★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男(43)

2010年05月31日 | 短編小説「義腕の男」
 頭に詰め込んだデータから出口の方向に向かって走りながら、俺は人差し指を耳に突っ込んだ。ジャックが用意してくれた超時空通信の人差し指通信機だ。
 スイッチを押すとすぐにジャックが出た。
「ジャック、俺だ、ケンジだ」
「・・ザ・・ケンジ!やはり掛けてきたか。大丈夫か?・・」
どうもジャックはこういう状況になることを予測していたらしい。いかにもジャックらしい。
「准将からバランサーのことを聞いたのか」
「・ザザ・・ああ、だが全面的に信用しているわけじゃない・・ザザ・・」
 こんな地下からでも通信ができる超時空通信はすごいが、少々雑音が入る。
「そうか。ジャック、マイクロチップはまだ右腕に入っているのか」
「・・ザ・・ああ、マイクロチップは右腕の腕時計の中に移しておいた。今回つけた緊急スイッチ用のヤツだ・・ザ・・」
「そのことは准将は知らないのか」
「・・ザ・・准将はその緊急スイッチのことも知らないはずだ・・ザ・・」
 やはりそうだったか。
「そうか。ジャックありがとう。やっぱりおまえは頼りになるヤツだよ」
「・・ザ・・あと、どうするかは、お前が決めろ。ケンジ・・ザ・・」
 そこまで話したとき、後ろから銃弾が飛んできた。新手の追っ手がかかったらしい。
 俺は、一番手近な廊下の曲がり角に飛び込んだ。

義腕の男(42)

2010年05月25日 | 短編小説「義腕の男」
 俺はとっさに身をかがめ廊下の床に右手を突っ込んだ。床からコンクリートの塊を豆腐のようにつかみ出し、その男に投げつけた。
 コンクリートの塊は、戦闘モードのスピードでその男にぶち当たった。男はなすすべがないままその場に昏倒した。
 俺は、その男に駆け寄り銃を奪った。
 その気絶している男は顔にガーゼを張ったMr.Rだった。よく見ると首から認識証がぶら下がっている。『リチャード リンクス(Richard Rinks)』と書いてある。なるほど確かにMr.Rだ。
「何度もすまんな」
 俺はヤツのいやらしいにやけた笑顔を真似して微笑んでやった。


義腕の男(41)

2010年05月24日 | 短編小説「義腕の男」
 俺は、右腕をはずすと左手で右手首を持ち、すかさず体の前に腕を持ってきて右腕を装着した。その間0.5秒。
 そのまま後ろの扉へダッシュし、ドアノブを右手でつかみ手前にクイッと引いた。緊急スイッチで戦闘モードになっているので解除はない。戦闘モードはそのままのはずだ。見るとジャックがつけてくれた腕時計もそのまま巻いてある。
 扉はスチール製の分厚いタイプだったが、思ったとおりドアノブだけ鈍い音とともにひっこ抜けた。
 さらに、ドアノブの抜けた穴に右手を突っ込み手前に引いた。工事現場のような音を立ててドアが丸ごと手前に抜けた。
 俺は、部屋を抜け出し長い廊下を走り出した。この作戦に入る前に頭に叩き込んだデータで、位置は判明した。地下二階だ。
 走りながら、右手首をひねって指だけで手錠の鎖を引きちぎった。
 その時、すぐそばの扉が開いて銃を構えた男が飛び出してきた。

義腕の男(40)

2010年05月23日 | 短編小説「義腕の男」
 俺が拘束されているこの部屋の壁は、コンクリートの打ちっぱなしで何も無いように見える部屋だが、どこかにカメラがあって監視されているのは間違いない。こちらの手の内は全てばれているうえ動きまで見張られている。最悪の状況だ。
 そこまで考えたとき、俺は気が付いた。
 俺とタイマンを張ったMr.Rは、ジャックが俺の右腕につけてくれた腕時計型緊急スイッチを知らなかった。そうでなければ俺に殴られてあんな怪我をするような真似はしなかったはずだ。
 つまり、ジャックが全面的にバランサーに協力しているというわけではない。一縷の望みではあるが、相手が知らないカードがこちらにもあるということだ。
 俺は、後ろ手に手錠で繋がれている右腕に手首にあるコード入力ボタンに左手で腕の取り外しのコードを入力した。鉄柱から逃れるには、左腕を切るか右腕をはずすしか方法が無い。監視されている中、相手がもっとも欲しがっている右腕をはずすのは危険この上ないが、仕方ない。ここからはスピードが命だ。

義腕の男(39)

2010年05月21日 | 短編小説「義腕の男」
 俺の右腕は、国家機密扱いになっていて無理やりはずそうとすると爆発するようになっている。敵に右腕の技術情報を渡さないためだ。
 もっとも爆発と言っても爆弾のように派手に弾けるのではなく、腕の内部だけが破壊されるような超小型爆薬が仕込まれているのだが、中に何か隠しているのであれば一緒に破壊されるのは間違いない。俺を殺して腕を奪おうとしても、やはり同じようになる。安全に外すには暗証番号を打ち込むしかない。番号を知っているのは俺だけだ。
 つまり右腕を手に入れる前に俺を殺すわけにはいかないということだ。
 逆を言えば、腕を渡してしまえば俺はお払い箱ということにもなる。今の状況からするとその可能性もかなり高い。
 何にしても、ここに拘束されていては俺の命は相手の掌中にある。正しい判断もなにもない。まずは自由を確保することが先決だ。

義腕の男(38)

2010年05月20日 | 短編小説「義腕の男」
「・・ちょっと時間をもらえませんか」
「いいだろう。2時間後もう一度聞く」
 モニターは准将の言葉が終わるとたんに電源が切れた。
 Mr.Rは、絆創膏を張った顔でニヤニヤ笑いながら俺の顔を覗き込み、
「2時間後にまた来る」
と言って部屋を出て行った。

(さて、どうするか・・)
 色んなことが起こったのでまず頭の整理をしよう。
 まず、作戦内容が筒抜けだったこと、これは紛れも無い事実だ。敵が俺の右腕の機能まで知っているということは、作戦の細部まで知っている俺以外の人物、つまり准将が情報を提供した可能性はきわめて高い。
 次にあの准将の言っていることが本当なのかどうか。あの映像自体が本物なのか。最近の映像技術ならばあの位のものを作るのは容易い。だが、俺の質問に対しての回答はつじつまが合っている。
 ということは、あの映像は本物ということになる。あとは、話の内容が本当かどうかだ。
しかし、バランサーの話が本当かどうか今の状況だけでは判断できそうもない。
 だが、右腕に何かを隠しているのは間違いないようだ。
 なぜなら俺が生きているからだ。

義腕の男(37)

2010年05月19日 | 短編小説「義腕の男」
 俺の疑問を察知したのか准将が話を続けた。
「私は、わが連邦国軍の准将を務めているが、『バランサー』という組織のメンバーでもある。ザビ国のスパイではない」
「バランサー?」
「バランサーとは超国家平和組織で、普段は表には出てこない。世界の力の均衡、すなわち平和のバランスが崩れかかった時、それを守るために発動する闇組織として世界各国に存在している。中尉には悪かったが、今回その一翼を担って活動してもらった。」
 すっかり騙されていた訳だ。
「中尉には今後もバランサーの一員となって活動してもらいたいのだがどうだ」
「・・・もし断ったら?」
「残念ながら、今回のミッション中に死亡、ということになる」
 なるほど、有無を言わさずということか。
「ひとつ質問していいですか」
 右腕が係わっていることに小さな疑問を感じた。
「俺が右腕を受け取った後、不具合が解消されていないのでジャックに点検してもらっている。ジャックがマイクロチップに気が付かないはずがないのだが、本当にこの腕にチップが入っているのですか」
 准将はちょっと表情を曇らせながら回答した。
「ジャックには、バランサーの活動を説明し新たに協力者になってもらった。ずいぶん悩んだようだが結果的にチップは君の腕の中にある」
 なるほど、あの時のジャックの徹夜明けのような顔は、そのせいだったのか。

義腕の男(36)

2010年05月15日 | 短編小説「義腕の男」
 准将は、ジャガイモのようなごつごつした顔の表情をひとつも変えずに話を続けた。
「君の今回の作戦、すなわちザビ国から物質伝送装置の開発データを持ち帰るというミッションはダミーだ。本来の目的は別にある」
「ダミー・・」
「そうだ。今回の作戦は、ザビ国が物質伝送装置を開発したというのが大前提になっているが、物伝送装置の開発に成功したのはザビ国ではない。わが連邦国側なのだ」
 どういうことだ。それならばザビ国に潜入する意味などまったく無い。
「君も理解しているとおり、物質伝送装置は究極の兵器となりうる。今世界の平和は、わが連邦国とザビ国の2大強国がそれぞれ同等の軍事力を持っているからこそ成り立っている。しかし、物質伝送装置はその均衡を狂わせるに十分な脅威だ」
 確かに、それを防ぐために俺はザビ国に来たのだ。
 准将は話を続けた。
「そこで今回、君は連邦国の開発した物質伝送装置のデータを持ってザビ国に潜入した」
「・・俺がデータを持って?」
「そうだ。君のその右腕にデータチップが仕込んである。したがってその右腕をはずしてMr.Rに渡してくれ」
 Mr.Rはモニターの脇に立ってニヤついている。あのいやらしい笑い方だ。
 俺ははっきり言って驚いた。ヤマト准将の話が本当だとすると、准将はザビ国のスパイなのか。敵国のスパイがこちらのスパイ組織の親玉なのか?

義腕の男(35)

2010年05月13日 | 短編小説「義腕の男」
 首を回して部屋の中を見渡していると、後ろの扉が開く気配がし、男が一人入ってきた。
 Mr.Rだ。
 パワースーツを着てないせいで身長・体重ともに記憶したデータどおりになっている。
 データと違うことといえば、顔にでかいガーゼが三枚張ってあることだ。俺に殴られた痕だ。
 Mr.Rは俺の顔を覗き込み、にらみつけた。
「ずいぶん痛かったぞ」
 よく見ると顔にはブラッディスパイダーの硬質ネットの痕まで付いている。かなり痛そうだ。
「すまなかったな」ぼんやりとした頭で俺はうそぶいた。
 その時、モニターに電源が入った。男の顔が映しだされた。
「おはよう、ケンジ中尉。気分はどうだ」
 ここはどこだ?俺の頭はまだ混乱しているのか。それとも祖国に帰ったのか。モニターに映っているのは、この作戦を命令したヤマト准将の顔だった。
「ニードルスタンガンのレベルは最低にするようにと言っておいたのだが、最大電圧で使ってしまったようだ。右腕に支障はないか」
 ニードルスタンガン!この言葉で俺の頭から一気に霧が晴れ、記憶がよみがえってきた。
 やはり俺は、ザビ国側に捕らえられ監禁されているのだ。
「・・・なぜ准将がここに・・」
「うむ、どうやら意識も元に戻ったようだな。任務ご苦労。では今回のミッションの真の目的を説明しよう」

義腕の男(34)

2010年05月05日 | 短編小説「義腕の男」
 背中がやたら冷たくて目が覚めた。だが、頭は朦朧としていて目もかすんでいる。
 どうやら俺はまだ生きているらしい。コンクリートが打ちっぱなしの小部屋だ。
 俺は部屋の中央で椅子に座っている。俺の後ろには床から天井まで直径20センチくらいの鉄柱が立っており俺の両手はその鉄柱を回して手錠で後ろ手に括られている。
 右腕の服の袖は切り取られており、俺の自慢の右腕が右肩の接続部分からすべて露出していた。なにかいじられたのか一瞬不安になったが、俺の右腕はそんなにやわじゃない。外れてなければ心配はいらない。
 冷たかったのは、鉄柱に俺の背中と露出した右腕がぴったりとくっ付いているせいで、鉄柱に体温がすべて奪われていくような感じがした。
 これ位の太さの鉄柱になると、さすがに俺の右腕でも歯が立たない。もっとも右腕は生身の左腕に手錠でつながっていて、手荒なことをすれば左腕がもたない。
 あきらめた俺は、朦朧とした頭でとりあえず部屋を観察してみた。前方の壁には、40インチ位のモニターがあり、後ろの壁には出入り口の扉があるようだ。それ以外には何もない。のっぺりとしたコンクリートの壁だけだった。

義腕の男(33)

2010年05月03日 | 短編小説「義腕の男」
 この光を見ると大抵の人は、何か爆発したと思うらしい。
 俺はその機に乗じて出口にダッシュした。と次の瞬間、俺は背中に痛烈な痛みと衝撃を覚え、全身が硬直しその場に倒れこんだ。倒れながら後方を見てみると、俺の周りを囲んでいた人の輪のさらに外に、サングラスをした迷彩服の兵士の姿が見えた。手に持っている銃、あれはニードルスタンガンだ。
 なんてこった。こちらの装備はすっかりお見通しだ。
 裏地がケプラー繊維の俺の服は、弾丸には強いが、極細の針などは繊維の隙間を通って貫通してしまう。ニードルスタンガンとは、その極細の針に高電圧をかけた捕獲用の武器で、俺のこの服ではまったく防げない。しかも撃ったヤツは対閃光棒用のサングラスまで装着していた。こちらの手の内がすっかり筒抜けになっている証拠だ。
(どういうことだ・・)
 俺は疑惑に包まれながら倒れこみ、そのまま意識を失った。