★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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彗星の時(11)

2011年07月23日 | 短編小説「彗星の時」
 月明かりに照らされた街道は、思いのほか歩きやすかった。見通しの良い平原は、もし襲来者があってもかなり遠くから判別できるだろうし、戦いもしやすいだろう。それでも一行は、早く人気の多い町場にたどり着きたくて、踏み固められた街道の真ん中を足早に進んでいった。
 あと少しで、町の明かりが見えるはずの低い岩山のふもとまでたどり着いた頃だった。
 遠くの方から「シャリーン」という金属が触れ合うような音が聞こえ、一陣の風が吹いてきた。なんとなくかび臭いような感じがする。
 三人は、何かいやな感覚に襲われ、急いでいた足を止め、周囲に気を配った。風は一度吹いたきりで、辺りは静けさを取り戻していたが、なにか違和感があった。
 ヤーコンが何かの気配を感じ後ろを振り返った時、かなり近くで再び「シャリーン」という音が微かに響いた。
 その時、硬く踏みしめられた街道のそばの荒地に変化があった。ボコッという土の音が聞こえたかと思うと、見る見るうちに荒土が盛り上がり、人のような形になった。
 それは、全身が土くれで出来ており、ところどころ石や土の固まりが含まれていて、まるで年端の行かない子供が作った土人形のような型をしていた。
 さらに、単なる土人形にもかかわらず、三人に向かってゆっくりと歩きはじめた。しかもその人型をした物は、あっという間に数十体出来上がり、両腕らしい物を前に上げ、まるでゾンビのように迫ってきた。

彗星の時(10)

2011年07月09日 | 短編小説「彗星の時」
 しばらく進むと、森の中を通っていた街道は、木々の中を抜け、見通しのよい荒涼とした平地に出た。
「ケイン様、どうやら、ザザーンの森を抜けアストラル平原に出たようです。あと少しで、オアシスの町シアークです。あの岩山を越せば、町の明かりが見えるはずです。」
「そうか。シアークにはあとどれくらいで着くのかな」
「そうですね。この調子ですと2時間ぐらいといったところでしょうか。」
 先が見えてきた安心感からか、さっきまで無言だったヤーコンがシャインに話しかけてきた。
「ところでシャイン殿、あの黒い短剣はすばらしい切れ味ですな。光の剣はいかがなされた」
 シャインは歩きながら答えた。
「ああ、あれは、超高振動型メダリューム鋼ナイフ。刃の振動力で物体の分子間結合力を解いて切っていくタイプの武器だ。光の剣、、ビームサーベルはエネルギーが切れてしまった」
「エ・エネルギー?・・つまりもう使えなくなったということですか」
「エネルギーパックを交換しないとだめだ」
「ほう、、戦鉄牛のこともご存知だったようですが、もしかして記憶が戻ったのではないですか」
 シャインは、はっとして歩を止めヤーコンの顔を見返した。
「・・・確かに、戦鉄牛・・RX23タイプ万能型機甲歩兵のことを知っている・・・・だが・・自分のことが・・・判らない・・」
 シャインの目は、ヤーコンを通り越し、遠くのほうを泳ぐように見つめている。
 それを見たケインは、気を遣うように二人に声を掛けた。
「人間の記憶する仕組みって、そう単純じゃないって医術師の先生も言っていたよ。ものすごく複雑で不思議なことが多いそうだよ。だからそんなに気にしないで直るのをじっくり待ったほうがいいんじゃない?」
 ケインの心遣いにヤーコンも頷いた。
「そうですな。気の病にはあせりは禁物と言いますからな。失礼つかまつった。ただ、何か思い出したら隠さずに言ってくだされ。少しでもお役に立てるかも知れませんからな」
 ヤーコンは、ニッと笑いながらシャインの肩をポンとたたいた。
 ヤーコンの言葉の裏には、記憶が戻った時のシャインがこのまま味方でいてくれるかどうか、この超戦士が敵に回ったら恐ろしいことになるという気持ちが隠されていたが、シャインはそんなことは全く気にせず再び歩き出した。