★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男(17)

2010年03月30日 | 短編小説「義腕の男」
 青くなった俺は、今回の整備の経緯と、現在の症状を訴え修理の期限を説明した。ジャックの顔から笑みが消え、あごの無精ひげをなで始めた。昔からのくせで、真剣になったときのしぐさである。
「出発は明日の朝だな。とにかく診てみよう」
「すまん、よろしく頼む。」
 ジャックに命綱である右腕を渡し、宿舎に帰った俺は、大きな不安を抱えつつ出発に備えて装備の最終チェックをした。
 肝心の右腕は、ジャックの事だから何とか間に合わせてくれると思うが、最悪の場合、市販品の義腕で作戦を実行しなくてはならない。かなり危険な作戦になる。普通なら眠れない夜になるはずだが、日頃のメンタルトレーニングで会得した、どんな状況でも瞬時に睡眠できるヨガの技で、とりあえず明日9時に出発できるよう深い眠りについた。

義腕の男(16)

2010年03月27日 | 短編小説「義腕の男」
 こうなると時間との勝負である。しばらく呆然としたあと、兵器開発センタに駆け込み、俺の右腕を整備してくれたはずの、ジャックを呼び出してもらった。ジャックは、俺の右腕を設計から担当した技術者で、訓練学校からの友人であり、全幅の信頼をおいている。勿論その技術力で何度も命を助けられてもいる。
 奥の部屋から白衣のひょろりとした白人が出てきた。ジャックである。手を軽く上げながら、にこやかに微笑み、いきなりトンチンカンなことを言い出した。
「よっ、ケンジ!ひさしぶりだな。帰ってたのか。右腕のオーバーホールか?」
 絶句した俺は、今回のオーバーホールは、ヤマト准将経由で依頼したことを思い出した。ジャックが知らないということは、今回俺の右腕は、知り尽くしたジャックのところではなく、別のところでいじくられたということだ。

義腕の男(15)

2010年03月24日 | 短編小説「義腕の男」
 異変は、50球ほど受けてそろそろ感じを取り戻しかけた時に起こった。それまで快調にボールを補足していた右腕の動きがとたんに重くなったのだ。あの安心感を与えてくれる戦闘モード特有の低いうなり声も鳴り止んでしまった。
 突然何の前触れもなく通常モードに戻ってしまったのである。もちろん、わずか5メートル先からの時速100km/sのボールは全く捕らえられなくなり、もろに俺の体に当たり始めた。テニスボールとはいえ、直撃はかなり効く。10発ほど頭や腹に衝撃を受けうずくまった俺の姿に、やっとシステムオペレーターが気付いたらしく、ボールの襲来がとまった。
「大丈夫ですか」
と、オペレーターらしい女性の心配そうなスピーカー音声がドーム内に響き渡った。不覚にも一発みぞおちに食らった俺は、うずくまったまま、軽く手を上げて大した事はない旨をゼスチャーで伝えたが、しばらく立ち上がることができなかった。出発は明日である。身体へのダメージより精神的なダメージの方が大きかった。

義腕の男(14)

2010年03月23日 | 短編小説「義腕の男」
 そう礼を言って俺は空いたばかりというテニスルームへ向かった。
 テニスルームといってもテニスをするわけではない。テニスボールを使ったトレーニングをする部屋で、右腕の感覚調整にはもってこいだ。部屋は直径10メートルくらいの球を半分にしたドーム形で、壁面にはテニスボール大の穴が無数に空いている。
 トレーニング内容はいたってシンプルだ。俺はドームの真中に立って、穴から飛んでくるテニスボールを、よけたり手で払い落としたりする。ただ、どこから何個飛んでくるかランダム設定になっていて全く予想がつかないことと、ボールが100㎞/hですっ飛んでくることが俺の右腕の反応速度を調整にはピッタリなわけである。
 俺は、防御用のヘルメットをかぶると、軽く手を上げて、どこかで見ているはずのシステムオペレーターにスタートの合図を送った。
 と、いきなり正面の穴から黄色いテニスボールが飛んでくる。だが、俺の30センチくらい手前で、まるで見えない壁にぶつかったように左上にはじかれた。
 次はやや右から飛んできた。やはり同じように俺にあと30センチで届くというところで見えない壁にぶつかって跳ね返る。戦闘モードの右腕が文字通り目にもとまらぬ速さでボールをはじいているのだ。あとは、そのスピードに俺自身の感覚がついていけば良いわけで、その慣れのためのトレーニングである。

義腕の男(13)

2010年03月22日 | 短編小説「義腕の男」
 ブースに入ると、すでに数組が、素手や警棒でのトレーニングを行っていた。その時、左側から良く響く低音の声が聞こえてきた。
「ようケンジ、ずいぶん久しぶりじゃないか」
 2メートル近い巨漢の黒人が、右手に持った電子警棒を左手のひらでピタピタいわせながら立っている。同じ部隊に所属していて今まで数回コンビを組んだこともある「ボブ」という名の隊員だ。トレーニングをはじめる前なのかまだ汗ひとつかいていないようだ。
「訓練相手でも探しているのか?俺も今来たばかりだから、どうだ?たまには」
 うれしい申し出だが、本当に相手になってくれるのかどうかあやしいものだ。
「ああ、だが右腕は戦闘モードになってるぜ」
 俺がそう言うと、ボブはいきなり両手のひらをこちらに向けて振って答えた。
「おっと、それじゃあ生身の人間じゃむりだな。テニスルームがさっき空いたようだから、そっちのほうがいいな」
「テニスか・・ん、分かった。サンキュー」

義腕の男(12)

2010年03月21日 | 短編小説「義腕の男」
 次に、格闘技用トレーニングブースに向かった。やはり、この右腕が真価を発揮するのは、白兵戦の時である。
 ブースの扉を開けながら、手首のキーボタンに戦闘モード切替コードを入力する。ブゥーーン・・と微かではあるが力強いうなり音が右腕から聞こえてくる。戦闘モードになると、痛点の感覚が消され、限界までパワーを出せるようになる。痛みを感じないため、コンクリートの塊を豆腐のように握りつぶすことも可能になる。もちろん、そのくらいで壊れるような右腕でもない。理論上は3センチの鉄板にも穴をあけられるそうだ。
 しかし、腕がつながっている肩の部分は生身のため、実際に100倍近いパワーを出せるのは、肩に負担のかからない肘以下の動きに限定されてしまう。それでも大抵の相手は、文字どおりこの右腕一本で倒すことができる。

義腕の男(11)

2010年03月20日 | 短編小説「義腕の男」
 翌日、データを丸暗記した俺は、頭を休ませるために熟睡し、その後、宿舎を出てトレーニングセンタに向かった。
 この基地のトレーニングセンターは地下三階にあり、コンピュータコントロールによるシュミレーション訓練が主であるが、俺は一番奥にある火薬銃弾用の試射ブースに入った。
 確かに、最新のレーザー銃やヒートガンは、威力がずば抜けていたり無反動だったりそれなりに良い面が多々あるので俺の装備には欠かせない。が、今まで俺の命を支えてきたのは、結局単純な構造で昔から改良しつくされてきた火薬銃器だったこともまた事実である。
 俺は、愛用の拳銃、ネオナンブ501に弾丸を詰め、50m先の丸い標的を狙った。標的に赤いレーザーポイントが映し出される。そのまま引き金を絞ると、低い破裂音とともに右腕に響くような衝撃が走る。僅かだが右に傾くような感じがするが、かまわず続けて5発連射した。
 手元のモニターに標的の弾痕が映し出される。
 やはり右側に2センチほどずれているようだ。しかし、オーバーホール後の右腕の感触は悪くない。市販品の義腕とは全く違う。その後約1時間かけて着弾ずれの調整を行い、やっと命をつなぎ止める右腕に戻った確信を持つことができた。

義腕の男(10)

2010年03月17日 | 短編小説「義腕の男」
 俺は、データの記憶を一時中断し、懐かしい右腕を装着することとした。アルミケースをあけると確かに俺の腕がきれいに掃除されて入っていた。
 俺の右腕は、特注品である。これ一本で家を1軒丸々買えるほど高価だそうだ。なぜなら、この腕は普通の義腕ではない。れっきとした兵器なのだ。もっとも、手のひらから弾丸が飛び出したり、火を吹いたりするわけではない。いろいろと細かい機能はついているが、一番の違いは、基本性能である。
 反応速度が市販品の約4倍、パワーが約100倍まで引き出すことができる。しかし、普通の生活ではかえってその力は危険なため、通常モードと戦闘モードの2種類で使い分けをしている。
 通常モードだと、一般の市販品と変わりないどころか、健常者と全く変わらない生活が過ごせる。強いて違うところといえば、使用している人工皮膚が超強力な特殊素材のため破損しないことから、怪我がありえないことと、爪が伸びないことぐらいで、日焼けまでやってのける。しかし通常モードでひきだせるパワーは普通人と同じくらいまでしか発揮できない。
 戦闘モードになると、そのリミッターが外れ、パワーが約100倍まで出るようになるわけだが、パワーコントロールが難しい。というより、ほとんどコントロールできないに等しい。もともと、人間に出せないパワーのため感覚が追いつかないのだ。ちょうど、パワーショベルを右腕につけているようなものである。
 戦闘モードへの切り替えは、コードナンバーを入力することによって行う。
 入力方法は、右手首の裏側、普通の腕ならば動脈が通っているあたりに携帯電話のダイヤルボタンのような12個のイボがあり、そのイボを押してコードを入力する仕掛けになっている。一旦戦闘モードになると、通常モードに戻すコードを入力するまで戦闘モードは続く。うっかり切り替え忘れて、ドアノブをぶっ壊したことが何度かあったが、戦闘中に通常モードになってしまうよりはずっと良い。
 今回のオーバーホールは、前回の作戦中にまさにそれが起きたためで、2メートルの巨漢と取っ組み合いの真っ最中に勝手に通常モードになってしまい、危うく命を落とすところだった。二度とあんな体験はしたくない。

義椀の男(9)

2010年03月15日 | 短編小説「義腕の男」
 拡大された地図は、ザビ共和国の中心都市にあるビルのもので、かなり警戒が厳重そうに思える。
「任務内容の詳細はいつものようにこのミッションカードに入っているので、後で確認するように」
と、名刺サイズのカードを1枚渡された。そのミッションカードには、今回の任務内容について事細かに膨大なデータが記録されており、これから丸一日でその情報を頭にたたきこまなければならない。
 内容が国家機密のため、一日経つと自動的に固体から液体に変ってしまう素材で出来ているからだ。もちろんポイントだけ記憶してもかまわないのだが、細かいことを覚えなかったために命を失った仲間を何人も知っている。

 俺は、ミッションカードをポータブルカードリーダにセットし、サングラスタイプのディスプレイでデータチェックしながら、宿舎に向かった。
 部屋で脳をフル回転させながらデータを覚えていると、来客のチャイムが鳴った。宿舎の部屋にはホームコンピューターはついていない。昔ながらの呼び出し音である。
 出てみると、アルミケースを持った兵器開発センターの識別バッジをつけた将校が立っている。どうやら俺の右腕を持ってきてくれたらしい。いつもは、センターまで受け取りにいくのだが、今回の任務はよほど重要らしい。

義腕の男(8)

2010年03月12日 | 短編小説「義腕の男」
「出発はいつ?」
と俺は聞いた。俺の右腕のオーバーホールが間に合うのか、その点だけが気がかりだった。
「出発は3日後の朝0900時。君の右腕はもう今日にも上がっているはずだ。」
 さすが、准将である。俺は常々この准将はひとかどの人物と思っている。
 特殊工作部隊という機密だらけの環境のため、身の上話などしたこともないが、にじみでるオーラは、やはり並ではない。この准将との付き合いはまだ半年だが、俺が右腕なしでは何の役にも立たないことも十分知り尽くしているらしい。
「中尉が潜入する場所はここだ」
と准将は壁面地図の一部を指差した。地図の中のある一点が点滅しさらにその部分が拡大されていく。
 この部屋は、准将の手の動きひとつで全てコントロールできるようになっている。准将の腕時計型センサーが手の動きを判断し部屋の設備を制御するという方式のものだ。

義腕の男(7)

2010年03月10日 | 短編小説「義腕の男」
 その旨の話をすると准将が言った。
「そのとおりだ。ところが、わが連邦のライバルであるザビ共和国では、実用に耐えうる装置の開発に成功したらしいのだ」
「え・・まさか・・」
 俺は、マジで驚いた。この夢の機械は、人類から距離と時間の観念を取り払うという計り知れない幸福をもたらしてくれる反面、今までその距離と時間を埋めるために発達してきた交通・通信業界等に大革命をもたらす可能性もある。
 それどころか、戦争で使われたら最終兵器にもなりうる。やり方は簡単。敵国の中心に核爆弾を転送してやればいい。お互いでやってしまえば、両国とも終わりである。戦争自体が10分で終わり、両国全滅、人類滅亡にもなりかねない。
「ザビ共和国には、以前からわれわれの仲間が送り込まれており諜報活動を続けている。そこからの情報だから、ほぼ間違いはない。そこで、君の任務は、その仲間・・Mr.Rとしておこう。・・からそのデータを受け取ってくることだ。ただし、Mr.Rには引き続き任務を続行してもらうため、その正体を相手国にばれるようなことは絶対にないように動いてくれ」

義腕の男(6)

2010年03月03日 | 短編小説「義腕の男」
 唯一の心配といえば、今度の仕事に俺の右腕のオーバーホールが間に合うかどうかということだ。

 13:00時、俺はヤマト准将の部屋で、新しい任務内容を聞いていた。高価そうな大きいマホガニーの机をはさんで、准将は恰幅の良い体を、これまたでかいサイズの革張り椅子にはめこんだまま、手を軽く振った。
 先ほどまで窓の姿をしていた壁面から、一瞬で窓が消え地図が写し出された。
「中尉は物質伝送装置についてはどのくらい知っているかね?」
と准将は俺に尋ねた。
「物質伝送装置」とは、どんな物でも瞬時に別の場所へ送ることができるという昔から考えられていた夢の機械だ。
 もちろん、現代でも研究が進められているはずだが、完全に成功したという話は聞いたことがない。たしか、理論上は可能だとのことで、でかいビルのような機械を組んで、数ミクロンの金属を伝送し成功したものの、その際、その装置が電力を食いすぎて都市の電気が1時間ストップしたうえ、どう間違ったのか、伝送先での金属は数千度になっていて、送られた瞬間蒸発してしまったという、いわくいつきの代物だ。

義腕の男(5)

2010年03月02日 | 短編小説「義腕の男」
「わかった。画像モードで出る」
 現代の電話は、当然テレビ電話であるが、ビジネスでの電話は別として、プライベートでは最初から画像を使う場合はあまりない。
 自分の部屋にいる時は、かなりだらしない格好をしている人の方が多いらしい。もちろん俺もその一人であるが、この電話の相手は俺の上司である。それにレベルAは仕事上の連絡である。こちらの裸が相手に見られようと、相手の顔を見ないわけにはいかない。
 コーヒーカップを持ったまま、壁掛けテレビ前のソファーに座ると、テレビに電源が入りヤマト准将の顔が大写しで写った。じゃがいものようにごつごつした顔で相変わらず頭は薄いが、目つきは鋭い。
「ケンジ中尉、休暇中申し訳ない。仕事が入った。明日13:00時に私のオフィスにきてくれ」
「わかりました」
 休暇があと5日も残っているのに二つ返事でOKした。いつものことである。これで、取り消しになった休暇の累計は軽く3ヶ月は超えるだろう。仕事の内容については電話では詳しく聞かない。どこで盗聴されているかわからないからだ。