも来たのか」
シャインの霊魂に続き、ヤーコンの魂も到着したらしい。
「ジュンサイ様、幻の100番台の覇道、どうしても最後まで見届けたくて、あえて私もやってきました。お許しください」
「うむ、よかろう。早速はじめるぞ。霊魂が身体から離れていられる時間は短い。あまり長いと戻れなくなってしまう。では、覇道105番、霊魂との合体じゃ」

彗星の時(81)

2012年10月17日 | 短編小説「彗星の時」
 銀の輪の麗音が更に不可思議な響きに変わった頃、シャインの身体に変化が起きていた。
 薄暗くなりつつある薄暮のなかで、シャインの身体が薄ぼんやりと光り出した。ヤーコンが額に汗をかきながらさらに呪文を唱え続けると、ぼんやりと光っているシャインの身体が二重に振れ出し、するっと抜けるようにシャインと同じ姿のものがシャインの頭上に浮かび上がった。シアークの町に入る時に使った影法師の覇道にも似ているが、霊魂が関わる根本的な部分で大きく違う覇道だった。
 ヤーコンは、シャインの魂が分離するのを確認すると、呪文の種類を変え、手に持った銀の道具を大きく振りかざした。浮かび上がったシャインの霊魂は、その手の動きに呼応するかのように大きく頷くと、ものすごいスピードで王宮の方向に飛びだし、あっという間に視界から消え去った。後に残ったシャインは、光るのをやめ地面に倒れ伏し動かなくなっていた。
 それでもヤーコンは、銀の輪を振るのを止めず、更に違う呪文を発し始めた。しばらくの間、銀の輪の音と呪文が続いていたが、突然ぱったりと止むと、ヤーコンは地面に倒れこんだ。ヤーコンの身体がシャインと同じようにぼんやりと光っている。すると、ヤーコンの身体の上にもう一人のヤーコンが浮かび上がった。
「・・どうなるか、見届けねばなるまい・・非常に興味深い・・」
浮き上がったヤーコンの霊魂は、そう言うとシャインが飛んでいった方向に飛び始めた。

彗星の時(80)

2012年09月08日 | 短編小説「彗星の時」
「シャイン殿、今、王宮にいるジュンサイ様と相談をしました。覇道を使います。しかし・・この覇道はかなり難しい・・だがこれ以外手はない・・しかも、そなたにかなりの危険が降りかかるがよろしいか?」
「私の使命は、ケイン殿の護衛。ケイン殿が助かるのであれば、全くかまいません」
ヤーコンは、シャインがそう答えるのを判っていたかのように、銀の輪の麗音を出し続け、今までとは違った呪文を呟きながら、シャインに説明した。
「まず第一に、覇道102番、霊魂の離脱・・そなたの霊魂を一時的にその身体から離し、王宮に送ります。王宮のジュンサイ様は覇道105番を使い、そなたの霊魂を自分の身体に取り入れます。霊魂は元々自分の身体の記憶を持っています。覇道106番でその記憶に自分の身体を合わせます。そして見かけはそなたのジュンサイ様が『操りの間』に入ってケイン様を助け出す・・という段取りです」
「・・私に霊魂があるのですか?この半有機サイボーグに?」
口からだけでなく、手で押さえた胸の傷からも薄いピンク色の液体が流れ始めたシャインは、不思議な顔をして尋ねた。
「この世にある全て、生きているものだけでなく、いまこの世界に存在している全てのものに霊魂がある、というのが覇道の考えです。もちろんシャイン殿、そなたにも霊魂はあります。そして霊魂こそがそのものの本質なのです」
「・・・」
「では、時間がありません。早速取り掛かります」
ヤーコンはそう言うと、手に持った道具をシャインに向け突き出し、印を切りながら聞いたことの無い呪文を唱え始めた。

彗星の時(79)

2012年09月05日 | 短編小説「彗星の時」
「・・どういうことですか?」
「ケイン殿は、王宮の操りの間でイオノスⅢ・・天神の力と繋がっていらっしゃいますが、気絶してしまっているようです。操りの間に入れるのはケイン殿以外は私だけです。気を失っているケイン殿を助けられるのは私しかいませんが、この損傷状況では約一時間位で私の全機能は完全停止します。一時間以内に王宮に戻ることは不可能です」
「・・そ・そなたは後1時間しか生きられないということですか?!・・・ということは・・・ケイン様はカール大帝のように操りの間で死んでしまうと?」
「・・・・・」
 シャインは答えなかった。どんなに計算してもケインを救助できる確率は「0」だったのだ。
 ヤーコンはちょっとの間、呆然としていたが、なにかを思いついたように懐から銀の輪の付いた道具を取り出し、軽く振りながら呪文を唱え始めた。
 しばらくして呪文を止めるとシャインに聞いた。
「確か、操りの間に入る時に、ケイン様は何やら光りを浴び、その後見知らぬ女が出てきてケイン様を導いていったように見えましたが、あの光でケイン様本人かどうかを調べたんですか」
「・・はい、あの走査線で対象物をスキャンし判別します。血液など物理的な採取による判断は行いません」
「つまり、姿形で判断している・・いうことですね」
「・・・」
シャインの返事を待たず、ヤーコンは手に持った道具を頭上に持ち上げ再び振り始めた。銀の輪は心に響くような音色をあげた。

彗星の時(78)

2012年08月05日 | 短編小説「彗星の時」
 ギガベースは、砂埃を上げながら『レマ湖』へ向かう荒野を進んでいる。
 その姿を、ヤーコンとシャインは近くの丘の上から見つめていた。
「あの速度ですと、1時間程でレマ湖に着きますな」
 ヤーコンがシャインの隣に立ったまま言った。シャインは、胸に開いた穴を手で押さえ地面に座ってギガベースを眺めていた。
 そう言っている間に、ギガベースの複数の出入り口から人がバラバラと出てきた。かなりのスピードで走っているにも関わらず、皆、飛び降りて地面に転がっている。
「おぉ~、皆出てきますな~、あぁ、あんな転び方じゃ怪我をするぞ。まあ、ケイン様にレマ湖に沈めるぞと言われたら、仕方ありませんな」
 二人は、ギガベースの機関室で「イオノスⅢ」からの遠隔操作モード設定に切り替え、操作盤のモニターにケインが映ったのを確認してから、なんとか脱出に成功していた。
「しかし、あの「砦」は、もうケイン様の手の内に入ったのですから、なにもレマ湖に沈めなくても良いのではないですか」
 シャインは、口端から流れ出る液体をそのままにかすれ声で答えた。
「ギガベースの本当の力はあんなものじゃありません。あれが装備している兵器がフル稼働すれば、天の国はおろかこの大陸が全て吹き飛ぶほどの力があります。天の国も含め今の時代のどの国でも使いこなすことはできません。あってはならない超古代の禍物なのです」
「ふむ、確かにあの砦も戦鉄牛も、この世のものとは思えないようなものですからな」
 シャインはヤーコンを見上げると微かに微笑んだが、次の瞬間、遠くを見つめるような目つきになり呟いた。
「・・ケイン殿・・」
「どうされた。シャイン殿、ケイン様になにかあったのですか?」
 シャインは、しばらくの間ピクリともせず固まったようになり何か呟いていたが、やがてヤーコンの方を見た。
「ケイン殿と連絡がつきません。イオノスⅢとの接続は維持されているようですが、返答がありません」

彗星の時(77)

2012年08月04日 | 短編小説「彗星の時」
 こめかみに指を当てて映像を見ていたガーゼル王は、無敵の戦鉄牛が次々と倒れていく画像を見つめながら椅子からゆっくり立ち上がり、ケインの映像に視線を移して言った。
「天神の力を手に入れたということは、カール大帝以来の大帝の誕生ということですかな?
ケイン殿?」
 やはり、ケインには聞こえているのであろう。ケインの声が司令室中に響いた。
「そういうことになります。今、再び天の国に大帝が誕生しました。私はケイン大帝です」
「・・そうですか。そういうことであれば、新しき王の誕生に敬意を表して、我々は引き上げましょう。お祝いは後ほどお送りいたします。ジーザ王子よ、全軍に指令を廻せ。祖国へ帰還せよと」
ジーザ王子は、握ったこぶしを震わせながら頷いた。
「・・はっ、判りました。全軍へ伝えます・・」
「我々も、この砦から退去する。皆、ご苦労であった。撤収じゃ!」
そう言うと、ガーゼル王は朱色のマントをひるがえして、振り向きもせず、司令室から出て行った。


彗星の時(76)

2012年07月23日 | 短編小説「彗星の時」
 司令室では、ヤーコンとシャインが機関室に入っていく画像を確認すると、ガーゼル王がジーザ王子を呼び寄せた。
「ジーザよ、撤収の準備をしろ。此度の出兵は失敗じゃ。引き上げの準備指令を廻せ」
「な、・・なんと申された!」
「今回の出兵は間違いだったと言ったのだ。やはりこのような超古代の悪魔の武器に頼ってはならぬのだ」
ジーザ王子は蒼白になりながら食い下がった。
「しかし、すでに『天の国』領土の奥深くまで進撃できていますし、戦鉄牛もまだ全く無傷です。このまま進めば王都まであとわずか、敵の反撃など恐れるに足りません。しかも・・」
 そこまで言いかけた時、順調に進んでいた「動く砦」は、急激に速度を落とし急停止した。そのショックで立っていた者は床に投げ出され、固定されていなかった物が部屋中に散乱した。さらに、転んでいる人々が立ち上がる間もなく、今までの進行方向とは全く別の方向に動き始めた。
辛うじて椅子にしがみついて難を逃れたガーゼル王は、様々な映像が映っていた壁面や操作盤が一斉に切り替わり、一人の少年の顔が映し出されたのに気がついた。
ケインだった。
複数のケインの映像が一斉に話し始めた。
「地の国の偉大な獅子帝、ガーゼル王よ。私は天の国のケインです。今回私は、天神の力を手に入れました。そして今、その力を使ってあなたの『動く砦』を私の統治下に置きました」
幾分青ざめた表情のケインが、優しくも自信を持った言い方で続けた。
「今、王が乗っておられるその砦は、王都への道をはずれ、天の国と地の国の境にある母なる『レマ湖』に向かっています。超古代の兵器は今度こそ永遠の眠りにつきます。青く深い湖の底で」
 映像を見ていたジーザ王子は、学者達に向かって怒鳴った。
「どうなっておる。なんなのだ。あの画面は。この砦はどこに向かっておるのだ!なんとかしろ!・・そうだ、戦鉄牛を呼び寄せろ!あれに護らせるのだ!」
「無理だよ」
ジーザの声が聞こえたかのように画面のケインが応えた。
「戦鉄牛も僕のものだよ」
 ひとつの画面がケインの顔から戦鉄牛の映像に切り替わった。
 30体位の戦鉄牛が隊列を組んで走っている。突然先頭を走っていた1体が土煙を上げて地面に倒れこんだ。それを見習うかのように、後続の戦鉄牛達も次々と倒れていく。その後、地面に半分めり込み動かなくなった戦鉄牛の胴体後部のハッチが爆発音とともにはじき飛び、下帯姿の操縦者が這い出してきた。頭に繋がった線をはずしながら、変わり果てた戦鉄牛の姿に呆然としている。

彗星の時(75)

2012年07月10日 | 短編小説「彗星の時」
 ヤーコンは混乱した。なぜこんなところにこんな子供が・・
 少女は何も言わず、べそべそ泣きながらトコトコと近づいてきた。
 ヤーコンは、呆然としたまま少女を見つめていた。
 少女は、ヤーコンに数メートル位まで近づいた時、豹変した。
 目にも止まらぬ速さで背中から自分の背丈程もある長い剣を抜き出し、ヤーコンに向かってものすごい勢いで振り下ろした。
 ヤーコンの記憶は一旦そこで途切れ、次に覚えているのは、目の前でシャインが少女と斬り合っている場面だった。それは、不思議な光景だった。体格的に優れた超戦士のシャインが妙に長い剣を扱っている少女に完全に押されている。押されているどころか、シャインの身体には無数の刀傷がついており、ヤーコンが見ているほんの数秒の間にも数箇所切られていた。
「子供の形をしたアンドロイドか!」
 ヤーコンは我に帰ると、印を結び呪文を唱え始めた、が、目の前で、少女の長剣が深々とシャインの胸に刺さり背中へ突き抜けた。
「カー!」
 ヤーコンが気合を入れて覇道を放つと少女の動きが一瞬止まった。
 シャインは、胸に剣が突き刺さったまま、ビームサーベルを横に薙ぎった。サーベルは的確に少女型アンドロイドの頚部を切り裂き、頭部が床にゴンと落ちて転がった。
 シャインは、腕を上げたまま固まったように立ち尽くしている。
「シャイン殿!」
 ヤーコンがよろめきながら近づいていくと、シャインは自分の胸から生えている剣を鷲づかみに引き抜き、顔を上げヤーコンの方に向き直し表情ひとつ変えず話しかけた。
「ヤーコン殿、突き飛ばしてすみません。最後のアンドロイドが小児タイプとは想定外でした。あれは、小型ですが基本性能は他のタイプと同じなもので、ああしないと間に合いませんでした。お怪我はありませんか?」
「・・・ええ、・・私は大丈夫です・・それよりシャイン殿こそ・・」
「・・ヤーコン殿、お願いがあります。既に私の稼動可能率は10%を下回り、自発歩行が困難になってきました。機関室の扉は開きましたので、私を操作盤まで連れていってもらえませんか」
 そう言いながら、シャインは尻餅をつき口端からピンク色の液体を流し始めた。
「・・わかりました」
 ヤーコンはシャインを抱きかかえ開いたばかりの機関室の扉の中へ入っていった。

彗星の時(74)

2012年07月01日 | 短編小説「彗星の時」
 壁に映った映像を見ていたガーゼル王は、顎鬚をいじりながら黙っていた。
 ジーザ王子は画面に映った二人の男と銀色の女の戦いを見て驚嘆の声を上げた。
「あれが、黒ずくめの戦士ですか・・もうひとりは、魔導師ですね。あの信じられないような動きの女といい、なんという戦いだ・・」
 味方がやられているにも関わらず、ジーザはその戦いに魅入られている。
「あの者どもはどこに向かっている?」
 ガーゼル王が学者に尋ねた。
「どうも、『砦』の中心に向かっているようです」
「中心?中心には何がある?」
 書物をめくり調べながら学者が答えた。
「・・・機関室です」
「機関室?」
「ここ司令室が頭であれば、機関室はいわば心臓になります」
「心臓とな・・うぅむ・・」
 それっきりガーゼル王は黙りこくってしまった。
 そうしている内にも、ガーゼル王たちの見ている映像には、シャインとヤーコンが次々と刺客を倒し、機関室へ向かっている姿が映し出されていた。


 シャインとヤーコンは、どこからともなく現れてくるアンドロイドを、超古代の武器と覇道のダブル攻撃でくぐりぬけ、ようやく機関室の扉の前に辿り着いた。
「ヤーコン殿、ここが機関室です。この中に操作盤があります」
 シャインはそう言うと、ブラスターキャノンを肩から降ろし、バックパックからビームサーベルを取り出した。
「おっ、光る剣ですね。直ったんですか」
「ええ、王宮でエネルギーを補充できました」
 そう言うと、シャインはビームサーベルを機関室の扉の横にある小さな窓のような部分の近くに差し込んだ。
 火花が上がり、扉の中で何か唸るような音が聞こえる。シャインは壁に刺さったビームサーベルの角度を変えたりして扉を開けようと細工していた。
 その時、ヤーコンは、なにか気配を感じ振り返ってみて驚いた。
 10メートル程先に、少女がいた。4.5歳だろうか、ぼろぼろの服を着た薄汚れた女の子が泣きながら立っている。

彗星の時(73)

2012年06月18日 | 短編小説「彗星の時」
「ギガベース」に入り込んだシャインは、破壊したハッチのある部屋から通路へ抜け出て、「ギガベース」のほぼ中心にある機関室を目指して走っていた。「イオノスⅣ」のデータベースから学んだ情報から「ギガベース」の内部構造は全て把握していた。
 その時、周囲が赤く点滅しアラームが鳴り始めた。
「自己防衛機能が起動したか・・」
 シャインは足を止め前方を確かめた。
 50メートル程先に人影が見えた。
 全身銀色で長髪の女が一人立ってこちらを見つめていた。
 手には長剣を持っている。
「MD23-FE型か」
 そう呟くと、シャインはブラスターキャノンを担ぎ直し照準を合わせ発射した。
 オレンジ色の閃光が廊下の空気を引き裂き、銀色の女を襲った。
 しかし、女は表情ひとつ変えず、紙一重で閃光をよけると、シャインに向かって走り始めた。
 シャインはさらに引き金を引いた。
 行く本もの光条が通路の中を交錯したが、ことごとく女は避け、猛スピードで近づいてくる。
「光速と同じスピードのブラスターが当たらない・・」
 とうとう女の長剣が届く範囲まで迫ってきた。
 整った顔立ちの女は、表情を全く変えず剣を打ち込んできた。
 その刹那、一瞬女の動きが止まった。
 シャインはその機を逃さずブラスターキャノンの閃光を女の胸にぶち込んだ。
 銀色の女は、真後ろに吹き飛ばされ、糸の切れたマリオネットのようにガラガラ・ガシャンと廊下に転がった。
 シャインはブラスターを降ろし、後ろを見た。
 そこには、胸の前で印を結んでいるヤーコンの姿があった。
「ヤーコン殿」
「いやあ、シャイン殿、恐ろしいおなごですなぁ、大丈夫ですか」
「今、あれが一瞬止まったのは、ヤーコン殿が・・」
「そうです。あの巨大ゾンデを止めたのと同じ覇道を使ったのですが、ほとんど効果がありませんでしたな」
「いえ、ヤーコン殿が来なければ、今頃、私はあれに切り刻まれていました」
「あのおなごはいったい・・」
「この「ギガベース」の自己防衛機能。侵入者を排除するためのアンドロイドです」
「アンドロイド・・ああ、先日ケイン様を襲ったメイドのような機械と同じものですか?」
「はい、このタイプは、「ギガベース」専用のもので、侵入者を殺戮し排除するためのみに作られています。施設内部に傷をつけないよう火気類は持っていませんが、刃物による白兵戦に特化した専用タイプで、斬り合いに持ち込まれたら、私などひとたまりもありません。近づかれる前に撃ち壊さないと勝てない相手ですが、まさかブラスターまで避けるとは想定外でした。ヤーコン殿の覇道のおかげで助かりました。しかしヤーコン殿はなぜここへ・・」
「ああ、砦の中をどうしてもみたくて・・好奇心に勝てず来てしまいました。ところであのおなごのようなのは他にもいるのですか」
「あのアンドロイドは「ギガベース」には全部で10体装備されているはずです。あと9体はいます。あのスペックだと私一人ではほとんど勝ち目がありません。・・・ヤーコン殿、ぜひご同行願いたいのですが」
「おお、私でお役にたてるのであれば喜んでお供しましょう。ところでどこを目指して進んでいるのですか?」
「機関室です。機関室にはケイン殿がこの「ギガベース」をコントロールするように設定できる操作盤があります。この「ギガベース」を止めるにはそれしかないでしょう」
「あっ、新手が来ましたよ」
 ヤーコンは、シャインの肩越しに、女の姿を見つけ知らせた。
 シャインは振り向いてブラスターキャノンを構えるとヤーコンに合図を送った。
 ヤーコンは胸の前で印を結び、呪文を唱えた。
 女は、ものすごい勢いで二人に向かってきたが、一瞬、見えない何かにぶつかったように動きが鈍った。
 シャインはその動きを的確に捉えてブラスターの熱線を叩き込んだ。
女は、ブラスターの衝撃と自身の勢いが相殺され、真横にはじき飛び、壁に激突した。

彗星の時(72)

2012年06月12日 | 短編小説「彗星の時」
椅子に座って画面を見ていたガーゼル王は、かすかな衝撃音を感じてジーザ王子を呼んだ。
「王子よ、今わずかだが響くような音が聞こえたが、なにか無かったか?」
「響くような音?ですか」
王子は怪訝に思いながら、学者に調べるように指示を出した。
すると、様々な映像が映っている画面の一部に、黒ずくめの男の姿が映しだされた。
「これは・・誰だ」
盤を操作しながら学者が答えた。
「どうやら侵入者のようです。側面のハッチが破壊されています。そこから入り込んだようです」
「なにっ。この『動く砦』に侵入者とは、、何者だ、こやつ」
画面を見ていたガーゼル王には思い当たる節があった。
「もしや、あの戦鉄牛を一撃で倒したという謎の男か、そういえば『ヤミ』の結果を聞いておらぬ・・」
ジーザ王子は、学者に言った。
「こやつを排除する何か良い手はないのか」
指示を受けた学者は、書物をめくり調べながら答えた。
「自己防衛機能というのがありますが」
「なんだ?それは」
「まさしく、内部に敵が侵入した際に発動させ、その敵を攻撃する仕組のようです」
「よし、早速やってみよ」
「はい」
指示を受けた学者は、盤を操作し始めた。