★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

彗星の時(16)

2011年09月29日 | 短編小説「彗星の時」
「覇道・・」
 ヤーコンは、振りかざしていた杖を静かに下ろした。その動きに呼応するように、雨脚はたちまち止まり静かになった。
 しかし、ヤーコンは呪文を唱えることをやめず、再び杖を頭上に掲げ大きな気合とともに振り下ろした。
「カーッ」
 杖の動きに合わせ、まだ上空を覆っている黒い雨雲の中に白い稲光がピカッと光った次の瞬間、ものすごい爆音とともに、50mほど離れた場所にある岩が白い光とともに砕け散った。雷が落ちたのだ。落雷がまともに当たった岩は、もうもうと地煙りを上げている。
 その生けるものなどないはずの土煙の中に、人影が浮かんできた。フードを目深に被り杖を持ったその風貌は、ヤーコンの格好に似ているが、全体的なデザインが根本的に違うように見える。土煙の中から一歩踏み出したその男は、ヤーコンに向かって話しかけてきた。
「また腕を上げたのう、ヤーコン導師」
 ヤーコンは杖を降ろし、近づいてくる魔導師を見つめ返した。
「何を言われるサルサ導師。土くれの冥府兵士操術を使い、覇道82番の落雷の術をまともに受けて無傷でいられるなど、導師こそ人間を超えられましたかな」
「ふっ。何をとぼけたことを、冥府兵士操術など我が『地の国』の鬼道68番程度のもの、貴殿の雷術には足元にも及びませぬ。肝を冷やしましたぞ、危うく命を落とすところであった」
 サルサ導師と呼ばれた男は、深いフードの奥から響くような低音で受け答えた。

彗星の時(15)

2011年09月24日 | 短編小説「彗星の時」
 雨は、シャインたちを含め土くれ人形すべてに降り注ぎ始めた。よく見ると、その大粒の雨は、動きの止まった土くれ人形たちに甚大な被害を与えている。先程、シャインの手や短剣が素通りし何の効果もなかったガイコツ兵士は、雨粒がぶつかるとその分身体が削り取られ、まるで虫に食われた木の葉のようにぼろぼろになっていく。
 雨脚はどんどん強まっていき、どしゃぶり状態になった。土くれの兵士たちは、既に人型を維持できなくなり、小ぶりの土山となってしまった。やがてその山型さえも激しい雨に流され跡形もなく消えていった。
 その変化に見とれていたケインが言った。
「さすがヤーコン導師、雨を操る覇道は確か75番あたりのはず」
「覇道?75番?」
 ずぶ濡れになったシャインは、ケインに尋ねた。
「覇道とは、我が祖国、『天の国』が長年に渡って編み出してきた魔道で、全部で108番まであるとされています。でも普通の魔導師が使えるのは大体50番位までです。もっとも実際に108番すべて使える魔導師はいないそうです。魔導師の最高位である白大魔導師ジュンサイでさえ107番までしか使えないそうですから。ヤーコン導師は白大魔導師ジュンサイの一番弟子ですからナンバー2の実力の持ち主なんですよ。ちなみに私の覇道の講師でもあるんです」

彗星の時(14)

2011年09月21日 | 短編小説「彗星の時」
 その時、シャインの耳に「シャリーン」という金属が擦りあうような音が聞こえた。土くれの兵士が現れる前に聞こえた音とはちょっと違うようだが、同じ種類の音だった。
ガイコツ兵士は、その音が聞こえるとピタッと動きを止めた。シャインの首を締め付けているガイコツの指も固まっている。シャインは、その隙をついてなんとかガイコツ兵士の手を逃れて、後ろに飛び退いた。ガイコツ兵士は、まだ人形のように動かないまま突っ立ている。
 シャインは、ケインとヤーコンが気になり周囲を見回した。ケインも土くれ人形に襲われていたらしいが、シャイン同様相手が動かなくなった隙に逃れられたようで、首を押さえてシャインのほうを見ている。
 ヤーコンは、いつの間にかシャインたちからちょっと離れた荒地に立ち、杖を高く上げなにやら呪文を唱えていた。杖の先には金属製の輪が三本取り付けてあり、ヤーコンが呪文を唱えながら杖をゆすると、土人形の動きを止めた「シャリーン」という金属音が鳴り響いてくる。
 ヤーコンは、呪文の語気を強め、杖を大きく2度振った。すると、先程まで明るい半月が浮かんでいた天空に、夜目でも判るほど真っ黒な雲が見る見るうちに広がってきた。
 ヤーコンがさらに大きく杖を振りかざすと、ボツリ・ボツリと雨が降り始めた。雨粒が地面に当たる音が聞こえてくる程の大粒の雨だ。

彗星の時(13)

2011年09月19日 | 短編小説「彗星の時」
 勿論シャインは、黒い短剣を持ち直し、迫りくるガイコツ兵士に突き刺した。
 ところが、今度はまったく手ごたえがない。高周波振動の黒い刃は砂の体をすり抜けていく。砂のガイコツはシャインの攻撃など全く意に関せず両腕を伸ばし、シャインの首に手をかけた。シャインはその手を払おうと空いている手でガイコツ兵士の腕をつかもうとしたが、短剣の時と同じように蜃気楼のごとく手ごたえがない。にもかかわらず、ガイコツ兵士が首を絞める握力は万力のようだ。
「こ、これは、、一体、、」
 なす術がなくなったシャインは、なんとかガイコツの手から逃れようと場所を移動しようとしたが、首を押さえる力があまりにも強すぎてそれさえままならない。そんなシャインを見たガイコツ兵士は、目玉のない漆黒の穴があいた髑髏をうれしそうに歪めて、さらに手に力をこめていった。

彗星の時(12)

2011年09月04日 | 短編小説「彗星の時」
 青白い月明かりの下で動く土くれ人形は、悪夢のように見える。シャインとヤーコンは、ケインを間に挟んで、ぐるりと取り囲んだ土くれ人形に対峙した。
 一番近くまで迫った土くれ人形は、突然速度を上げケインに挑みかかった。シャインは、音もなくすっと土くれとケインの間に移動し、そのまま土くれ人形の頭と思われる部分に強烈なパンチを放った。ボッという鈍い音とともに土くれ人形の頭部は粉々に吹き飛んだが、土くれの動きは止まらない。両腕と思われる土の棒がシャインの肩を抑え、強引に押してくる。シャインはちょっと屈んでふくらはぎから黒い短剣を取り出し、襲ってきた土くれの胸の辺りに突き刺した。
 石や砂利でできた胸に刺さった短剣は、キーンという高周波の音を響かせた。それとともに不気味な動きをしていた土くれ人形は、ピタッと動きを止め、胸に刺さった短剣を覗き込んだような姿勢をとった刹那、短剣を中心に見る見るうちに細かい砂になって霧散し跡形もなくいなくなってしまった。
 シャインは、予想外の効果に黒い刃先を見つめている。だが、次の瞬間、土くれ人形が姿を消した同じ場所に、空中や地面から先程拡散したと思われる細かい砂が集まってきて、人型を形成し始めた。しかも、今度はデコボコした土砂の人形ではなく、きめの細かい砂でできた人間の形をしている。いや、人間ではない。鎧を着たガイコツだった。その砂のガイコツは、両手を挙げ再びシャインに迫ってきた。