★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(63)

2016年09月29日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺の頭の中では、過去に知り合った女達の顔と名前が飛び交ったが、クリスという名前は思い当たらなかった。
「ザッ・・どうしたケンジ・・ザッ・・そのクリスって娘がお前と話したいらしいが・・ザッ・・大丈夫なのか・・」
「え・・その娘と話す?まさかこの超空間通信で・・なのか?」
「・・ザッ、ああ、なんでかまだ判らないが・・ザッ・・二人しか利用できないはずの通信に・・入り込んできたんだ・・ザッ・・とにかく転送するぞ・・ザッ・・ピッ・・」
 突然ジャックの声から、あの天才少女クリス博士の声に切り替わった。
「ザッ・・Mr.K?・・ねぇ・・聞こえてる?ザッ・・お願い・・返事して・ザッ・・」
「!クリス博士なのか?本当にクリス博士なのか?」
「ザッ・・ああ・・良かった。繋がったわ・・ザッ・・お願い・・助けて・・あいつら・・ザッ・・私をだましてたの・・」
「今、どこにいる!?どこに行けば良い?」
「ザッ・・ビルを出てすぐにトレーラーに積まれたコンテナの中に入れられたの、赤い色のコンテナよ。トレーラーはしばらくして走り出したけど・・ザッ・・まだそんなに動いてはいないはずよ・・ザッ・・きゃ・・な、何するの!・・(なんだ、それは、、渡せ~・・)ザッ・・ピッ・・ザザー」
「!博士!クリス博士!!」
怒号と悲鳴を最期にクリス博士との超空間通信が切れた。
「ザッ・・ケンジ・・聞こえるか・・」
「あ、ああ、ジャックか。そうだ、今の通信でクリス博士の場所を特定できないか」
「ザッ・・位置の特定は無理だ。この超空間通信には距離の概念が無い・・ザッ」
「そうか。あとは手がかりは赤いコンテナを積んだトレーラーということだけか・・」
 俺たちのやり取りを聞いていたのか、Mr.Bは車を止めて荷台に向かった。「こうのとり」マークがついたこのアルミバンの荷台の中は空ではない。技術立国ノスリルの最新技術が詰まったスペシャルカーなのだ。
「衛星に接続してこの近辺の赤いトレーラーを検索してみる」
 Mr.Bはそう言うと近くの機材に取り付いて操作を始めた。
 数分もかからず操作を終えると、ディスプレイを見つめながら言った。
「ここから3ブロック先の交差点に条件にヒットした車両が止まっている。北北西に約1.2Kmだ」
 いつの間にか運転席に座っていたMr.Jは、その言葉を聞くと同時にハンドルを切り、アクセルを全開にした。

義腕の男2(62)

2016年09月28日 | 短編小説「義腕の男2」
 この先どうしたものか・・とぼーっと車窓を眺めていると、右手の人差し指が赤く光り、かすかにバイブし始めた。
「おっと、ジャックから通信だ」
 俺の右腕(正確には右手の人差し指)には、超空間通信機が埋め込まれている。
 右腕の製作者であり俺の親友でもある兵器開発局のジャックが、前々回のミッション後の修理の際、おまけで仕込んでくれたもので、理論上では、地球の、それどころか全宇宙のどんなところにいても通信できるはず・・というすぐれものだ。
 もっともまだ開発途上のため、対向で通信できる装置は開発者であるジャックのところにしかない。つまりジャックとしか通信できないわけだが、俺にとっては、これ以上ない相談相手なのだ。
 俺は赤く光っている指先を耳に突っ込んで通信を始めた。
 この通話姿勢から、俺は勝手に「人差し指通信」と呼んでいるが、そう言うとジャックは「そんな軽いもんじゃない」とちょっとふくれっ顔になる。
 そんなジャックの顔を思い浮かべながら、耳に突っ込んだ人差し指に注意を集中させると、ジャックのあせった声が飛び込んできた。
「ザッ・・・ケ、ケンジか?ザッ・・俺だ、ジャックだ。ザッ・・聞こえるか?!」
「ああ、ジャック。いつもより良く聞こえるよ。どうしたんだ?ジャックからかけてくるなんて、珍しいな」
「ザッ・・」という雑音に混じって相手の声が聞こえてくる。普通の無線通信と比べると、遥かに音質はよくないが、距離が関係なく世界中どこでもOKとなれば決して使えない音質ではない。
「ザ・・クリスって女の子知ってるか・・ザッ・・」
「!!?」
 思わぬ人物から意外な名前を聞いた。なぜジャックがクリス博士の名前を知っているんだ?開発局の人間は、俺たちのミッションの中身については一切知らないはずだ。
 いや、待てよ。今回のミッションとは全く関係ない同じ名前の女でジャックも知っている人物がいるのか?

義腕の男2(61)

2016年09月07日 | 短編小説「義腕の男2」
 車に乗り込むとMr.Bが俺の脚を見て軽い驚きの表情を浮かべて話しかけてきた。
「お、足はもういいのか?」
「ああ、博士の魔法のおかげでもうすっかり良くなった。へたをするとオリジナルより具合がいい」
 Mr.BはMr.Jの方をチラリと見ると何か納得したような表情をしてニヤリと笑った。
「確かに、博士にかかればその位たいしたことじゃないかもしれんなぁ」
Mr.Bはそう言いながら車のエンジンをかけると、Mr.Jに状況の確認を求めた。
Mr.Jと俺は、ビルの中での出来事をかいつまんで説明した。Mr.Bの表情はみるみる曇っていく。
「・・・ザビ共和国か・・俺が待っていたこの入り口からは出てこなかったから、別のルートで脱出したのか・・」
 俺は、Mr.Bが貸してくれた「こうのとり」マークのツナギタイプのユニフォームに着替えながら聴いた。
「やつらがどこに向かっているのか判るのか?それに博士は自分からすすんでザビ共和国の連中についていったんだ。たとえ追いついたとしても連れ戻せるのか?」
Mr.Bは思案げな表情のまま返事をせず、とりあえず車を発進させながら言った。
「・・ひとまずアジトへ向かうか・・」
 確かに、この状況では一旦引き上げて作戦を立て直したほうが賢明のようだ。
 その一言を聞いて、俺も、Mr.Jもなにか気が抜けたようにシートの背もたれに深々と体重を沈めため息をついた。
 俺たちの乗った「こうのとり」マークのトラックは、Dビルの敷地から出て街のメインストリートを走っていた。郊外のアジトは街の反対側だ、迂回するとかなり時間がかかる。
 イスランの中でも大都市の部類に入るこの市は、戦争中とはいえけっこう賑やかだ。カーキ色のトラックやらトレーラーなど軍事物流の車両も多いが自家用車の量も多いし、通行人もかなりいる。平和な他の国の都市風景とほとんど変わりがない。強いて違いを見つけるなら、迷彩服の軍人が少々多いということぐらいか。